四
甘噛みした首筋はいつまで経っても甘さを匂い立たせている。何度も噛んでいるのだから、味が薄れてもおかしくないだろうに。首がこうなら、他の部分は? 唇を肌に押し当てたまま、鎖骨のほうへと移動する。
くっきりと骨が浮き出たそこは、首と同じくらい皮膚が薄い。きゅ、と吸い付くと簡単に痕がついた。白い肌に、赤いキスマーク。もっと、つけたい。オレが触れたという印を残したい。
逸る思いで、三ツ谷のシャツのボタンに手を掛けた。指先に、小ぶりで平たい丸が引っかかる。白いそれは、自分の指にはあまりに小さい。一つ外すだけで、変に手間取ってしまった。これをあと何回繰り返せば、この体を暴けるんだろう。熱に浮かされた頭は、面倒だと駄々を捏ね始める。
「……なあ、引きちぎって良い?」
「馬鹿言え」
「ええ……」
「ええじゃない」
次のボタンに指を掛けたまま三ツ谷を見下ろすと、ぐぬ、と苦虫を噛み潰したような顔をされた。それから、よろよろと三ツ谷の手が俺の手に触れる。指先が、絡む。
ぷつ、と、オレが引っかけていたボタンが外れた。
「ワ」
「……」
無言のまま、三ツ谷は自らボタンを外していく。全部で六つあるソレ。一つは最初から外れていて、二つ目はオレが外した。残り四つは、三ツ谷自身の手で、寛げられていく。ぱさりと前立てが開いた。その下にあるのは、残念ながら素肌じゃない。白地のTシャツが現れた。
「脱ぐ、から、一旦退け」
「あー……」
「聞いてる?」
「ウン」
「聞いてねえじゃん」
両手をぺたんと胸に乗せた。Tシャツ越しに、熱が伝ってくる。多少は汗も吸っているのだろう、顔を寄せると布自体が三ツ谷の匂いを含んでいた。
「んッ」
惹かれるままに、一か所にかぶりついてしまった。布越しではあるものの、ぷくりと膨れた突起の感触がする。もう片方の場所も、さわさわと右手を這わせて位置を確かめた。
「なにしゃぶってんだよ……」
「んぁ」
くり、と指先で乳首を抓むと同時に、髪を掴まれる。軽く引っ張られるのに合わせて仕方なく顔をあげると、三ツ谷の目尻はほんのりと色づいていた。だが、性感を弄られたからというより、ただの羞恥で顔を赤くしている。
気に食わない。こっちは、散々煽られて苦しいくらいだってのに。
ガリッ、つい、爪先で突起を引っ掻いてしまう。
「いッた」
「よくねえの」
「良くない」
「なんで」
「……オマエが性急すぎるから」
手の甲を、ぺちんと叩かれる。じゃあ、ゆっくりすれば乱れてくれるのだろうか。体を起こしながら悶々と考えてはみるものの、熱で浮かされた頭はまともな答えを導きだせない。し、三ツ谷も正解を教えてはくれないだろう。
吸ったせいで、シャツ越しにうっすらと乳首が透けて見えた。もう一方は、色味こそわからないものの、ふく、と布を持ち上げている。丸くて、ぷっくりとしたソレ。自分のあるんだかないんだかよくわかないソコとはまるで違う。吸われることも想定されているみたいだ。
じ、と眺めているうちに、三ツ谷はシャツから腕を抜く。背中の下に敷くこともせず、ぱたぱたと軽く畳んで傍に置いた。続けて、Tシャツに手をかける。腕が抜かれ、裾が捲れる。平坦な腹が見えた。するすると布は持ち上がっていき、あっという間に、胸まで晒される。
「ッ、」
白い肌から、目を離せなかった。淡い色をした突起や、鎖骨に乗せたばかりの鬱血痕といった色味が映える。自然と手はその身体に伸びていた。直接触れる肌は、うっすらと汗ばんでいる。吸い付くような感触が堪らない。加えて、剥き出しになったせいで三ツ谷の匂いがいっそう感じられた。
だくだくと、勢いよく血が巡る。意味がわからないくらい、顔が熱くなった。はーはーと息をするだけで、口内には唾液が溜まる。
そのうちに、ぱたり、唾液が落ちた。
「……くっそ盛ってんじゃん」
「あ?」
「なんでもない、さ、どーぞ」
「は、」
「ァ」
ぽそりと悪態を吐かれたが、腕を広げるポーズを取られ、言い返す気力は失せる。がぱりと口を開け、肌にかぶりつくと、やんわりと頭を撫でられた。落ち着けという意味なのかもしれない。だが、髪を梳くように撫でてくるせいで「上手」と言われてる心地にもなる。
「ん、んぅ」
「ふ」
最初は胸元。鎖骨や首筋にも甘噛みをしてから、ゆっくりと位置を下げていく。数回は噛む力を誤って、ビクンと大きく体を強張らせてしまったが、だんだん勝手もわかってきた。強く、くっきりと歯型が付くよりも、表面だけを擽るみたいに食むほうが三ツ谷は善がる。なぜわかるって? 匂い立つからだ。そこがイイと、体が教えてくれる。
ちゅ、臍のすぐそばに口付けた。両手はしっかりと腰を掴んでいる。漂う甘さに、噎せ返りそう。かといって、胸焼けを覚えるわけではなく、もっと甘さがほしくなる。下腹を食むと、組み敷いている足がもじもじと擦り合わせられていた。
そうか、まだ、上半身。これより、下もある。
ズボンのウエストに、指を引っかけた。
「なあ」
「……脱げってか」
「うん」
くいくいと引っ張ったところで、きちんとベルトが締められているせいで下がることはない。手ずから外してやればいいのはわかっているが、ボタン同様野暮ったくもあった。
強請るようにもう一度引っ張ると、長い溜息をついた三ツ谷はのろのろと手を持ってくる。そして、腰を一瞥することなく、金具を外した。するりと皮を滑らせ、前を寛げる。ちらりと、濃い色をしたボクサーが覗いた。
染みができているように見えるのは、錯覚ではあるまい。
脱ごうとしたのだろう。三ツ谷の腰が僅かに浮く。その両手は、下着ごと衣服を掴んでいた。じわり、ウエストが下がる。晒される下腹の範囲が広がった。腰骨のあたりも過ぎて、うっすら、下生えが見える。
もう、待っていられなかった。
「ッわ!?」
手を重ねるようにして、勢いよく引き下ろした。膝下まで辿り着いたそれが、もたもたと三ツ谷の脚に引っかかる。ここまで抜いたのだから、最後まで脱がせるべきなのだろう。ついでに靴下も取っぱらって、すっかり裸にしてしまう、べき。
しかし、飛び込んできた光景に、ぴたりと体が固まってしまった。
「ハ?」
「え、なんでキレてんの、顔コエーって」
「ハァア?」
「だから、いや、おいまじで怖いんだけど」
ふるんと現れたのは、控えめな大きさのペニス。子供のソレよりは発達しているものの、未成熟さを拭えない。それこそ、自分のナニと比べるとあまりにも大きさが違う。
当然だ。オレはアルファで、コイツはオメガ。性別が違うんだから、付いているモノが違うのも、当然。色素が沈んでいなくて幼気に見えるのも、先っぽがぐっしょりと濡れているのも、そういう特徴だから。不思議じゃない。おかしいことじゃない。一般、常識。
それはそうとして、自分についているブツとの違いに、頭が殴られたかのような衝撃を受けてしまう。胡乱な顔をしながら、三ツ谷は脚をバタつかせるようにしてズボンを取っぱらった。靴下はまだ引っかかっているものの、ほとんど、素っ裸。ああ、そういえば、オメガの男の全裸をまじまじと見るのは、初めてだったワ。いや、うわ、ワー、すげえな。
すげー、興奮、する。
「ぁ、」
きゅ、と掴むと、それだけで三ツ谷の腰が震える。親指の腹でわずかに見えている亀頭を撫でれば、とぷとぷと過分なまでに先走りが零れた。仮性包茎たるソレは、優しく扱いていると芯を持ち始める。勃起するにつれて、亀頭もすっかり見えるようになってきた。
「あー……」
不快感が、一切ない。三ツ谷の性格がそうさせるのか、やけにソコは綺麗だった。引っ切りなしにカウパー液が溢れてくるせいで、滑りも悪くない。
いけそう。なにが? なんだろうな。
簡単な自問自答をしたところで、熟れた切っ先に息を吹きかけた。
「へ、ッなに、」
「ア」
「……う、っそだろ、待ってやだ、ダメ」
「んぐ」
「ッヒぃ」
抵抗の言葉をスルーして、ぱくりと咥え込む。多少の息苦しさはあるものの、簡単に食めてしまった。むぐむぐと柔らかさもあるソレを甘噛みすれば、三ツ谷の腰が撥ねた。ついでに、太腿でぎゅと頭を挟まれる。
「あ、あっばか、も、ぁ」
口内に溜まっていた唾液をたっぷりとまぶしてやると、応えるように体液を溢れさせる。軽く頭を動かすだけで、ぐちゅぐちゅと水音が立った。裏筋や亀頭をベロで舐れば、嬌声はさらに甘くなる。ようやく認知した快感で、三ツ谷の体は小刻みに打ち震えた。
「やだ、やめろってばぁ……」
「んんん、やら」
「ぅひッ」
「みぅや?」
「ん゛、喋んの、だ、め、だって、」
髪を掴まれるが、力が入ったのは掴んだ瞬間だけ。すぐに緩んで、頭を包むような手つきになる。いやいやと口では言っているが、カクカク揺れる腰は「もっと」と求めていた。さて、どちらを信じよう。ぢゅ、と、一際きつく吸い上げた。
「い゛っぢゃうがらぁつ……!」
「イっへいーよ」
「ちが、もっ、やだ、だめなのっ、ダメ、だ、ぁ、あっ」
三ツ谷の膝から下が宙を蹴った。腰は浮いた状態で痙攣するように震えだす。そんなに達したくないのだろうか。じゃあ、根元を指で締め付けてやろうか。……それはそれで、泣かれそうだ。イキたいのに、イケないほうが、きっと辛い。個人的には、三ツ谷の体液なら口の中にぶちまけられたところで、構わない。むしろ、紛れもなくオレの手で達したということになるから、堪らなく嬉しい。
歯の、先が。三ツ谷の敏感な先っぽを掠めた。
「~~ッ」
ぎゅ、と、体が縮こまった。視界の端に入った足先が、丸まっている。あ、これは、クる。
漠然と思った瞬間、ちゅぽ、とオレの口から陰茎が抜けた。いや、正しくは、三ツ谷がどうにか力を振り絞ってオレの頭をあげさせた、だ。ハ、なんだよ。そのまま口に出しても良かったのに。コイツの精液なら、甘そうだし。実際は苦くても、甘ったるい匂いで相殺されるだろう、し。
プシャ、と、陰茎が噴いた。
「ッぁあア、ンっ、んぅ、あ゛」
「は」
だが、思ったそれとは、違う。
「みな、いで、見るなって、ばあ……」
三ツ谷の手が、自らのソレを隠すように覆う。けれど、その先は、ぴゅ、ぷしゅ、と何回かに分けて体液を撒き散らす。白さは、ない。無色透明、濁りはほとんどない。
「潮噴いてんじゃん」
「皆まで言うなよ!?」
オレの顔にもかかったそれは、さらりとしていた。粘度なんて欠片もない。何度か繰り返して、ようやく潮は勢いをなくすが、三ツ谷の手は陰茎を覆い隠したまま。体は、びく、びく、と小刻みに震えていた。
「……まだイッてんの」
「んる、せ、ぁ、っふ~……」
「ん?」
ふと、指の隙間から陰茎を伝う筋が見える。透明なら、特に疑問は持たなかったろう。透明なら、だ。
見えたのは、明らかに、白。今度こそ、白い液体が伝うのが見えたのだ。咄嗟に三ツ谷の手を掴むと、ア、と情けない声が漏れる。やめろ、と首を振るのも見えた。だが、首を擡げた欲は、その手を退けろと叫んで来る。これで素面を保てていれば―― 具体的には、安定剤を飲み続けていた頃だとか、緊急の鎮静剤を飲むとかすれば――見なかったことにも出来たろう。けれど、見たいという欲があっけなく理性を殴り飛ばす。
滑るように、三ツ谷の手を絡めとった。
「あぁああさいあく」
「は、えっろ……」
見えたのは、緩く勃った陰茎。熟れた亀頭。そこから、とろとろと勢いなく漏れる精液。射精なんて表現は相応しくない。それこそ、漏精がいいところ。潮と先走りと、オレの唾液とで濡れそぼった竿を、とろとろと精液が伝い落ちていく。試しに指で掬えば、粘着いた感触は薄く、さらりと水っぽかった。オメガの精液は、粘度が高くない。そういう知識はあったが、目の当たりにすると妙な感動を覚える。
「……気ぃ済んだかよ」
「ぜんぜん」
「だよなあ、オマエのそこバッキバキだもんなあ……」
「ぅ、お」
まだ肩で息をしているものの、いくらか体は落ち着いてきたらしい。三ツ谷の気怠そうな脚が、とん、と俺の股座を押す。ゆとりのあるワイドパンツであっても、触られてしまったら誤魔化しようもない。暴発こそしないものの、三ツ谷の曝け出された脚やら、とろとろに濡れた局部やらを見ていると、滾るような熱が蜷局を巻いた。
あれだけ潮を噴いたせいもあって、三ツ谷は尻まで濡れている。床には小さな水たまりもできていた。……潮だけで、こうなったのか、後ろから愛液も零れ始めているからなのか。奥まったところを確かめたいと、欲が疼き出す。
ごくりと生唾を飲み込んでから、三ツ谷の太ももに手を添えた。
「ゴムは」
「え」
「ゴム。コンドーム。持ってる?」
そのまま割り開こうと思ったのだが、ぽーんと放物線を描いて飛んできた問いに、頭が固まる。
ゴム。髪を結うためのそれではない。コンドームだ。避妊具のこと。持ってる、だと? は、は、と浅い呼吸をしながら、頭を働かせる。財布の中に入っているか? 入れた覚えはない。他に、ゴムを入れてそうなところは? ない。
アルファなら万が一のために持ち歩くのは常識。普通の、アルファなら、だ。だが、オレはどうだ? アルファに分化してからこのかた、カッとなることは今日までなかった。衝動的に、誰かを求めるなんて、しなかった。いつだって、コンビニかドラッグストアに寄る余裕があったのだ。そもそも、初恋を散らせてから、付き合った相手はベータだけ。どうしようもなく抱きたいという衝動に駆られたのは、今日が、初めて。
「ない……」
ぽつりと零すと、ふわり、三ツ谷の脚が退いていった。
「やっぱり」
「なあ、でもさあ」
「ウン。わかるよ。わかるけど、必要なのもわかるよな」
緩慢な動きで起き上がりながら、三ツ谷は諭すように言った。こういう言い方は好きじゃない。つい、反抗したくなるから。けれど、三ツ谷の言っていることは正しい。その体を守るためにも、必要なことだ。
だからといって、燻ぶる熱を堪えるのは、もう無理だ。起き上がったばかりの体をすぐに組み敷きたいし、ぬかるんだ秘部を気が済むまで犯したい。ちら、と盗み見た下腹は未だどろどろ。体全体も、なんとなく火照っているようにも見える。逆に、三ツ谷はヤリたくないのだろうか。実は、発情期では、ない? だったら、ナマでやっても……。いや、駄目だ。駄目だろ。その一線を超えたら、駄目だ。
「……オマエがなりふり構わずレイプしでかすアルファじゃなくて良かったよ」
「は」
「ちょっと待ってて」
おもむろに膝立ちになった三ツ谷は、ずりずりとサイドボードに近寄る。ずらりと並んでいるのはデザイン関係の本。中には専門学校で使う教本もおいているのかもしれない。そのすぐ下にある引き出しに手を掛けた。その間、背中は無防備に晒されている。靴下だけ履いて、あとは何も纏っていない。ぐっしょりと、臀部が濡れているのは、後ろからでもわかった。なんなら、つぅ、と愛液と思しき筋が伝うのも見える。今、後ろから穿ったら、どれほど良いことだろう。というか、こんなオレに背中を見せるなよ。誘ってんのか。
ぎり、と歯ぎしりをしたところで、ようやく三ツ谷は振り返る。その手の中には、白い箱。何かラベルが貼られているが、ちょうど三ツ谷の手に隠れて何と書いているのかわからない。首を傾げると、三ツ谷は苦笑してからその箱をこちらに投げてきた。
「あげる」
「ぉ、わ」
「サイズ合わないとか文句言うなよ」
「……なにこれ」
「処方されるコンドーム。抑制剤と一緒にもらえんの」
「ハ」
慌てて受け取ったソレを確かめると、ラベルには飾り気のない文字でコンドームと書かれていた。厚さは〇・〇二ミリ、十二枚入り。ひっくり返すように開ければ、ばらばらと個包装されたソレが落ちてくる。一個、二個、三個。……何度数えても、十二ある。一つも、使われていない。
「なに、これ」
「だから、抑制剤と一緒に処方されるコンドーム」
「そんなんあんの?」
「あるから持ってんの。抑制剤飲むより、アルファと一発ヤッたほうが楽らしいよ」
「らしいって」
「ヤらなきゃなんないほど重い発情期、来たことないし」
シンプルなパウチをつまみ上げる。やけにたぷたぷと水が入っていた。保存の都合、浸っているのだろうか。三ツ谷に視線を向けるが、何食わぬ顔でベッドに腰を下ろしている。さらには、ちょいちょい、と手招きをした。
血が、巡る。どくり、心臓が唸る。ついに靴下も脱ぎ捨てて、三ツ谷は一糸纏わぬ姿となった。それで、ベッドに誘われている。理解すると頭が揺れた。脳みそが今にも煮立ちそう。
どうにか数個のゴムを握り込んで、ふらふらとベッドに近寄った。
「お手柔らかに、お願いシマス」
「がんばるワー」
「あはは、がんばんないでよ。ドラケンに本気で掘られたらオレ死にそう」
誰が殺すか。じっとりと三ツ谷を睨んでから、隣に腰を下ろした。大きく吐いた息は、随分と熱を孕んでいる。前を寛げる手は、興奮で震えていた。
「うわ」
三ツ谷のとき同様、下着ごと服を取っぱらう。ついでに上も脱ぎ捨てた。見られて困る体はしていない。と、思うのだが、隣から聞こえてきた低い声に、不安が過る。マズいものでもあったろうか。……刺し傷と銃創あるワ、それか?
ゴムの封を切りながら三ツ谷に目を向けると、その視線は一点に注がれていた。たどった先にあるのは、オレの股座。局部。グロテスクな様相をして、天井を向いている半身。つるんとした三ツ谷のソレとは、あまりにかけ離れている。オレだって、三ツ谷のをガン見してしまったのだ、逆も、然り。
とはいえ、そうも見られると、ゾワゾワと欲を煽られてしまう。
「……さわる?」
「ばくはつしない?」
「たぶん」
「たぶんかよ」
ぽたぽたと水を滴らせるゴムを切っ先に乗せながら尋ねると、恐る恐る三ツ谷は手を伸ばしてきた。片手で収まる大きさはしていない。はあっ、と感嘆のようなため息が聞こえた。そのうち、ゴムを押さえる手を代わられる。三ツ谷の手は、オレの形を確かめるようにしながら、くるくるとスキンを被せていった。
水、と思っていたものは、潤滑剤の役割を持っているのかもしれない。表面はぬるりとしている。ぴったりとフィットするそれは、通常のものより伸縮性に長けているらしい。きつくもなく、ゆるくもなく。わざわざ処方されるほどだ、市販品と同じなわけがない。
「……」
「…………」
三ツ谷は未だにオレの逸物を見つめている。なんだか息が上がっているように見えるのは気のせいだろうか。そっと添えている手も、離れてはいなかった。さらには、もぞ、と、内腿を擦り合わせるように身じろぎをする。興奮、してる? まさか、あんなにも鈍かったのだ、今になって感度が上がるとも考えにくい。
「三ツ谷」
「う、す」
「いれたいん、だけど」
「ん、うん、ゥン」
「いいか」
「うん、……じっとしてて」
「おお……?」
何故か、三ツ谷は俺の肩に手をついた。それから、オレに向き合うように膝立ちする。
なん、で。アルファ・オメガは一旦置いておくとして、男同士なら後背位が一番楽だろうに。よりにもよって対面座位? 違和感が脳裏を掠めるが、バックだと項を晒す格好になることに気付く。だから、ええと、正面から?
混乱しているうちに、三ツ谷のもう一方の手は、オレの陰茎を支えた。眼前には、淡い色をした乳首が二つ。しゃぶりついたときより膨れていて、ぷっくりと存在を主張している。ぽた、と涎が垂れた。この体を、掻き抱きたい。つい、腕が、三ツ谷の腰を掴む。
ぷ、ちゅり。切っ先が、縁に触れた。
「あッ」
それだけで掴んでいる腰が震えた。だが、腰を下がる動きを止めるつもりはないらしい。ゆっくり、確実に、杭は肉壺に沈んでいく。生々しくナカはうねっていた。ゴムをつけているのが嘘みたいに、肉の感触がまざまざと伝わってくる。舐めていた。医療用なら、そこまで性感を煽るものではないだろうと。侮っていた。これ、完全に、アルファとオメガが心置きなくセックスするために作られてんだろ。
「あ、ぁ、ぅう~……」
「ハッ、ぅ」
とちゅ、と、ナカで壁にぶつかった。しかし、まだ自身は入り切っていない。まだ残っている。三分の一か四分の一か、とにかくまだ全部入り切っていなかった。入れたい。なぜ入らないんだろう。……なんてことはない、アルファの性器が長大で、膣なり直腸なりに入りきらないというのはよくある話だ。強引に捻じ込んで、搬送されたなんてのも、聞いたことがある。
息を荒げる三ツ谷は苦しそうだ。全部入れるのは諦めて、「ほどほど」で行為をするのが良いのだろう。半開きの口の端からはつぅっと涎が垂れている。両目はすっかり潤んでいて、今にも決壊しそうだ。
「も、どう、しよ、おおきぃ……」
「あ、りがと?」
「ぅん……」
そこは褒めてないと言い返されるのを期待したのだが、今の三ツ谷にそれだけの余裕はないらしい。それもそうか、解しもせずに入れ込んだのだから。失敗した、多少でも後孔を馴染ませてやれば良かった。コンドームについた潤滑剤のおかげで、どうにか入ったようなもの。
労わるように、くるりと腰を撫でた。
すると、三ツ谷の目が、オレを捉えた。濡れた瞳に、自分の顔が映る。随分と、みっともない顔をしてやがる。情けなさに唇を噛むと、こつんと三ツ谷が額を合わせてきた。触れたソコは、繋がっているところと同じくらいに、熱い。
「みつや?」
「ん、まって、もうちょっと、いけ、そう」
「や、無理すんなよ」
「へーき、っぉ、ン」
意識的に、三ツ谷は腰を落としたらしかった。中に入り込んでいたソレが、腸壁に食い込む。切っ先が、ぎゅぽ、と不穏に締め付けられた。確かに、少しずつ、入り切っていない部分が埋まっていく。けれど、無理を強いたいわけではない。できる範囲で良い。というか、変に頑張られると、こちらの理性が擦り切れそうだ。しなくていい、と腰を掴む手に力を込める。だが、亀頭は、ぐぽと何かを拓きつつあった。あ、あ、と細切れになった三ツ谷の喘ぎが鼓膜に届く。
マズい、の、では。深く繋がるにつれて、目の前が赤くなっていく。これ以上、進めたら、戻れなくなりそうだ。……戻れなくなって、何が悪いのだろう。
「ん」
「んん」
気付くと、唇が重なっていた。何回か触れるだけの口付けを交わした後、角度を変えながら互いの口内を犯し合う。いつの間にか、三ツ谷の両腕はオレの首に回っていて、寸分の隙間も惜しいと訴えてきた。
「ッ」
深く、交わる。
上も下も、深度が増す。ぢゅと、舌先を吸われた。ぎゅぢ、と、弁を、超えた。
「あ」
腕の中にある体が、大きく震える。
「あぁ」
ぷは、と唇が離れると、ねっとりと銀糸が伝った。ぽっかりと開いた口からは、舌がはみ出る。かくんと、三ツ谷の首が倒れた。同時に、ぱんっとソイツの尻が俺の脚に乗る。
あ、根元、まで、入った。
「ッぁァあ゛、」
たちまち、抱きしめていた体が激しい痙攣を始めた。体の外側はもちろん、内側も。埋めている怒張が、艶めかしく締め付けられる。柔かったはずの肉壁は、扱くようにうねり、切っ先にはぎゅっぽぎゅっぽと吸い付かれた。持っていかれそう。そんな例えを聞いた事はあったが、まさか現実に味わうことになるとは。
ああ、ヤバイ。最高。最高だワ、コイツ。
「ッグ」
「~~ッ♡」
三ツ谷の両脚が腰に巻き付いた。離さないと言わんばかりに、力が籠る。どこもかしこも、痛いくらいの締め付け。耐えきれないと、肉棒はどくんと震えた。射精した瞬間の高揚が、全身を駆ける。量も相まって、膜が膨れていく感触がした。相変わらず、媚肉はオレを搾り取らんと纏わりついてくる。特に根元は、きつく、絞め付けられた。
「あ、らめ、やらあ、ひろがっちゃぅ」
「あ゛?」
いや、違う、絞め付けが増したのではない。こっちが栓をしてしまったのだ。自身はまだ、ぶ、ぐぶ、と中に吐き出し続けている。長い射精も、張り出る亀頭球も、オメガのナカを精液で満たすために、アルファについている機能だ。そういう現象があると知ってはいたが、我が身を持って体験することになろうとは。
腰を引こうにも、ぎっちりと食い込んでいるせいで抜けはしない。最奥まで捻じ込んでいる状態でこれだ、さぞ三ツ谷は苦しい思いをしていることだろう。……そう、思ったのに、腕の中にある体はすっかり蕩けている。目の焦点があっているかも怪しい。なんだか、腹も膨れているように見えてきた。さすがにこれは錯覚だろうが、悦に浸る三ツ谷が淫猥に染まっているのは間違いない。
―― その状態を、何分続けていただろう。もしかすると、十分、二十分と過ごしていたのかもしれない。いい加減、頭がおかしくなる。狂ってしまう。そんな危機感を覚えたところで、痛いくらいに張り詰めた感触が落ち着いていった。
必死の思いで三ツ谷をベッドに寝かせ、萎えただろう陰茎を引き抜いていく。散々出したせいで、ゴムは重たい。なんだか、自分だけ抜けてしまいそうだ。そう思うや否や、ずるんと、コンドームが外れる。あ、と思ったときには、アナルにはゴムだけが残っていた。
「う、っわ」
残されたコンドームの口から、とろとろと白濁が溢れてくる。真っ赤に充血した縁は、ヒクヒクとその薄い膜を食むように震えていた。生唾を飲みながら残されたスキンを引っ張ると、三ツ谷の腹が震える。とぷん、と、たっぷりと精液を受け止めたゴムを取り出し切れば、ぽっかりと口を開けた孔が赤い媚肉を覗かせた。
「あ、はぁん、んっ」
与えられた悦が抜けないのか、触れてもいないのに三ツ谷の腰がカクカク揺れる。ぴゅ、ぷしゅ、と軽く潮まで噴いていた。目を、逸らせない。食い気味に、その痴態を見つめてしまう。熱い欲を吐き出したばかりの陰茎は、再び充血し始めていた。
「……ぁ、足りな、」
「ッ」
「ねえ」
だらしなく開いていた脚が、ぐ、と持ち上がる。三ツ谷が、自ら脚を抱えて、秘部を曝け出していた。腰が浮いたせいで、後孔はほとんど天井を向く。愛液に濡れたソコは、ぱくぱくと物欲しげに口を動かしていた。
「―― もっと、して」
かろうじて残った理性が、次の一包を引っ掴んだ。