ここしばらく、あの男は絡まれなくなったらしい。
 らしい、と言うのは、本人から聞いたわけじゃないからだ。半年くらい前までは、ほとんど毎日のように絡まれていたはず。おかげで、このアトリエには二日に一回のペースで突撃されていた。
 しかし、最近、やってくる頻度が減っている。最後にあいつが来たの、いつだったっけ。卓上カレンダーを眺めて、一つ、二つと日付のマスを数えていく。十に辿りつき、間もなく一に達する。うん? 首を捻りながらページを一つ捲って、トントントンと指を乗せていった。確か、あの日はオレの休みだったはず。それで、明日ドラケンは休みっていうタイミングだったから、日曜日。
「……一か月?」
 いざ数えてみると、三十一日間、あの男に会っていなかった。
 その一か月前だって、十日ぶりの逢瀬だった気がする。たった十日顔を見なかっただけなのに久々に思えて、「平和だったの?」と尋ねた。確かに、言った。そしたらアイツ、オレを組み敷きながら上機嫌に頷いたんだ。「おう、しかも絡んでくる奴ら、結構強いんだ」って。
 おそらく、ドラケンの腕が健在というのが知れ渡って、あえて挑みに来るバカが減ったのだろう。それは良いことだ。そもそも、カタギが喧嘩の売買をするんじゃねえって話だけど。
 ただ、腕のある奴に絡まれているとなると、不安もある。オレの知らないところで、勝手にくたばられたらどうしよう。もしもの時に連絡は欲しいが、一介の友人という距離感では、それは叶わないだろう。せめて、このアトリエまで這って来てくれたらなあ。秒で救急車呼ぶし、止血のための布も惜しまない。
 ほう、とため息を吐いて、手に取った卓上カレンダーを元の位置に戻した。
 先週、一山超えたのもあって、直近に差し迫っている締切はない。しいて言えば、この部屋のオーナーに、新たに開くトラットリアの服飾品を頼まれているくらい。ただ、ふわっと頼まれただけで、まだ具体的な打ち合わせをしていなかった。イメージがわからないまま作業するわけにもいかないから、いよいよ契約書を持って来られるまでは放置して大丈夫だろう。
「んー……」
 することが、ない。ないわけではないが、取り立ててやらなくてはならないことは、ひとまずない。
 腰を労わって買ったワークチェアに背中を預け、ちょいと床を蹴った。くるりと、椅子が回り出す。一回転したところでブレーキをかけ、逆向きにもう一回転。布と紙で溢れたアトリエをぐるぐる見渡す。
 パーテーションで区切った給湯スペース。来客用に設置している三人掛けのソファ。対になっていたのを忘れていたと押し付けられたオットマンだろ、なんとなく窓際に敷いているタイルカーペットだろ、……一回、便所で背後に立たれたこともあったなあ。
 このアトリエの、いたるところで、オレはあの男に犯されている。同意の上での行為だ、犯すという言い方は相応しくないか。まぐわっている、とか? そのまま、セックスしている、とか?
「ヤりてえなぁ」
 導入したてのスリッパを、ぽいと脱ぎ捨てた。靴下を履いた足を、ひょい、椅子の上に引き上げる。体育座りしても、その回転椅子が傾くことはなかった。高かっただけのことはある。
 ゆるく回っている椅子の上で、そっと股座に手を伸ばした。
「ん、ぅ……」
 今日穿いているのは、伸縮素材のテーパードパンツ。硬すぎず、厚すぎず、それでいてキレイめに見えるコレは、着ていてとにかく楽。ついでに、ちょん、ちょんと押し当てていく指の感触もちゃんと伝えてくれた。布越しに擦るのは良くないとわかっていても、つい、捗ってしまう。
「ふ、ッく、んっ」
 主張し始める前のナニは、一、二度突くだけに留め、すぐに後ろへ指を伸ばした。会陰を辿るようにして、キュと窪んだトコロを探す。あの男に何度も暴かれた孔は、布越しにでも筋が入っているのがわかった。すっかり、作り変えられちまったなあ。そういえば、何日か続けて穿たれたこともあった。夜喧嘩して、夜中ヤッて、朝もう一回ヤッて、仕事して、その日のうちにまた絡まれたとやってきて、セックス。酷い睡眠時間が続いていたってのに、肌艶が良かったものだから、美容意識の高い同僚に詰め寄られたっけ。
 当時の激しさを思い出すと、いっそう腹の奥が切なくなってくる。
「ぁ、ぅう~」
 一番最初は、いかにもムラムラしています! って顔をしたドラケンを、ちょっとからかってやろうくらいの気持ちだった。なのに、こっちが搾り取られるし、あれよあれよと本番までしてしまうし。
 ……強引に迫ってくるドラケン、雄っぽくてカッコ良かったな。カッコ良いけど、可愛くもある。あんな獰猛な顔しておきながら、オレに突っ込むととろりと頬が緩むんだ。一応、情けない面を見せたくないとは思っているようで、必死に表情を取り繕ってるところも、気に入っている。
 あのぎらついた視線を浴びながら、後ろを存分に抉られたい。縁をぐぱぐぱ割り開いてほしいし、前立腺も徹底的に苛め抜かれたい。指でも良いけど、あいつのペニスの、カリ。引き抜かれながらあの部分で擦られるのが、最高にイイ。排泄感に似た快感と一緒に、オレの泣き所も善がらせてくれるんだ。良くないわけが、ない。
 ヤりたい。あの逞しいちんぽをぶち込まれたい。こっちのケツが捲れるまでずぽずぽされたい。
 ―― ドラケン、来ないかなあ。
 はふ、と息を吐いてから、渋々手をベルトに移動させた。ひょいと寛げ、ボタンを外す。ジジジと金具も下げて、染みを作り始めている下着ごと脱ぎ捨てた。椅子の上から、ぽいと床に放る。座面のメッシュが、尻に擦れた。ア、このざらざらに、先っぽ擦りつけたら気持ち良さそう。でも、シルクみたいな滑らかな布で磨くのも気持ちが良いんだよなあ。
 ……この一か月、あいつが来ないばっかりに、過激なオナニーを繰り返している。たぶんもう、オレのコレは、女の膣じゃ達せなくなっていることだろう。何年か落ち着かせれば変わるかもしれないけれど、今「はいどうぞ」とまんこを差し出されても、上手くできない気がする。
 折角カリ高なのに、情けなくなったな、オマエ。
 つんっと反り返った自身を突くと、先っぽからとろりとカウパーが溢れた。滲むなんて可愛らしいもんじゃない。出てきた透明な体液は、あっという間に竿を伝い落ちていく。息を荒げながらその滑りを掬い取り、もったいぶりながら後孔に塗り付けた。淫口と成り果てたソコは、滑らせるだけで指を食む。第一関節くらいなら、慣らさずとも痛まないようになってしまった。
「は、ふぅ……、ンッ」
 入れ込んだ指を、円を描くように動かす。あの男は、いつもどういう風にココを解していたろう。終わりが近付くと、かなり雑で荒々しい腰振りをするけれど、挿入するまでは結構ねちっこかったと思う。しつこく、ゆるゆるとオレの体を拓いていくのだ。そこでイカされまくってもしんどいし、寸止めを繰り返されてもしんどい。……でも、今はそれが恋しい。
 目を瞑って、埋めている指をドラケンのソレと言い聞かせる。んん、本物より細い。それに、指の腹も硬くない。動きを真似てみたところで、あいつに愛撫されている心地には至れなかった。
「んんん」
 ちゅぽちゅぽ抽挿もしてみるが、ピンとこない。快感を拾えないわけではないが、自分が求めているものとは月とスッポン。かけ離れすぎている。
「どぉしよ……」
 仕方なく、指をぷちゅんと引き抜いた。杭を失った孔が、ヒクヒクと震えている。慰めるように撫でたところで、物足りないことにかわりはなかった。
 こういうとき、玩具があればいいのだろうか。思い切って、ディルド、買っちゃう? ドラケンのアレって、何センチくらいだっけ。小さくても、大きくてもダメ。オレが欲しいのは、あの男のサイズ感。頼み込んで張形作らせてもらうか? ……こんなこと強請ったら、あいつ、「本物貸してやろうか」くらい言いそう。そうだよ、本物を使わせてくれるなら、それにこしたことはない。
「あぁあ~、あいつのオナホになりてぇえ!」
 下らないことを呻きながらも、疼く後孔へ指を二本突き立てていた。ぢゅぽぢゅぽ激しく腸壁を擦ってみる。だが、粘膜を擦られているな、以上の感想が出てこない。前立腺を狙うか、どうしようか。うんうんと考え込みながら、なんとなくクチを窄めてみる。割り開いていた尻たぶも戻し、内側の肉と外側の肉、両方を使って指を挟んだ。
「ん?」
 その、時だ。
 指の埋めていない部分に、ナニかが掠める。咄嗟に指を引き抜いて、その一点に添わせた。
「……なんだこれ」
 そこには、小さな粒があった。米粒よりも、小さい丸だ。突起という程の膨らみ方はしておらず、よく触ってみれば皮膚が盛り上がっている、と気付ける程度。汗疹だろうか。それかニキビとか。やだなあ、こんなところに噴き出物ができるなんて。ちゃんと清潔にしているのに。
 触るべきではないのだろうが、つい微かな丸を確かめるように撫でてしまう。……そこは痛くも、痒くもない。毛穴が詰まったとき特有のプツッとした点も感じられなかった。
「……んん?」
 そのままくるくると撫でていると、胸の底から既知感が込み上げてくる。ここに、触られたこと、ある気がする。誰に? 決まってる。ドラケンにだ。だって、オレの尻穴に触る奴、ドラケン以外に居ない。
 ふに、と、皮膚の薄くなっているところを押した。
「……もしかして、これが、ホクロ?」
 は、と思い出した。むにゅっと指を押し付けて、ぐにぐにと皮膚を揉む。そうだ、ドラケンに言われたことがある。エロボクロがあるって。アナルのすぐ脇に、ちょこんってあるんだって。
 視線を下ろしてみるが、反り返った陰茎しか見えない。竿を退けても、袋を包んでも、後孔を見ることはできなかった。
 けれど、気になる。
「んん」
 大きく股を開いて前屈みを試みるが、窄まりが見える前に腰が悲鳴を上げる。回転椅子はオレが身を捩る度にゆらりと回る。これ以上前に重心を移したら、椅子ごと倒れたっておかしくない。仕方なく、立てていた両足を、ぺたりと床につけた。
 こうなったら、写真を撮るか。でも、スマホでブレずに写真を撮れる自信もない。妹たちに映える自撮りの仕方を教わったこともあるが、どうもオレの身にはならなかった。
 じゃあ、どうする。足先を擦り合わせるようにして靴下を脱ぎつつ、ぐるりと室内を見渡す。
「あ!」
 そうだ、鏡を使おう。部屋の隅には、大きな姿見を置いている。普段は布を掛けて隠しているが、今こそ使う出番では? 立派な鏡の最初の用途が、エロボクロチェックと思うと笑えてくるが、まあ良いだろう。オレの所有物なんだ、どう使おうと、オレが良しと言えば良い。
 ぽいぽいと靴下を放り投げて、フローリングを素足で蹴った。ぺたぺた進むたびに、半勃ちの自身がぺとぺと揺れる。堪え性がないのもあって、床には転々とカウパーの水滴を落としていた。……掃除は、あと。自分の体を確かめるのが、先。そう決めて、姿見を隠す布に手を掛けた。
 ず、引き下げて、オレの身丈より高い鏡と対面する。うっすらと上気した顔が映り込んだ。それから、日焼けしてない生白い脚も。内腿の付け根は、とろりと濡れているのがわかる。自分の、オナる姿を映すって、なんだか気まずいな。でも、ホクロのことは気になる。どうにかして見ないと、気が済まない域に達している。
 どうせここにはオレしかいないんだ。誰かに見られることもない。自分を納得させて、床にそっと尻を下ろした。膝を立てた両脚は、Mの文字を描くように割り開く。たちまち、鏡にぐずぐずに熟れた陰茎が映り込んだ。
「ふー……」
 とくとくと、心臓が急く。片手を後ろにつきながら、もう一方の手で陰部を纏めて持ち上げた。腹側の方に押さえつけると、つるんとした会陰が見えるようになる。
「おわ、ここにもある」
 その滑らかな皮膚の上には、ちょんと黒い丸が乗っていた。腰をくねらせて角度を変えてみるが、ソコは完全に平坦。性器を押さえている手の、中指をどうにか伸ばしてみるも、凹凸は感じられなかった。これじゃあ、ホクロがあるなんて、気付かないよな。謎の感心を覚えながら、さり、さりっと会陰を擦る。この面も、一応、オレの性感帯の一つ。撫でてやれば、微弱な電流が走り出す。確か、この奥に前立腺があるんだっけ。後ろを穿たれながらココを揉まれると、大抵とろとろと精液を漏らす羽目になる。勢いがなさすぎるアレは、射精とは呼びたくない。かといって、漏精とも言いたくないが。精液漏らすってなんだよ、情けないったら。
「……ンンッ。じゃあ、ええと、」
 そのまま会陰に触れていたいところだが、床でM字開脚をキメながら会陰で絶頂したくもない。そんなことしたら、絶対に快感の尾が長く続く。余計に、ドラケンが欲しくなってしまったら、困るだろ。
 咳ばらいをしてから、どうにか腰を浮かせた。……見えそうで、見えない。開脚するより横向きで尻たぶを割り開いた方が見えるだろうか。かっ開いていた脚を、ぺちょりと揃える。下半身を横たえながら尻を鏡に向けた。そして、天井側の尻たぶを鷲掴みにする。
 グ、力を込めると、ヒュ、粘膜に空気が触れた。
―― ナニ、してんの」
「へ」
 後孔が、ひくんと震える。体は、尻を割り開くという間抜けな格好のまま、凍り付いた。
 かろうじて動く眼球が、姿見の上半分へと視線を運ぶ。……その隅には、一人、男が映っていた。部屋に入ってすぐの壁にもたれかかって、こちらをじぃと見つめている。緩く纏めた髪は、馴染みの金髪ではなく、黒。真っ黒だ。しかし、こめかみに入った龍は、ちゃんとその姿を見せている。
 あ、ドラケン、髪染めたんだ。いや、そうじゃない、だろ。今、大事なのは、そこじゃあない。
 ドッと心臓が一際大きく脈打った瞬間、男の鏡像はにんまりと口角を吊り上げた。
「ッ不法侵入!」
「合鍵くれたのオマエだろ」
「いっ、いつもは、ピンポン、する、じゃん」
「なんか気分じゃなかったんだよね」
 慌ただしく膝を抱えて蹲るが、剥き出しの尻を上手く隠すことはできない。今日のシャツの丈じゃ、どう引っ張ったって足りなかった。
 今、近付かれたら、ぺろんと尻を撫でられてしまう。太腿をねっとりと揉んでくるかも。ああ、考えただけで悦に浸れてしまう。……だから、そうじゃない。
「こういうの、虫の知らせって言うんだっけ」
「……ぜったい、ちがう」
「あれ、じゃあなんて言うの」
「オレが知ってると思う?」
「テストの点数、オレよりは良かったろ」
「服飾のベンキョーはじめてから全部忘れた」
「ふ、ックク、そっか」
 羞恥と焦燥感に苛まれているうちに、ドラケンはオレの真横にやってきていた。高いところから、にやけた視線が降ってくる。見慣れない髪色をしているせいか、意地悪な目付きだというのに、妙な色気を纏って見えた。心臓が、喧しく脈打つ。全身を巡る血液は、勢いを増す一方。柄悪くしゃがみ込まれてなお、キュンッと胸は愛おしさに絞めつけられた。
 来て欲しい。そう、思った。でも、こんなタイミングで来なくたって良いじゃないか。オマエはいつもそう。オレが未だ嘗てないほどの怠惰や淫蕩を噛ますたび、現れる。カメラでも仕込んでいるのか。いっそ、そうであって欲しい。勘でオレの妄りがましさを察知されるなんて、対策のしようがないじゃないか!
「で?」
「……あ?」
「何してたんだよ。そんなカッコでさ」
「……別に、」
「別にってこたねえだろ。自分のえっろい姿見ながらシたいって言うんなら、手伝うぜ?」
 ドラケンの口からは、心底愉快そうな声が連なって発せられる。もし、これが逆の立場だったなら、オレもこいつと似たような表情を浮かべた事だろう。
 相変わらず厭らしい顔をしているドラケンは、右手の指で作った円に、左手人差し指を潜らせて見せる。セックスの隠喩。もはや知れ渡り過ぎて、隠喩と表現するのも相応しくないのかもしれない。
 そりゃあ、ドラケンとえっちできるなら願ったり叶ったり。……それはそれとして、素直に「手伝って?」と強請るのも、癪。
 そもそもさあ。
「手伝う、じゃ、ヤダ」
「うん?」
「だって、―― セックスは一緒にするもんだろ」
 じっとりと目を据わらせながらぼやくと、傍にある一対の目がぱちぱちと瞬いた。髪は黒くなって、大人びて見えるのに、見せる仕草はちょっと幼い。
 なんだよ、このギャップ。嵌りそう。黒髪になったドラケンも、きっとトロ顔はする。オレのナカに捻じ込んで、気持ち良いって破顔するはずだ。見たい。大人の男の色香をより強く匂い立たせている見目が、恍惚に染まるところ、なんとしても見たい。
 そのためには、自慰の手伝いじゃあだめだ。
 二人でする、セックスじゃなくっちゃ、ダメ。
 む、としながら睨み続けていれば、くしゃりとドラケンが破顔する。ああ、だから、そういう子供っぽい顔するなよ。余計にきゅんとしちゃうだろ。
「ご尤も」
 ご満悦に言ったそいつは、流暢にオレの体を組み敷いた。

◇◇◇

 たかが一か月。されど一か月。
 あんなにもちんぽを欲していたくせに、オレの体はなかなかその肉棒を咥え込むことができなかった。というか、ぎゅうぎゅうに締め付けてしまって「痛え!」と抜かれてしまったのだ。
『オレのちんぽが!』
『これ、オマエのじゃねーんだワ』
 咄嗟に喚いたら、即座に飛んで来る否定。ついでに頭もぺちんと叩かれた。
 仕方なく、愛撫を受け入れること数十分。ようやく満足のいく解れ具合になったらしい。久々の手マン―― マンじゃねえけど―― は、困るくらいに気持ちが良かった。体のどこにも力が入らない。それはドラケンもわかっているのだろう。床じゃ痛いからなーなんて呟きながら、オレの体を抱え上げる。
 そして、胡坐を掻いたそいつの上に、オレの体は乗り上げた。背中を預ける格好で、両脚はだらしなく開いている。姿見の前で、全裸開脚する日が来ようとは。頭の片隅にあるかろうじて冷静な部分が、ため息を吐く。とはいえ、その羞恥心が体の主導権を握ることはない。今の自分には、欲を満たすのが最優先。一刻も早く、背後の男に熱杭を穿って欲しい。
 鏡越しにドラケンを見つめると、切れ長の目がきゅうと細められた。
「腰、浮かせられる?」
「……できるとおもう?」
「無理ね、オッケー」
「あ、ゥ」
 掛けられた質問に質問をぶつけ返すと、耳のすぐ傍からクッと喉で笑う音がする。かと思うと、ドラケンの逞しい腕が膝の下に入り込んだ。折れ曲がっているところに引っかかりつつ、指先が足の内側を這い始める。膝の骨、の、辺りは、まだいい。擽られたところで、そこまで過剰には反応しないで済む。
 けれど、そこから上は、というと。
「ぁ、ふ……、んっ」
 柔いところが擦れるたび、口からは蕩けた音が零れた。
「んっ、んん、ゥ」
 するすると、骨ばった指は内腿の付け根に辿り着く。筋肉のつきそびれているソコは、ふわふわと柔らかい。そのせいか、オレを撫でる手の、皮膚の硬さをまざまざと感じてしまう。バイクを整備するあの手が、オレの体を弄んでいる。そう思うと、ぞくり、腰が震えた。
 ビキビキに張り詰めた怒張が縁に触れる。姿見には、熟した後孔に肉棒が沈んでいく様が映っていた。ああ、入る、入っていく。ピンク色の膜に覆われた先っぽが、じっくりとオレの秘部に隠されていった。
「っはァ、んっ、ン……」
 零れそうになる声をはくんと飲み込む。頭をドラケンの肩のあたりに預けながら、喉を剥き出しにするように仰け反らせた。片方の脚、その膝から先がピンと伸びる。
「あらら」
「……ンだよ」
「いや。甘イキしちゃったなと思って」
 頭を預けたまま、ちらりと視線を持ち上げた。すぐそばにいる男は、じぃとオレの下腹を見下ろしている。つられて、自分も視線を下げた。
 腹の上で、くたりとしているソレ。先っぽからは、とろとろと白濁を漏らしていた。ああ、会陰責めされたときになるやつじゃん。スキッと射精できたわけではいから、ふわふわと浮いた心地がして、頭は冴えてくれないソレ。
 これも、イッたって、言うのか? ドラケンに後ろを穿たれた時の、抗いようのない絶頂感はない。まあ、気持ち良かったとは思うけれど、この状態が長く続くと、頭が狂いそうになるんだ。勝手に漏精と命名していたけれど、表す言い方があったのだろうか。
「どらけん」
「んー?」
「あまいきって、なに」
「今のオマエみたいなイキ方」
「……これ、あまいきっていうの」
「たぶんね」
「ふぅん……」
 誰に聞いたんだよ。疑問が頭に浮かぶと同時に、どういう状況でそんな話を聞いたんだと気になってしまう。
 まさか、オレ以外の誰かともこういうことしてんのか。その別のオトコから甘イキとやらの情報を仕入れたというのか。セックスするなら、オレにしとけよ。そしたら、オレだって欲求不満に苛まれずに済むだろうが。
「……」
 腹の底から込み上げてきた不満を、ひとまずごくんと飲み下す。落ち着け。ドラケンが他の男と寝てようが、文句を言える立場にオレはない。それ以前に、こいつの性的な知識は八割方、実家とも言えるヘルスから得たものだ。甘イキ云々だって、店のお姉さんたちから聞いたに決まっている。他の男なんて、オレの被害妄想でしかない。
 息を小さく吸い込んで、細く吐き出した。
「……どらけん」
「ん?」
 視線の先にあるペニスは、ようやく吐精を終える。試しにツンと突いてみると、まあ柔らかかった。けれど、ぼおっとした熱さは残っている。芯は、残っているらしい。
 ぼんやりと見下ろしながら、切っ先に残った白濁をくるくる塗り伸ばした。薄皮一枚だけに触れるような手つきにしたのもあって、もどかしさが迫ってくる。ふわふわと腹の奥が浮かぶような心地もした。甘イキ、ねえ。こういう自慰を続ければ、浮遊感に近い高揚を得られる。それは、知っている。オナってるときにうっかり陥ったこと、あるし。気持ち良いは気持ち良い。まあまあ、わかっている。
 でも、そんな曖昧な達し方より、今はもっと苛烈な絶頂を味わいたい。
「もっと、おくまで、ちゃんと、はめて」
 強請るように、腰を揺らした。まだ、後ろには先っぽしか埋まっていない。ちょうど、カリ首のあたり。おかげで、後孔は必死にクチを開けていた。縁が押し広げられるのは、気持ち良い。この浅いところを、エラでちゅぽちゅぽほじられるのも好きだ。だが、今は奥まで埋められたい。根元まで嵌めこんで、この男の逞しい熱を存分に感じたい。
 ばちゅんっと下から突き上げてもらえるのを期待して、わざと媚びるように腰をくねらせた。
 ……しかし、その刺激は、いくら待てどもやってこない。オレの体を支えている手には、力が込められたままだった。太腿から臀部にかけてのラインを押さえて、深く埋まらないよう抱えられている。
「ドラケン、」
「久々だし、ゆっくりしない?」
「そういう、気分じゃない」
「大丈夫だって、ちゃんと奥まで嵌めはするから」
「オレ、ガッと突っ込まれたいんだけど」
「それはだめ」
「ハ?」
 オレの希望をさくっと一蹴したそいつは、ようやく肉棒を押し込み始めた。くぽんっと、張り出ているところがナカに入る。ラテックスを纏ったソレは、じわり、じわりとオレの直腸に侵入してきた。
「たとえばさ」
「あ、ぅ、オイッ!」
 疼く肉壁も、時間を掛けながら割り開かれていく。あまりにもゆっくりと入り込んでくるせいで、雄のカタチがまざまざと伝わってきた。まるで、ナマでハメたときのよう。あれ、もしかして今日のゴム、〇・〇一ミリにしてくれたのかな。破れそうと言って、これまで極薄のそれは使ってくれなかったのに。
「ンッ、ぁ……、はぁ、」
 一思いに、貫いてほしい。そう、思っていたのは、確かだ。いっそ、オナホのように扱われたいとすら思ったほど。
 けれど、いざじっくり暴かれると、「これでも良いか」と思ってしまう。だって、気持ちが良い。オレ、ほんと快感に弱いよなあ。結局、気持ち良ければなんだってよくなってしまう。
「ゆっくり前立腺、潰されたら」
 耳元で、濡れそぼった声がした。は、と正面を見やると、ドラケンがオレの耳介に唇を寄せているのが見える。肉厚なソコが開いて、先の尖った舌が垣間見えた。
 かと思うと、ぬぢゅり、耳に水音が飛び込んでくる。
「ひ、ぃぅ、ン゛」
 たっぷりと唾液を纏ったソレが、オレの耳を執拗に舐る。合わせて、腹のナカではでっぷりとした亀頭が前立腺に触れ始めていた。尻を掴んでいた手の片方は、いつの間にかオレの下腹を撫でている。まるで、どこまで入ったかな、と確かめているかのよう。
「ぁ、んっ、ぉ、ヴ」
 耳を犯す舌はそのまま、切っ先がナカの膨らみを抉りだす。指での愛撫が、可愛らしいものに思えてきた。ふっくらとしたソコが、硬く充血した塊で脅かされていく。ぴくん、両脚が震えた。膝から向こうが、変に力み始める。ピンと伸びては打ち震え、また空中を蹴り上げては固まる。
 だめ。だめだ、これ。だめな、イキ方、しちゃう。教わったばかりの甘イキとは別の、ダメになる達し方をしてしまう。
 恐怖に近い予感が過るや否や、―― ぎゅぢゅぅう、と。ついにカリ首が膨らみに引っかかった。
「~~ッオ゛、ァッ、……アひ、ぅ」
 両足が空を蹴る。がくんと頭は後ろに倒れ、びゅるっと尿道から何かが噴き出した。今日の中で、一番勢いがあったように思う。水が床に飛び散る音まで、室内に響いた。
「すっごい気持ちよくなれると思うんだよなあ」
「た、ぢゅ、ねる前に、やる、ンッ、なよぉ……、ア」
「ああ、想像してからされたかった?」
「ち、がぅ、ヴ、んっ」
「はは、すげえシまってる。きもちぃー……」
「ん゛ふ、く、ぅ、オ」
 仰け反りかけた背は、ドラケンに抱え込まれて阻まれる。そのせいか、快感が体の先まで流れ損ねた感触がした。痺れのような悦が、腹の中央に残っている。それも、ドラケンの手で覆われているすぐ下に。収まらない疼きで、腸壁は妄りがましく男の熱に絡みつく。おかげでまた前立腺が押されてしまい、享楽の繰り返し。痙攣が、いつまでも終わらない。
「すっごいビクビクしてんね」
「ふ、う、ヴゥ……。ぁ、あっ、やら、おなかおさ、なぃ、でェ……」
「あと、ほんとスベスベ。偉いよなあ、ちゃんと処理してて」
「ひ、ぁぅ、あ゛」
 相変わらず、ドラケンはオレの耳元から喋りかけてきた。舌こそ退いてくれたものの、ふうーっと細い吐息をかけてきたり、気まぐれに耳介を食んできたり、オレを責め立てることに余念がない。
 加えて、平らな腹をまあるく撫でてくる。ひとしきりくるくると下腹をあやしたところで、悪戯な指先は恥骨の上を引っ掻いた。指摘されたとおり、ソコは手入れをしている。いくら撫で回されても引っ掛かる感触はしない。好きだろ、ツルツルなの。もう少し余裕があれば、そう煽ってやったのだが、後ろの余韻の凄まじさで喘ぎ声を漏らすので精一杯だった。
「ぁ、」
 そのうちに、手の平は上体へと滑り込んだ。時には情動を宥めてくれる手だが、今はオレを昂らせるために動いている。長い指が肌を這い上って来た。それに呼応して、手首はシャツを捲りあげる。
 ゆっくりと引ン剥かれていく様は姿見にも鮮明に映り込んだ。肌の露出が、じわじわと増えていく。臍が見え、鳩尾が覗く。平らな胸部に辿り着き、ぷっくりと勃った乳首まで晒された。
「そういえば、あんまり触ったことねえよな、ココ」
 硬い指が、おもむろに突起に伸びる。すぐに爪先が付け根を掠めた。軽く乳輪をなぞり、豆粒大のソコをくにりと抓む。捻る。捏ねられ、る。
「~~ゥんっ」
「ウッワ、モロ感?」
「んクッ、ぁ、きもちぃ、」
「そっかあ、気持ちいかあ」
「ひグ」
 ぴりっと走る刺激に身を捩らせるが、その程度で指先は外れない。むしろ、粒が歪むくらいの力で掴まれた。ちょっと痛い。しかし、オレの「ちょっと痛い」は、多くの場合ドラケンの手によって「気持ちがいい」に塗り替えられる。それを学習してしまったこの体は、まだ痛いにも関わらず、この痺れを悦と解してしまった。
 弄られているのは確かに乳首なのに、ペニスを刺激されているかのような心地になってくる。指先を擦り合わせるようにして、突起を扱いているからかもしれない。
 あ、ああ、乳首、しこしこされてる。先っぽの窪んだトコロ、爪で引っかかれるの、気持ち良い。乳輪さわさわされるのも、くすぐったくて、ア、ア、どうしよう、イッちゃいそう。
「ぅ、うっ、ィ、ン゛」
 下を見れば男の手指がオレの体をまさぐっているのが見える。顔を上げれば上げたで、蕩け顔でその愛撫を受け入れている自分の鏡像が視界に飛び込んできた。見えない方が、まだ精神を擦り切れさせずに済むだろうか。ぎゅっと目を瞑ってみるが、……かえって与えられる刺激に意識が持っていかれた。乳首を責めるのはもちろん、アナルに埋まった熱のことも、思い出してしまう。
 何をしても、快楽が隣にいる。求めていた苛烈さはないけれど、オレの退路を断たせる程度に周到ではあった。
 もお、だめ。我慢なんて、していられない。
 ギチリと突起を潰された瞬間、足がピンッと伸びた。埋まっている怒張のことを、媚肉はぴったりと抱きしめる。一寸の隙間も許さない。その絞めつけによって、肉棒は前立腺にも食い込んだ。一つの快感が、次の快感を呼び、その悦楽はさらに別の享楽を引きずりだす。
 殴打のような愉悦に、襲われた。
「~~ッ♡」
 がくんと体が震え、柔らかかったはずの自身から白濁が飛び出す。存外勢いのあったそれは、姿見へかかった。磨かれた鏡面に、どろりとした液体が伝う。その濁った雫が床に落ちる頃、ドラケンも熱を吐き出し切ったようだった。耳元で直接響く荒い呼吸が、すごく、セクシー。絶頂に至ったはずなのに、新たな熱が燻ぶり始めた。
 どうしよう。もっと、シたい。いっぱいシたい。あわよくば、この薄い膜を取っ払った状態で耽らせてほしい。今のハラワタに熱を注がれたら、さぞ気持ちがいいことだろう。
「……ア、そーだ、」
 うっとりとしていると、掠れた声が耳に入り込んだ。それと同時に、ぬぽっと後孔の栓が外れる。白濁を受け止めたゴムが、ぼてっと垂れた。鏡には、ぽっかりと開いた淫口が映る。白く泡立った潤滑剤も、真っ赤に充血している粘膜も、妄りがましく痙攣している縁も。ドラケンの手で尻たぶを割り開かれたのもあって、本当にすべて、よく見えた。
「ぁ」
 ―― ちょんと乗った、小さな、点もだ。
「……どお、見える? このホクロ」
 頷く代わりに、きゅぅうと後孔が窄まった。