終
「―― 結婚しよっか」
朝を迎えて早々に、狭いベッドの上で、ぽつりと尋ねた。
「できないって話、したばっかだろ」
「まあ、そうなんだけど、考えたんだよ」
「抱かれながら?」
「ふふ、うん。抱かれながら」
真横にいる男がため息を吐く。解いて垂れた髪の束の向こうにある目は、呆れを露わにしていた。
それでも、素肌に擦り寄ると、瞳は甘く塗り替えられていく。あまりの糖度にくすぐったくなってきた。唇は波打ち、頬は緩む。さぞ情けない顔になったことだろう。見られるのも気恥ずかしくて、ぎゅうと逞しい胸板に抱き着いた。
「俺はバツイチだからさ、」
「……うん」
「婚姻届けって紙切れ一枚で何ができるようになるか、よおく知ってる」
首を捻って、胸の中央に耳を当てた。すると、旋毛に柔い熱が触れる。こっちの頭に顎を埋めたらしい。汗臭いだろうに、この物好きめ。ああでも、ドラケンにとってはいい匂いなんだっけ。耳の裏とか、首筋とか、最中に散々嗅がれた。そういえば、いい匂いと思う相手とは、遺伝子レベルで相性がいいなんて噂があったな。否定は、しない。だって、良かった。
そんな相手と結ばれたいって思うのも、悪いことでは、ない。
「やっぱりさ」
「うん」
「あの紙切れで得られる権利、欲しくなっちゃって」
「……でも、できないじゃん」
「そうだね。だから、」
耳を当てたおかげで、男の心音がよく聞こえる。穏やか、とは、言えなかった。むしろ、早い。ばくばくと、早鐘を打っている。ドラケンって、俺のことで、こんなに緊張してくれるんだ。愛おしさが増すのに合わせて、こっちの鼓動も逸りだした。
「正しく、入籍できるようになったらさ」
急いた気持ちは、言葉をほんの少しだけ早口にする。ちらりと上を見やると、男は柔らかい笑みを浮かべていた。ふ、気分いいな。この顔で、朝を迎えられる、って。
改めて、続きを言おうと、口を開いた。
「―― うん、結婚、しよっか」
しかし、その音は奪われる。
俺が言うより早く、いちばんの男に掻っ攫われた。