『焼き鳥食いたい』
 一昨日の事後、歯を磨きながら三ツ谷が呟いた。どうした、と近寄るとその手の中にはスマホ。画面には「渋谷の人気居酒屋二十選」と表示されている。へえ、案外スマホのこと使いこなせてるじゃん。
『オレん家の近所にも手頃でウマい店あるぜ』
『そりゃドラケン家の近くはなんでもあるじゃん。中心街なんだし』
 そういえば、と切り出せば、歯ブラシを咥えたままの三ツ谷はスンと冷めた顔をした。左手をシャコシャコ動かしながら、据わった目を向けてくる。
『……や、ヘルスの方の家じゃなく』
『ンえ?』
『この前、引っ越してさ。そっちの家の近所にあんの』
 チェーン店ではない。個人経営で、小ぢんまりとした店だ。引っ越しの荷物があらかた片付いたところで、飯を買いに出た時に見つけた。肉の焼ける良い匂いが漂っていて、換気扇と思しき小窓からは煙が立っている。たちまち飯から酒の頭になってしまい、店に吸い込まれ、……予想外のアタリに喜んだのは記憶に新しい。
 店主は中年のヒゲオヤジ。週末になると、その男の姪という女が手伝いにくる。し、その女目当てにやってくる客もいるらしい。面倒くせぇというのは、その女の言。自分と近い年頃のはずだが、所作がやけにオッサン染みていて、イヌピーが女になったらこんな感じかな、と勝手に思っている。ちなみに、その同僚にも焼き鳥屋のことは教えており、店主たち曰くオレより熱心に通っているらしい。
『どうする?』
 このアトリエからは、ちょっと遠い。バイクを出せばすぐの距離だが、焼き鳥であれば飲むに決まっている。三ツ谷の家からだとどうだろう。……しまった、今コイツがどこに住んでいるのか、知らねえワ。実家を出たらしいというのはパーたちから伝え聞いているが、その後、どうしたかを聞いていない。ここ一年、中坊のとき並に顔合わせてるってのに。
 首を傾げながら尋ねると、歯ブラシを咥えた三ツ谷はぱちぱちと瞬きをする。それから口を開こうとして、すぐに閉じた。ああ、口の中、いっぱいなのね。すぐにぱたぱたと流しに駆けていったかと思うと、口を濯ぐ音が聞こえた。水が流れる音も、コップに歯ブラシがぶつかる音もだ。
 時間にすると、一分程だろうか。簡単な衝立の向こうから、ひょいと三ツ谷が顔を出す。
『行く!』
 ―― いつぶりだろう、三ツ谷と喧嘩兼セックス以外で会う約束をしたのは。
 いや、まあ、しょっちゅうしているその約束は、約束と言い表せる程丁寧に結んでいるわけではない。喧嘩を売られるのは不定期だから、売られてぶっ飛ばした足でいつも三ツ谷に電話をかけているのだ。あまりに、突発的。アポなしみたいなもん。
 だから、本当に約束らしい約束という意味では、久しぶりだ。
 なんか、ダチっぽい。ダチだけど。ダチなのにキスもセックスもしまくってるけど、それは、それ。
『ドラケンとただ飲むとかいつぶりだろ。いつ行く? 明後日なら夜空いてる!』
 三ツ谷も三ツ谷で、オレと似たようなことを考えていたらしい。清涼感を携えた口が、軽やかに動く。とても数時間前までオレのを咥え込んでいたようには思えない。淫乱を思わせる言葉を次々吐き出していたあいつはどこへやら。
 それとなく唇に触れると、当然のように三ツ谷は指に吸い付いてくる。顔を洗って、歯も磨いた。身支度はもうすっかり整っている。にもかかわらず、三ツ谷の瞳の奥がギラリと艶めいた。
『あと、飲んだ帰り、さあ』
『おー』
『ドラケン家、泊めてもらっても、いい?』
 ……欲に素直な三ツ谷、どこにも行ってなかったワ。快楽に弱くて、煽るとすぐに強請ってくるコイツは、確かにここにいる。搾り取られたはずなのに、ぞくりと不埒な欲が腹の中を横切った。

 そういう、わけで。今日は、喧嘩を売られる予定はないが、セックスをする予定はある。
 焼き鳥屋を出ると同時に、顔が緩みかけた。鼻の下も伸びそうになって、咳払いで誤魔化す。ついでに顔の下半分を手で覆い、どうにか表情を取り繕った。
「っはー、ンまかった。良いねこの店、通いそう」
「イヌピーも通ってるらしいぜ」
「マジ? 会ったらどうしよう」
「どうもないだろ」
「ドラケンのことたぶらかしてんじゃねえって叱られない?」
「なんの心配してんだオマエは」
 たらたらと足を進め始めると、三ツ谷の腕がちょいとオレに伸びてきた。ちらりと視線だけ向けると、酒で火照った顔が街灯に照らされている。酔っ払い、というのに、相応しい見目だ。その割に足取りはしっかりしているし、呂律も怪しくはない。赤くなりやすい体質なのだろう。上機嫌を纏った姿は、いうなればほろ酔い。今日のこいつは、ペーやパーと連れ立っているときの無茶な飲み方もしなかった。セックスする、というのを踏まえ、セーブしたのだろう。
 そのうちに、三ツ谷の指先が、垂らしているオレの髪の束に絡む。くるりと巻きつけては、するすると抜き、また楽しそうに指を通してくる。
「髪黒くしたのもさあ」
「おー」
「イヌピーに言われたからだろ」
「……言われたからっつーか、あれはさあ」
 三ツ谷の言う通り、オレはイヌピーに言われたのもあって、髪を黒く戻した。というのも、連日喧嘩を売られているのを見かねて、同僚がアドバイスをくれたのだ。界隈で知れ渡っているオレの特徴は、金の辮髪に龍の刺青。そのどれかしらが欠ければ、チンピラ連中はオレを見つけられなくなるのでは、と。
 ンな簡単にいくもんか。そう思いはしたものの、試しに髪を下ろして通勤すると、その一週間平穏に過ごせてしまった。あれ、一理あったのか? じゃあ次はと黒染めをして、しかし自慢の刺青を隠すのは我慢できず、かわりに髪の結びを緩くする。……するとどうしたことだろう、今度は一か月、喧嘩を売られない日々が続いてしまった。
 平和が続いた三十二日目にしてようやく一人のチンピラが絡んできたので、意気揚々とアイツのアトリエに向かったのだが、それはまあ別の話。
「ドラケンのこともさあ、いろいろ心配してくれてんだろ、あのセンパイ」
「ふ、イヌピーが先輩って柄かよ」
「そお? 結構面倒見良いって、タケミっち言ってたよ」
 そりゃ相手がタケミっちだからだろ。オレと一緒にすんじゃねえ。
 軽く小突いてやると、くふくふと三ツ谷は可笑しそうに口を押さえる。それも両手で。なんだよそのあざとい仕草。どこで覚えてきたんだか。意図的に小突く手を擽るものに変えると、すぐに三ツ谷は「あはは!」と大きく笑った。夜の住宅街、あまり大きな声を上げるのはよろしくない。わかっていても、身を捩る三ツ谷が可愛くて、手を止められなかった。
「ぁっ、ンふ、もおやめろってぇ……」
「やめてほしい?」
「んふっ、ふふふ、うん、やめよ。ここでシたくなっちゃう」
「ンだよ、擽ってただけじゃん」
「え~、なんかドラケンに触られるとさあ、最近すぐムラッとしちゃうんだよね」
「へえ」
「ふふ、満更でもねえって顔する~」
「するだろそりゃ。こーんなエロい体にありつけンだから」
「青姦しちゃう?」
「それはしない」
「えー」
 してもいいのに。楽しい通り越して、濡れた笑みを浮かべだす三ツ谷の腰に、とりあえず腕を回す。歩みはそのまま抱き寄せると、上気した三ツ谷はうっそりと息を吐いた。
 ここから家まで歩いて十分。十分もかかるのか。外ではシないと一蹴したばかりだが、傍らの熱で理性が揺さぶられる。ないとわかってはいるが、手頃な物陰を探して、普段より忙しなく視線を動かしてしまう。
「……、」
 ふと、足を止めた。
「ドラケン? どったの」
「や、なんか、ちょっと」
 違和感。見慣れた道ではあるが、なんだか嫌な予感がする。眉を顰めながら、数メートル先にあるコンビニを睨んだ。珍しく、広い駐車場のあるそこ。宅配業者のトラックやバンが停まっているのをよく見かける。だが、あくまで日中の話だ。夜になると、そういう大型車は少なくなる。入ってくるトラックと言えば、それこそコンビニに搬入しに来る業者のソレくらい。
 だからだろう、その黒のハイエースが、どうも異様に映った。後ろがスモークガラスになっているせいもあるだろう。なんだ、アレ。あまりじろじろ見るものではないとわかってはいるが、不審さを露わにするソレから迂闊に目を離せもしない。
「……三ツ谷、走れる?」
「いいけど、ぁ」
「ゲ」
 そっと、腰を抱く手を解いた、その時だった。
 バンのスライドドアが開く。下り立った男は、二人。助手席にいた男も、車から下りた。ということは、運転手も間もなく出てくるだろうか。
 踏み出そうと思った足には、仕方なくたたらを踏ませることする。スキンヘッドが二人、パンチが一人。ギリギリ短髪と呼べるような風貌の男が、一人。今日は四人か。頭数を眺めながら、こきり、首を鳴らした。
「悪い。アレなら、店入ってて。一一〇番してもらってもいいし」
「んん、素直にコンビニに入れてもらえると思う?」
「あー……」
 こいつらの目的はオレだ。巻き込まれないようにと、店の方を指差してみるが、こてんと首を傾げ返されると何も言えない。腰を抱いていたところ、連中は見ているはず。三ツ谷のことをオレとは無関係の人間、と嘘を吐いても、通用しないだろう。
「見つけたぜ、龍宮寺ィ……!」
 短髪が、呻くように言った。そろそろ、オレに絡んでもマイキーは出てこないって理解してもらえないだろうか。……無理か、相手は一枚岩じゃない。なんなら、所属もなにもかも日替わりだ。だとしても、一年もこういう生活してたら、知れ渡るもんじゃねえの? オレはもう、今のトーマンとは無関係だって。それとも、そういう情報のやり取りすらできない半端者が喧嘩を売ってきているということなのか。
 ああもうわからない。いっそ諦めて、派手に暴れてしまおうか。もう高卒資格は取った。一級整備士は取ってないけど。んん、バイク屋を続けて行くって思うなら、サツの世話にならないよう、サクッとのして、パパっとずらかるのがいちばん。けれど、それだとまた、絡まれかねない。
「んん……」
 普段三ツ谷がするように、指先でこめかみを掻いた。迷っている間にも、チンピラ連中はこちらに近付いてくる。それぞれの手にぶら下がっているのは警棒。銃や刀じゃないだけマシか? いや、武器に違いはない。振り回されるアレを躱す立ち回りをしなくては。
 よし。
 手始めに、短髪の男をねめつけた。
「ええと、ちょっと、いいかな」
「……おい、三ツ谷?」
 と、三ツ谷が、ぽつり、口を開く。ひらひらと手を振りながら、オレより一歩、前に出た。咄嗟にその体を引き戻そうと腕を伸ばす。しかし、指先は身を翻されたがために、空を掠めた。肩越しに振り返った三ツ谷は、余裕のある笑みを携えている。瞳は「大丈夫」と語りかけてきた。
「……あ? ンだてめえ」
「おい、待て、三ツ谷って呼ばれてたぞ、コイツ」
「三ツ谷だぁ……?」
「あれ、はじめまして、って思ったんだけど、もしかして二度目ましてかな?」
 あっという間に、三ツ谷は連中の腕が届くところにまで迫っている。割って、入りたい。間に入って、不躾な視線から遠ざけたい。
 けれど、それをすれば、いっそう三ツ谷に刺さる視線は不埒な色を孕むだろう。だってそうだろ、腰を抱かれていた上に、背中に庇われたら、そういう仲に見えるに決まっている。それでオレのモノと知れ渡るだけなら構わないが、男に抱かれたがってると変換されたら厄介。三ツ谷が股開くのはオレだけなの。これまでも、この先も、どこぞの馬の骨にくれてやる気は微塵もない。
 気が気じゃないオレを余所に、三ツ谷は静かに、穏やかにチンピラへと話しかけていく。
「聞いてよ。今日はさあ、良い夜なんだ」
「あぁ?」
「久々にダチと飲んで、バカ言って笑って、そりゃあもうイイ気分だったワケ」
 活舌は良い。呂律もしっかり。コンビニの灯りに照らされて、多少は赤い面を見せているだろうが、酔っ払っているという印象は感じない。男共も、オレと同じように思ったのだろう。それに、三ツ谷の名前に反応もしていた。ピリッと空気を張り詰めさせたまま、優男のような風貌を注視しだす。
「そこにおたくらさあ……」
 ふわり、三ツ谷の両腕が浮いた。やれやれといった様子で、手の平を向こうに見せている。丸腰。手ぶら。警戒するような武器は、何も持っていない。そう見せつけている。
 その甲斐あってか、ほんの微かではあるが、一人の緊張が緩んだ。三ツ谷の、正面に立っている男だ。スキンヘッドのそいつは、口元をわずかに緩ませる。勝てる、とでも、踏んだのだろう。
―― 水差すたあ、どういう了見だ」
 三ツ谷の、低く凄んだ声が響いた。
 ほぼ同時に、緩く浮いていた手が、一人の胸倉を掴む。隙を見せた、スキンヘッドだ。息を呑んだのは他三人。当人は、何が起きたのか、理解が追い付かなかったらしい。
 ゴ、と言う鈍い音で、あっけなく地面に崩れ落ちた。
「でたよ、初手頭突き。何度見てもカタギのやり方じゃねえんだよなあ……」
「オラッ、次はどいつだ、あ゛ぁ?」
 オレのぼやきを余所に、三ツ谷の猛々しい声が広がる。今なら、割って入っても許されるだろう。ガッと靴底でコンクリートを蹴ると、視界の先では早速三ツ谷の回し蹴りがパンチパーマに突き刺さっていた。ちょっと腰回り、むっちりと肉がついてきたけれど、体幹は健在。蹴とばした後も、何事もなかったと言わんばかりに姿勢を保っていた。
 あと、二人。このままじゃ、活躍を全部三ツ谷に奪われる。それもな、と思って、ひとまず拳を振りかぶったもう一人のスキンヘッドの横っ面を蹴り飛ばしてみた。
 その間に、颯爽と三ツ谷は最後の一人に照準を定める。振り下ろされた警棒は、難なく躱す。勢いづいて前屈みになったそいつの髪を、三ツ谷は掴んだ。ヒュ、と浮く足。顔面イくか、と思ったが、その膝は淡々と鳩尾に叩きつけられた。
 おお、顔はやめようという分別、ちゃんとついてんだな。
「……こいつ」
「あ?」
「なんだっけ、ほら、昔、パーの下についてて、でも喧嘩賭博やってトばされた、……あー、ほら、あいつの!」
「んん、えーと……、キヨマサ?」
「そう、そいつの取り巻き!」
「あ、ごめん、そこまで行くとわかんねえ。つかよく思い出したな」
「まあ、だって、ドラケンのこと嵌めた連中だし、顔くらいはかろうじて……」
 何事もなかったかのように話しながら、三ツ谷は蹴とばしたばかりの男を地面に落とした。ぐしゃりとコンクリートに沈むそいつに再び目をくれることはない。手を叩くようにして埃を払い、くるりとオレの方に振り返った。
 きゅるんとした瞳が、オレだけを捉えている。
「……オマエほんと、オレのこと好きだよな」
「突然、何?」
「ん? んん、なんだろ……」
「まあ好きだけど。ドラケンだって、オレのこと好きじゃん」
「うえ? ああ、うん。はい」
「ふ、はいってなんだよ」
 くすくすと笑いながら、三ツ谷はオレの隣に収まった。じ、と見上げられて、おずおずと腰を抱く。……正解だったらしい。手の平が腰骨の上辺りにつくと、たちまち三ツ谷は破顔して見せた。ついさっき、低く凄んだ男と同一人物とは思えない。いつだって、オレに向けるのは信頼を伴った甘い顔。……ここ一年は、特に、そう。
 なんだか胸が落ち着かなくて、あからさまにならない程度に視線を流した。ぴくぴくと震えるチンピラが視界を掠める。そうだ、こいつらどうしよう。ちらりと掠めた懸念は、コンビニの店員と目が合ったことで霧散する。ガラス窓の向こう、びくっと肩を上下させたそいつは、ぎこちなくオレに向かって会釈して、店の奥へと引っ込んでいく。とりあえず、ずらかろう。こんなところに居たら、今にやってくるサツにまとめてしょっぴかれてしまう。
 小さく、ため息を吐いた。
「ね」
「ん?」
 すると、脇腹を小さく小突かれる。ぱ、と視線を戻すと、相変わらずの甘い垂れ目がオレに向いていた。
「家どっち?」
「……こっち」
「じゃ、早くいこ」
 上機嫌を取り戻した三ツ谷が、それとなく体重を預けてくる。歩き、にくいんだけど。そう言おうかと思ったが、こうやって素直に甘えらえるのが嬉しい自分もいる。正直、満更でもない。つい、腰に添えた手に、力が入った。
「ふふ」
「なんだよ」
「ううん、―― いっぱいシようね♡」
 それは、もちろん。
 ぐっとより強く腰を抱くと、髪についた煙の臭いと一緒に、欲情した雄の汗が香った。

◇◇◇

 玄関を潜るなり、三ツ谷は服を脱ぎ捨てた。エ、ここで? オレが靴紐を解く数秒のうちに、隣にはほぼ全裸の男が出来上がる。おかしい、オレよりも纏っている布の枚数は多そうだったのに。ぽかんと口を開けていると、うっとりと三ツ谷は微笑んだ。最後に外した腕時計は、足元に散らばる衣服の上へ放られる。
 そして、オレに尻を向け、ぐぱぁっと秘部を割り開いた。
「はい、どうぞ」
「あ?」
 剥き出しになった孔からは、ぷちゅりと淫液が滲み出る。
 こいつ、まさか尻の準備をした状態で飲んでいたというのか。あのチンピラを蹴散らしたというのか。幸せそうにビールジョッキを傾けていたときも、ぼんじりのとろける脂を堪能していたときも、スキンヘッドに頭突きを噛まし、その他に蹴りを叩き込んでいたときも。後孔が、ぐずっぐずに蕩けていたと?
 カッと頭に血が上る。まだ反応していなかった自身にも、急速に血が巡った。
 三ツ谷とベッドで寝るの、初めてだな。そう浮ついていた思考は、瞬く間に消え去った。ガッと雑に前を寛げれば、煽られたせいで血管を浮き立たせる自身が飛び出してくる。寛げたのと同じくらい荒っぽく腰を掴み、一思いに捻じ込んだ。
「~~ッ♡」
 貫くと同時に、三ツ谷は射精していたように思う。トコロテンかよ。耳元で煽ると、それだけでも昂ったのか、三ツ谷の切っ先からはさらにぴゅるりと白濁が漏れる。
 尻の準備は万端で、感度も申し分ない。喜ばしいばかりだ。……それはそれとして、三ツ谷がそういう状態だったことに気付けなかった、というのが、とにかく癪だった。なにかとセックスアピールは挟み込まれたが、ここまで出来上がっていると誰が予想できる? なんでもない顔して、その頭ん中、ヤることでいっぱいだったなんて!
 がつがつと腰を振りたくるうちに、三ツ谷の体は射精しないまま達し始める。自主的にお預けをしていた体は、どんな無体ですらも快感として受け止めるらしい。
「ッ! ぁ、っヒン……、ァ、ア゛ッ」
「ハッ、こんなッ、乱暴されて、もッ、イイのかよ!」
「んふ、あ゛ッうん、ぅンッすごぃ、ン゛ッ……、イイ、よお、ォ」
「ぁああクソ、安定しねえなあッ」
「ぉ、ヒッ」
 穿っているうちに、三ツ谷の脚がガクガクと震えだす。こっちも中腰ではあるが、三ツ谷は三ツ谷でつま先立ちをしているのだ。乱雑に抉れば抉るほど、三ツ谷の膝は笑ってしまう。指が食い込むくらいの力で腰を鷲掴みにしているが、それでも支えにくくなってきた。ギリッと奥歯を噛みしめて、不安定に揺れる肢体を見下ろす。
 自分が、一回、イッたら、射精したら、移動しよう。ベッドに運んで、正面から抱き合いたい。
 決めた。そうする。絶対にする。
 自身が抜ける寸前まで、腰を退いた。ふわふわに柔らかい割に絞めつけのキツイ肉は、逃すまいと必死に絡みついてくる。あまりの圧に、捲れ上がりそう。なんなら、縁のあたりはふっくらとはみ出しかけていた。
 あー、いいな、この眺め。絶景。写真に撮って、しばらく分のオカズにしたい。口走ろうものなら「本物を使え」と食い気味に強請られてしまいそうだ。ぐ、と飲み込みつつ、熱杭で媚肉を貫いた。
「ッあ、ァ、ア゛」
 三ツ谷の口からは濁った喘ぎが引っ切り無しに滴り落ちる。ぱちゅぱちゅと淫靡な水音だって響き渡っている。これだけデカい声を出したら、隣に聞こえてもおかしくはない。角部屋だから、隣は一つのみ。穿つ動きはそのまま、隣人が住まう方の壁を見やった。
 そういや、世間は今、盆と呼ばれる時期では。自分には供養する先祖などいないし―― 正しくは、知らないし―― 育った家は帰省するような場所でもない。だから、この時期がやってきたところで自分の生活サイクルは変わらない。
 だが、余所は、そうでもない、はず。確かあれは一昨日だ。この隣人は、ボストンバックを抱えて出かけて行った。あれが、帰省という現象で、今日現在、隣人がいないのだとしたら。
「喘がせ放題じゃん」
「ぁ、ンッ、なに……?」
「ああいや、こっちの話」
「ッオ゛、ぅんン゛っ、はげ、しぃ、ぁッアンッ、ッ……、ッ!?」
 ごちゅん! と、半ば殴るような勢いで、腰を打ち受けた。もしかすると、三ツ谷からしたら、殴られたも同然だったのかもしれない。亀頭が最奥にめり込んだのに合わせて、空気の塊が吐き出される音がする。
 一際強く、ナカが締まった。ギリギリと、食いちぎられそうな強さで熱を締め付けてくる。ちょっと、痛い。でも、酒の回った体で達するには、都合が良かった。
「ふ、ク」
「っ、ォ……、ッ、ン゛」
 脈打つ動きに合わせて、どぷ、どぷり、ナカに熱を吐き出していく。深く穿ったまま腰を揺すると、抱えている体が小刻みに震えた。痙攣していると言ってもいい。
 三ツ谷の指が、玄関扉のスチールを引っ掻いた。かり、さり、擦るうちに、力んだ指が弛緩していくのが見える。頭の高さにあったそれは、ゆっくりと、下へと滑り落ちていった。引きずられるように、三ツ谷の上体も玄関のたたきへと沈み始める。膝は折れ、嵌めこんでいた陰茎も徐々に抜けていった。
「ぁ、あ~……、ぅ、ォ」
 にゅぽん。間もなく、萎えた陰茎が抜けきる。すぐに、後孔との間に淫靡な糸が伝った。粘度のあるそれは、しばらく糸を引いていたが、やがてぷつりと切れ、赤く腫れた尻を汚した。
 そっと腰を解放してやると、いよいよ三ツ谷の肢体が玄関に崩れ落ちる。コンビニの前で轟沈させた男共のように、手足をぴくぴくと震わせていた。
「……三ツ谷、まだトぶなよ」
「ん、んぅ、ぅん……、トんでにゃぃ、もん」
「嘘吐け、ちょっとトんでたろ」
「んふ……、まァ、ちょっとだけね」
「ったく、立てるか?」
「ん、ウン……、まって、今、立つから」
 そっと上体を起こしてやると、三ツ谷は震える腕を扉に伸ばした。傷一つない手が、ぺたり、スチールにつく。それから、息むようにして、腰を持ち上げた。たったそれだけの動作だが、三ツ谷の脚はガクガクと震えている。いっそのこと、オレが抱き上げた方が早いだろうか。
「ぁ、ンふ、やばぃ、あしがくがく、ふふ、」
「あーもういいって、ん、捕まって」
「ん? ん~」
 背中に手を添えつつ、三ツ谷の手をそっと掴んだ。こちらの肩に回すよう、促してみる。
 しかし、三ツ谷の腕に、力は入らない。それほどまでに、弛緩してしまったのだろうか。いや、真っ最中よりいくらか理性が戻ってきている。まったく力を込められないわけではないはずだ。じゃあ、どうして。
 首を傾げつつ、もう一度腕を回すようせっついた。
「ほら、ベッド行くぞ」
「えー」
「えーじゃなく」
「ここでシない?」
「もうシたじゃん」
「一回だけだろ」
「オレはな。オマエ、何回イッたんだよ」
「んん、二回射精して、メスイキして、うーんと甘イキ六回くらい?」
「……よくもまあ数える余裕があったな」
「んはは、がつがつ腰振ったくってくるドラケンがさあ、可愛くて」
 声は少し嗄れている。けれど、会話が成立するくらいに落ち着いてきた。というか、酷く善がり狂っていたと思うのだが、達する回数を数えられている辺り、演技での喘ぎも含まれていたのだろうか。勝手に後ろの準備を整えていた以上に、カチンとくる。
 つい、返事をあぐねて、黙り込んでしまった。唇を引き結んだのもあって、三ツ谷には拗ねて見えることだろう。きゅうと細められた目には、可愛いと浮かぶ。可愛くねえだろ、こんな大男が何したって。
「ん、しょ……」
「あ」
 そのうちに、三ツ谷がオレの肩に手を置く。回す、ではなく、置くだ。おや、と思う頃には、しゃがんでいるオレの肩を支えにしつつ、どうにか立ち上がっていた。それでも、日に焼けていない脚はぷるぷると震えている。付け根のあたりは、掻き出された潤滑剤や注いだばかりの精液で濡れていた。その前には、ぽってりと垂れる睾丸と、中途半端に膨れている陰茎。ここしばらく、コイツの性器がバキバキに勃起したところは見ていない。これじゃあ、女を抱くことはできないな。オレのせいで、こんな体になってしまった。……そう思うと、今日のコイツの暴走ぶりにも目を瞑ろうかという気になれる。
 健気に揺れるソレは、丁度、オレの顔の高さにある。じぃ、と見つめていると、先っぽからはとろとろと透明な汁が溢れ出した。この濡れやすさは、三ツ谷の天性のもの。こういうのこそ、可愛いって言うんじゃねえの。からかうように、フ、息を吹きかけてやった。
「ンゥ……、もぉ、いじめないでよ」
「息かけただけじゃん」
「ぁ、そこで、喋るのも、だめ。じんじんする……」
「へえ?」
「だからあ! ……ね、続き、シようよ」
「……立ったまま?」
「立ったまま」
 ほら、ドラケンも立って。そんな意図で、肩を叩かれる。
 ふむ。頷きながら、三ツ谷の裸体を見上げた。脚が震えているのはその通りだが、下腹も思い出したかのように引き攣っているし、オレの肩に乗った手指だって、ぴく、ぴくんっと蓄積された悦楽に震えている。こんな状態で、立ったままだって? 正直、できるとは思えない。
 やっぱり、強引にベッドに連れて行こうか。それとも、三ツ谷の我儘に付き合って、立ちバックをもう一回するか。
 頭を巡らせているうちに、眼前にある亀頭からは、ぬとぉっと我慢汁が垂れる。
「あー……」
 つるんとした先っぽは、淫靡に濡れて、艶を纏っている。てらてらと怪しく光るそこをスンと嗅ぐと、蒸れた汗と、淫液のニオイがした。それなりにエラの張っている陰茎は、赤く腫れてはいるものの、汚れた印象はない。そもそも、陰毛の手入れもしているくらいだ、毎日ちゃんと洗って、清潔にはしているだろう。
 つまり、何をしたいかと、いうと。
「三ツ谷」
「ん?」
「しゃぶって、いい?」
「へ」
「だから、フェラ。していい、ってか、するワ」
「いや、なに、突然、」
 かぱりと口を開ける。それとなく顔を見上げると、困惑が先だった表情を浮かべていた。お、いーね。その、エロいことが頭からすっぽ抜けた顔。主導権を握れそうで、愉しくなってくる。
 逃げられないよう、三ツ谷の腰、もとい、臀部に手を添えた。むぢぃっと指を食い込ませつつ、開けた口で腫れた陰茎を迎えに行く。毛、ないと、咥えやすくてイイな。自分のも、多少は整えた方が良いだろうか。
「ン゛ッ♡」
 ばく、り。唇を閉じると、腕の中にある体が大きく跳ねた。
「立ったままひたいんらろ?」
「ぉ、ンッあ゛ッ」
 かろうじて芯のあるペニスに舌を絡めながら、もごもごと三ツ谷に問いを投げる。しかし、答えになる返事はやってこない。半ば腰を突き出すようにして、その体を打ち震わせていた。
 この感じ、しゃぶられるのは初めてなのだろうか。オレのをしょっちゅう美味そうに咥えるから、されるのも慣れてそうだと思っていたのだが、思い込みにすぎなかったらしい。唾液をまぶしてじゅるじゅると吸い上げると、塩気のある体液が滲み出る。
 そうだ。閃くと同時に、口を退き、亀頭だけを口内に残す。もご、むぐ、唇で先っぽを固定しながら、尿道口に舌先を押し当てた。
「ぃギッ、ぁ、や、アッそりぇ、それっだめ!」
「んん~?」
「ッオぁ、あっ、あ゛ァアッ」
 三ツ谷の制止を聞き流し、キュッと口を窄める。その形のままヅヅヅとキツく吸い上げると、かくかくと腰を揺らされた。尻を押さえ込んでいてよかった、おかげで喉奥を突かれることも、口から零れることもなく口淫を続けられる。
 ヂュッと管に残った体液を吸い出しつつ、今度は舌の広い面を裏筋に這わせる。三ツ谷、ココ好きだよなあ。どうせだし、後ろの好きなトコと一緒に責め立ててやろうかな。むくむくと膨れ上がる悪戯心に任せて、ぐっと尻たぶを割り開いた。そして、ぐぷり、右手の指、とりあえず二本を縁に潜らせる。
「ひ、うし、後ろ、ゆび、ゆびぃ!」
「んぢゅっ……、好きだろ、オレの指」
「すき、だけど、ォッ、オ゛」
 ねっとりと筋を舐めあげつつ、指は根元まで入れ込んだ。オレの指の長さだと、前立腺は楽に撫でてやれる。いくらか弾力を孕み始めた先っぽを舐りながら、わかりやすい腹側の膨らみをぐぐぐと押した。
「ぁィ……ぅ、オッ」
「ん、ふふ、いませーひれたね」
「ば、かぁっ……、も、んン゛ッ、やだっ、ちんぽっ、ちんぽがいぃ」
「ちんぽなめてんじゃん」
「そおじゃなぐッ、ぅ、あッ、はめ、てっ、ばこばこされたィのッ!」
「ベッドいったらなー」
「今がい、ィ、ひぐ、ヴ、……オッ」
 もう一度、前立腺を扱いてやると、三ツ谷はさらに大きく腰を揺らした。咥えが浅かったのもあり、つるんと唇からまろびでる。顔のすぐ前に飛び出したソレには、びきりと血管が浮いていた。この膨張率、ここ数か月でいちばんじゃないだろうか。腹につきそうなくらいに反り返った陰茎は、達するまで秒読みの様相。ほくそえみながら袋を食むと、面白いくらいに三ツ谷の腰が跳ねた。
「イ、ンッ、んんン゛ッ」
「ん……?」
「ぁ、あっ、らめ、くる、なんかほんと、くるっ、すごいの、キちゃ、」
 指先は執拗にナカを責め立てている。口に含んだ睾丸は、にゅく、ぴくと上がりつつあった。いよいよ射精も間近かな。男にぶっかけられる趣味はないが、三ツ谷のだったら、アリ。なんなら自分もぶっかけたことあるし。いざオレの顔面に白濁が飛んだら、こいつどんな反応するかな。やってしまったと赤面するか、やってやったと恍惚とするか。
 ほら、どっちか確かめたいから、早くイケよ。
 イッちまえ。
「~~ッア゛、」
「ッ!」
 一際大きく、痴態が震える。
 間もなく、―― 透明な液体が噴き出した。
「ワ」
「ん、ぉッあ、やだっ、とまんにゃぃ」
 派手に飛び出したそれは、勢いが良すぎてオレの顔を越えてしまう。噴水のように飛んだ先を見やると、玄関のフローリングからたたきにかけてに水たまりが出来ていた。
 そ、と視線を戻すと、ぴゅ、ぴゅる、と弱弱しくも潮を吹き続けている。おかげで、足元に散らばった服に、次々とシミを作っていた。
 これ、洗濯はどうすればいいだろう。あ、腕時計にもかかってんじゃん。防水なら洗えるけど、これはどうだろう。
 ま、明日、素面に戻った三ツ谷に聞けばいいか。
「あ゛、ぁぅ、ヴううう」
「じゃ、ベッド行くぞ」
「ひギッ、ぁ、らめ、だめぇッ、まだイ゛ッでる、からっ、やさしくしてよ゛お……」
「じゅーぶん優しくしてるって。よ、っと」
 ぱっと切り替えて、弛緩した身体を肩に担ぐ。その振動すら、悦になったのか、三ツ谷は悲鳴を上げながらオレの服にも潮を吸わせた。
 すぐにベッドに辿り着き、ぽいと淫蕩に染まった体を下ろす。覆いかぶさるより先に、ぐっしょりと濡れてしまった服を脱ぎ捨てれば、視界の隅ではまた三ツ谷が小さく体液を飛ばしていた。もう、何をしていなくても気持ちがいいらしい。
 あーあー、本当に可哀想。折角勃起できたのに、ぴゅーぴゅー潮噴くので精一杯なんだもんなあ。可哀想で、本当に可愛い。
「じゃあ、―― 続き、シよっか」
 囁くと同時に、蜜壺へ熱の先っぽを浸す。たったそれだけで、三ツ谷の熟れたペニスは華やかに潮を吹いた。