二
自分の性的指向は、女性である。
その認識は、おそらく間違ってはいない。これまで付き合ってきた子は、みんな女性。男に告白されたこともあるけれど、どうもピンと来なかった。
異性と付き合うのであれば、自分がどう立ち回るか、それなりに想像することができる。けれど、同性となると、どうも思い描くことができなかったのだ。あの同僚、もとい、男と自分が付き合うことになったら、どういう暮らしになるだろう。恋人らしい行為と言えば、デートだろ、キスだろ、それからセックス。……自分が同性とソレをするなんて、いくら考えても浮かばない。それでも頭を悩ませると、相手の姿形は女性になる始末。
やっぱり、自分の性的指向は女性である。
きっと、それは、正しい。
「ン」
それはそれとして、だ。
「ぅ、んん、」
あの夜から、下腹に違和感を覚えるようになった。
切なさを訴えるソコに、手の平を当てる。軽く擦ってみるが、真っ平らで何一つ面白みはない。しいて特徴をあげるとすれば、積み重なった不摂生で変に痩せ、触るとドクドク脈打つことくらい。布団の上で仰向けになると、その鼓動は鮮明に手の平に伝わってくる。トクトク、ドクドク、右手で感じる音は、平生よりも早かった。ついでに、腹の中を流れる血液は、普段よりも熱を持っているような気がする。
「……あっつ」
気がする、じゃ、ないな。確かに、腹の奥では、熱が渦巻いている。
この熱が痛みを原因とするものだったなら、腹を押さえて誤魔化すこともできたろう。しかし、この体には、痛いところなど一つもない。
「っは、ァ」
腹を擦っても、熱は和らがない。うっかり押そうものなら、下腹はいよいよ疼きを放ち始めた。嫌でも体温が上がっていくのがわかる。腹を押さえたところで、痛みのように、誤魔化すことはできない。悪化の一途をたどるばかり。
かといって、疼く腹をそのままにしておくのも、落ち着かなかった。
今日も、するしか、ないのか。
……ないんだろうな、きっと。
「んん」
呻きながら、横向きへと寝返りを打った。利き手は、スエットの中に潜らせる。下着越しに触れたソレは、早くも兆し始めていた。今のところ、湿ってはいない。とはいえ、シミができるのも時間の問題だろう。
もう一つ呻き声をあげてから、ボトムを纏めてずり下げた。布団と毛布は蹴り飛ばし、足元の方に無理やり押しやる。
露出した自身を手の平で包みつつ、視線でティッシュ箱が近くにあるのを確かめた。
「ふ、ク」
これで一体、何日目だろう。
ここのところ、毎晩のように自慰に耽っている。三、四日は数えていたが、そのあとは数えるのも馬鹿らしくなって止めてしまった。
一番性欲旺盛だった中坊の頃ですら、毎日耽ることはなかったというのに、どうしてこの歳になって熱心にオナニーをしなくてはならないんだ。……悪態を浮かべたところで、疼きはなくなってはくれない。仕方なく、ず、ずり、陰茎を包む手を上下させた。
「も、ばかになりそ……」
自嘲気味に呟きながら、ちらりとソコに目を向けた。何度か扱いたブツは、あっという間に反り返っている。輪っかにした指の間からは、切っ先が見えた。小さな孔から、とろっとカウパーが滲み出ている。
あえて誰かと比べたことはないが、自分は濡れやすい方らしい。言われてみれば、その通りなのかもしれない。ここしばらく、自慰する度に、あちこちぐしょぐしょに濡らしてしまう。
今日だって、もう手の平は先走りでべたつき始めていた。
「んっ、ぁ、はッ」
緩急をつけて刺激してやると、紛れもない悦楽が神経を上ってくる。竿を握る、それから扱く。先っぽを撫でる、加えて磨く。さほど凝った手付きはしていないものの、自身はとぷとぷと透明な雫を溢れさせた。あまりに堪え性のない有様に、見ていられなくなってくる。ぷっくりと雫ができたのを捉えたところで、ぱたん、瞼を閉じた。
自分のペニスは、あまりにもだらしがない。そう思うのに、理性は鬱屈することなく、逆に煽られてすらいた。そのせいか、手の動きが雑になる。痛いのはシュミじゃない。苛烈な刺激を浴びるより、ゆっくりと高めていく方が好き。なのに、両手を使って、情けない陰茎を責め立ててしまう。荒っぽく竿を扱きながら、濡れそぼる亀頭をグリグリと擦った。溢れたカウパーは掬い取って、過敏な裏筋に擦り付ける。はくはく喘ぐクチには、ギッと爪を突き立てた。
「ぁ、ッん、ンぅ、……っハ、ぁッ」
無遠慮とも不躾とも言える動きは、鮮烈な快感を頭に届けてくれる。あまりの激しさに、脳みその中がチカチカしてきた。この調子じゃあ、絶頂に辿り着くのも遠くない。むしろ、近い。
ニチニチと水音を立たせながら、一心不乱にソコを弄った。
ちょっと、痛い。でも、気持ち良い。もしかして、自分はマゾの才能もあったのだろうか。いや、いやいや。マッサージと一緒だって、アレだって、痛いの寸前が気持ち良いわけだろ。それと一緒。おかしくはない。自分の体は、どこも、おかしくなってはいない。
チンコで気持ちよくなるのは、特別なことじゃない。
男の機能、何一つ、失っては、いない。
「~~ック、」
一際大きく、心臓が脈打った。咄嗟に先っぽを包み、手の平で熱を受け止める。ぴゅっ、ぴゅるり、飛び出すソレの量は、決して多くはない。両手を使ってしまえば、受け止めるのは容易かった。
何度かに分けて吐き出したあと、ようやく瞼を持ち上げる。合わせて、握り込んでいた右手を開けば、さらりとした白がこびりついていた。水っぽいソレは、眺めているそばから手の平を伝い落ちていく。
あ、やべ、垂れる。布団、汚れる。
「っと、」
慌てて、比較的綺麗な左手でティッシュを抜き取った。手早く汚れを取って、滑る陰茎のことも軽く拭う。改めて見下ろしたソコは、もうくったりと萎れていた。じぃと見つめ続けてみても、首を擡げることはない。ティッシュを被せたまま、やんわりと揉むが、芯を持つ様子はなかった。連日抜いているせいだろう。吐き出した精液だって、随分と薄かった。
「……」
しかし、困ったことに、腹の疼きは、今も健在。
「どうしろ、っつーんだよ」
口からは、情けない声が落ちた。
―― あの男に抱かれてから、日を追うごとに、この体はおかしくなっている。
抱かれたあとの数日は、そこまで違和感はなかった。おもむろに思い出して、頭がぽやっとする程度。疼きに苛まれることは、まずなかった。
おかしいと気付いたのは、一週間程経った頃。体に、得体の知れない疼きを覚えるようになった。なんだろう、慣れないセックスの反動が、今になってきているのだろうか。あいつに腹の奥を穿たれるの、確かに気持ち良かったしな。忘れられないのも、仕方がない。宥めるように腹を撫でてみたものの、結局熱は冷めなくて、一旦抜いてみることにした。おそらく、後ろを使った快感に、引きずられているのだろう。前での感じ方を思い出させてやれば、すぐに落ち着くに違いない。
……その見通しは甘かった。いくら抜いても落ち着いてはくれなくて、今日の今日まで毎晩オナニーする羽目になっている。
ペニスを慰めても、腹の奥にある疼きは消えてくれない。そりゃあ、抜いている最中は燻ぶる熱を忘れられる。けれど、射精して頭が冴えると、もうだめ。煩わしい疼きが、一回り大きくなって腹に座り込んでしまう。
一発抜いてしまえば、スッキリと眠れた頃が懐かしい。
昨日は、寝付くまでに随分と時間がかかった。じゃあ、今日はどうだろう? ……変に欲が昂って、やっぱり寝付けそうに、ない。
「ンでこんなに、あぁ、もう……!」
半ば自棄になりながら、萎えたままの自身を握り込んだ。ふにゃりと柔らかいソレを、強引に扱く。すぐに、頭の奥にチカチカと火花が飛んだ。過度な快楽は、苦痛と紙一重。達したばかりの陰茎を擦るなんて、言語道断。すぐに右手は強張った。無理にコレを扱くのは、よろしくない。苦しいばかり。自慰通り越して、こんなの自傷だ。
じゃあ、どうする。
「……っ」
疼いているのは、腹の、奥だ。具体的に言うと、あの男の熱杭を捻じ込まれた、腹の中。
意識するや否や、キュンッと後ろの穴が窄まった。
「……ぅ、うう」
手が、ペニスから離れる。そのまま、そろそろと右手は一点に伸びていった。意識のほとんどが集まっている、その一点。疼きを放つ、体の後ろ側へと、指先が向かった。
手始めに、平坦な尻に触れる。汗ばんだ皮膚に引っかかりながら、指先は中央へと移動していった。尻たぶを辿るうちに、割れ目に差し掛かる。葛藤が過って、ひくん、人差し指と中指が引き攣った。けれど、一瞬の出来事だ。すぐに中指が、窪みに沿って沈んでいった。ゆっくり、それでいて着実に、指の腹は奥まった一点を目指していく。
自分の体のことだ、どれだけ腕を、手を、指を伸ばせば、ソコに辿り着けるのか。そんなのわかっている。それでも、動きは手探りになってしまった。ビビっている、とも、言えるのだろう。
ぎゅう、瞼を、固く瞑った。
きゅう、唇を、内側に巻き込んで噛み締める。
キュ、ゥ。
爪先が、確かに、窄みに沈んだ。
「~~ッあ」
途端、甘ったるい痺れが背骨を駆け抜ける。脳裏に火花が散った。つい先程の、強引にもう一度シようとした時とは違う色の火花だ。眩いそれは、確かに悦を示している。残念なことに―― ある意味では幸運なことに―― 辛くも苦しくもなかった。
「ッぁ、ん……、ン」
ほとんど無意識のうちに、窄まっているソコに指の腹を押し当てる。皺を伸ばすように、指を動かした。その動きは、上辺を撫でているだけ。だというのに、腹を渦巻いている熱が満たされていく気がした。
そうだ、これだ、オレはこの感触を求めていたんだ。
天啓が降って来た心地になって、指の動きが大胆になっていく。ふに、くに、むに、ぐに。徐々に力が入り、窄みにかける圧が増した。呼応するように、溝は指先に吸い付いてくる。
「っ、ぁ、あ……、ッア」
いつの間にか、唇は半開きになっていた。そのせいで、つぅと涎が伝い落ちる。裏返った声だって、ぼたり、ぼとり、溢れてしまった。
だって、気持ちが良い。くにゅり、ぐにゅり、躊躇いも忘れてソコを弄くり回してしまう。縁を撫でるだけでこうなんだ、内側に指先を入れ込んだら、どうなってしまうんだろう。ふつふつと期待が煮立ち、内腿を擦り合わせてしまった。依然としてくったりと萎えている自身からは、とろりと透明な液体が垂れる。ああ、このままじゃ、ベッドを汚してしまう。えっちなシミが、できて、しまう。
『きっと、ハマるぜ?』
耳元で、男の声が響いた。
『―― 男に、抱かれるのに』
色気で満ちた幻聴が、鼓膜を震わす。
そうだ、自分はそう突きつけられて、あの男に体を許したんだ。男とセックスをする。想像もできなかった行為を、あの男と、シてしまったんだ。
思考をピンク色に染めながら、指先を捩じ込んだ。
「~~ッ!」
その瞬間、体が跳ねる。脚が突っ張る。強張った胴体を、甘美な痺れが貫いた。
「っ、……っ! ッ……、ンく」
入れ込んだのは、指の、ほんの先っぽだけ。にもかかわらず、射精を凌駕する快感が降って来た。自分は、これほど苛烈な悦楽を忘れようとしていたのか。忘れられると、思っていたのか。
「ぁ、ぁは、ふふ、ンふ」
開きっぱなしの口から、とろとろと笑い声が漏れた。
くちゅくちゅと指を動かしているせいで、その笑いは、徐々に喘ぎへと変わっていく。変にハイになった頭は、すっかり理性の統制を離れてしまった。後ろを暴かれて、疼きに苦しんでいたことも忘れて、指は媚肉と化した粘膜を慰める。
「ぁッ♡」
夜通しアナルオナニーに耽ってしまったのは、言うまでもない。
つまるところ、自分は後ろを使わないと満足できなくなってしまった。
その現実に絶望するほど、オレは悲観的な性格はしていない。くよくよしたのはたった三秒。四秒経つ頃には、完全に開き直っていた。なんせ、あの壮絶な快感を知ってしまったのだ。仕方があるまい。
開き直って、この性欲を満たしてくれる相手を、探すことにした。
知人曰く、このご時世だと、アプリを使うことも多いらしい。しかし、自分は機械に強くない。まったく使いこなせないこともないのだが、事実、慣れるのに人より時間がかかってしまう。アプリの使い方を覚えるのと、そういう出会いの場に行ってみるのと、自分に向いているのはどちらか。
迷うことなく、後者を選んでいた。
「つって、来てはみたけど……」
ドリンク片手に、脚の長いスツールに腰掛ける。丸テーブルに肘をつきつつ、それとなく店内を見渡した。
そういうシュミの知り合いから聞きだしたのが、この店。一見するとただのバル。けれど、そういう筋の人間も良い縁に巡り合えるとか、なんとか。とはいえ、店内には男も女もいる。程良い賑わいを見せており、極端に近い距離感で会話する組み合わせはなかった。本当に、ココで合っているのだろうか。間違えたのでは? 一抹の不安が頭を掠める。いや、まさか。ちゃんと確かめて入店したし、教えてくれたのだって信用できる奴だ。
「ま、お試しと思えばいいか」
来たのは、今晩が初めて。まずは様子見だ。いきなり声を掛けられるなんて、ビギナーズラック、あるわけがない。気を急いて、失態を晒さないようにしなくては。
小さく息を吐いてから、炭酸の泡が浮かぶグラスに口付ける。薄いそれを傾けるにつれて、口内に爽やかさが入り込んだ。
「―― こんばんは」
「っ!」
心地の良い酸味が、じゅわりと溶ける。
ぱ、と顔を向けると、涼し気な一重と目があった。どちらかと言えば面長、前髪は後ろに流している。背、高いな。一八〇はある。でも、一九〇まではなさそう。なんにせよ、男の顔は、スツールに掛けている自分よりも高いところにあった。
悪く、ない。
無駄に肥えた目は、コンマ一秒で、男の見目にA判定を付けた。
「どうも」
運は、オレに味方してくれたらしい。つい、口元が緩む。これが取引先だったら、さっと表情を取り繕うところだ。けれど、今はオフ。口説いて貰いたいとすら思っている。それなら、隙があるくらいが丁度いい。ふにゃり、ありのままにはにかんで見せた。
「一人?」
「うん。そっちは」
「んん、まあ、そんなとこ」
「なにそれ。含みある言い方しないでよ」
「なぁんか、すっぽかされちゃったみたいで」
細やかな笑みを伴いながら男は話しかけてくる。
鼓膜を震わす低音は嫌いじゃない。むしろ心地いい。頬杖して見せる手は、オレのそれより一回りか二回りは大きかった。関節も大きめ。骨太なのだろう。爪先に至るまで、整えられている。あ、カフスボタンだ。纏っているスーツも、安物じゃあない。
出したばかりのA判定が本当に正しいか、つい見分してしまった。なんなら、その袖口を触って確かめたくなってくる。ここまでくると職業病だな。
触れたい気持ちを抑え込みながら、ついと上目遣いを送った。男は、ずっとオレのことを見つめていたらしい。すぐに視線を絡めとられる。穏やかでありながら、色気のある目に、捕まった。
存外厚みのある唇が、にんまりと弧を描く。
「でも、こんな美人に会えたんだから、すっぽかされて良かったかも」
そして放たれた、歯が浮きそうな台詞。この顔じゃなきゃ、オエッと舌を出していたことだろう。現代にも、こんな気障な口説き方をする奴がいるなんて。自分が知らなかっただけで、今もごく普通に交わされる質のものなのだろうか。
いや、待て。この男の顔を見てみろ。色気は携えているが、イタズラな笑みとも言える。これは、フリだな。会話の切り口に、使ってみただけ。なるほど、オッケー。理解が追い付くと、むにゃり、唇が波打った。
「……っふ、ふふ、絶対嘘でしょ」
「あ、バレた? 一回言ってみたかったんだ」
「初対面の相手によく言ってみようと思ったね」
「だって、知り合いに使ったら、頭引っ叩かれちゃうし」
「それ、フリ? 叩いた方がいい?」
くすくすと笑いながら男の肩を小突くと、気取っていた面がくしゃりと破顔した。涼しげだった目元が、人懐こく細められる。……この、笑い方、好きかも。というか、あいつにちょっと似ている。
本当に今日は運が良い。同性とナニをするなんて想像できなかった自分でも「イイな」と思える相手に、早速巡り会えるなんて。瞬きするたび、瞼の裏にはこの男に組み敷かれる様が映った。
「んふふ、それで、本当の待ち合わせ相手は?」
「いないよ。ナンパしようと思ってたとこ。ああでも、美人だと思ったのはほんと」
「どの口が言ってんの」
「マジだって。他の常連も、君のことチラチラ見てるし」
「ふぅん?」
軽口を叩きながら、男は視線をカウンターの方に向けた。それとなく追いかけると、艶っぽいメイクを施した三人がいる。ぱちん、目が合うと同時に彼女ら―― いや、彼らかもしれない―― はキャッと色めきだった。
自分は、どういう目で見られているのだろう。にっこりと笑顔を向けて見せながら、ふと思考を巡らせた。
たぶんあの人たちは、オレに抱いてほしいという顔をしている。そういえば、しばらく前に告白してきた同僚も、オレに抱かれたかったと言っていたっけ。ついこの間、世間話をしていたら暴露された。とはいえ、近頃のオレは「きゅるん」としているから、告白したときのように抱かれたいとはもう思っていない、とも。なんでも彼はネコ専とやらで、誰かを抱くシュミはないらしい。その後、コロコロと話が広がり、この店のことや、深イキできるアダルトグッズまで教えてもらったっけ。
「まあ、あいつらじゃ相手になんないよね」
「え」
一昨日に遡り出していた思考が、現在に引き戻される。ぱっと顔を上げると、男がにんまりと笑っているのが見えた。依然として目は細められている。だが、先程の人懐こさはない。代わりに、瞳には劣情が滲んでいた。
ぐずり、後ろと下腹が疼きを覚える。この男なら、オレの浅ましい欲を、満たしてくれるだろうか。つい、見つめる目に縋るような気持ちを乗せてしまった。
「君さ」
見つめ合いながら、男は頬杖を解く。骨ばった指先が、ゆったりとこちらを向いた。ほどなくして、指の腹が頬に触れる。乾燥しているのか、ざらりと肌に擦れた。
この、感触も、あいつに近い。思い起こされた手付きに、ぴくり、肩が震えた。
「抱かれたくて、ココに来たんでしょ」
「っぁ」
やがて、男の親指が下唇に触れる。人より薄いソコは、艶めかしい弾力を持ち合わせてはいない。なのに、男の指はむっちりと沈み込んだ。頬を撫でていた別の指は、もったいぶりながらもオレの顎を捉える。流れるように、くんっ、上を向かされた。
艶のある笑みから、目を離せない。瞬きすることすら、できなかった。心臓は逸り、体がじんわりと火照っていく。熱を自覚すると、いっそう疼きは大きくなった。きゅうきゅう、腹の中に切なさが渦巻きだす。早く、一刻も早く、暴いてほしい。緩く構えていたはずの脚は、いつの間にかぴったりと閉じていた。それどころか、内腿を擦り合わせている。
こくんと一つ頷いたら、この男は、いつかのあいつのように、このカラダを連れ去ってくれるだろうか。持て余した欲情を、満たしてくれるだろうか。
「どうする?」
囁かれた途端、思考が蕩けた。理性は恍惚に染まり、力が抜けていく。くらり、頭が揺れると同時に、座っている体が傾いた。
スローに流れる世界で、男の腕がこちらに伸びてくる。浮かべている笑みには、獰猛にも思える情欲が滲んでいた。ああ、オレは今晩、この男に抱かれるのか。
惚けた意識の中、肩を抱かれた。
「なあ、」
にも、かかわらず。男の手は、宙に浮いている。うっそりと細められていた目は、なぜか瞠られていた。
あれ、じゃあ、自分は今、誰に肩を抱かれて―― 。
「―― オレのオトコに、なんか用?」
聞き馴染んだ低音が、鼓膜に届いた。
過分な甘さを含んだソレに、腰が砕けそうになる。事実、脱力したらしい。くったりと傾いた体は、隣に現れた体温にもたれかかっていた。すん、鼻を鳴らすと、自分じゃ選べない重めのノートが香る。はくん、空気を食めば、いっそう甘さが体に染みた。
「え……?」
「よお。この間ぶり」
口を半開きにしたまま顔を上げると、眼前と言って支障のない位置に、その男がいた。口角はゆったりと持ち上がっており、切れ長の瞳からは色気が匂い立つ。
「~~ッドラケン!」
理解が追い付くと、下腹の切なさが増した。きゅうきゅう疼いて、腰が震えそう。靴の中で、足の指をぎゅっと丸めた。膝に乗せていた左手も、固く握りしめる。……それでも、欲は隠せない。ドラケンのことを見上げる視線に、恍惚を乗せてしまった。
「うっそお、龍宮寺君のお手付き?」
「ンだよ、その言い方」
うっとりとしているオレを余所に、二人が頭上で会話を始める。知り合いなのだろうか。ドラケンにもたれかかったまま、とろとろと正面を見やった。すぐに、声を掛けて来た男の、顰めっ面が目に入る。先ほどまでの色気はどこへやら、辟易が顔いっぱいに浮かんでいた。
「明らかに抱かれたいですって顔してたのに……」
「んん、まあコイツ、すぐとろっとろになるからな」
「君みたいな名器相手にしたら、誰だってとろっとろになるだろ」
「……そういやアンタもぐずぐずになったっけ」
「うわっやめろやめろ!」
ただの知り合い、というわけでは、なさそうだ。ドラケンがいやらしく笑った途端、男はさらに渋い顔をした。蕩けた頭でも、二人が共寝をした仲だとわかる。
まさか、こんな形でドラケンを抱いた男の顔を見ることになろうとは。へえ、そうなんだ、この人、ドラケンのこと抱いたことあるんだ。ふつり、胸の真ん中に妬ましい気持ちが浮かぶ。一体、ドラケンはどこまで許したんだろう。セックスはしたとして、刺青まで触らせてないと良いけれど。……男の渋面を思うに、ドラケンが終始主導権を握っていたのかな。だったら、触らせてない、気もする。でも、ドラケンに好き勝手されたこと、あるのか。やっぱり、羨ましい。
じ、つい、羨望の目で、男を睨んでしまう。
丁度向こうも、オレに目線を戻したところだった。意外そうに見開かれていた目は、徐々に思案の色が混じり出す。
うん? 一体何を考えているんだ。なんだか、ろくでもないことを閃いた顔にも、見える。
「……ねえ、やっぱり僕とどう?」
「エッ」
……どうして嫌な予感というのは当たるのだ。人好きのする笑みを貼り付け直した男は、改めてオレの顎を掬い上げる。
「なんなら、龍宮寺君と三人でもいいし」
「よくねぇワ、なに口説いてんだ。つーかアンタに掘られたら、コイツ無事じゃ済まねえだろ」
「うわッ、そんな大切にしたい子なの? 実は絶倫? すっごいのついてるとか?」
「あーあーあー詮索すんじゃねえ! とにかくコイツはだめ!」
「ワッ!?」
けれど、それも束の間。声を荒げたドラケンは、男の手を払いのけつつ、オレの頭を抱き寄せた。逞しい胸板に顔が埋まる。びくっと肩を震わせながら息を吸い込んだせいで、ダイレクトにドラケンの匂いを浴びてしまった。見目に似合う香水に、かすかな汗の匂いが混じっている。
自分の勝手な脳みそは、一か月ばかり前の情事を思い起こした。次々と快感が蘇ってきて、体のあちこちが小さく震える。ただでさえ疼きを抱えているというのに、我慢ならなくなってしまいそう。込み上げてきた喘ぎを、必死に喉で潰した。
頭上では、なおも男とドラケンが言い合っている。やろうよ、だめ。いいじゃん、よくない。仕方ないなあ、今日のところは譲ってあげる。譲るも何も、最初からオレのですけど、何が楽しくて、オレのとっておきをオマエと共有しないとならないんだ。
……こういうときに、ワタシのために争わないで、という台詞を使えば良いのだろうか。言ったら最後、じゃあ三人でしようという話にまとまりそう。それは困る。ぴたりとドラケンの体にくっついて、じっと待つことした。
「……たく、よりにもよってなんでこいつに目ぇつけるかな」
そのうちに、頭上からため息が聞こえてくる。オレの頭を抱える力も、わずかだが緩んだ。おかげで、少しではあるが顔を上げられる。そっと上目遣いを送ると、ドラケンのツンと尖った唇が見えた。
「さっきの人、知り合い?」
「まあ、ちょっとな」
「……きもちよかった?」
「一回したらもう十分。パール入ってるっつーから試しただけだよ」
「パール?」
「そ。アイツ、チンコに真珠入ってんの」
いや、本物の真珠じゃなく、シリコンボールのことね。しれっとドラケンはつけ足して、オレの頭をぽんぽんと撫でる。穏やかな手付きに、意識が引っぱられた。
けれど、完全に意識が向き切ることはない。浴びせられた単語が、魚の小骨のように、喉に引っかかった。
「……えっ」
「ふ、ドン引きしてんじゃん」
くつくつとドラケンは喉で笑う。しかし、こっちはさっぱり笑えなかった。むしろ、ゾッとしている。
オレは、危うくチンコを改造している男とセックスするところだったらしい。あの男、堅気じゃあなかったのか。いや、この現代、美容整形技術は目まぐるしく発達している。化粧の延長でする人もいるくらいだ、チンコを改造している一般人だって、いたっておかしくは、ない。
「見てくれは良いからモテるんだけど、あのチンコで狂わされた奴も結構いてさあ」
「ぅえ」
「二人目でアレはだめだよ。三ツ谷感じやすいんだし」
淡々と男の悪評を吐きながら、ドラケンは指をオレの髪に潜らせる。大きな手の平に、こめかみを包まれた。じんわり、男の体温が伝わってくる。程良い熱感に、つい、擦り寄るように頭を傾けてしまった。
すると、切れ長の目が、きゅうと細められる。
「っ」
ぎくり、肩を怒らせると、髪に潜っていた指先が、ざらりと頭皮を擦った。その辺りには、おそらく、龍の胴体がある。丁度、腰の辺りだろうか。さり、ざり、指の腹を押し付けられるたび、頭に疚しさが染みていく。
「ところでさあ」
「ぇ」
「なにしてんの、こぉんなトコで」
もう一方の手も伸びてきた。下唇に親指が乗り、残りの四本は顎に添えられる。じぃとオレを見下ろしたまま、ドラケンは首を傾げた。唇は緩やかな弧を描いている。けれど、どうも責められている気分になってきた。
下唇を、ほんの少しだけ内側に巻き込む。わずかに歯を立てて、逃げるように視線を逸らした。しかし、ドラケンの目はオレから離れてはくれない。だんまりを決め込んでも、易々と諦めてくれそうになかった。
「……その、」
「うん」
「からだ、が」
「ン」
「う、ずいて、しまっ、て……」
「それさ、まずオレに言えよ」
「……だって、ドラケン普段、ネコだって言ってたから」
この疼きの発端は、ドラケンに抱かれたせい。それは明らか。
でも、あの日ドラケンは言っていた。オレがネコ、相手がタチ。男に抱かれることはあっても、率先して抱くことはない、と。オレを抱いたのは、何かの気まぐれだったのかもしれない。ならば、もう一度と強請ったら、迷惑になりそう。そう思って、あえてドラケンを頼らなかった。
そりゃあ、許されるのなら、ドラケンに抱かれたいよ。もう一回、あの手付きで存分に体の奥を暴かれたい。だけど、そしたら自分はどうなる? それこそ、狂ってしまうのでは。もう、ドラケンのチンコ無しでは、達せなくなってしまいそう。そんなことになったら、目も当てられない。だから、自力で相手を探そうと、開き直ったのだ。
「エンリョ、したん、デス」
「……」
片言で告げると、じっとりとオレを見下ろしていた目が何度か瞬く。細められていたそこは、じわりじわりと見開かれていった。けれど、口は閉じたまま。何も言ってはくれない。なんか、言えよ。聞いといて、だんまりは止めてくれ。会話のキャッチボール、ちゃんとしてよ。
落ち着かないまま、ドラケンの様子を窺った。
「ふ、」
すると、吐息の音がする。見開かれていた目は、再び細められた。目尻は柔らかく垂れている。
口に何かを入れたわけでもないのに、己の舌に甘さが乗っかった。飴玉を転がしているかのよう。溢れてきた唾液を、小さく飲み下した。
「あの時、言ったろ。三ツ谷だったら、抱けるよ、って」
「ッ!」
オレだけに届く声で、囁かれる。触れている下唇は、やんわり揉まれた。こめかみにいる龍は、再び腰を撫でられる。
「―― どうする?」
この甘美な誘いを断れる男がいたら、教えて欲しい。
こくん。ほとんど無意識のうちに、頷いていた。
ドラケンの指に、顎を掬い上げられる。引っかかる指先は、先程の男とはまったく違う感触がした。似ていると思ったのは、錯覚だったらしい。
間もなく、唇を指先で叩かれた。弾かれた感触に、頭が揺れる。体も、ぐらつく。スツールから崩れると同時に腰を抱かれ、鮮やかな手付きでこの身は連れ去られた。
ご、ちゅん。
熱を穿たれた。腹の奥にまで、みっぢりと欲が嵌る。待ち望んでいた快感に、口から濁った喘ぎが漏れた。
「お゛ッ♡」
「あ~、ナカあっつぅ……」
この間は、前からされた。これでもかと股を開いたせいで、数日筋肉痛に悩まされたのを覚えている。でも、あの悦楽を叩きつけてもらえるのなら、その程度の筋肉痛くらい可愛いものだ。さあ、ドンとこい。
そう、思っていたのに、今日はバックで懇切丁寧に解された。あらかじめナカを綺麗にしておいたせいもあったのかもしれない。仰向けになった身体はあれよあれよとひっくり返され、尻だけを高く突き出す格好を強いられた。明るいところで両足をパッカリと開いた時も酷かったが、この四つん這いもなかなか恥ずかしい。カッと羞恥が沸き立ったものの、男の手練手管を前にすると、すべて喘ぎに変換されてしまう。
結果として、動物みたいに後ろから穿たれる構図が完成した。
「これじゃあ、指だと満足できなかったろ」
「ンッ、そんなことっ、なぃもン……」
「うそばっか、これが欲しかった~って吸い付いて来てるよ」
ミッヂリとナカを満たされた状態で、男の手が下腹を丸く撫でてくる。まるで、どこまで埋まっているか確かめているかのよう。内側からも、外側からも、逸物の大きさを意識させられた。
ソコが熱杭を受け止めるのは、おおよそ一か月ぶり。指とは比べ物にならない圧迫感が襲ってくる。苦しいし、とにかく熱い。でも、自分はこれが欲しかった。これが欲しくて、体を疼かせていた。その証拠と言わんばかりに、この体の肉壁は、男根に絡みついている。もはや制御できない。逞しい熱に、粘膜は必死に媚びていた。
「ほら、ちょっと緩めろ。抜けねえだろ」
「うぅうう」
「だから締めンなって」
「ぁッ」
ずっぷりと埋まった肉棒が、軽く奥を小突く。先っぽが、深いところの壁を擦った。決して激しい動きではない。陰茎と媚肉を馴染ませる程度の、緩い動きだ。それでも、浅ましい体は過剰に悦を感じ取ってしまった。
きゅ、きゅぅう、腹の奥が精を絞ろうとうねる。
「ったくもお……」
後ろから、呆れた声がした。ため息も聞こえてくる。
仕方ないだろ、ずっとこうして欲しかったんだ。気が済むまで吸ったら、ちゃんと緩めるから、今はちょっと待ってくれ。
……そう言い訳しようにも、自分の口からは喘ぎしか出てこない。ペニスを咥え込む時間が延びるにつれ、理性はすり減っていった。このまま意識がトんでしまったら、どうなるのだろう。ドラケンのチンコ、食いちぎっちゃったりして。さすがにそれは非現実が過ぎるか。
あ、あっ、ア。ただ埋められているだけなのに、体は昂っていく。絶頂すらも、見えてきた。
「前、」
「ぁえ」
「触るからな」
「らに、ぁ、ア……、ッあァン!」
意識が白く飛ぶ寸前、低い声が背中に降ってくる。ほとんど同時に、無防備なペニスが熱に包まれた。はくん、空気を食むと、体の中心に痺れが走る。ずりゅ、にぢゅ、過剰に零れ出たカウパーを潤滑剤に、ソレが扱かれた。
「ほーら、チンコ気持ち良いなあ?」
「ッあ、ア、りょうほぉ、は、らめぇッ」
「ダメじゃない、ダメじゃない」
「ンッ、ンぁ、アッ」
低くも甘い声を浴びせながら、ドラケンはオレのブツを責め立てる。右手からちょっとはみ出たトコロは、指を引っ掛けてあやされた。ぐずぐずの亀頭は、磨くように何度も何度も撫で回される。
あ、あっ、チンコ、気持ち良い。先っぽ、くるくるされるの、堪んない。ンッ、ンンッ、裏筋クリクリされるのも気持ちが良いよお。
アナルで悦んでいた意識は、瞬く間にペニスに集まった。
当然、その隙を、ドラケンが見逃すはずがない。
「ん、っし、」
「へ、ぁ、ッあぁア!?」
べちり、片側の尻たぶを叩かれたかと思うと、埋まっていた熱塊がずろろろっと抜けていった。引き止めることはできない。鈴口にくちゅくちゅ爪を立てられて、それどころじゃなかった。
「やっ、やぁッ、ぬかないでぇッ」
「全部は抜かないって」
「あッ」
男のカリ首が、縁に引っかかる。一番太いところは、むっぢりと孔を押し広げた。ちゅぽ、ヌポ、エラが何度も縁を行き来する。それに合わせて、妄りがましい粘膜が出入りした。捲れるのも、押し戻されるのも堪らない。
そういえば、ここ数日、ずっと指で縁をくちゅくちゅ慰めていたっけ。指でもじれったくて気持ち良かったけれど、チンコだと格別にイイ。
「ふぁああア、ア、ぁっ、そこ、それッ、すきっ」
「この間もヨがってたもんなあ、入り口くちゅくちゅするの」
「んっ、ぅんっ、きもちぃ……」
「ふ、じゃあ次は前立腺な」
「は、ぁえ……?」
与えられる悦に浸っていると、ぐぽん、張り出た亀頭がナカに埋まる。相変わらず、粘膜が擦れると熱い。一般的に、このヒリつきは痛みと表現するのだろう。しかし、欲に屈した自分には、快楽でしかない。
陰茎が、ヌ、ズヌ、埋まっていく。ドラケンは、ゆっくりされるのが好きと言っていた。それを示すように、たっぷりと時間を掛けてペニスがナカに戻ってくる。
このまま、腹いっぱいになるまで捩じ込まれるのだろうか。いや、ゼンリツセンと言っていた気がする。それって、なんだっけ。怒張の圧で朦朧としてきた頭は、これから何をされるのか、上手く想像できない。
まあ、ドラケンだし、オレのことを気持ち良くしてくれるのは、間違いないだろう。
淫らな期待をしながら、目の前の枕にしがみついた。
「~~ッオ゛、」
その瞬間、火花が飛ぶ。
一際強い快感が下腹を襲った。ぽっかりと開いた口からは、濁った喘ぎが漏れる。可愛らしい音に変換する余裕はなかった。ドラケンに穿たれている時点で、演技する余力は消し飛んでいるが。
ゼンリツセン、そうだ、前立腺だ。この男に、気持ち良くなれるトコロと教えられ、自分でも散々捏ねくり回した一点。どうやらソコを、この男の逞しい切っ先で抉られたらしい。
理解が追いつくと、また前立腺をごちゅんと突かれた。
「ぁへっ、ぃ、ア!」
「はは、だから締め過ぎ」
「んッンン゛ッ、ぉ、あ゛ッ」
「ふ……、なぁんかココ、わかりやすくなってね?」
「しらにゃ、ぁッ、イッ」
「一人でするときもゾリゾリしてたろぉ」
「ン゛ッ」
感覚頼りだろうに、ドラケンは的確にソコに当ててくる。ツン、ヅン、こりゅ、ごりゅッ。執拗なまでに、切っ先に、エラに、ふっくらとした壁を責め立てられた。
前立腺オナニーに嵌っていたのに気付かれた、というのも、悦を煽ってくる。
そのとおりです、指で入り口をくちゅくちゅするだけじゃ物足りなくて、特にここ数日は毎晩前立腺をトントンしていました。だってだってだって、ドラケンが気持ち良くなれるって教えたんじゃん。オレ悪くないもん。こんなに気持ち良いんだよ、チンコを扱くよりずっとイイ。そんなの知ったら、一人エッチでゾリゾリしちゃうに決まってる!
へこ、腰が揺れる。ドラケンに突かれるのとは、別の動きだ。艶めかしくくねり、咥え込んでいる熱をぎゅうと締め付ける。
男の右手で、やわくペニスを揉まれたのもいけなかった。ナカと、ソト。両方から与えられる愉悦に、抗うことはできない。
「~~ッぁあアン♡」
膝から下が、ぎくりと跳ねた。体中を強張らせながら、欲が管を上る。ぴゅっ、と、精液がベッドシーツに飛んだ。
「おわ」
「ぁ、あん、ンッ……」
何度かに分けるほどの量はない。連日自慰に励んでいたせいだろう。息が戻ってくると、いよいよ体は弛緩する。べちょっと腹をついたところで、粘ついた感触はしなかった。随分とまあ薄い精液だったらしい。見なくても、水っぽさがわかってしまう。
体が崩れたことで、後孔は栓を失う。ぽっかりと穴をあけつつ、縁はヒクヒクと痙攣していた。媚肉に空気が触れる。たったそれだけのことにも、享楽に染まった我が身は感じ入っていた。
「まーた先にイッちゃったし」
「ん、だって、きもちよく、ってぇ」
枕にしがみつく腕はそのまま、のろりと肩越しに振り返る。膝立ちになっているドラケンは、目が合うと軽いため息を吐いた。……片手は、肉棒に、添えられている。男の逸物は、まだしっかりと上を向いていた。ゴムを被ったソレは、潤滑剤を纏って淫靡な艶を放っている。
きゅん、後ろが疼いた。あの熱を、捩じ込まれたい。
けれど、自分は前立腺で達したばかり。今、穿たれたら、おかしく、なる。
「ぁ」
「ん」
それを、ドラケンは、わかっている、はず。
しかし、のっそりと距離を詰めてきた。腰を下ろしながら、反り返った先っぽが迫ってくる。びくびく、未だ痙攣している秘部に、ぷちゅんと触れた。
「あっ、まって、どらけんっ、おれ今、いまイッたばっか、だからッ」
「んー?」
「んーじゃ、なく、へ、ォ……、アッ」
言葉の上での抵抗は、なんの役にも立たない。緩みきった蜜壺は、なんの引っ掛かりもなく男根を咥え込んでいった。それどころか、柔肉は熱杭を歓迎してすらいる。あっという間に腹は満たされ、理想的な肉体に覆いかぶさられた。
「ぁ、あぁッ、あ」
「んっ、とろっとろ、きもちぃ」
背中に、体温が触れている。汗ばんだ肌は、ぴたりと吸い付いてきた。頭の両側には肘をつかれる。完全に突っ伏されているわけではない。が、男の体重は、ずっしりとのしかかってきた。……それを重い・苦しいと思えれば良かったのに、セックスに溺れた頭は心地良いと捉えてしまう。押し潰されそうなのに、悦を感じていた。
「ンッ、んんッぁ、あッ」
「……ふ、奥も良さそうじゃん」
「ぅん、ンッ、なん、かぁッ、すごぃ、ア」
俗に言う寝バックで、深いところをトントンと捏ねられる。
呼応するように腰がくねり、達したばかりにもかかわらず、後孔は「もっと」と強請っていた。おかげで、吐精したての自身がさりさりと擦れる。竿全体を自らの体重で潰しながら、敏感な裏筋や、剥き出しの亀頭はベッドの繊維に引っ掛かった。こんなの、絶対、馬鹿になる。せめて腰を浮かせないとまずい。かろうじて生きている理性が警鐘を鳴らすものの、体は構うものかと猥りがましく律動に浸っていた。
「や、ぁ、んんっ、ア゛……」
「イキそ?」
「ん、んぅ」
イキたてのチンコを扱くのは、苦痛。そのはずなのに、今の刺激はただただ良かった。腹の奥から、気持ちの良い熱が上ってくる。
あれ、なんか、出そう。
「ぅ……?」
込み上げてくる熱の正体がわからない。精液だろうか。この間みたいに、漏精間近になっているとか? いや、あの時、押し寄せてきた熱とも、ちょっと性質が異なる。かといって、まったく知らない感覚でもなかった。なんだろう、確かに、自分は、この込み上げてくる感覚を知っている。
腹が押されて、苦しくなる感じ。堪え切れなくて、内腿を擦り合わせてしまうソレ。
「あ」
漏れ、そう。
気付くや否や、蕩けていた意識が、瞬時に冴えた。
「これ、だ、だめっ」
「んー?」
「なンッ、か、ァっ、も、」
足を擦り合わせようにも、ドラケンが埋まっているせいでそれは叶わない。代わりにと、下腹を力ませると、頭上から濡れた吐息が降ってきた。間もなく、仕返しと言わんばかりに奥を突かれる。とん、とちゅん、熱の切っ先が前立腺とは異なる快感を届けてきた。多幸感に似たソレは、冴えた意識を惑わせる。
いや、だめ、だって。
「~~ッドラケンッ!」
「なぁに、きもちよくない?」
「きもち、ぃい、けどッ」
「けど?」
必死に首を捻ると、文字通り目と鼻の先にドラケンの顔が見えた。向こうも感じ入っているらしい、表情も、声色も、シはじめた時より蕩けていた。つい、その光景に引きずられそうになる。
……だから、屈するな。屈したら、オレはどうなる?
「三ツ谷」
「っ」
「言ってみ?」
この歳で、人のベッドで小便を漏らす羽目になる。そんなの、イヤだ。なんとしても、避けたい。
甘ったるい声に悩まされながら、震える唇に叱咤を打った。
「もっ、もらし、そぉ」
何を、とは、言えなかった。
それでも、ドラケンには伝わるだろう。伝わってくれ。縋るような気持ちで見つめていると、とろんとした目が一度、二度と瞬いた。
「あー……、いいよ?」
「よぐなぃ、ッぁ!?」
気怠くしゃべったかと思うと、背中から重さが消える。
しかし、体はぴったりとくっついたまま。オレの体ごと、寝返りを打ったらしい。
真横を向いたおかげで、押し潰されていた腹が楽になる。きゅ、内腿を合わせることもできた。ハッとしながら自身に視線を向けると、痛々しいくらいに充血したソレが、ぷるぷると震えていた。
まだ、堪えられて、いる。今、便所に行けば、ギリギリ、間に合う。
光明が、見えた。
「つーか見たい」
「へ」
見えた光は、瞬く間に吹き消される。
背後から、骨ばった手が伸びてきた。迷うことなく、その手は揺れるナニに触れる。指先は、まず根元に着地した。それから、つぅ、と表面をなぞるように上ってくる。やがて、その指の腹は剥き出しの亀頭に辿り着いた。我慢汁で濡れそぼっているソコの上で、指はくりゅんと円を描く。
「ッばかばかばかぁ!」
「セックスしてたらバカにもなんだろ」
「つか、ほんと、マジ、ぁ、やだ、出る、ベッド汚しちゃうがらッ!?」
「防水シーツ敷いてっからいいよ」
あ、そうなんだ。
納得しかけた自分を、頭の中で殴り飛ばす。汚しても良いは、漏らしても良いとイコールではない。
なんとか、不埒を続ける男から逃げられないだろうか。ベッドに腕をついてみるが、散々善がらせられたせいで力が入らない。じゃあ這っていくかと身じろぎすると、ドラケンが足を絡めてきた。腕も前に回って、ぎゅっと抱きしめられる。体温が、いっそう生々しく伝わってきた。その熱に、つい、意識が引かれる。やっぱり、漏らしてもいいかな、なんて気になってしまう。
イヤなのに、足掻けない。自分の体も、背後の男も、さっぱり思うように動いてはくれなかった。それどころか、ドラケンの手指はニチニチと決壊しそうな先っぽを虐めてくる。もう一方の手は、尿意を追い詰めるように下腹に圧をかけてきた。
いよいよ、まずい。堪え切れない。腹を渦巻いている熱が、どうしようもないところに辿り着いてしまいそう。
あ、ダメ。
「~~ッンンん♡」
何かを穿つように、腰が揺れた。反り返った自身は、ベッドの外に向かって透明な体液を飛ばす。
「ぁ、ぁひ、あ、らにこぇ、とま、ッとまンなぃ」
「うん?」
ぴゅ、ぴゅっと飛ぶソレは、どんなに堪えようにも噴き出てしまう。先を手で包んでも、尿道口を塞ぐように爪を立てても、止まってくれなかった。勢いよく飛んでは収まり、一秒経たずに次を噴く。どういう仕組みかわからないが、射精した時と同じか、それ以上の快感まで伴っていた。
コレ、おしっこじゃ、ない? 気付いたところで、体が言うことを聞かないことに変わりはない。自分にできることなんて、喘ぐだけになってしまった。
「や、やだぁ、びゅぅびゅうでちゃ、ヤぁッ、ぃ、ンッ」
「……なぁんだ潮じゃん、ふふ、かぁわいい」
「ンンンッ」
あろうことか、背後にいる男は律動を再開する。結合部から、ローションの泡立つ音がした。ぱちゅ、ぷちゅ、肉棒に媚肉が抉られる。切ない快感にソレを締め付けると、落ち着きかけた切っ先からは、また透明な液体が飛んだ。尿道を抜けるのが気持ち良くて、さらに体に力が入る。
良い具合にナカは締まったらしい。耳のすぐそばで、上ずった呻きが聞こえる。腹の中にある熱がグと膨れ、何度かに分けながら脈打った。荒い呼吸が、肩にかかる。ちゅ、なんとなく、肌に口付けられた気もした。
「どらけん」
「ん」
「ぬいて」
「もうちょっと」
「また、もれそうだから、はやく」
「ふ、あれだけ噴いてまだ出そうなの?」
「あッ、おい触ン……、ぁっ!」
「おお、出た出た」
「~~出た出たじゃない!」
「悪い悪い」
トドメのように一発噴いたところで、やっとドラケンは体を起こした。萎れたソレが、ツポンと抜ける。空虚感がやってくるが、疼きはなかった。あれだけ達したのだ、そうでないと、困る。
自分も起き上がりたい。体液塗れの体を、どうにかしたかった。しかし、尋常じゃない倦怠感がのしかかってきて、指一本すら動かせない。どうしたもんかね。スッキリしたけど、ここまで怠くなるのは想定外。もぞもぞと片付けを始めるドラケンを眺めながら、どうにか仰向けに転がった。
「寝ても良いよ。あとはやっとくし」
「……もらして、ごめん」
「ふは、漏らしてないって。あれは潮噴き。気持ち良かったろ」
「しおふき」
「そ」
こくんとドラケンは頷く。手元では、白濁を受け止めたゴムを処理していた。……あれが、オレのナカに入っていたのか。ぽやっとした頭で、ソコを見つめてしまう。じわり、口内に唾液が滲んできた。体は、ちゃんと満ち足りている。なのに、頭の方が、欲に靡き始めていた。この調子じゃあ、すぐにこの体は、あの疼きを思い出すのだろう。
「ドラケン」
「んー?」
後処理を始める背中を、引き止めた。
「……また、抱いてくれる?」
ぽつりと尋ねれば、すぐに視線を返される。涼やかさを取り戻した目が、きゅう、細められた。
「―― もちろん」
色気たっぷりの笑みに、きゅん、早速下腹は疼いてしまった。