三
その男の手技は、久方ぶりの大当たりだった。
うつ伏せの、腰だけを高く浮かせた格好のまま、ビクビクと体が震える。硬い枕にしがみついて顔を埋めてみるが、嬌声は堪え切れなかった。
「ん、っふ、ぅう~」
「なあ、それでちゃんと息できてんの」
「でき、てぅ、ンッぁ、あっ」
問いかけなんて無視すればいいのに、律儀にも自分は顔を上げる。そのタイミングで、男の指はイイトコロを押し潰した。もう、何度圧をかけられたかわからない。あのホテルで達せなかったのが嘘みたいに、既に自身からは三回、精液を吐き出させられていた。もう出ない。もう前はいい。そう訴えても、ドラケンの手は止まらない。やわやわとかろうじて芯の残るペニスを刺激しながら、前立腺に圧をかける。たまに睾丸の方を揉んでくるのも堪らないし、会陰部を擽られるのも気持ちが良かった。
「ま、た、またイクッ、イッちゃう、やだっ」
「あれ、まだ出る? イッていいよ」
「出るわげない、から、やだ、ァ」
後孔に刺さっている指二本が、くに、と弱いところを挟んでくる。強く擦られたわけでもない、抉るように押されたわけでもない。しかし、高揚が極まっている体には十分過ぎた。
びく、と一際大きく腰が跳ねる。視界が真っ白くトんで、強すぎる悦楽が下肢に走った。ぎゅううと指を締め付けると、自然とその形を意識してしまう。整った爪先に、骨ばった指。節くれだった関節の形までイメージ出来たところで、射精しようと陰茎が震えた。だが、もう三度吐き出している。四回目にもなると、ろくに弾など残っていない。おかげで、恐怖に近い絶頂が襲って来た。
「ァ、ぅ……、ヒぅ」
「お、ドライでイッたじゃん、偉い偉い」
「ぁ~、ぁ、あ」
ぢゅぽんっと指を引き抜かれても、痙攣は止まらない。内腿はガクガクと震えて、出し損ねた陰茎も熱くて仕方がなかった。腹の奥がひたすらに重い。気持ちが良いか良くないかで言ったら、間違いなく良いのだが、短時間で教え込まれる快感はとにかく恐ろしかった。
ようやく体が弛緩して力みが取れると、べちゃっと浮いていた腰がベッドに沈む。半分勃ったままの陰茎が自重で潰れた。その刺激にすら、感じ入ってしまう。もう尻が痛いことなんて意識から消え去っていた。それどころか、叩かれたいとすら思っている。指じゃない、もっと太いものを捻じ込んで欲しい。奥まで嵌め込んで、痛いくらいに穿たれたい。
「もお、もおいい、もういいから嵌めてってばあ」
「さっきからそればっかじゃん。そういうことほいほい言うから、尻腫れるまでピストンされんじゃねえの」
「わかった、わかったから! もう前やだ、」
緩んだ体に鞭を打って腰を浮かせ、尻たぶを両手で拡げて見せる。縁も引っ張られる感触がして、秘部に空気が触れた。冷たさを浴びるたび、ひくひくと孔は疼く。けれど、ドラケンが前を寛げる気配はない。ふぅん、と一つ頷いた程度で、やわやわと縁に指の腹をあてがうだけ。そうじゃない。入口を虐められるのも嫌いじゃないけれど、今はそれでは物足りないのだ。はしたなく、熟れた肉はその指先に吸い付いた。
「んっ、ふ、……ぅン」
「なーんか、思ったより全然感度いいじゃん。これで感じられねえとか、どんだけ酷い男だったんだよ」
「ぁ、ゆび、はいっ、て」
「三ツ谷ー、聞いてる?」
「きぃ、てるっ! 前戯も雑なすっごいへたくそ!」
「はは、そうだった」
煽られた心地になって早口で返すと、ぐぷんと指が埋められる。ア、いい、これ欲しかった。……違う、ナカに刺激が欲しかったのは確かだが、指の一本二本で満足できるほど、この体は青くない。それでも、人差し指と中指、それぞれの腹で交互に肉壁を撫でられると、勝手に尻が揺れてしまう。
いい加減、前立腺ばかり責め立てるのはやめてほしい。陰茎がただただ張り詰めて、いっそ痛い。ガクッと膝から力が抜ける度、真っ赤に腫れた先っぽがベッドシーツに擦れた。口からは品の無い喘ぎが漏れる。もう、前では達せない。刺激を与えたところで苦しいだけ。わかってはいるが、熟れた亀頭から伝う強烈な悦楽から逃れるのも難しい。結局、さり、ざり、と床オナでもするかのように腰を振っていた。
「ぁ、あ゛っ、ぁン」
「ンなことしてたら、ちんこ馬鹿になるぞ」
「んっ、ふ、ぅ~、もおなってる、ぅンッ……」
「……ああ、前だけじゃもうダメなんだっけ」
そう、だから早く入れてほしい。息も絶え絶えになりながら腰を揺らし続けていると、やっと後ろから指が抜けていった。ぎりぎりまで吸い付いていたせいで、抜けた瞬間の空虚さに腹が切なくなる。満たされたい。一刻も早く、腹をいっぱいにしてほしい。少しでも男が入れやすいようにと、震える足に叱咤を打った。
「ぁえ……?」
「体勢、辛くない?」
「ぅ、うん」
しかし、突き出した尻は、すぐにひっくり返された。必然的に、突っ伏していた上体は天井を向く。重怠い脚の片方は、ひょいとドラケンの肩に担がれた。もう一方は、ぐいと折りたたみつつも開かされる。体格差もあって、腰は半分ほど浮いてしまった。
灯りは煌々と点いている。担がれただけでぶるぶると震える脚も、真っ赤になりながら涎を垂らす自身も、よく、見えた。―― オレの向こうで、ぱつんと、テントを張っている中心も。
あれ、結構、大きいのでは。はくんと息を呑んでいると、ようやくドラケンは前を寛げ始める。ベルトが緩められ、ジジジと金具が擦れる音が聞こえた。わずかな布擦れの後に、ずるりとソレは現れる。
「あ、す、ごい」
「そう?」
「え、えっ、やば、ァ」
ぐん、と反り返った逸物から目が離せない。先ほど拝んだ馬の骨より一回りは大きいだろうか。張り出たエラに、浮き出た血管。赤黒い竿の先っぽからは、じんわりとカウパーが滲んでいた。いや、いや。デカければ良いというものではない。大きすぎると、苦しいのはこっちだ。……でも、あの雁首でゆっくりと中をこじ開けられたら、さぞ気持ちが良いのでは?
無意識のうちに、ごくんと唾を飲んでいた。
「……すげー見るじゃん」
「だって、ぅわあ……、かっこいい」
「そりゃどうも」
じ、と見つめているそれは、淡々とピンク色の膜に包まれていく。可愛い色を纏っていようと、存在感は変わらない。捻じ込まれるのを想像しただけで、ひくひくと後孔は物欲しげに震えだした。男の目にも、その浅ましい姿は映ったらしい。ふ、と婀娜っぽく唇が歪められた。
「んっ」
ドラケンは、軽く自身を扱いてから、震える縁に切っ先を当てがった。散々指で嬲られた淫唇は、ろくな抵抗もせずに拡がっていく。その前に馬鹿みたいに掘られたのも良かったのかもしれない。くぷ、ぬぷ、熱杭は刺さり始めた。
「ん、ンぁ、あ」
「は、あっつ」
「ヒ、ぃ、ぇ……?」
やっと欲しかった圧が貰える。……そう、思ったのに、なかなか肉棒は奥へやってこない。煩わしく思えるほど、入り込むペースは慎重だった。どうして。妄りに腰が揺れる。と、軽く埋まっただけの切っ先の嵌りは浅くなってしまう。深く入れてもらうには、じっとしていなくてはならないらしい。そんな、殺生な。生殺しだ。口からは引っ切り無しに切ない喘ぎが漏れ、視界には水の膜が張り始めた。
「ぁ、ぁ、やだ、ねえ」
「ん?」
「じらすの、やだ、やめて」
「……んー」
強請ったところで、そいつの動きは変わらない。兎角、ゆっくりと縁は開いていった。もうそろそろ、指で拡げられたのより開くだろうか。まだ、一番太いところは通らないのだろうか。もはや、入れ込んでくれているのか止まっているのか、判断がつかなくなってくる。腰を振りたい、なんなら体勢を入れ替えて、最奥まで一気に飲み込んでしまいたい。畳まれた脚も、担がれた脚も、ぶるぶると耐えきれずに震え始めた。足指はいつの間にかギュッと力んでいる。
もう、頼むから、早く!
「ぁッ」
願った瞬間、ぐぽん、と、嵌った。
あの張り出たエラを抜けたらしい。きゅうっとカリの形に合わせて媚肉が窄まる。たった、それだけで、四肢は大きく跳ねた。
「っと、」
「えッ」
しかし、腹に埋まる質量は増えなかった。
卑しい水音を立てて、ソレは引き抜かれてしまう。エラに引っかかるように縁は捲れ、かくかくと腰は宙を叩いた。それに合わせて、濡れそぼった自身がふるふると揺れる。
「ど、して」
「ん? だって、縁拡げられんの、好きだろ」
「ぁ」
混乱しているうちに、またそいつの切っ先は中に埋まった。ぐぽ、と亀頭を入れ込んでは、みちりと抜かれ、またぬづりと嵌められては外に逃げられる。一番太いところが、充血したクチを行ったり来たり。繰り返し引っかけられるせいで、目の前が真っ赤になってきた。入れ込まれる量が増したからなのか、単に体が順応したからか、徐々に腰を揺らしても抜けなくなってくる。もしかすると、そいつが上手く調整してくれたのかもしれない。
じれったい。でも気持ちが良い。物足りない。けど甘い悦を浴び続けるのも悪くない。
「す、きっ、すき、これ、すきッ」
「はは、気持ち良さそ。前もとろとろしてきたじゃん」
「あ」
くぽくぽと入り口への責めに浸っていると、情けなく揺れるペニスを掴まれた。ちょうど、亀頭を包まれる格好。硬くも、厚くもあるそいつの手の平の皮膚が、滑る切っ先をぐるんと撫でた。三度の射精と、一度のドライオーガズム。それらで過敏になっている陰茎は、火花を散らすような悦を全身に飛ばしてくる。
「だめ、両方だめ、すぐイッちゃう、からっ」
「好きなだけイッて良いって」
「や、やだ、奥でイキたぃい」
「奥ねぇ……」
「ひ」
ほとんど悲鳴のように訴えると、くるくると先っぽを撫でていた手は動きを止める。後ろも、くぽっと亀頭を飲み込ませたところで大人しくなった。違う、動くななんて言ってない、奥でイキたいと言ったんだ。突如襲い掛かってくるもどかしさに、妄りがましく体が戦慄く。
息を荒げながらドラケンを睨むと、ふむ、と何か考える素振りをされた。本当に考えているのか、フリなのかはわからない。仮に考えていたとしたら、ろくでもないことを思い浮かべてそうだ。いよいよこの男の手口もわかってきた。目一杯期待させておいて、どこまでも焦らしてくる。なんでこんなに意地が悪いセックスをするんだ。喧嘩の時は、重たい一発二発で沈める質だったろ。……最奥をずどんずどんと抉られたら、堪ったもんじゃないな。喧嘩の手口と、同じセックスもよろしくない。
熱に溺れた脳みそのうち、かろうじてまだ冷静な部分が明後日な方向に思考を走らせる。そうでもしないと、この快感で狂いそうだった。こんなの、丁寧って言わない。執拗って言うんだ。小一時間前に戻れたら、こいつの胸倉を掴んでいることだろう。
早く。早く、はやく、はや、く。
気持ちよくトべるとこ、抉ってよ。
「奥って」
低く、掠れた声がした。
「さあ、」
男の両手が、がっしりと腰を掴む。そのせいで、肩に担がれた脚がずるりと滑った。
「この、」
入り込む角度が変わる。腰はさらに浮き、淫口はすっかり上を向いた。これで自分が女だったら、結合部まで完璧に見えていたことだろう。
「へん、ッ?」
「~~ァ、」
ずるん、と、熱に侵された。これでもかと縁を苛めた切っ先が、今度は前立腺に触れる。いや、触れるなんて可愛いものではない。抉るだ。潰すみたいに入れ込まれて、擦りつけるように抜かれる。とはいえ、激しい抽挿ではない。最初に割り開かれた時よりは動いてもらっているが、粗暴さは欠片もなかった。それこそ、丁寧に、イイトコロだけを擦り上げてくる。
「ぁ、あ、あっ、」
「なあ、ここ、でッ、いいの」
「そ、ぁ、そう、イイっ、そこ、ヒッぃ、あ」
延々と続けられる前立腺への刺激に、自身は引っ切り無しに涎を零し出す。押し出されるのはほとんどが透明な液体。けれど、白く濁っているようにも見える。かろうじて残っていた精液が、押し出されているのかもしれない。
「お、まだ、ちょっと、出そうじゃん」
「あ゛ッ!?」
その様に、男は目ざとく気付いてしまった。そいつの利き手、指先がくりゅっと鈴口を撫でつける。親指に至っては、裏すじに添えられた。器用に人のペニスを弄びつつ、ドラケンは改めてオレの片足を担いだ。姿勢を調整して、ぐずり、ぬづり、ナカへの刺激を続けながら、くちくちと切っ先を苛めてくる。
「出ないってば!」
「や、出る出る」
「で、ない゛、ったら、出な、ぁ」
仮に出るものがあったとしても、それを出したら人として終わる気がする。必死に腕を伸ばして止めようと試みるが、幾度となく達している体なのもあって、ただ両手を腹部に添えるだけになってしまう。なんなら、この腹の内側に男根が入り込んでいることを意識させられる。
犯されている。セックスしている。それも、ドラケンと。十年を超える付き合いの友人と、こんなことしてるって、ナニ。思い返してみれば、この男、素面である。こっちは酔っぱらってるし、男との経験もあるけどさ、オマエはそうじゃないだろ。なんで、普通にオレとえっちしてんの。えっちできちゃうの。穴があれば誰でも良かったのだろうか。最低じゃん。棒があれば、まあ最悪どうでもいいかと思っている自分も大概だが。
「ヒッ」
「考え事? 慣れてるだけあるね」
「ち、がぅ、ア、あッ」
「っは、すげ、これ、絞まる……」
そいつの指先が、尿道口に引っかかる。爪を立てるようにして、引っ掻かれると、勝手に腰は浮き上がった。腹の奥の熱が、出口を探して蜷局を巻く。けれど、射精はもうできないし、中イキするにはペニスへの刺激は過剰だ。発散する先が見えなくて、視界がぐずりと溶けた。対照的に、下半身は緊張で強張る。下腹を押さえていた指先は、かりかりと臍の下を引っ掻いた。
「~~ッぁ」
プシッ、と、何かが噴き出る音がした。しかし、ホワイトアウトした意識は、音源を探せない。何度かに分けて溢れたそれは、ぺったりと自身の腹や、そこを押さえていた手を濡らす。朦朧としながら生温いそれを追いかけると、腫れあがった自身から透明な液体が噴き出るのが見えた。え、なに、これ。うそ、漏らした? 理解が追い付くと、射精による快感とも異なる、妙な爽快感が身体に広がる。
「ぁ、ォ……?」
「上手上手、けど、もうちょっと付き合ってな」
「っ」
息を整える間は与えられない。ぜえぜえと荒げた呼吸をするオレを、なぜか柔らかい目で見下ろしたそいつは、ぐっと腰を押し進めてきた。前立腺の辺りまでだった質量は、奥へ奥へと入り込む。そのうちに息の吸い方もわからなくなって、はくはくと唇が動いた。苦しい。その一方で、確かな充足感もやってくる。
そうだ、セックスってこういうものだ。気持ち良くて、心地よくて、幸せ。この感覚に浸れたのはいつぶりだろう。
「ぁ、あ、やば、おなか、いっぱ、ぃ」
「なあ、今どの辺まで入ってるかわかる?」
「いま……」
もういっぱい、というところまで満たされると、おもむろにドラケンはオレの手を撫でる。ふわふわとした心地のまま体液で汚れた腹を確かめた。
「この、へんまで、くるしい」
「へえ」
「あ、やら、おしちゃ、だめ」
「押してないって、撫でてるだけ」
おおよその位置を指先で示すと、大きな手の平がそこを隠すように乗る。圧をかけられるのかと思ったが、やんわりと濡れた皮膚を撫でられるだけだった。くるくると、円を描くようにドラケンの手が這う。深く入り込んだ肉棒は、それ以上突き刺さることも、無遠慮に引き抜かれることもない。なんだか、形を覚えろと言われているみたいだ。……一度過った妄想は、色濃く性欲に満ちた脳みそに刻まれる。気付くと、媚肉はうねるようにそいつの陰茎に纏わりついていた。
「……なに、もっと奥がいいって?」
「ぅんん、もっと……?」
「そ、もっと、奥」
こつん、と、男の切っ先は既に最奥に触れている。自分の知る「奥」とは、ココのこと。この深いところをトントンと柔く刺激されると、堪らなくイイのだ。捏ねるみたいに押されるのでも良い。こいつほどの大きさであれば、それは容易かろう。けれど、何故かドラケンは「もっと」と言った。まるでこれより奥があることを知っているみたい。
言われた意味を理解できないまま、顔を見上げると、ぱちぱちと瞬きを返された。
「ない? 深いとこ、責められたこと」
「ここまで、しか、ない」
「ココ?」
「あっ」
とんっと、緩い衝撃が与えらえる。薄い膜越しに、そいつの切っ先が深いところを突いた。抽挿するというより、押し付ける。ぎゅう、と内側から圧をかけられると、呼応するようにソコは亀頭を咥え込む。きゅ、きゅう、と吸い付くたび、甘い痺れが体中に広がっていった。
「いけそうなんだよな……」
「ぁ、らに、」
「んん、痛かったら、言って」
「ぁえ?」
あれ、オマエ、痛くしないって言ってなかったか?
過った疑問は、覆いかぶさられたせいで霧散する。額がぶつかりそうなくらい顔が近付いて、オレの腰を押さえていた両手は頭の横に突かれた。近く、ない? 妙にギラついた両目に魅入っていると、本当に額がぶつかってしまった。鼻先も擦れる。ふ、ふ、とそいつの吐く息を如実に感じた。
「ゥ!?」
「ん、すげ、キッツ」
「ふ、ぅ、うぅ、ぁ、ぃっ」
かと、思うと、ぐぢりと怒張が圧をかけてきた。既に腹はいっぱいなのに、腸を押し伸ばすかのように入り込んでくる。やめろ、そんなに強く押すな、そこは軽く突くだけで良いんだって。圧迫感とも異なる苦しさに、はくん、空気を食んだ。
「む、りッ、いたぃ、痛いって!」
「……やっぱ痛い?」
「痛い、ってか、すごぃ、くるし……」
「んんん」
咄嗟に喚くと、ぴたりと押し込む動きは止まった。しかし、中途半端に圧は掛けられたまま。敏感なところを抉らる息苦しさが、ぐるぐると渦巻いている。少しでいいから、抜いてはくれないだろうか。そして、あの蕩けるような悦楽に浸かり直させてほしい。半ば睨むように視線を送るが、ドラケンはぴくりとも動かなかった。おい、さっきだって、痛かったら言ってって、言ったろうが。
「あ、のさ、」
「ごめん、もうちょい、このまま」
抗議の言葉は、被せられた謝罪に阻まれる。
……正しくは、その男の目線で黙らされた、だ。こちらの意見は一切受け付けない。そう、切れ長の目に訴えかけられた。この男、誰にでも柔軟な対応を取るようでいて、なぜか昔からオレにはだけ頑固になるきらいがある。長い付き合いだからだろうか、それとも、不良としての格が浮き彫りになる前に知り合ったからだろうか。こうなってしまうと、いつだってこっちが折れるしかない。
苦しいのは、オレのほうだってのに。ム、と口を尖らせながら、仕方なく苦しさを享受することにした。
「ぅう」
小さく呻きながら、ナカにかかる圧から意識を逸らそうとする。しかし、その肉壺で善がったばかりというのもあって、上手くはいかない。なんなら、苦しさに慣れる方が早い気がしてきた。
呼吸に合わせて、ナカがきゅきゅうとうねる。必然的に埋めているソレを絞めつけてしまって、目の前にいる男から熱っぽい吐息が零れ落ちた。たまに、鼻にかかった呻きも聞こえる。苦しいのは、こいつも同じか? でも、オレよりは快楽に傾いていそう。一人気持ち良くなりやがって。三度の射精と一度のドライ、潮まで噴かされた自分のことは棚に上げて、恨みがましくそいつを見上げた。
「……ぅ、」
そのうちに、腰が痛くなってくる。そりゃそうだ、ドラケンの体で固定されているとはいえ、尻を浮かせた姿勢を保っているのだ。負担がかかって当然。そっと傍にある体に腕を回しつつ、どうにか姿勢を変えられないか、身じろぎをした。
「ん、ん?」
と、ナカで擦れる角度が、変わる。抜かれてはいない。けれど、なぜか、ふわりと浮くような心地がした。どうしたのだろう、この深さに慣れてきたからだろうか。落ち着かなくて、さらに腰をずらすと、再び浮遊感がやってくる。確かに腰は浮いているのだが、そこだけではなく、全身がふわふわと、水の中を漂っているかのよう。咄嗟に、背中に回した腕に力を込めた。
「……どした」
「な、んか、え、なに、これ」
「ん、っク……、絞めつけ、やば」
「ぇ」
ドラケンが呟いた途端、意識が最奥に集中する。ぎゅ、ぽ、ぢゅ、ぎゅちゅ、肉壁が、うねっていた。埋まったソレの、特に切っ先に吸い付いている。妄りに動くそれは、いくら止めようと意識しても制御できない。終始、刺さった熱杭に媚びている。
確かに、深いところを穿たれたとき、きゅうきゅうと吸い付くことはあった。けれど、こんなにも強烈なのは初めてだ。まるで、もっと深く、もっと奥へと誘っているかのよう。
「みつや」
「ぁ、え」
ぽつり、掠れた声で、名前を呼ばれる。開いたままの口は、上手く返事をできなかった。
「―― 入れるワ、」
なにを、どこに。
尋ねようにも、喋り方を忘れてしまったかのように舌は回らない。代わりに、はくんと息を呑むと、柔い口付けを返された。存外厚みのあるソレがじんわりと沈んでくる。互いの体温が混じったところで、どちらともなく舌を伸ばした。ぐずりと絡んで、理性が溶ける。そういえば、嵌められながらキスするの、初めてだな。行きずりの連中とは、ほとんどキスをしていない。そりゃあ、前戯をろくに施さないくらいだ、キスなんて、するわけもないか。
「ん」
交わりが、深くなる。ひたり、そいつの恥骨と思しき部位が会陰に触れた。根元まで、入ったらしい。逆に、これまで全部入ってなかったのかよ。大きいとは思ったけれど、そこまでとは。
「ンっ」
奥、深いところで、何かが割り開かれそうになる。その一線を超えるのは、まずいのでは? かろうじて残っていた理性が警鐘を鳴らすが、口付けにのめり込んでいるうちに、その鐘の音は聞こえなくなる。だって、さっきより、苦しくない。まったく苦しくない、というわけではないが、なんだか大丈夫に思えるのだ。根拠は、ないのだけれど。
「ンンッ」
ぐ、ぽ。奥が、拓く。
暴かれたワ。誰にも、触れられたことのない、そもそも、何事もなく生きていたら触れられることすらないところを、暴かれた。それに気付いた途端、やばいな、なんてスリルと、最高じゃん、なんて高揚が押し寄せてくる。
「は、いったぁ……」
「ぁ」
「すげ、いい、ん、さいこぉ」
「ぅンっ、ひ、ぃ」
息継ぎのためか、そういうタイミングだっただけか、不意に唇が離れるのに合わせて、呂律の怪しい声がする。それが目の前の男によるものだとわかると、ゾッとするほどの多幸感に襲われた。
「~~ッ♡」
そして、意識は、完全に悦楽に呑まれた。
◆◇◆◇
繰り返し、名前を呼ばれている。何度も、何度も。それどころか、肩を掴まれて揺さぶられた。折角、心地いい倦怠感の中、眠れていたのに。邪魔をしないでほしい。ごろりと寝返りを打つと、一旦音も揺さぶりも止むが、すぐに再開する。三ツ谷、三ツ谷ー。うるさいなあ。やめろという意味も込めて、ぶんと腕を振った。
「ッんる、さ」
「あ、起きた」
しかし、その腕はぱしんと掴まれる。手首に、長い指が巻きついた。くるりと周って、それでも指が余っている。
え、なに、誰。うっすらと目を開くと、見覚えのある顔がすぐそばにあった。
「どらけん……?」
「はよ」
「ぉはよお」
あれ、オレ昨日、どうしたんだっけ。目を擦りながらのろのろと体を起こす。室内は、電気ではなく、朝日のせいで明るかった。ということは、ドラケンの家に泊まったのか。愚痴聞いて貰うことになって、バイクで酷い目に遭いながら運ばれて、酒飲みながら悪態を吐いて。それで―― ?
「三ツ谷って今日休みだよな、土曜だし」
「ふぁ、ああ……、うん、そう、休み」
「オレもう出るからさ、三ツ谷帰る時、これで鍵閉めてって。で、店寄ってくれねえか?」
「ん、わかった。……え、鍵? 合鍵とかないの?」
「ない」
オレの顔の前でゆらりと揺れた金属は、すぐに右手に握らされた。ついているキーホルダーには、男の店のロゴが入っている。何を隠そう、オレがデザインしたものだ。愛用してくれてなにより。
手の中の金属を見下ろしていると、そいつはベッドの縁から腰を浮かせる。よくよく見てみれば、すっかり身支度は整っていた。髪だって、きちっと結われている。昨晩のように、乱れてなどいない。匂い立つような、夜の色気も、ない。いや、どうしてこいつのそんな様が過るんだろう。寝ぼけながら、そいつの背中を見送る。ああ、しがみつきがいが、あった、なあ。
は、と、目が冴えた。
「~~ッ待っ、」
「あ、なに、って」
「うわあ!?」
慌ててベッドから立ち上がるも、床についた足は、すぐにがくんと折れ曲がる。転ぶ。この歳で転ぶ。昨晩の駐車場でも転んだばかりだというのに、また転ぶのか。ぐ、と身を強張らせると、膝に衝撃。……は、なく、胴をぐんっと掴まれた。逞しい腕が、腹に回っている。しっかりと抱き留められたせいで、少し苦しい。転ばずに済んだだけ、マシと思うべきだろうか。
「あ、ぶね。大丈夫か」
「ぅ、ウン、ありがとう」
「どーいたしまして。無理すんなよ、怠かったらそのまま寝てて良いし」
その腕は、オレの体を引っ張りながらベッドに連れ戻す。すとんと腰を下ろし直せば、臀部の違和感が顕著になった。行きずりの下手くそに、パンパン叩かれた痛みではない。執拗に暴かれた後の、じんわりと落ち着かない質のものだ。
「っ」
つい、息を呑んでしまう。昨夜のこと、覚えていない、とは言えなかった。酒で記憶が飛ぶ性分ではない。むしろ、どんなやらかしも鮮明に覚えているタイプ。そもそも、たかが麦酒二本で酩酊するほど、自分は酒に弱くない。なにもかも、覚えている。こいつのこと、良い男だなと思ったのも、誘われたのも、誘いに乗ったのも、―― ひたすら気持ち良いセックスをしたのも。
じゅわり、腹の奥の熱が、呼び起こされる。
「じゃ、よろしく。行ってきます」
「へ、ぁ、いってらっ……」
しゃい。そう言い終える頃には、もうドラケンは部屋を出て行ってしまった。がちゃん、ばたん、なんてスチールの玄関扉の音もする。しん、と室内は静まり返った。時計の秒針の音すらしない。この部屋に時計はないのか、ぼや、と見渡してみるが、それらしいものはなかった。仕方なく、テーブルに転がっているスマホに腕を伸ばす。ベッドから、手が届く範囲で、良かった。
「八時半、か」
点灯した画面には、八と三と〇が並ぶ。土曜日、自分は、休み。でも、あの店は営業日。何事もなく開店して、何事もなく、あの男は仕事をするのだろう。
「……すげー普通だったな」
ぽつりと呟きながら、ベッドに体を預けた。何の気なしに持ち上げた腕は、やけに大ぶりな袖を纏っている。下肢が身につけているのも、ゆったりとしたサイズのスエットだ。いつの間に着替えさせたのだろう。……言うまでもない、オレが意識を飛ばしている間にだ。もともと着ていた服は、簡単に畳まれてテーブルの傍に置いてあった。早々に脱がされたのもあって、ほとんど汚れていないはず。着替えて、帰らなくちゃ。預かった鍵でちゃんと施錠して、バイク屋に顔を出して、鍵を返して、帰ろう
そう思いはするものの、体に残った倦怠感は睡魔を連れてくる。あっさりと瞼は閉じてしまった。朝日を浴びているのに、いくらでも寝てしまいそう。静かに息を吸うと、昨晩散々浴びた男の匂いが鼻孔を掠める。
「―― ぁ、」
見目よし、声よし、手指一二〇点の色男は、セックスも、執拗ではあったけれど、上手かった。
「どんなかおしてかぎもってけばいいんだよお……」
零した泣き言は、枕に吸い込まれていった。