七
それをするかどうかは、いつもオレに委ねられていた。
よれよれの腕を、必死に男に伸ばした。背中に回して、ありったけの力でしがみつく。その皮膚に、爪が食い込んだ。素面だったら、血の気が失せていたことだろう。でも今は、多幸感と万能感に溺れている。その男の背中に、傷を付けた感触すら、悦を増長させる一端になった。
好き。好きだ。ドラケンのこと、大好きなんだ、オレ。浮かんだどの言葉も、喘ぎになるのを良いことに、目一杯、愛を叫んだ。
◇◆◇
やらかした。
いやはや、まったく、オレは一体何をしているんだ。冷静さを取り戻した今、「やらかした」の五文字に苛まれていた。これまでも幾度となく「やりすぎた」と後悔することはあれど、今日ほど落ち込んだことはない。
シャワーを浴びた程度の時間じゃ、気を落ち着かせることができなくて、冷めた湯に体を放り込んだ。ああ、でもこのままじゃ体が必要以上に冷える。風邪を引いたら、あいつ、しつこく看病しに来そうだな。のろのろと腕を伸ばし、追い焚きのスイッチを押す。いいなあ、追い炊き機能付き。浴室乾燥もついてるし。この家は、自分にとってあまりに居心地が良い。なんせ、あの男の、家だから。
そうこうしているうちに、足先が熱くなってきた。熱から逃げるように、ぎゅうと膝を抱える。小さく座って俯くと、たぽんと唇が湯に沈んだ。ずるずる腰を滑らせていけば、鼻も水面の下に潜る。細く吐いた息は、泡となって浮かんでいった。
セックスをした。ついに、抱かれてしまった。抱いてくれと、頼んでしまった。
「ぁぁあぃあ」
呟いた言葉は、お湯の中に溶けていく。
週一ペースで顔を合わせ、ことあるごとにキスをして、挿入以外のことは一通りやった。その時点で、ただのダチとは言い難い。でも、付き合おうという言葉を交わしたことは、一度もなかった。その上でヤッてしまったとなると、もはやこの関係はセフレ以外の何物でもないのでは。
昔は、あの背中に憧れていただけなのに。どうしてこんなに爛れてしまったのだろう。
目を閉じて、だぽんと頭のてっぺんまで湯水につかった。
「……起きたんだ」
「ん、さっき。悪い、そのまま寝ちまった」
「いいよ、別に、それくらい」
よたよたと部屋に戻ると、そいつも起きたらしかった。ベッドに腰掛けて、スマホを触っている。前は暇さえあれば筋トレしてたというのに、この現代っ子め。
タオルで髪を拭くふりをして、ドラケンから目を離した。下着こそ履いているものの、それだけだ。同じ男同士、裸なんて何度も見ている。しかし、見ていられなかった。あの体に、ついさっきまで組み敷かれていたと思うと、頭がクラクラしてくる。
下向きの視線で、どこに座ろうかと行き場を探した。昨日までだったら、ちょっとくらい気恥ずかしくても、ベッドに転がっていた。けれど、今日は、無理。されないとわかっていても、また押し倒されるのではないかと身構えてしまう。……されたらされたで、喜ぶんだろう。また喘ぎ塗れになる自分が過って、いっそう鬱屈としてくる。
できれば、その男から離れたところにいたい。かといって、あからさまに避けたら、絶対に迫ってくる。迷いに迷って、ベッドの下に腰を下ろした。
「こっち座れば」
「いい」
「なんで、尻痛くない?」
「……大丈夫、だから」
「ほんとかよ」
「ぅあッ」
頑なに目が合わないよう俯いていると、ずぼっと脇の下に手を差し入れられた。驚いたのもあって、脇を締めてしまう。おかげで、がっちりとドラケンの手が固定された。
あ、失敗した。
思うと同時に、体がベッドへと引き上げられる。さらには、ぺったりと背中にくっつかれた。肩には顎を乗せられる。タオルが無かったら、頬がぶつかっていたかもしれない。
どくん、心臓が呻いた。風呂上がりで血行が良くなっている、というのを理由に誤魔化せるだろうか。Tシャツこそ着ているが、オレとドラケンを区切るものはその綿の布一枚だけ。腹に腕を回されると、工事音かと思うくらいに喧しくなってしまう。うるせえ。こんなに騒がしく鳴るんだったら、いっそ止まってくれ、頼むから。
被ったタオルの端を、ぎゅう、握りしめた。
「あっつ、もしかして風呂にも入った?」
「う、ん……。ごめん、勝手に追い焚きした」
「それはいーけど。辛くない、体平気?」
「……っ」
タオルを挟んだ向こうから、囁くような声がする。どうして、そんな声を潜めるんだ、普通に、話してくれ。じゃないと、さっきまでの情事を思い出してしまう。風呂のせいではなく、この男のせいで逆上せそう。湯に浸かっている時以上に、体が熱くなってきた。
火照ると、どうも、数時間前の肌の温度が思い起こされる。じゅわ、り。腹の奥が、疼いた。濡れるはずないのに、ナニかが滲むような感覚に陥る。そんな馬鹿な、注がれた潤滑剤は、ちゃんと、さっき掻き出した。うっかり、イイトコロに触れてしまって、浴室で喘ぎかけたのは黙っておこう。バレたら最後、後処理までこの男にされる羽目になる。……いや、いやいや、次があるとは、限らないだろう。あるかな。あるか。あるよなあ。絶対に、来週、またこの男に自分は抱かれる。
疼きが、酷く、なってきた。これ以上、ドラケンの傍にいてはいけない。帰ってきた理性に、また家出されてしまう。「やりすぎた」って、後悔したばかりだろ。しっかりしろ。
そっと内腿を擦り合わせながら、タオルの向こうにある顔を盗み見た。
「ん?」
あ、無理、目が合った。
「どした、三ツ谷」
すぐに逸らせばいいのに、視線はまんまと絡めとられる。数センチ先の、甘い瞳から目を離せない。痺れるような欲が立ち上ってきた。だめ、本当に、駄目。このまま、この男の傍にいては、駄目になる。人間としての何かが、確実に終わってしまう。
「……ぇる、」
「え?」
「かえる」
「は、だめ」
「やだ、帰る」
「どしたの、三ツ谷?」
気付くと、情けない駄々が口から漏れていた。帰る。帰るったら帰る。お家、帰る。幼い頃の妹のように、ぐずぐずと我儘を繰り返した。……ルナもマナも「お家、帰りたくない」と泣きわめくことばかりだった。そういう意味じゃあ、妹たちとはあまりに異なる。しかし、背後の男がオレを宥める手付きは、「帰りたくない」とぐずるあいつらをあやすオレのソレと近い。もはや同じではないだろうか。そういえば、ドラケンに遊んでもらって「帰んないで」と喚くあいつらを二人で宥めたこと、あったな。懐かしい。
在りし日の思い出に耽っている場合ではない。
「~~ッもうさあ!」
「うん」
オレを帰すまいと、ドラケンの腕に力が籠る。それに歓喜してしまうのが嫌で、声を張り上げた。
言うなら、今だ。この、定義できない曖昧な関係に白黒つけるなら、今しかない。これを逃したら、もう一生、中途半端な関係で居続けることになる。
ぎゅ、と一度喉の辺りで呼吸を止めてから、ずっと言いたかった言葉を絞り出した。
「こういう、こと、やめよう……」
「こういう、って?」
「……恋人みたいな、セフレ、みたいな、こと」
やめよう。やっとの思いで目を逸らせたものの、繰り返した語尾は、一回目に発したもの以上に小さく、か弱くなってしまった。まるで、自分の意思の弱さを映しているみたい。
言った傍から、やっぱり今のナシと捲し立てたくなってくる。一度声にしてしまったのだ、ナシと突っぱねたところで、どうしたんだと問い詰められるに決まっている。
……いや、ドラケンだし、な。そっか、と言ってそれ以上追及してはこないかもしれない。それは、それで、なんかヤダ。本当に自分が面倒くさい。オレはこれほどまでにうじうじと思い悩む質だったろうか。割と思い切りはいい方だと思っていたのに。この男が絡むと、どうも臆病になってしまう。
「……」
「…………っ」
ドラケンの反応はない。ただただ、静か。腕の力は増しも減りもしない。こいつとの沈黙が気まずいと思ったの、いつぶりだろう。小さく下唇を噛んだ。熱いのに、妙に乾いている。風呂に入ったせいだろうか。ちょっと噛んだだけで、ソコはちりちりと痛んだ。
「三ツ谷」
「……ッス」
「いやに、なった?」
「ぁ」
ふと、腹に回されていた腕の片方が離れる。かと思うと、オレの被っていたタオルがするりと奪われた。つい、追いかけるように首を捻ってしまう。……おかげで、オレをまじまじと覗き込む目に、捕まった。
ああ、まただ。また、この黒目に捕まった。逸らすことを、簡単には許してくれない切れ長の目。見つめられると、いつだってオレの感情は昂ってしまう。唇を噛みしめているのもあって、口がヘの字に歪んだ。
「……うん、イヤに、なった」
「嘘吐け、ヤなんて顔してねえぞ」
「してる、してンの、勝手にオレのこと決めつけんな」
「そりゃご尤も」
「ぅムッ」
精一杯強がってみせると、今度はちゅっと口を啄まれる。それから、噛むなと言わんばかりにチロリと舐められた。ただでさえ熱を持っているのに、火を噴きそう。合わせて、幸福感に襲われ、「中途半端でも良くない?」と過ってしまう。良く、ない。良いわけない。ないったら、ないの。
何度も口付けてくる男の額を、ぐ、突っぱねた。いい加減にしろ。こうやれば、オレが絆されると思ってるだろ。その通りだよ。だから、もう止めてくれ。この関係を、はっきりさせたいんだ。
「ぁ、もぉ、だからッ」
「ん?」
「オレらって、なに」
指の間から、男の片目が覗く。だから、その目を向けるな。きゅっと指を閉じようとすれば、そいつの手に阻まれた。ついでに、右手を絡めとられる。指の一本一本を組ませるように、手を繋がれた。恋人繋ぎ、だ。脳裏を掠めた単語に、手を思い切り振り払いたくなる。
恋人じゃあ、ない、ってのに。
「つ、付き合ってもないのに、こんなことまでするって、おかしいじゃん」
少なくとも、オレの辞書には、おかしいと書いてある。結局、振り払えなかった手を握りながら、じ、オレを抱える男を睨んだ。
「オレらってなんなの、どういう関係」
「んん、ん~、……あ、」
「双龍、なんて、言葉で、誤魔化すなよ」
「……誤魔化そうとしたわけじゃないんだけどな」
ぱかりと開いた口を、先に堰き止める。コイツが好んで使う単語だ、それでいて、使い勝手が良い。
双龍、ね。不良やってた頃なら、ちょっと気恥ずかしさを抱えつつも満更でもない受け止め方をできたろう。しかし、もうそんな歳じゃない。オレもドラケンも、真っ当に生きている。
「そーだなあ」
困ったように笑ったドラケンは、ぎゅむぎゅむとオレの手を握り返してきた。こっちの手の方が熱かったのだが、だんだん体温が混ざり合っていく。熱いのも冷たいのも、わからなくなってきた。
そいつが口を閉じてしまえば、必然的に沈黙が返ってくる。聞こえるものといったら、互いの呼吸と、自分の心音くらいのもの。逸る心臓は、それだけで気持ちも焦らせた。黙ってないで、早く何か言ってくれ。目で訴えたところで、ドラケンが口を開く様子はない。ただ、オレのことを甘く眺めてくるだけ。
問い詰めているのは、こっちのはず。なのに、追い詰められた気分になってきた。心臓を、口からぼったりと吐き出してしまいそう。そんなのごめんだ。なのに、意に反して口は開く。
「付き合ってない、よね」
「うん、ないね」
勝手に舌が回りだした。
「じゃあ、恋人じゃあない」
「そうなるな」
「でも、ただのダチにしては、」
「やりすぎてるわな、色々と」
「……なんなの」
オマエは、この定義しようのない関係が気持ち悪くないのか。どこにも属せない、説明しようのない関係を、不安に思うことはないのか。オレは怖くて仕方ないよ。良い悪い・好き嫌いを言葉にするオマエが、あえてはっきりとさせないなんて。それくらい、些末なことだと思ってる? いつ消えても構わないものだと解してる? まあ、都合の良いこと。あんまりだ!
「なんだろうね」
「なんだろうねじゃなくッ!」
ようやく、繋がれた手を振り払えた。体を捻って、振り返って、作ったばかりの握りこぶしで晒されている胸を叩いた。一枚でも着てくれていれば、胸倉を掴めたってのに。
声を荒げたオレに、そいつは一つ瞬きをする。何故怒っているのか、まるでわからないという顔。人の感情の機微に敏いこいつが、どうして、なんて顔をするとは。オレがおかしいのか。まさか。
そいつの、見目の割に厚みのある唇が、はくんと動いた。
「―― なんでもよくない?」
顔が歪むのが、嫌でも、わかった。
両手に力が籠る。握りこぶしの中で、爪が手の平に食い込んだ。
「~~ッふざけン」
「だって、オレと三ツ谷の仲を、恋人なんて、そんな軽い言葉で片付けられたくない」
淡々と喋ったそいつは、オレの両手を柔らかく包む。一回りは大きいそれらに揉まれて、強張っていた拳は瞬く間に緩んでいった。
あーあー、手、力み過ぎ、皮膚裂けるぞ。呆れた声が、鼓膜を震わす。そいつの親指が手の窪みに触れた。爪の跡は、ついている。けれど、血が出るには至っていない。それを確認すると、ドラケンの顔が持ち上がる。ば、ちん、と。目が、合った。
「そんな甘ったるいだけの仲じゃねえだろ」
「……じゃぁ、なんなの」
「んんー、これっていうのがなあ。ダチとか、親友とか悪友とか相棒とか、あと恋人とかセフレとか、嫁とか旦那とか。それのどれかにだけ当て嵌めるのなんて、無理」
改めて、両手の指が、きゅうと絡めとられる。オレを見つめてくる目に、からかいや冗談めかした装いはない。本心で、そう言っているらしかった。
わな、と、唇が震える。恋人でもなければ、ダチでもない。じゃあ、オレって、なに。オレらって、なんなんだよ。
困惑が過ぎて、頭の中が白くなってきた。この関係にも、なにか、それらしい言い方があるのだとばかり、思っていた。しかし、どうもそうではなかったらしい。
オレは、この男にとって、何者にもなれないのか―― 。
「三ツ谷は、三ツ谷だよ」
「え」
「しっくりくる言い方がない。オレにとって、三ツ谷は「三ツ谷隆」っていう特別なの」
いよいよ、脳みそから思考の全てが消えうせる。
オレは、オレ? 三ツ谷は三ツ谷という台詞だけが、ふわふわと浮いている。意味がわからない。なのに、過った絶望があやふやになっていく。
あ、そうだ、とくべつ。こいつ、特別って、言ってた。オレは、オレっていう、とくべつ。とくべつ?
「うーん、伴侶? ちょっと違うな、オレが一方的に道連れにしたいって思ってるだけだし」
理解が追い付けずに固まってしまう。そんなオレを余所に、ドラケンはうんうんと首を捻っていた。豊富とは言い難い語彙から、それらしい表現を探している。だが、なかなかコレという言葉は出てこない。挙句、三ツ谷は三ツ谷なんだよとぼやき始める始末。堂々巡りだ。
小さく息を吸って、ゆっくり細く吐き出した。
「……道連れ、って、どこに」
「うん? どこ……、どこだろう、地獄とか?」
「ついてっていいの」
「エ、地獄だぜ、いいの」
「うん」
「……ほんと、に」
「うん」
こくん、こくんと頷いているうちに、ちょっとずつ落ち着いてきた。
恋人ではない。セフレと呼ぶのも気が引ける。かといって、ダチという枠にはもう収まりきらない。悪友、親友、相棒、どれもそう。かつ、伴侶と呼ぶのも、今この状況においては相応しくない。オレは、この男にとっての、どれでもない。どれでもあるけど、どれでも、ない。
だって、自分は三ツ谷隆だから。
すとんと、肩から力が抜けた。知らぬ間に、オレはこいつにとって、定義の難しい存在になっていたらしい。
なんだ、それほどまでに、想ってくれていたのか。
なら、もう、充分。
「どこにだってついてくよ。……―― 愛して、くれるなら」
ぎゅ、と、両手がきつく握られる。顔色一つ変えないくせに、手は雄弁だ。応えるように握り返しても、目の前の男は表情を崩さない。瞬きをするのみ。
この様子だと、それとなく混ぜた嘘には気付いてなさそうだ。別に、オレはこいつから愛の見返りなんて求めていない。一方通行な献身を許してさえくれれば、構わない。……それはそれとして、散々オレの気持ちを振り回した意趣返しはしたかった。我儘とも、言う。
「これって、愛なの?」
「愛だよ」
「そんな綺麗なモンかね」
「愛が綺麗なんて、誰が決めたんだよ」
ようやく返ってきたのは、素朴な疑問。へえ、ドラケンって、愛イコール綺麗と思ってるんだ。案外、ロマンティスト。残念だけど、愛ほど強い感情が、綺麗で済むことなんて、ほとんどないと思うよ。あくまで、オレの価値観だから、世の中を見渡したらそうでもないのかもしれないけど。
「オレは、龍宮寺堅って男を愛して、もう随分経ってる」
滑らかに舌が動いた。言い切ってから、あれ、これじゃドラケンに重苦しい執着してるって思われる? なんて疑問が過る。……それも事実か。オレがこいつに固執しているのは間違いない。初めて会ったあの夜に抱いた憧れから、まあ様変わりしたものだ。原型を留めていない感情は、綺麗とはとてもじゃないが表せない。
眼前の男は、一度口を開けて、すぐに閉じた。噤まれた口は、むにゃむにゃと波を描く。やがて、躊躇いがちに、封を切った。
「愛、愛かあ」
愛。あい、あい、あーいー。
開いたばかりの底から、ぽろぽろと「愛」の言葉が零れていく。馴染みがないのだろう。良い悪い・好き嫌いはハッキリしているくせに、愛はわからないなんて、幼子のよう。もごもごと口を動かすそいつが、無性に可愛く見えてきた。
「みつやぁ」
「なに」
あいの二文字を繰り返しすぎたのか、オレを呼ぶ声まで拙くなっている。可愛い通り越して、あざとい。……よく言われるな、オレも。いっそあざといって。オレ、ドラケンにこういうふうに見えてんの。
ウワ、ちょっと、ハズイ。
「―― 愛してる」
そして、発せられた音は、舌足らずでも拙くもなかった。
わんっと鼓膜に届いて、余韻がいつまでもなくならない。身構えていないところに聞いたせいもあるのだろう。たっぷり三秒経ってから、ぴくっと肩が震えた。……それを皮切りに、失せていた顔の火照りが戻ってくる。
「そうだね、しっくりきた」
向けられた笑みが、ちょっぴり意地悪に見えるのは気のせいだろうか。いや、自信で満ちた時の顔なだけだ。劣勢だろうと、自分が膝をつくとは微塵も思っていない、勝気な顔。
白旗を揚げたら許してくれるだろうか。それか撤退してしまう?
まさか。
「三ツ谷、愛してるから、オレと一緒に生きてくれ」
言い値で煽りに乗るのが、オレたちの最適解。
返事の代わりに、そいつの唇を奪い取った。