絡まれた日は、セックスをする。
「ぁ、~~ンッ、」
 絡まれなかった日も、近頃はセックスしている。
 熱と痺れが体を駆け上り、ベッドに横たわっていた体が仰け反った。胸を突き出す格好になってしまい、やたらと乳首が膨れた心地になる。事実、執拗にしゃぶられたソコは腫れているのだろう。舌で転がしながら「硬くなってきた」だの「コリコリしてんね」だの、懇切丁寧に説明されたから間違いない。
 腰の浮いた体は強張って、なかなか痺れが通り過ぎない。絶頂から、いつまでも降りて来れなかった。全身が小刻みに打ち震えて、筋肉は引き攣る一方。
 ただの射精しか知らなかった頃には、もう戻れない。後孔を穿たれる快感は、着実にこの体を蝕んでいた。
「……ッ、ハ、あ゛ッ」
「っはぁ……、ぁー、いい、んん」
 ようやく息を取り戻したものの、残滓を絞り出すように揺すられ、また軽く峠を越える。深いところをとんとんっと軽く突かれるだけで、己の切っ先から潮が溢れた。達した瞬間の派手な噴き方ではないにせよ、バカになったペニスからは引っ切り無しに涎が零れている。どこもかしこももうびちょびちょ。一番濡れる腰の下にはバスタオルを重ねて敷いているものの、べちゃっと落ちた尻には酷く冷たい感触がした。
「ォ、んん゛、ふ……、う゛ぅ~」
「はは、まだビクビクしてる」
「ぁッ、だメッ、さわっちゃ、ッあぁア゛」
「お、また噴いた」
「うぅうダメって、イッ、ぁう、んんっ」
 ちゅぽんとドラケンが抜け出ると、後ろが切なさを訴えて妄りがましくヒクつく。中途半端に勃った自身は、空虚感にすら感じ入って、ぴゅっぴゅっと潮を噴いた。こんなに噴いて、自分の体は大丈夫なのだろうか。むしろ、この腹のどこに、これほどの体液を溜めていたのだろう。今に脱水症になるのでは。そういえば、喉が渇いてきたような。
 ……どうだろう、この渇きは、性欲由来な気がする。
「ハッ……、ァ、ゥぅうう゛」
 ああ、もっとしたい。もっと欲しい。頭とは別の生き物になってしまった下半身は、かくかくと揺れ続ける。それを面白がって、この男は手を伸ばしてくるから、余計に昂りが長引いた。せめて、眺めるだけにしてくれたら良いものを。いや、視姦は視姦で、体に悪いか。ドラケンの熱を帯びた視線を注がれたら、絶対に疼きは悪化する。そのうち、冗談じゃなく、見られるだけで達せてしまいそう。
 こいつとセックスできなくなったらどうしよう。ここ最近、暇になる度にそんなことを考えている。
「ふ、ほんとエロい体になったよな」
「だれのッ、せぃ、だよ……!」
「オレ」
 満足げに即答したドラケンは、ピンっとぐずった先っぽを弾いた。だから、なんで、そういうことすんの。ベッドに一度は着地した腰が仰々しく跳ねた。
 浮けば、当然、尻が見える。潮でびっしょりと濡れた指は、吸い込まれるように後孔に伸びた。指の腹が、縁に、かかる。ざり、と、粘膜が硬い皮膚で擦れた。
「ぁ、ん……」
「いっつもふわっふわだし」
 淫唇をづるんと撫でたソレは、二本揃えて奥へと沈む。
「んク、ぁっ、ア」
「嵌めただけでイッちゃうし」
 しかし、前立腺は掠めただけ。指先は、奥まったところの媚肉を緩く擦る。
「ンッ、ァ……、ぅ、んぅ」
「ここ最近は、入口より前立腺より深~いとこのがイイみたいだし?」
 腹の中で、指が曲がった。ただの、腸壁。こんなとこ擦られたって、もどかしいだけ。この男の言うように、もっと深くなくちゃ、物足りない。
 ゾクゾクと背筋が粟立つ。落ち着きそうだった呼吸は、ハ、ハ、と忙しなくなってきた。脳みそが、犯されたいの一色に染まっていく。世間の平均より間違いなく大きくて太くて長い熱を、腹の奥底に捻じ込んで欲しい。ドラケンに仕込まれた性感を、徹底的に虐めて欲しい。
 手っ取り早い快感で、オレのこと、捻じ伏せて欲しい。
 根元まで入り込んだ指を、きゅぅうと締め付けた。
「ぁ、あぁ、ぅン」
「はは、あークソ、チンコ苛々してきた」
 視線を向けた先では、ドラケンの雄がしっかりと反り返っていた。
 腹につきそうなくらいに膨れたソレは、いつ見てもカッコいい。亀頭はデカくて赤黒いし、竿も太くて浮き出る血管が映える。本当に、大きい。近頃は、根元まで嵌めなくても、奥の壁に辿り着いてしまう。ヤリ始めた頃みたいに、腰を打ち付けられるセックスをしたら、どうなってしまうんだろう。この体の最大の弱点を容赦なく抉られるなんて、想像だけで達せてしまう。証拠と言わんばかりに、かろうじて芯を残した自身から、とぷっと淫液が垂れた。
「……ドラケン、も、さあ」
 そこで、ふと、気付いた。
「ソレ、エロくなってるでしょ」
「……ああ、黒くなったってこと?」
「黒く、……なったかもだけど、そうじゃなく」
 蜜壺に突き立てられていた指が、するんと抜ける。狭めていたハラワタが、隙間を埋めるようにうねった。空気が潰れるのに合わせて、たっぷりと注がれた潤滑剤がニチニチと粘着いた音を立てる。
 滑るその液体は、ドラケンの指にも纏わりついていた。淫靡な艶を持つ指が、逞しい熱塊に添えられる。なんて、視覚の暴力だ。エロいとエロいが組み合わさって、過分なまでに欲を掻き毟られる。
 ごくんと生唾を飲み込んでから、緩く扱かれるソレを見つめた。オレの、腹の中、行き止まりと思しき腸壁までを簡単に満たす怒張。……でも、ドラケンと寝るようになってすぐの頃は、根元まで咥え込んだって、あんなに深くは突き刺さらなかった。いや、最奥に触れてはいたのかもしれないが、今ほどの食い込みは、なかったはず。
 ほんと、デカいな、これ。これが普段、オレのアナルを満たしているのか。満たしてなお、余裕がある、のか。
「ここ一年ぐらいで、結構デカく、なったと、思うんだよね」
 オマエの、ちんぽ。
 ちゃんと唾を飲み込んだのに、気付くと口内はとろとろの蜜で溢れ返っている。どういう原理で唾液が出てくるのだろう。ちんぽ咥えたいのかな。確かにしばらく、フェラしてない。この亀頭で上顎を擦られたい。喉の柔らかなトコロまで犯されたら、Mっ気の盛んな自分はトんでしまうかも。久々に口の中をザーメンでいっぱいにしたい気もするし、顔面にぶっかけられるのだって捨てがたい。
 とろみを帯びてきた唾液を、もう一度、飲み下した。
「そお?」
「そおだよ、全部入れなくても奥届くようなったじゃん」
「……それって、三ツ谷の体の作りのせいじゃなく?」
「あんだけガン突きされてガバガバになるならまだしも、縮むわけねえだろ」
「むしろ今の方が締まりいいぜ、そりゃもうキッツキツ」
「ッそれはそれ! 締まりは、おいといて、……縦に、縮むとか、なくない?」
「んん、まあ、ウン。そうかも」
 曖昧に笑いながらも、ドラケンの指先は見せつけるように自身を撫でる。いちばん太く浮き出た血管の上をなぞって、裏筋を過ぎ、艶の乗った亀頭に触れた。あんな触り方をしたら、自分だったら絶対に喘ぐ。なんならぴしゃっと精か潮を噴くことだろう。堪え性のないオレと違って、余裕を携えたソレ。本当に、カッコいい。
 やっぱり、口よりクチで、咥えたい。
 薄く下唇を噛むと、甘えた呻きが鼻を抜けていった。
「……もっかい、する?」
「……する」
 こくんと頷いて、怠い体に叱咤を打った。腕を膝に引っかけて、胸の方に抱え上げる。必然的に浮く尻。開脚したのもあって、尻たぶ諸共、淫唇がくぱぁっと開いた。
 はやく。不安定な姿勢のまま視線で強請る。すぐにドラケンは喉で笑った。オレに熱っぽい視線を向けながら、手元では器用にスキンを下ろしていく。グロテスクに勃起したソレが、滑らかな膜に隠れた。別に、生でも、構わない。むしろ、生で、したい。つけなくていいと言いさえすれば、コイツは呆れた顔をしつつも、ありのままのブツを与えてくれるのだろう。また、言うタイミング、逃しちゃったな。次こそは、生がイイって、強請らなきゃ。
「ぁ、ん」
 うっとりと眺めているうちに、切っ先が開いた後孔にぶつかる。やけに静かにくっついたせいか、いつも鳴る妄りな水音は立たなかった。代わりに、縁がきゅうきゅうと吸い付いているのがわかる。物欲しげに、淫口は肉棒を舐っていた。あ、ン。ねえ、入り口だけでオレが満足できないの、わかってるんだろ。奥まで来てよ。はやく。ほら、はやく。
 ひく、り。下腹が引き攣るのに合わせて、ずぷずぷと熱が押し寄せてきた。
「ア、確かにヨユーで届くワ」
「はッ、巨根自慢すんじゃねー」
「ンだよ、このでっけえチンポ好きだろ?」
「だいすき」
 なんの気まぐれか、ドラケンは焦らすことなく奥まで満たしてくれる。性感を煽られなかったせいか、ちょっと苦しかった。内側からの圧で、腹が膨れたかのような心地になる。それでも、見下ろした下腹は平らなまま。繰り返される不摂生で、変に痩せた腹。右手だけ膝から離し、ぺたりと触れると、脈打つ鼓動が伝ってきた。これがドラケンの拍動だったらなあ、もっと興奮できたのに。どくどくと震えるソレは、速さもリズムも自分の胸で鳴っているのと同じだった。
「……ふ、ン」
 埋めた格好のまま、ドラケンは動かない。奥を小突いても、のったりとした抽挿をしてもくれなかった。どうして? 細やかな苦しさを悦で塗り替えてほしいのに、じっとオレを見下ろした姿勢で止まっている。
 動け、よ。眉を寄せながら、目で訴えた。すぐにドラケンはオレの視線に気付く。しかし、動かない。揺さぶってくれない。オレの腹の中で、存在感を主張するのみ。
「ど、らけん」
「ん?」
「しないの?」
「してるじゃん」
「動けってことだよ」
「ああ、うん。んん」
 仕方なく口を開くと、男の手がオレの腰を掴む。長くて骨ばった指先が、ギチ、皮膚に食い込んだ。まだ動き始めてはいないのに、期待で媚肉が打ち震える。抜いて、穿って、浅ましい肉に仕置きをして。ねえ、早く。
「ぁ、ンッ」
 堪え性のない我が身はうらうらと腰を揺すった。まあるく膨れた前立腺に擦りつけつつ、先っぽが腸壁に沈むよう身じろぎをする。野郎二人分の体重を受け止めたベッドが、軋む声を上げた。一人横になるのがせいぜいのシングルベッド。安物だよ、いつかドラケンが言っていた。寝心地良くないだろ、とも。けれど、オレは気に入っている。それは、普段布団だからというのもあるし、……この狭さだったら、どうやったってこの男の重さを浴びれるからというのも、ある。おおよそ八〇キロを使ったガチなプレスでブチ抜かれたら、きっと一秒と経たずに天国にイケる。寝バックで全身に圧し掛かられるのも気持ち良かったなあ。
 なあ、ドラケン。こんなヌルいセックスじゃ、オレ、妄想ばっかりしちゃうよ。目の前のオマエに、狂わせてよ。
「ね、ぇっ、そろそろ、さあ……」
「三ツ谷」
「……な、に」
「オレのさあ」
「うん……」
 す、と。ドラケンが顔を上げた。わずかに上気してはいるが、やけに真剣な顔をしている。入れ込む前の、意地悪なソレはどこへ行った? つられて頭が冷めてしまい、もぞもぞと揺れていた腰も大人しくなる。それどころか、数秒前の痴態に羞恥を覚えだしてしまった。恥じらう必要はない。なんせ、オレたちは有り余った性欲を発散するために体を重ねているのだから。多少の妄りがましい姿はお互い様。
 ……そう言い聞かせても、冷静を取り戻した脳みそはジリジリと身悶え始めた。頬が、変に火照る。ひりひりと、目元も痛んだ。誤魔化すように、ム、唇を尖らせる。股座に陣取るそいつを睨むと、自身のぴんっと突き出た乳首と、ふるんと揺れる陰茎まで見えた。ああ、クソ、余計に恥ずかしくなってくる。
 鼻から、変に荒くなった息が出てきた。
「まだ、こんくらい残ってんだけど」
「は?」
 続けて、口からは胡乱な吐息が零れる。
 視界の先では、ドラケンの片手が、何かを示していた。親指と人差し指で、空気を測っている。その長さは、一センチか、二センチか、はてまた三センチか。定規を当ててみないことには、正確なところはわからない。
「え、と。どういう」
「オレのチンコ。三ツ谷のナカに入ってねーの、こんくらいあるんだワ」
「……あ、そぉ」
「確かに昔よりデカくなってるかも。デカいっつーか、膨張率?」
「むずかしいことばつかうな」
「難しくねえだろ、これくらい」
 オレは真面目に答えたつもりなのだが、間の抜けた呂律を聞いた途端、ドラケンは噴き出した。その振動が、微かに奥に響く。喘ぐほどの痺れではないものの、甘く広がる悦に背筋が震えた。
 視界の端では、ドラケンの指がぱちぱちと何かを挟むように動く。
「入ると思う?」
「エ、と……」
 ピンぼけた焦点を定め直すと、動いていた指がまた半端に開いた状態で止まる。その隙間は、ちょっとと言えないこともない。だが、存外人間の腸は繊細だ。ぐぽぐぽと激しく抱かれることを好むオレが言ったって説得力はない。だとしても、わずかな刺激を苛烈に感じ取る臓器なのは、確か。
 入る、だろうか。
 ぴんっと膨れた乳首を意識の外に追いやって、自分の平らな腹を眺めた。もちろん、潮やらカウパーやらをだらしなく漏らすペニスのことも、今は見えないものとする。どくどく脈打つ下腹を、改めて、撫でた。体液に塗れた肌が、手の平にべたりとくっつく。
 どう? いけそう? 声には出さずに、平らなソコに問いかけてみた。男の熱杭を受け止めた肉は、キュキュッと震えるだけ。イエスと言っているようでも、ノーと呻いているようにも思える。
 盗み見るようにして、ドラケンに視線を戻した。
「ンと……」
「うん」
「わかンねえ、けど、……やってみ、る?」
「……いいの?」
「だって、……深いとこ、抉ってほしぃ、し」
「……すけべだな」
「好きなくせに、すけべなけつまんこ」
「否定はしない」
「だから、難しい言い回し、しないでよ、ォ、ア」
 おもむろに、突き当たりにある壁に圧がかかった。軽口を叩き合っている間に始めるのは、些か姑息では? 苦言を呈する余裕があったら、「コラ」くらい言っていたことだろう。
「ふ」
「あ」
 あくまで、あったらの、話。
 むちゅっと先っぽでキスされるや否や、結び直されたはずの理性の糸がほどけていく。待ちわびていた刺激のせいもあるだろう。そう、これ。こんなふうに、深いところを捏ねられたかった。ニヂニヂと柔い肉に食い込むほど、口からはふしだら極まりない声が零れ落ちる。
 欲の塊が、オレのナカを侵食していく。近頃は悦楽一色で、然程熱さは感じなかったのだが、……久々にひりつく熱さが現れ始めた。媚肉の壁に熱杭が沈む。ゆっくりだが、着実にめり込んでいた。深い。今まで経験してきた中で、最も深いところを許している。
「ん、……もうちょい」
「ひぅ、グ」
「きつ……、あと、ちょっとなんだけどな……」
「ンッ、ァ……、なんっ、か」
「いたい?」
「いたくは、なぃ、けど……」
 なんだか、この壁を、突き破られてしまいそう。一抹の恐怖が脳裏を掠める。一方で、常軌を逸した深さを味わいたいとも思っていた。こんな好奇心に従ったら、痛い目に遭うに決まっている。ごめん、ドラケン、これ以上はダメ。そう、言うのが、この体を健全に保つにはベスト。
 わかっていても、怖い物見たさが勝ってしまう。
 だって、ドラケンのカッコいいちんぽを全部咥えこめたら、その事実だけで最高にイケそうなんだもん。
 瞼を閉じて、与えられる圧に神経を向けた。腹の奥に意識を集中させる。集めれば集めた分、腸壁は肉棒にぴったりと寄り添う。先っぽを包んでいる辺りなんか、バキュームフェラでも噛ましているかのように吸い付き始めた。
「ン……」
 不意に、頭上から濡れた色を孕んだ声がする。クラクラしながらも目を開けば、思いのほか近いところにドラケンの頭があった。いつの間にこんな前屈みになったんだろう。オレの腰を鷲掴みにしていた両手は、頭の横にそれぞれ置かれていた。
 そっと、下腹から手を離す。恐る恐る、ドラケンの両手に近付けて、さり、表面を引っ掻いた。……それを皮切りに、指が絡めとられる。一本一本、丁寧に組ませられ、両手ともに眼前の男に囚われた。
 俗に言う、恋人繋ぎ。あれ、オレってドラケンと付き合ってたんだっけ? 付き合っては、ない。告白されても、してもいないから。なのに、どうしてこんな繋ぎ方、しているんだろう。
 淡い疑問を浮かべているうちに、いっそうドラケンは距離を詰めてくる。こつんと、自慢の硬い額にドラケンのそれが重なった。近すぎて、焦点を上手く合わせられない。けれど、じっと見つめられているのはわかるから、曖昧な視界のまま黒目を見つめ返した。
 男の耳にかかっていた髪の束が、パタリ、落ちる。黒々としたソレがオレの頬を掠めた。薄皮一枚の接触。なのに、艶やかな熱を感じてしまい、はくん空気を食んだ。
「み、つや」
「ふ……、んっ、ぁ、なに……?」
「ぅん」
「うんじゃ、なく、ァ、なぁ、……ンン」
「ム、ぅ」
「んッ……、んンン」
 間もなく、鼻先が擦れる。いよいよ輪郭も捉えられなくなってきたところで、名前を呼ばれたような気がした。なに。吐息が、唇のすぐそばでぶつかり、溶ける。やがて、ぴったりと唇が重なった。キス、してる。ドラケンに、奥底まで暴かれながらキスしてる。倒錯感に、いよいよ意識が裏返ってしまいそう。
 トぶ、トん、じゃ、ウ。
「~~ッア゛!?」
 奇怪な予感と共に、―― 胎の奥底がぐぽんッと呻いた。
「あ、ッハ、すげぇ吸い付く……、やば」
 何が、起きた。真っ白にスパークした思考じゃ、さっぱり状況がわからない。ただ、白く爆ぜた意識の向こうに、花弁のような何かが舞っていた。花弁が舞い散るほどの白い花って、何があるんだろう。桜は完全な白と言い難いし、たんぽぽの綿毛はふわふわとしすぎている。
 はくん。空気の塊にかぶりつくと、今度は尋常じゃない多幸感が襲ってくる。体はこれでもかと強張っているのに、内側はどろどろに蕩けて、過激な悦に染め上げられた。
「……ッ♡」
 ヤバイ、ところに、入った。かろうじてそれを理解すると、体が激しく痙攣を始める。自身の尿道を、気持ちのいい何かが通り抜けた。びちゃびちゃと、水が跳ねる音がする。湿っていたベッドは、さらに湿度を上げた。
 体の制御が、できない。この身を貫いた怒張に、全ての権限を明け渡したかのよう。ぐぽ、ぐぽんッと、張り出たエラが執拗に行き来する。弁のような何かを過ぎては戻り、また強引に越えては引き抜かれる。人体の構造としてもヤバいことをしているし、倫理的にもまずいことをしているのだろう。それを身をもって痛感させられる。
 わからせられる。未知の世界を理解させられる。
 堪ンない。
「こ、んにゃ、ろ、しりゃなぃいい」
「はは、うん、知ってたら、―― ただじゃおかねえ」
 低く囁かれた声色は、艶を孕みながらも物騒に荒んでいる。甘さもあるくせに、凄みのあるこの男の声。もう、どれだけオレの神経をすり減らせば気が済むのだろう。
 視界がぐるんとひっくり返る。それでも情動は止まなくて、肩のあたりに酷い痛みを感じた。噛まれたらしい。それを理解するより早く、ビシャッと陰茎は潮を吐いた。
 そのあとのことはわからない。
 ただ、最高に幸せだったことだけ、カラダが覚えていた。

◇◇◇

 派手にセックスしたあの日から、頻繁に身体を重ねていたのが嘘のようにドラケンを避けている。そりゃあもう、全力で。
 一か月もシなかったら、この体は淀んだ熱に苛まれて自慰じゃ発散できなくなる。後ろに、太くて熱くて逞しいアレを捻じ込んでもらえないと、絶頂にまで辿り着けない。すっかりあの熱に作り変えられた体は、陰茎を扱くだけじゃ満たせなくなっていた。
 そんな、最中。
 一か月どころか、三か月。
 三か月も、ドラケンとセックスしていない。
「~~ッォ、ァ、……んン゛ッ」
 艶のあるサテンの生地が、指からすり抜けた。しなやかなそれは、踊るように床へと落ちる。裾を軽く折った、剥き出しの足首にさわりと触れた。
「ぁ、ォッ、っふ、ゥ、ゥヴ」
 おおよそ、肩幅に広げた足。その膝ががくんと笑って、咄嗟に目の前にあるトルソーにしがみついた。不安定さはあるものの、ないよりはマシ。布張りのソレを掴みながら、押し寄せてくる悦が過ぎるのを待った。
「……ん、はぁッ、ぁあ~」
 甘い痺れが、ゆっくりと腰から抜けていく。悦楽の波は、一応引いてくれたらしい。それでもまだ、この体は余韻に浸っている。立っているのも、正直辛い。笑う膝を気遣いながら、努めて静かに床に尻を付けた。皺にならないよう、落ちた布は拾っておく。滑らかな表面に指を乗せると、また不埒な感触が脳裏を掠めた。いやだ、続けてイキたくない。さらに上体を倒し、小さく蹲る。打ち震えながら、肢体に襲い掛かる熱に備えた。
 派手にセックスをした、あの日から。
 自分の体は、ことあるごとに、疼きを覚えるように、なった。
「ぃや、前もあったけどさあ……」
 ぽつりと愚痴るように独り言を吐いて、恍惚感に浸らないよう理性を奮い立たせる。折れるなよ。今日こそは、愉悦に屈しないでくれ。つい一昨日みたいに、床をぐしょぐしょにしたくはないだろう? 下腹を抱えながら、はあっ、湿ったため息を吐いた。
 これまでだって、疼きはあった。無性にシたいなあとか、雑に犯されたいなあとか。けれど、近頃味わっている疼きは、そんな生っちょろいものではなかった。
 ―― 本当に、イッてしまうんだ。
「なんも、シてなぃ、のに……、んっ」
 性感に触れてはいない。多少服に擦れる程度。強烈に昂った体だったら反応するかもしれないが、素面ならどうということはない。
 どちらかというと、この熱は腹の内側からやってきているらしかった。
 たった一度暴かれた、直腸の奥。突き当たりとばかり思っていた肉壁をぐぽんと越えた先の感覚に、三か月経った今でも囚われている。ふと意識した瞬間、あの苛烈な悦が走るのだ。一度過ってしまえば、いくら目を逸らそうとも、意識は絡めとられる。結果、アトリエでの作業中、あるいは通勤の道中、さらには職場の昼休み、妄りがましい姿を晒してしまっている。外でこうなると、本当に苦労するんだ。アヘ顔を晒さないように手で顔の下半分を覆って、びくびくと跳ねる腰に叱咤を打ちながらトイレへ走る。個室に隠れたとしても、デカい声は出せない。これでもかと唇をかみしめて、絶頂感をやり過ごしている。
 唯一救いがあるとすれば、日頃の行いのせいか、くたくたになりながら便所に走っても、然程奇異の目を向けられずに済んでいることだと思う。最近お腹の調子悪いよね、あの消化器内科、イイらしいよ。優しい同僚に、声を掛けられては、一抹の罪悪感に苛まれている。
「どうしよう、いつか絶対バレる……、その前になんとか、なんとかしないと……」
「なんとかって?」
「そりゃあ、ところかまわず脳イキしちまうこと、を……、エ」
「よお、久しぶり」
 蹲っていた体を、がばりと起こす。ついでに肩越しに振り返れば、にっこりと笑ったドラケンの姿が見えた。捉えるや否や、腹の底がじくりと震える。
 えっちしよ。喉元まで込み上げてきた言葉を、強引に飲み込んだ。
「ぇン゛ッ……、ふっ、不法侵入ッ」
「合鍵渡してきたのオマエ。ってか前にもこんなことあったよな、デジャヴ」
 スリッパはあるけれど、この男は何故か履かない。靴下のまま室内に入ってくるから、余計に気付くのに遅れるのだろう。
 赤くなるのを嫌がって、度々染め直しているという髪は、不自然なくらいに黒い。濡れたようなその黒色の束が、艶やかに揺れた。うっかり目を奪われている間に、ドラケンはオレの傍に辿り着く。そして、当然のようにしゃがみ込んだ。たったそれだけの動作なのに、色気が匂い立つ。くらくらする。やっぱり、えっちしたい。
「いつから、いた、の」
「ん~?」
 変に言葉を飲み込みながら喋るせいで、実際に舌に乗る音は酷く掠れている。裏返ってしまいそうでもあった。一体いつから、自分の情けない様を見ていたんだ。蹲ってからならまだいい。頼む、そうであってくれ。脳みそだけで達した、あの汚い喘ぎ声まで聞かれていたらと思うと。
 体が、茹る。
「三ツ谷が突然喘ぎながら蹲るあたりから」
「~~ッさいあく!」
 ぼんっと全身が火を噴いた。どっと汗まで噴き出してくる。咄嗟に我が身を抱きしめると、ばくばく騒ぐ心臓の音を鮮明に感じた。
「なあ」
「んっ」
「なんで近頃、会ってくんなかったの」
「ァ」
「連絡しても雑に躱すしさあ、ちょーっと寂しかったんだけど」
「ん、ッぅ、みみもと、やめろッ」
「やだ。ここ、好きだろ? 耳されると、すぐトロットロになるもんな」
「はぁッン」
 慌てふためくオレを知ってか知らずか、ドラケンはひょいと腕を回してきた。ぐっと距離が狭まり、そいつの唇はほとんど耳に触れている。黙れば黙るで息がかかってくすぐったいし、喋れば喋るでドラケンの低く潜められた声に脳髄を犯される。
 これじゃ、またイッてしまう。
 ……うそ、もうちょっとイッた。体の震えは小さく収めたけれど、ピクピクッと肩が小刻みに揺れたからバレたかもしれない。恐る恐る逃げていた視線を向けると、まあ意地の悪い顔をしていた。その、顔も、いけない。いっそ、自分の性感帯はこの男なのでは。ドラケンが色っぽい顔をしたらこの体はすぐに昂るし、淫蕩に歪めばつられるように絶頂に向かう。
 ヤりたい。なにも考えずに体を明け渡して、骨の髄まで暴いてほしい。熱欲で頭がぼおっとしてきて、ぼてっとドラケンの肩に寄り掛かった。
「もしかして、セルフ焦らしプレイでもしてた?」
「ちがう、そんなことしない、してない」
「なら、何で会ってくんなかったんだよ」
 言葉の上ではオレを咎めてくるものの、耳に響く音は妙に優しい。怒鳴りつけるよりも、甘やかされる方がオレには効く。それをよくわかっている口調だ。
 気付くと、緩んだ唇がくぱりと開いていた。
「その、」
「うん」
 スマホを駆使して調べたところ、近頃オレを悩ませるコレは脳イキという現象らしい。一種の洗脳状態に陥って、絶頂するとか、なんとか。オレの場合は、あの夜の強烈な悦に囚われて、何でもないタイミングで達してしまうようになったのだ。おそらく、そう。
 そんな状態でドラケンに会ったら、オレはどうなる? 顔を合わせた瞬間に、イキかねない。なんなら潮まで撒き散らすことだろう。ありとあらゆる痴態をこの男に晒してきたが、セックスのセの字すら書き始めていない段階でイクところは、見られたくなかった。だって、ありえないだろ。ドン引かれるに決まってる。そこまでの淫乱、シュミじゃないと言われたら、立ち直れなくなってしまう。まあ、もうまともな勃起はできないんだけど。
 体が落ち着くまで、せめて脳イキを制御できるようになるまで、ドラケンに会うのはよそう。そう結論付けて、どうにかこうにかこの三か月を過ごしてきた。
「あれ、から……、さいごにしたセックスが、忘れらんなく、って」
 ……この経緯を、どこまで話そう。あやすように、ドラケンの手はオレの肩を叩いている。とん、とん。その一定のリズムにすら、頭は煽られていた。
 もう、洗いざらい吐いてしまおうか。今にも達してしまいそうな自分に叱咤を打って、緩慢に声を舌に乗せた。
「触られなくても、イッちゃうように、なったん、だ」
「……さっき言ってたな、脳イキとかって」
「ん、そう。そうです。お腹気持ち良かったな、って思い出しただけで、頭ぼぉっとして」
「イッちゃうんだ」
「……うん」
「それって、どうなの。後ろ切なくなったりしねえの」
「すっごいきゅんきゅんしてる」
「じゃあ、……話するより先に一発嵌めとく?」
 相変わらず、ドラケンはオレの耳元で囁くように喋る。肩を叩いていた手も止まり、ぐっと抱き寄せられた。勝手に呼吸が浅くなる。期待で体が破裂しそう。それくらいに、熱が体内で泡を立てた。
 狼狽えながら、顔を上げる。その男の垂れた前髪に、さり、頬が擦れた。少しでも唇を尖らせたら、キスできてしまう距離。この間も、濃い口付けをしながら、奥底を暴かれた。ああ、じゃあ、オレたぶん、キスだけでいろんな汁、漏らしちゃう。それに、一発じゃ、きっと終われない。もっと、もっとと浅ましく強請る自分が、脳裏に浮かんだ。挙句、ずっと嵌めてたいと口走りそう。
 この誘いは、魅力的だ。誘惑的で、蠱惑的でもある。
 呑まれたい欲望を、こくん、やっとの思いで呑み込んだ。
「いまシたら、セックス中毒になりそう、だから、……シない」
「えー、なっちゃえば?」
「他人事だと思って」
「ちゃんと責任取るから」
「責任ってなんだよ、オレの専用ディルドになってくれるって?」
「そういうことなら、もうとっくに三ツ谷専用だぜ、コレ」
「ぁえ」
 おもむろに手を取られ、滑らかに男の股間に導かれる。とん、手の平が乗ったソコは、いきり立ってはいない。盗み見るように見下ろしてみても、テントは張っていなかった。萎えている。反応は、まったくしていない。
 それでも、大きい。これがさらに膨れて、あの凶器になるのか。きゅんっと腹が疼いて、その形を確かめるように指を這わせた。作業着と違って、今日のドラケンは柔らかい素材の服を着ている。指を押し当てれば、確かに肉の感触がした。
 知らぬ間に、オレ専用になっていたという、ソレ。ほんとかよ。疑り深い自分は胡乱な顔をしているが、性欲に素直な自分は顔を淫蕩に染める。
 ア、ちょっと、大きくなってきた。硬くなってきた。記憶の中にある、血管が浮き出たバキバキの見てくれと重なって、後孔の縁がヒクヒクと疼く。嵌めてほしい。待て、その前に、舐めたい。ぶるんと飛び出させて、頬を打たれたい。
「三ツ谷ってさあ」
「ぁんだよ」
「ほんとオレのこと、好きッて顔するよな」
「……好きだよ。このちんぽとか最高に好き」
「ちんぽだけかよ」
 クッとドラケンが喉で笑う。好き勝手に動くオレの手を放置し、骨ばった指先がツゥとこちらに伸びてきた。顎の下に添えられ、く、掬い上げられる。つい、過剰に瞬きをしてしまった。……その隙に、さらに距離を詰められる。かろうじて拳一個分空いていたのが、指一本に。ア、鼻先、ぶつかった。
「オレはオマエのこと、ケツ以外もちゃんと好きなんだけど」
 肩を抱いていた手は、いつの間にか腰に降りてきている。手首を捻るようにして、まあるく尻たぶの片方を撫でた。おい、それ、本当に尻以外も好きなのかよ。明らかに、オレのケツが好きですって手付きしてるじゃねえか。
 ……ケツ、以外、も?
 カッとなった頭に、一節が引っかかる。好き。軽い調子でこの男は使うし、自分もそこまで深く考えずに使う単語だ。お互い好き嫌いははっきりしている。大人になったから、嫌いなことでもいくらかは誤魔化すこともできるけど、性根は変わらない。
 好きか、嫌いか。ドラケンは、オレのこと、好き。それも、ちゃんと好き。与えられた言葉をもごもごと口の中で噛み締める。それから、小さく、滲んだ唾を飲み下した。
「オレ、今、口説かれてる?」
 すぐに、眼前の男はニと勝気に笑う。ご明察。そんな副音声が聞こえてきた。難しい言葉、使うな。何かと浴びせてきたが、オレも随分とこいつに毒されている。でなきゃ、明察なんて単語、浮かぶものか。
「……余所の子にまんこ以外も好きだよなんて言うなよ、絶対」
「言わねえよ。そもそも、この先三ツ谷以外に好きって言う予定ないし」
 軽やかに言いながら、ドラケンはオレの唇を撫でる。ム、尖らせるようにしながら爪先を食むと、吐息で笑う音がした。距離が近いせいで、熱っぽい空気も肌に触れる。
 唇が重なるまで、あと何センチ? ほんのわずかな空間を、埋めてほしくて仕方がない。もういっそ、こちらからキスしてしまおうか。
―― オレのこと、一生の彼氏にしてみない?」
 薄い皮膚が触れる寸前。甘ったるい声が濡れた吐息と一緒に発せられた。
「……もし、浮気したら、そのちんぽ食いちぎるから」
「はは、上等。そっちこそ、他の男と寝たら、尻穴捲れ上がるまで犯し潰すからな」
「ぁ、あは、やば……、ご褒美じゃん」
「お仕置きだっつの」
 強がって脅しの台詞を投げかけると、すぐに興奮を煽る言葉が返ってくる。オレをお仕置きしようって言うんなら、絶対にイケない状況にしないとダメだよ、ドラケン。脳イキを覚えた以上、放置プレイは効かないし、貞操帯だって意味をなさない。すっかり淫乱になった後孔だ、ナカの媚肉を徹底的に虐められると思うとゾクゾクしてきた。
「うん、」
 頷きながら、ドラケンの首に腕を回す。自然と向こうの腕もオレの体を抱きしめた。ぴったりとくっつくと、布越しに体温が伝ってくる。今日は嵌めない。と、思っていたけれど、止めた。折角、セックスで狂っても、責任を取ってくれるというんだ。戸惑っていたら、勿体ない。
 触れる熱が、愛おしい。もっと深いところで浴びれるなら、文句などあるものか。
―― いいよ、付き合おっか」
 むにゃりと返事をして、情愛がたっぷりと乗った唇を重ね合わせた。