終
ドラケンは、オレが思う以上に顔が広い。
特に、この界隈においては、輪を掛けて、広い。
「やあ、久しぶりだね」
「ん? ああ、アンタか。どうも」
ガタイの良さは、一つの武器だ。筋トレが趣味というだけあって、服の上からでもその逞しさはよくわかる。適度に鍛えられた体躯は、座っているだけで様になった。ただ立っているだけでも格好が良いし、歩けば誰もが振り返る。……まあそれは、側頭部に彫られた刺青のせいもあるのだろうけれど。
そして、今日も、ドラケンは声を掛けられていた。知り合いらしい。初めましてだったら、アイツは絶対に「誰」って聞くから。今のドラケンなら、「どちら様」かもしれない。昔に比べて、丸くなったよなあ。大人になったもんだ。
「ここしばらく見かけなかったけど」
「まあ、ちょっと」
「もしかして、イイ人できた?」
「……どうだろうね」
男の方が、ちょっと意地の悪い笑みを浮かべる。けれど、ドラケンは表情一つ崩さない。穏やかな顔をしたまま、指先に引っかけていた瓶を持ち上げる。その緑色のガラスが、流れるように唇に引き寄せられた。何かを飲むとき、ドラケンはよく目を伏せる。案の定、切れ長の目を伏せさせながら、炭酸交じりの水に口を付けた。垂れていた前髪がしゃなりと揺れる。くっきりと浮き出た喉仏は、一回、二回と上下した。やがて、瓶から口を離すと、濡れた唇が露わになる。
今日も、あのオトコは色気を纏っている。
「良かったら、今日さ、」
こんなイイ男なんだ。そりゃあ、一人で飲んでいたら、声を掛けたくもなる。誘いたくも、なる。
こうやって、ドラケンは数多のオトコの味を知ったのだろう。
「ねえ」
とはいえ、それはもう過去の話。
わざと足音を立てながら、二人の元に歩み寄った。
「―― オレのオトコに、なんか用?」
そして、脚の高いスツールの隣で立ち止まる。身長の都合、普段は高いところにある目が、ほとんど同じ高さにあった。切れ長のソレが、すぐそばにある。視線が交わると、その目はきゅうと細められた。
「そういうことだから」
思わせぶりな目をしたドラケンは、ツと、男に視線を流す。漂う色香に、くらり、頭が揺れた。隣で見ているだけでそうなのだ、この視線を浴びた当人は、さぞ参っていることだろう。盗み見るようにして、オレも視線を送ると、上等なスーツを着たそいつはぽかんと呆けていた。
「龍宮寺君、ほんとに彼氏できたの?」
「ンだよ、悪い?」
「いや、えぇ……、あの阿婆擦れビッチだった君が?」
「あっはは! いつの話してんだよ」
からりと笑い声をあげたかと思うと、ドラケンはそれとなくこちらにもたれかかってきた。こてん、肩に頭一つ分の重さが乗っかる。なるほど、肩の高さが近いと、こういうこともできるのか。ちょっと、気分が良い。嘘、とても、気分が、良い。
上機嫌に任せて、スツールに座る腰に腕を回した。くすぐったかったのか、肩に乗った頭がくつくつと震える。それから、満足げに息を吐いて、ドラケンはもったいぶりながら唇を開いた。
「オレ、もうコイツのオトコになっちゃったから。他当たって?」
男にそう告げたあと、色気を携えた目がこちらを向く。向けられた視線を受け止めると、厚みのある唇が弧を描いた。これでいいだろ。得意げな顔から、副音声が聞こえてくる。
そうだね。上等。よくできました。
つられて、にんまりと微笑んでから、預けられた頭、その頬に手を伸ばす。覗き込むように顔の角度を変えれば、切れ長の目がぱたんと閉じた。
こんな人目につくところで、キスすんの? 脳内にいるオカタイ理性が警鐘を鳴らす。こういうことは、こっそり二人だけで共有するからイイんじゃないか。むっつりを拗らせた自分にも、苦言を呈された。
まあ、しちゃうんだけどね。
うっそりと笑ってから、愛しいオレのオトコに口付けた。