セックスするようになって、一年としばらく。
 近頃ちょっと、困っている。
「っは、ぁ……、ん」
 この男とのセックスに不満があるわけじゃない。むしろ、毎回最高を更新している程。
 セックスって、こんなにイイものだったっけ? 女性を抱いていた頃は、これほど昂ることはなかった。どちらかといえば淡白な方で、性欲旺盛とは真逆だったように思う。
 なのに、今じゃあ、定期的に抱かれないと落ち着かない。すっかり、ドラケンの手で体を作り変えられてしまった。ポテンシャルもあったのかもしれないけれど、あいつに手を出されなかったら、今の自分はなかったろう。
「ぁ、あッ、ア」
「ん……、ク」
 する頻度は、まちまち。週に何回か強請る日もあれば、仕事にかまけて一か月くらい間が開くこともある。均してしまえば、頻繁と言って支障ないだろう。一介のセフレにしては、よくヤッている方な気がする。まあ、この男以外にセフレがいたことはない。性に大らかに生きている人にとっては、大したこと、ないのかも。……それこそ、ドラケンからしたら、有象無象の一人だったりして。
 ああでも、コイツが抱いたオトコは、オレだけなんだよな。
 思い耽りながら見上げた先には、悩まし気に眉を寄せる男がいる。腹の中に埋まっている熱が、どくんと脈打った。白濁を吐き出したらしい。薄い膜越しに、熱を感じた。
「ッア、」
 今夜も、オレのナカで、イッた。
 そう思うと同時に、足が跳ねた。指先はシーツを握り込む。快感の波に襲われて、息が詰まった。背中は勝手に仰け反って、その中央を痺れが上ってくる。足先の方にもそれは流れているらしく、両足共にピンと伸びたまま強張らせてしまった。
 一秒二秒で、その波は過ぎていかない。十秒経っても、まだ押し寄せてきていた。もう、苦しい。息をしないと、死んでしまいそう。その域まで、体は張り詰め続ける。
「~~ッあ♡」
 ようやく体は、絶頂を越えた。
「ぅ、んん、あ~……」
「ッンぅ、あ……、はッ、ァ」
 どっと荒い呼吸が戻ってくる。息を荒げていると、腹の中にある圧がわずかに和らいだ。ぼやけた焦点を、どうにか定め直す。やっとの思いで捉え直したそいつも、自分同様息を切らしていた。肩が、上下している。でも、オレより落ち着くのは早そうだ。一つ大きく息を吸い込んで、ゆっくりと取り入れた空気を吐き出していく。それに合わせて、後孔から熱杭だったものも抜けていった。
 萎れていても、ドラケンの逸物はまあ大きい。抜ける時の感触に負けて、半開きの口から喘ぎが零れた。我慢なんてできない。できないように、躾けられた。だってドラケン、オレのことを抱くたびに「我慢すんな」って言う。声を出した方が、気持ちよく達せるだろ、ってことらしい。
「ぁ、ぅん……、あ」
 確かに、口を開けて、素直に声を出した方が、気持ちよくなれる。それは認めよう。
 でも、それはメリットばかりじゃない。最近になって、デメリットに気付いた。
「ン……」
 口を開けると、そこが空っぽになる。何かを食べているわけじゃないんだから、当たり前だろうって? そういう、空虚感とはちょっと違うのだ。はくはく喘ぐたびに、口の中が虚無でいっぱいになって、切なくなってしまう。口寂しいと表すのが、もっともらしいだろうか。
 ありていに言えば、この男に、―― キスされたくて仕方なかった。
「ぅ」
 とはいえ、自分とドラケンはセフレだ。キスをする間柄ではない。
 いや、別にね、してもいいと思うよ。セックスしてるんだし。
 でも、それはあくまでオレの考えだ。ドラケンがどういうふうに思っているかは、わからない。
 ただ、ドラケンとキスをしたことは、ない。あれ、あったかな。前戯の一環として、体のあちこちに口付けられたことはある。初めて抱かれるってなったとき、萎縮したオレの緊張をほぐそうと、顔中にキスしてくれた。ただ、唇と唇が重なったことがあるかと言うと、ない。ないワ。ねぇんだワ、これが。
 一年過ごしてそうなのだ、もしかするとドラケンは、セフレにはキスしない派なのかもしれない。
 しかし、オレはされたい。とにかくされたい。できれば、触れるだけのキスじゃなく、舌をぐずぐずに絡めるようなキスを、したい。
「……」
 唇を引き結んだまま、ゴムを外す男を見やった。その体は、射精直後の倦怠感を纏っている。ということは、頭も冴えていることだろう。
 今日も、キスを強請りそびれた。達する直前の、ちょっと馬鹿になっている状態が、キスするにはきっとお誂え向き。しかし、逃した。今晩も、機を逃してしまった。
 むぐり、閉じた唇を波打たせながら、惚れ惚れする体躯から目を逸らした。
「……ふふ、なぁんか」
「ンだよ」
「今日も、真っ赤になってんね」
「ぁ」
 ツン、おもむろに男の指先が、胸の突起を突いた。小ぶりだったはずのソコは、すっかり性感帯になっている。この男に抱かれるようになってから、粒はまんまと大きくなった。しかも、布に擦れるだけで感じる始末。耐えかねて、先月からニップレスを使い始めた。ちなみに、ニップレスの前に使っていたのは絆創膏。おかげで、ドラケンにバレた時、酷い目に遭った。「エロ漫画かよ!」と散々笑われたっけ。笑い倒した後、しこたま乳首責めもされた。
 思い出したからだろうか、二つの突起がじくじくと疼きだす。いや、これは今晩も、懇切丁寧に舐られたからか?
「……誰かさんがしつこく吸うからだろ」
 愉しそうに粒を突く手を叩き落とした。そろそろ止めろ。でないと、またシたくなってくる。
 そりゃあドラケンなら、求めれば求めただけ応えてくれるだろう。オレの誘いは即日対応。どうしても都合がつかなかった日もないことはないが、遅くとも二日以内には抱いてくれていた。この手厚すぎる福利厚生によって、オレの性欲が拗れたのは間違いない。
 まったく、ドラケンのせいで、いくつ性感帯が増えたことやら。近い将来、腕を小突かれただけでも喘ぐようになってしまいそう。さすがに、そこまで堕ちることはないか? ないよな。ない、と、思いたい。
「んん? 乳首もだけどさ」
「なに」
「三ツ谷って、元が結構白いだろ。だから、ヤッたあと、体火照って、真っ赤になるなあって」
「……白い、っつーか、代謝がいいせいじゃね、それ」
「ああ、そうかも。汗っかきだよな、昔から」
 叩き落とした手は、懲りずにオレの肌に乗る。つ、つつ、汗ばんだ表面に引っかかるようにしながら、上辺を擦られた。早速、欲を煽られる。もどかしさに、変な声がまろび出てしまいそう。下唇を軽く噛んで、喘ぎを堪えた。
 ドラケンの手は、腰へと移っていく。骨ばった両手は、オレの腰をきゅっと掴んだ。
「ふ、あばら浮いてんのに、こっちはムッチリ」
「うるせえな、座り仕事だとどうしようもねえんだよ」
「気になるなら筋トレすれば? 腰痛にも効くだろ」
「……オレでも続けられそうなの、あるかな」
「あるある」
 とりとめのないことを喋っているうちに、男の手指がじわりと食い込んでくる。
 むくり、欲が、首を擡げた。つられるようにして、怠い体を起こす。
「……ねぇ」
「ん?」
「もっかい、いい?」
 震える体に叱咤を打って、膝立ちになった。何年も使い古した布団は、決して柔らかくはない。畳の硬さを膝に伝えてくる。買い変えないとな。それか、ベッドにしてしまうか。大の字でも寝られるくらい大きいものも良いけれど、近頃は、体相応の大きさも悪くないと思っている。
 だってそれなら、共寝したとき、ぎゅうと抱き着く口実になるだろ。
「……いーよ。おいで」
 伸ばしている脚に跨ると、ドラケンはゆったりと腕を広げた。そろりと近付いて、肩に手を置く。目を合わせれば、広げられていた腕がこちらの体に巻き付いてきた。手の平が、背中と腰に当たる。汗ばんだ肌の上に、体温を感じた。
 もっと、強く、抱きしめられたい。肩に乗せるだけのつもりだった手が、向こうの背中に伸び始める。膝立ちになっていた体は、徐々に腰を下ろしていった。
「ん、」
 熱を取り戻した雄が、後ろに触れる。
「ぁ、あっ」
 それでも構わず腰を落とすと、その分はらわたが押し広げられていった。
 暴かれるのが、気持ち良い。焼けるような熱も、快感に変わる。体の中心が浮遊感を覚え、そのくせ胸が切なさを訴えた。
 やっぱり、キス、したい。唇が、そろり、男のそれに近付いた。
―― なぁに?」
「ッ」
 けれど、表面が重なることはない。届くより先に、吐息がかかった。色気づいた声が鼓膜に届く。すぐそばにある唇が、ゆったりと三日月を描いた。
 キスして、と、言うなら、きっと、今。
「……なんでもなぃ」
「そお?」
「ん」
 なのに、口からはそっけない言葉が零れ出た。
 ―― 近頃ちょっと、困っている。
 ドラケンとセックスする度、キスしたくなってしまう。
 そのくせ、キスして、と強請れなくて、困っている。その困惑と、一抹の切なさを誤魔化すように、腰を妄りにくねらせた。

 今日も、なんだか口寂しい。
 ふわふわの生クリームを纏った塊にフォークを刺した。手首を捻れば、丁度一口分が持ち上がる。さぞ甘ったるいことだろう。そう思いながら口に運んだ。やっぱり、甘い。でも、一口目だからだろうか、胸焼けは覚えなかった。もう二口、三口くらいなら食べられそう。一緒に口に入ったフルーツの酸味を追いかけながら、もう一口を切り取った。
「……ルナ」
 その塊を口に持っていく前に、ちらり、向かい側に腰掛ける妹を見やった。
 彼女も、オレ同様に右手にはフォークを持っている。けれど、白い皿には別のスイーツがずらりと並んでいた。イチゴを使った可愛らしい見目のソレは、身内の贔屓目抜きにしても、この妹と似合っている。
 部活がある、って言っていたけど、マナも連れてこれたら良かったな。苦渋に満ち溢れた顔で、「ヒル゛ドン゛!」と悲鳴を上げていたのを思い浮かべながら、改めてルナと視線を合わせた。
「なに」
「ガン見すんな、食べにくいだろ」
 まあ、食べるけど。ぱくんとクリームの塊を口に入れた。まだ、胸焼けはしない。紅茶もあるし、この調子なら一個くらい食べ切れる気がしてきた。
 むぐむぐと口を動かしている間も、妹の視線は動かない。じぃ、を取り越して、ざくり、どすり、鋭利なそれが突き刺さってきた。
「……あのさあ、見るならオレじゃなくああいう映えるものガン見しろよ」
「だって」
「だって?」
 尋ね返すと、いっそうルナの顔が顰められる。メイクも覚えたからか、近頃、すっかり大人っぽくなった。この外見なら、さぞモテることだろう。……それでも、彼氏の気配がしないのは、理想が高いからなのか、高嶺の花扱いされているからなのか。高校生になっても、兄とこうやって、スイーツビュッフェに出向いてしまうから、かもしれない。
 いや、今日のこれは、そもそも八戒が言い出したことた。ラウンジの優待券を貰ったから、いい飯食いに行こ、と。偶然その場にルナもいて、ずるいずるいと食い下がられた結果、こうなった。なお、部活で都合がつかなかったマナは、キルフェボンで手打ちになっている。……折角の優待券なのに、優待された気がしない。
「なんか、」
「なんか、なに?」
 ムッとしたルナは、なかなか口火を切らない。八戒が戻ってきたら、多少は口も軽くなるだろうか。
 ビュッフェカウンターに視線を移すと、八戒はげっそりとしながらこちらに戻ってきているところだった。右手の皿には、軽食がどっさり。左手のボウルには生のイチゴがこんもり。取りすぎでは? いや、女性に囲まれながらも、あれだけ取ってこれたのを成長と思うべきか?
 八戒が、オレの視線に気付く。たちまち、真顔が崩れて、頬に「タカちゃん!」と浮かび上がった。 
「お兄ちゃんさあ」
「ンー?」
―― 睫毛、伸びたよね」
 なんだって?
 八戒に向けていた顔をパッとルナに戻す。そこには、胡乱でいっぱいの顔があった。なんだ、その顔は。つい、こっちも胡乱を返してしまう。それでも自分の手は、フォークをケーキに突き立てていた。
「なに言ってン」
「ッそれオレも思った!」
 聞き返そうとした言葉は、まんまと八戒に取って食われる。溌剌とした声が、耳にキンと響いた。実際、その声は大きかったのだろう。周囲のテーブルから、一瞬視線が集まった。いくつもの女性の目が、八戒を捉える。顔が良いって、便利だな。ちょっと騒いだくらいなら、「あら良い男」で済ませられてしまうんだから。
 唖然としながら見上げていると、キリッとした面構えのまま、八戒は自分の席に腰を下ろした。とってきたばかりのイチゴが早速抓まれる。妹の手も、当然のようにイチゴのボウルに伸びた。
「前会った時も思ってたんだけどさあ、は? ヤバくない?」
「わかる。元から長いんだけど、ビューラー使ったみてぇにさ」
「そう、すっごい上向いてる。くるんッて! どこのマスカラ使ってんの」
「……使ってねぇケド」
「じゃあまつエク? それとも美容液?」
「…………なにもしてませんケド」
「ンなわけないでしょ、どんなキレイにも理由があんの!」
 カッと言い放った妹は、続けて二個、三個とイチゴを口に放り込む。八戒も着々と食べ進めているせいで、山になっていたはずのイチゴはもう平らになっていた。そんな二人を見ていたら、自分も食べたくなってくる。二人の様子を窺いながら、そろりと手を伸ばした。真っ赤なソレを指で抓み、口元に引き寄せる。小さく歯を立てると、じゅわりと果汁が溢れた。
「そういうのこそ、柚葉に聞けって」
「デパコスしか使ってないから、参考にしにくい」
「あー、高いのか」
「そ。あたしのバイト代じゃ手が届きませーん」
 投げやりに言ったルナは、ミニサイズのタルトにドスリとフォークを突き立てた。その躊躇いの無さに、ヒュッと肝が冷える。すぐに小ぶりに見える唇が大きく開き、一口、二口と頬張った。余程美味かったのだろう、顔に乗せていた胡乱が瞬く間に霧散する。
「で?」
「ん?」
「なにしてんの、睫毛ケア」
 かといって、睫毛の話を終わらせる気はないらしい。タルトを飲み下したルナは、続きを促すように首を傾げた。
「なにっつったって……」
 何もしていない、としか、答えられない。
 八戒に助けを求めたら、いい塩梅に話を逸らしてもらえないだろうか。試しに視線を向けてみるが、サンドイッチを口にいれるばかりで、オレの意図は一ミリも汲み取ってもらえなかった。
「……マジで心当たりないんだけど」
「全然ないってことナイでしょ、化粧水変えたとか、クリームつけるようになったとか」
「化粧水は一応あるけど、熱心に使ってるわけじゃねえし」
 本当に、思いつくものなどない。
 しかし、妹は何かあるだろうと食い下がってくる。イチゴを食べては聞き、マフィンの紙を剥いては尋ね、ミルクティーを飲んでは迫ってくる。
 それでも、一切閃けなかった。睫毛のためにしていることなんて、何もない。そもそも、美容意識は杜撰な方。ルナが望む答えを思いつかないまま、八戒の皿から小ぶりな惣菜を掠め取った。
「変わったことしてるかは知らねーけどさ」
「ん?」
 一口サイズのチキンは、冷めているのに癖になる旨さがある。甘いものを浴びた直後だからだろうか。ぎゅむぎゅむと咀嚼しながら八戒を見ると、長い指がポテトを抓んだところだった。近所のファーストフード店より、ずっと太いソレ。ほくほくしていて旨そうだ。つられて手を伸ばすと、ルナもまたポテトにフォークを突き刺していた。
「最近のタカちゃん、肌艶良いよね」
「エ」
「隈も薄くなったしさあ」
「……そうか?」
「そうだよ。オレが言うんだから間違いない」
 そんな自信の持ち方があるか。ツッコミたくなるが、正直こいつは、オレよりオレの機微に敏い。あたかも、その通りであるかのように思えてくる。
 指先に付いた塩気を拭って、ぺたりと頬に触れた。指先で撫でた表面は、なんとなく、滑らかに思える。これが、肌艶が、良い? どうだろう、オレよりも、ルナの方がずっと綺麗に見える。
「なんかイイことあった?」
「イイこと……?」
 続けて八戒に尋ねられた。
 はて、そんな変わったこと、あったろうか。
 イイこと、いいこと、良い、こと。何度も頭の中で繰り返して、それらしい出来事を探す。仕事はまあ順調だ。ついこの間、独立したところだというのに、何かしら仕事を貰えている。おかげで、睡眠時間がすり減ってきているくらい。にもかかわらず、隈が薄くなっているのは、どうしてなのだろう。柚葉に教わった眼精疲労軽減マッサージが効いているのか?
「あ、わかった」
「え」
「お、なになに」
 と、なぜかルナが得意げな顔をした。フォークを持っていない方の手の人差し指が、ピンと天井を指す。
―― 彼女、できたとか!」
 放たれた台詞に、ぎくり、体が強張った。
 まずい、すぐに脳みそが動き、頬を撫でていた手がティーカップに伸びる。取っ手を掴んで、何事もなかったかのように紅茶を口に含んだ。程良く冷めたおかげで、舌を火傷することはない。
 なのに、口内がやけに熱く感じられた。
「……残念だけどそれはねえよ」
「なんで八戒が否定すんの?」
「だってタカちゃん、仕事仕事、仕事の仕事だぜ。そういう噂全然聞こえてこねえし」
「八戒が知らないだけかもしんないじゃん」
「はぁ? タカちゃんのことでオレが知らねえことあるわけねぇし」
「それもどうなの……?」
 オレを置いて、二人はコロコロと会話を転がす。テンポがあまりに良くて、オレが入り込む余地がなかった。……良かった、今何かを求められても、焼けるように熱い舌は、上手く回らなかったことだろう。
 もう一口、ぬるい紅茶を含んでから、静かにカップを置いた。
「……」
 彼女は、いない。八戒の言う通りだ。
 けれど、その弟分の知らないところで、―― この体は男に抱かれている。
 セックスすると、綺麗になる。しばしば聞く話だ。都市伝説にも思えるが、女性ホルモンや幸せホルモンが作用しているとかで、一応根拠はあったはず。
 まさか、あいつに抱かれることで、自分がそうなっている?
「で、どうなの、お兄ちゃん」
 首を傾げて見せる妹に、下世話な装いはない。純粋に、恋人がいるかどうか、知りたいらしい。
「……いねぇよ、彼女とか」
「ほらみろ!」
 八戒がドヤ顔をするや否や、ルナは顔を顰めさせる。声にしなくても「ムカつく」と思っているのは明らかだった。
 彼女は、いない。それは事実だ。
 ……しかし、セフレはいる。男のセフレが、いる。八戒もルナも、よおく知った男の、セフレだ。
 言えるかよ、ドラケンに抱かれて、肌が綺麗になりました、なんて。
 わあわあ言い合う二人を眺めながら、残っていたケーキにフォークを刺した。白い塊を口に運ぶ。たっぷりの甘さが口内に広がった。それでも、軽食と紅茶を挟んだせいか、辟易するほどではない。ぎゅ、むぎゅ、甘さで満ちた口を、ゆっくりと動かす。噛み応えのないケーキは、すぐに溶けて、ごくん、喉を過ぎていった。
 事後に、口寂しさを覚えるようになった。性感帯は馬鹿みたいに増えたし、定期的に抱かれないと落ち着かない。口から出る喘ぎは次第に高く、大きく、猥らになった。その上、腰回りに落ちにくい肉がついて、睫毛が伸びて、肌艶が、良くなっている。
 あの男に抱かれて、こんなに自分が変わるだなんて。
 胸の内にちょこんと居座るプライドが、困った顔をする。男なのに、それで良いのかよ、と胡乱を露わにした。
 あいつとのセックスは、気持ちが良い。オレの平穏な日常に、欠かせないものになっている。
 けれど、本当は、もうしない方がいいのかもしれない。

 とはいえ、細やかな気付きで生活習慣を変えられるかというと、―― 否。
「ッ、ぁ、~~っ!」
 その夜も、オレはドラケンに抱かれていた。
 逆に、あの程度の意識で、自分を省みれる聖人がどれほどいることだろう。我こそはという奴がいるのなら、名乗り出てほしい。そして、オレに自制の仕方を教えてくれ。
 つまるところ、欲に屈してばかりの自分が、こいつとのセックスを止められるわけがなかったのだ。
「ん、ふ……、ぅ」
「……んん」
 オレの腰を掴む手に、力が入る。ぱちゅん、くちゅん、繋がったところから、潤滑剤の泡立つ音がした。
 この音に聞き入ってしまうと、ダメ。わけもわからなくなって、高い声をあげてしまう。あんあん喘げば、その分、理性はすり減っていく。セックスに、溺れてしまう。
 止めなくちゃならないのに、それは、まずい。
「ん、ンッ」
 せめて、声だけでも我慢しよう。そう思って、今日は枕に顔を埋めていた。しがみついていると言っても良い。
 ……コレ、悪手だっかな。突っ伏した枕からは、当たり前のように男の匂いがする。息をするだけで甘さが鼻孔に入り込み、とろとろと思考が溶けだした。
 我慢しよう。その気概をへし折りたくて仕方ない。喘ぎたい。口を開けて、あんあん喚きたい。あわよくば、だらしのないその唇を塞がれたい。この男の口付けで、それを叶えられたら最高なのに。
 次々と込み上げてくる欲望を振り払おうと、頭を振った。枕に押し当てている額が、ざりざりと擦れる。おかげで、匂いに纏わりつかれて、堂々巡り。
 困ったもんだ、本当に。
「なあ」
「ンッ」
 ふと、声がした。それも、耳のすぐそばからだ。
 ピクンと肩を震わしながら振り返ると、文字通り眼前にそいつの顔があった。鼻の先に至っては、微かにぶつかっている。これはキスと言っても過言ではないのでは? いや、過言だワ。腹いっぱいの悦を咥え込んでいるせいで、すぐに頭が馬鹿になってしまう。
 どうにか喘ぎを飲み込んで、震えそうな唇を開いた。
「……な、に」
「今日さ」
「ぅっ、ン」
 腰は、打ち付けられていない。奥の深いところだって、捏ねられてはいなかった。けれど、熱杭の存在感に引きずられて、声が裏返る。ただ返事をする、それだけのことすら、この体に成った自分には難しかった。なんて浅ましいんだろう。突きつけられた現実に、心がめげそうになる。
 ドラケンとのセックスを止めれば、自らの堪え性のなさに打ちひしがれることはなくなる。わかっている。でも、止めらない。だって、気持ちが良い。疼きを、満たしてもらえる。止められるわけ、ない。……困ったもんだよ、ほんと。
 次々と込み上げてくる喘ぎがいっそ憎たらしくて、下唇をそっと噛んだ。
「あー……」
「ぁ、え?」
 すると、そばにいる男が小さく呻く。その表情は、笑っているようにも、困っているようにも見えた。曖昧な顔つきのそいつは、一つ息を吐いたところで、オレの腰を離す。間もなく、背中のそばに迫っていた体温が遠ざかっていった。
 汗ばんでいるからか、肌が空気に触れた途端、ひやりとする。快感とは異なる震えが、背筋を上った。
「なんか、あった?」
「ぁえ」
 やがて、熱がツポンと抜ける。大口を開けていた後孔が空虚を覚えた。失った熱さを求めて、縁はヒクヒクと戦慄く。
 その猥りがましい様に、ドラケンも気付いたのだろう。こっちを見下ろしながら、むにゃりと唇を波打たせた。閉じていたソコから、ちろり、舌が覗く。上唇の端、角が、わずかに舌で拭われた。
「ァ」
 微かな舌なめずりだというのに、色気が匂い立つ。物欲しさが掻き立てられて、さらに、キュン、後ろが疼いた。
「具合悪いってわけでは、ないんだよな」
「……調子は良いよ」
「じゃあ、なんで声我慢すんの」
「べ、つに、我慢してるってわけじゃ……」
「喉痛い? それか、火傷したとか」
「……」
 下肢に向けられていた目が、じっとりと背中へ移動する。刺さる視線はあまりにも熱くて、背中の肌がヒリヒリしてきた。中途半端に昂った身体は、一歩、また一歩と追い詰められていく。このままじゃ、見つめられているだけで達してしまいそう。また新たな性癖の扉が開くのか? それは、本当に、勘弁。
 イッてしまわぬよう、下腹を力ませた。両肩も怒らせて、枕を強く握り込む。下唇は、ギ、強めに噛み締めた。
―― みつや」
「ぁっ」
 にもかかわらず、甘い響きで呼ばれると、すとんと体は弛緩する。伸びてきた腕は、オレの肩を掴んだ。脱力した体は、なんの抵抗もできない。ぐるん、あっという間にひっくり返された。
 汗ばんでいた胸が露わになる。ア、咄嗟に視線を向けると、真っ先に赤い二つが目に入った。ベッドシーツに擦れた―― もとい擦り付けていた―― 両方の突起は、ぷっくりと淫らに膨れている。
 前は、こうじゃなかった。
 でも、オレ、こんなふうになっちゃった。
 羞恥と惨めさと、なぜか一抹の興奮が込み上げてくる。
「どしたの、今日」
「う」
 カッカと火照るオレとは対象的に、ドラケンは穏やかに問いかけてくる。肩にあった手は流れるように滑り、オレの右手首を捉えた。そして、くん。腕を引かれ、体を起こされる。腰はやんわりと抱き寄せられた。その手付きは実に流暢。呆気に取られているうちに、体は男の膝に乗り上げていた。
 顔を上げると、視線が交わる。とびきり近い距離で、目が合ってしまった。
 真っ先に込み上げてきたのは気恥ずかしさ。ぶわりと頭に血が上ってきたものだから、慌てて顔を俯かせた。……たちまち、男の鍛えられた体が飛び込んでくる。くっきりと割れた腹筋を追うと、充血しきった男根に辿り着いた。腹につきそうなくらいに、反り返っている、ソレ。ゴムを纏った表面には、まだ泡立った潤滑剤がついていた。
 どこを見ても逃げ場がない。必要以上に頭に血が集まって、思考が鈍くなっていく。
「その」
「ん」
「あの、」
「うん」
「……や、でもやっぱ、なんでも」
「いいから。言ってみろって」
 ドラケンは、やっぱり穏やかに囁きかけてくる。ちらりと目線だけ持ち上げると、小首を傾げたのが見えた。大きな手の平は、オレの背中から腰にかけての辺りを叩いている。とん、とん、とん。一定のリズムで動く手は、子供をあやすかのよう。残念ながら、自分は幼子じゃあない。みっともなく熟れたいい大人。感じるべきじゃないのに、そのわずかな振動にすら感じ入ってしまった。
 腰が、砕けそう。思うと同時に背中は丸まり、額が男の肩に埋まった。触れた肌は、まあ熱い。それに汗ばんでいる。夜の、雄の匂いが、した。
 我慢していたのが、なんだか馬鹿らしくなってくる。別に、気持ちよくなったって、良いじゃん。ああいや、口寂しくなるのは、嫌だ。どうにかしてほしい。
 わずかに首を捻って、すぐそばにある男の顔を盗み見た。近すぎて、顔全体は捉えられない。見えるのは、下半分。形の良い唇が、すぐそこにあった。
―― キス、したぃ、」
 ほとんど無意識のうちに、呟いていた。
「うん?」
「……え」
「キスって……、まさか、我慢してたのってソレ?」
「ぁ、や、エッ」
 しまった、と思ったときにはもう遅い。逃げを打とうにも、男の両腕ががっちりと腰に巻き付いていた。ならば、目一杯胸を押して、強引に後ろに倒れ込んでしまおう。這うような動きになってしまうが、とりあえずは逃げられるはず。
 ……しかし、それも、阻まれる。巻き付いている手の片方に、背中の真ん中を押さえられた。重労働に慣れた腕は、難なくオレの体を抱え込む。腕を突っ張ることすら、許してもらえなかった。
「~~ッ忘れて!」
「んん、しても、いーんだけど、サ」
「聞けよッ」
「嵌めながらキスすると」
「だから聞けッ、ぇ、あっ……、はめなが、ら?」
 考える素振りをしながらも、ドラケンは言葉を浴びせてくる。ぽんぽん飛んで来るそれを、どうにか止めようと声を荒げるが、怯んではもらえない。それどころか、聞き捨てならない単語が飛び込んできた。
 キス、したいと言った。確かに言った。セックスをしながらキスしたいとも、かねてから思っていた。
 それを、皆まで言った覚えはない。口にしたのは「キスしたい」の一つだけ。なのに、どうして「嵌めながら」というシチュエーションをプラスしたんだ。間違っていないけど。そうして欲しいんだけど!
 はくはくと口を開閉していると、斜め上を向いていた男の視線が戻ってくる。
「癖に、なるよ」
「へ」
「オレ、それでヤバかった時期あるもん」
「エッ」
「確かに、すっげー幸せな気分になれンだよ。ただ、頭も馬鹿になってさあ、他の事じゃ全然満たされなくなんの」
 相変わらず、ドラケンは軽快に語り掛けてくる。さっぱりとした口調に、躊躇いはない。つるつると滑らかに言葉を発せられた。
 今、オレは、とんでもないことを聞いたのでは。ああいや、最初からこいつは、自分の性生活を平然と喋る質だった。でなきゃ、誰に聞かれてもおかしくない飲み会で、「男と寝たことあるよ」なんて言うわけが、ない。
 それはそうとして、口がアの形で開いたまま、固まった。開いた口が塞がらない。よく聞く諺を、体現する日が来ようとは。
「ぁ、」
「ん~、たぶん三ツ谷くらい感じやすいとさ、ほんとにやばいと思うんだよね」
「イ」
「なんだろ、オレはまだ戻れたけど、その一線も超えちゃいそう、っつーか」
「ぅ」
「二度と、女、まあ男もか。抱けなくなりそう」
「ェ」
「それでも、いい?」
「ぉ」
「……っふ、なんだよそのアイウエオ」
 なんだろう。なんとか口を閉じようと足掻いた結果、アから順にぼろぼろと母音を発してしまった。おかげで口は閉じれたものの、畳み掛けられた言葉の理解には至れない。
 キスすると、マズいらしい。キスすると、もう誰かを抱けなくなるかもしれない、らしい。
 エッ、胸に座っていた細やかな男の矜持が、慌てた顔をして立ち上がった。困る困る、いくらなんでも、それはダメだろ。小さなそいつは、キィキィワァワァ喚きだす。
「え、っと」
「どうする?」
「抱けなくなった、ら」
 ……オレは、本当に困るのだろうか。
 火照った頭に、ぷかりと疑問が浮かぶ。何を馬鹿なことを、困るに決まっているだろう。相変わらず、ちっぽけなプライドは何かを主張しているが、なんだか信用ならなかった。
 今の自分の有様を考えてもみろ。抱かれないと、満たされない。手に余る疼きと口寂しさに苛まれている。耐えきれなくなって頼る先は、いつだって、この男。
 もうとっくに、誰かを抱けない体に成っている。
「ドラケンが、」
 脳内にガンガンと警鐘が鳴り響く。
「オレのこと、抱いてくれるなら、……良い、よ」
 けれど、黙りこくることはできなかった。
 切れ長の瞳が、わずかに見開かれる。間違いなくドラケンは、目を瞠った。細やかな変化だが、オレにはわかる。長い付き合いの自分には、ちゃんと、わかる。
「そう」
「……うん」
「そっかあ」
 ふっくらとした唇から、ほぅ、ため息が零れた。引き結ばれたソコは、一旦波打つ。けれど、長くはない。すぐに、口角の片方が、クと持ち上がった。驚きを乗せていた目は、三日月に歪む。息を吸うのに合わせて、男の肩が上がった。口も開く。中にある赤色と、前歯の先が、ちらり、覗いた。
 あ、食べられる。
 噛り付かれる寸前、ぎゅうと瞼を瞑った。
「ぅアッ」
「んム」
「っ、ふ、……んゥ、ン」
 唇が塞がれ、容赦なく舌を捻じ込まれる。勢いよく重ねられた割に、歯はぶつからなかった。ピリリともチクリとも痛みはないまま、口内を存分に舐られる。唇の裏側、歯の表面、舌先、その下、それに上顎。息継ぎをする間もなく弄られて、頭が揺れた。重さに従って、体ごと後ろへ倒れていく。
 いや、これは、押し倒されている、のか。
「っは、」
「ぁ、んぅ」
 気付くと同時に、背中はベッドに埋まった。ぴったりとくっついていた唇は、あからさまなリップ音を立てて離れていく。男の存外厚みのあるソコから、ツゥと銀糸が伝った。とろみのあるそれは、一秒を数える間に途切れて、こっちの口元に落ちてくる。はふ、湿った吐息を漏らすと、濡れた下唇の感触がまざまざと伝わって来た。
「さて、タカシくん」
「エッなに、なんでしょう、ケンくん」
 うっとりとする間もなく、ドラケンの気取った声がする。つられて片言の丁寧語を吐き出すと、オレを組み敷く顔が、にっこりと笑った。
「この際だから、とびっきり深いとこまで、嵌めていい?」
「へ」
「大丈夫、ちゃあんと責任、取るから、」
 安心して。
 そう付け足した後、男の手に脚が捕まった。返事をするより早く、貧相な両脚は限界まで開かれる。尻どころか腰まで浮いて、後孔はすっかり天井を向いた。
「あぇ、ぉ、ワッ、」
「ヨシ」
 なにが、ヨシなんだ。この姿勢じゃあ、間違いなく腰が痛くなる。湿布のストック、あったかな。
 気にするべきはそこじゃない。わかっているが、あまりの展開に現実逃避せざるをえなかった。
「ッなにこの体勢!?」
「ン」
「ぁっ、」
 理解が追い付くのに合わせて叫び飛ばすが、返事の代わりに熱杭を押し当てられる。熟れた淫唇は、ろくな抵抗もできないまま、その先っぽを咥え込んだ。ほとんど真上から、情欲の塊が入ってくる。前立腺は、当然のように抉られた。妄りがましい媚肉は、いくら絡みついても強引に割り開かれる。極限まで腰を浮かせているせいで、猥らな様はよく見えた。
 みるみるうちに肉棒ははらわたを満たす。先っぽが、とちゅん、最奥の壁にぶつかった。わずかに腰が退かれて、しかしすぐに、ぱちゅん、ナカに戻ってくる。熱の塊に、何度も何度も奥を擦られ、捏ねられた。
 あ、あっ、律動が、荒くなっていく。もうこれ、叩くとか、抉るとか、殴るとか、そういう圧になってない?
 なっている、よ、なあ?
「~~ッア゛♡」
「ン゛」
 困惑が頂点に達した瞬間、―― 腹の奥からぐぽんと聞こえた。
「ッ、……ッォ、あッ、ぅンッ」
 苦しい。真っ先にそう思った。呼吸をしようにも、喉の辺りでつっかえる。それでもどうにか息を吸おうと、唇が何度も空気を食んだ。
「ン゛ッ、ふぅ、うっン」
 熱い。一つ息を取り込んだ途端、今度は強烈な熱に襲われた。まるで火をつけられたかのように、熱くて仕方がない。初めて抱かれた夜に味わった熱が、可愛く思えてくる程。全身の毛穴から汗が噴き出すが、苛烈さは一向になくならない。
「ォ……、ア、ぁん、ゥウ」
 とてつもなく、イイ。
 こんな深いところまで貫かれて、気持ちが良いわけない。息も絶え絶えなプライドが必死に首を振っているが、事実、未だ嘗てないほどの快感が、そこにはあった。
「あ~、吸い付きやべぇ……」
「ら、にッ、なに、こぇ、ァッ……、オ゛」
 開いている脚が歪に引き攣る。せめて、この脚をばたばたと揺らせたら、次々襲い掛かってくる快楽の波をいなせたかもしれないのに。動くのは、怒張を咥える淫口ばかり。先っぽから根元に至るまで、必死に熱にむしゃぶりついていた。
 引ける様子の無い愉悦は、脳みそまで浸食する。自分が正しく形を留められているのかも、わからなくなってきた。繋がっているところの熱は感じるものの、他の部位の感覚が溶けていく。
 一つになるって、気持ち良い。でも、少しだけ、怖い。はくん、空気を食むと、いっそう切なさが増してきた。
「ぁっ、ねぇ、ねえ゛ッ」
「ん、んん?」
「ぎゅっ、てぇ、ぎゅってして……」
「……こう?」
「ンッ、ちゅぅも、おねが、ぃ」
「ん」
 なりふり構わず腕を伸ばすと、すんなり男の体躯が降ってくる。体温と体重、両方を与えられながら、貧相な体は抱きしめられた。涎に塗れた唇も塞いでもらえる。トドメのように頭まで撫でられてしまえば、高揚の上に多幸感が乗っかった。
 これでもう、戻れない。
「~~ッ♡」
 ―― それがどうした。
 これ程の絶頂を味わえるのなら、些細なことじゃないか。ほとんどトびかけた意識の中ほくそえむと、この身を抱く男もうっそりと笑った。