B65
侑北(北さん女体化)
青天の霹靂。
なんていう程の衝撃はない。だって、ただ扉が開いただけ。何かと便利に使っている教材室の扉が開いただけなのだ。
――まさに、情事に至ろうとした瞬間に。
そんなとんでもないタイミングだってのに、なぜ驚かないのかって?
簡単だ、前にもあったから。一度だけならず、二度も。一度目は、同じクラスの男子で、ゲッという顔をしてすぐに扉を閉めたっけ。扉についているゴムの部分がバン! と大げさなくらいの音を立てたのを覚えている。お前、あそこに用あったんちゃうの? あとからそれとなく聞いてみれば、サボろうとしていた、まさか侑もあそこ知ってるとは、と答えられた。
で、二度目はさあシましょうなんて時分ではなく、文字通りの真っ最中。しかも、ピーク。組み敷いた体ががくがく震えていて、その女の上体についた脂肪と言う脂肪がこれでもかと揺れていた。気痩せするタイプで、引ん剥いたら案外太かった。あー外れたわ、と思ったものの具合は悪くない。肉付きが良いからこそだったのかもしれない。そんな絶頂寸前に、扉は開いた。開けたのは一コ上の女子の先輩。緩いパーマのかかった明るい色の髪で、やたら短いスカート。耳たぶからはピアスが垂れさがっている。ヤリマンて有名な先輩やん、なんて思いながらスキンの中に吐精すると、その噂通り彼女は婀娜っぽく笑った。次、アタシの相手してくんない? と付け足しながら。
で、今回、組み敷いているのは、例のビッチに紹介された股の緩い先輩。病気は持っていないから平気平気、と言っていた辺り、援交なんぞもしているのかもしれない。けど、それだけあって、上手いと聞かされていた。実際、キスは上手かったし、煽ってくる印象も悪くない。アタリや。そう思いながら、ブラウスのボタンに手を掛ける。
そんなときに、扉が開いたのだ。とはいえ、これまでがこれまで。経緯が経緯。どうせ、今回も大した問題が起きることなく、扉が閉じるなりなんなりするだろう。
「っ、」
ぷつ、とボタンを外しつつ扉のほうを見やれば、女子生徒が息を呑んでいた。立ち竦んでいる。けれど、抱えているやたらと大きな筒を手放すことはなかった。大きさから察するに、世界地図とか、年表とか、そういうたぐいのモノ。正しく、教材室に用事があるタイプだ。……これは厄介かもしれん。
ぷつ、さらにもう一つボタンを外す。教材室の敷居を跨げずにいる彼女は未だ絶句状態。胸元に視線を移せば、生真面目にも校章と学年章が留められた革製の台紙をつけていた。そこに描かれているのは『Ⅱ』の文字。先輩か。まあ、彼女が抱えているようなサイズの教材を使う科目は、二年か三年にしかない。ある意味、当然と言えば当然。
ぷつ、り。そのうちに、組み敷いている女子生徒のブラウスのボタンを全て外し終わった。露わになるのは淡いグリーンのブラジャー。ワイヤーと布地で包まれた乳房は見事にたわわ。揉みごたえがありそう。これ、何カップなんやろ。腰は細いのに、前のビッチ先輩より明らかにでかい。この大きさだったら、パイズリもしてもらえたりして。
「あの、」
ぽた、と声が聞こえた。改めて扉を見やれば、まだ二年の女子生徒は地図を抱えて立っている。膝丈スカートに緩みのないタイ。ぱっと見、化粧もしていない。髪は、光に透けると淡い色にもなるが、まあ地毛の範囲だろう。まさに、優等生と表すのが相応しい風貌だ。
まだおったん? その地図ならあとで直しとくんで、その辺に置いといてくださいよ。今、俺らがナニしようとしてるか、いくら優等生のアンタでもわかるやろ。
なんて、嫌味を舌に乗せた。
乗せようと、した。
「――園原さん、今日、日直やんな」
「アッ!」
「え?」
しかし、俺が喋るよりも女子生徒が言葉を発するほうが早かった。淡々とした声。随分と長い間、びっくりした猫みたいな顔をしていた癖に、もう真顔に戻っている。スンッ、というか、凛としたというか。
思ったよりも、驚いていないということか? 例えば、そう、こういうシチュエーションに慣れているとか。……ンなわけないか。こんな状況下にしょっちゅう出くわすなんて、あるわけがない。三度も遭っている俺が言ったって説得力がない? それはそれ。
じ、と、その優等生を見つめる。しっかりと、こちらを見ている。それは間違いない。
だが、違和感もある。なんというか、目が合わないのだ。黒目がほとんど動かなくて、一点だけを見つめている。
あ、もしかして、この人、俺のことを見ていない? 真っ直ぐに俺に組み敷かれている女だけを見ているとしたら、目が合わないのも納得できる。実は俺のファンで、嫉妬してるとか、……な、わけないか。日直て言うてたし。
要するに、日直の仕事をサボったこのビッチ先輩その二の代わりに、優等生先輩は教材の片付けを頼まれてしまい、いざ教材室にやってきたらサボタージュを決め込んだ当事者を見つけた、と。真面目というか、不運というか。不憫でも良いかもしれない。
それはそうとして、ヤろうとしている状況より、サボりのほうを責めようとしているとは、この先輩もズレとるなあ。
ざっくりと状況を把握しきったところで、ふ、と真下に視線を下ろしてみた。そこには、扉のほうを凝視しているビッチ先輩その二。ひくん、と、頬も引き攣らせている。何故? それとなく触れた腹は、汗ばんでひやりとしていた。興奮のせいではない。なんせ、さっきまではさらりとした肌触りだったから。たぶん、これは冷や汗。
「ゴッ、」
どういうこと?
「ゴッメ~ン、すっかり忘れてたぁ!」
「おっぶぁあ……!?」
疑問が脳裏を掠めた瞬間、スパァンと小気味の良い音を立てて顔を突っぱねられた。
自慢の顔になんてことをしてくれる、この阿婆擦れ。叫んでやりたいところだが、俺が怯んだ隙に、既に女は俺の下から抜け出していた。
あぁあ、どうしてこう、女という生き物はいきなり俊敏に動き出すんだ。例えばおかん。手伝いから逃げようとする俺の襟首を掴んで見せる俊敏さは、日頃の運動不足からは想像しえない。ばあちゃんだってそう。アカン、これはめんどいとその場を離れようとした瞬間にはむんずと手首を掴まれている。なんなん、この女という生物の瞬間移動能力。
「北ぴ、代わりに運んできてくれたの、ありがとぉ!」
「構わへんけど、……とりあえずボタン閉めたほうええんちゃう?」
「やぁだ、北ぴのえっちぃ」
「女同士でえっちも何もないわ、つか、そこの男子は、」
「ええのええの、気にせんといて~!」
気にしろや。そう言おうにも、先ほどのツッパリが顎を掠めたらしく頭がクラクラとして喋ることができない。せめてもの抵抗にとキャッキャとやり取りする連中――まあ、煌びやかな高音を響かせているのは阿婆擦れ雌ブタだけだが――を睨んでみるものの、俺のことなど一切眼中にない様子。優等生に至っては、もはや我関せずといったふうに教材室に入り、持ってきていた筒を似た筒のあるところに置こうとしていた。
「クッソ……」
悪態を漏らせば、いつの間にかブラウスのボタンを留め終わったビッチと目が合う。パチン、というアイコンタクトは「今日はごめん」か「また今度」か。「残念やったね」かもしれない。どれにせよ、腹立たしいことに変わりはない。しかも、優等生が、どうにかこうにか倒れないように筒の角度を調整しているうちにパタンと扉を閉め、スタタタタッと去っていった。
おい、ええんかあんた。逃げたであいつ。
「さいっあくや」
「なあ、園原さん、ちょっとここ押さえて、……あかん、逃げられた」
「えーえー逃げましたよあの人。どっかの誰かさんのせいで!」
「教材室なんて、誰がいつ来るかわからんようなとこでアホなことしとった自業自得やろ。つか、なあ、手ぇ空いとるんやったら手伝ってくれへん?」
「えぇ……」
「腕、抜けへんようなってもた」
「はぁ?」
今まさに情事に耽らんとしていた男に平然と話しかけるとは、こいつもこいつでどういう神経をしているんだ。いや、ズレた感性をしているなとさっき思ったばかりだったわ。本当にもう、どいつもこいつも。
仕方なしに、もそもそと緩んだベルトを締め直しながらそいつのほうに近づけば、細腕が何本もの筒に挟まるように埋まっていた。なぜこんなに腕を奥に突っ込む必要があったんだ。げんなりと顔を顰めてみるものの、立てかけられた教材は真っ直ぐだったり、斜めだったり、入り組むようにしてバランスをとっている。それを崩さないようにしていたら腕が埋まった、というところか? むしろ、その隙間をかいくぐれるだけの細腕だからこそこうなったのかも。
とはいえ、抜けないほどではないように見える。その細さであれば、ちょっと力を籠めれば、ズルッと抜けそうなのに。
眉間に皺を寄せながら眺めていると、変わらぬ淡々とした顔のまま、そいつは口を開いた。
「抜こう思ったんやけど、したら、これとその筒がこっち倒れてきそうでな。から」
「あ~、そのへん押さえとったらええてこと?」
「おん、頼むわ」
教材室の隅、ステンレス製の棚と棚の隙間に置かれている筒は十本弱。金具が剥き出しになっているのもあり、無理やり腕を抜けば倒れるだけでなく手に傷ができてしまうかも。……それは、あかんな。つか、この人、別の地図の金具に制服袖引っかけとるし。筒が倒れてくるのもやけど、袖のボタン取れるとか、手に引っかき傷できるのだって危ない。体、特に手は大事にせなあかん。それは自分の手であっても、まったく他人の手であっても。怪我した手ぇ見とったら、こっちまで痛いような気になるやん。
「はあ」
「ため息吐くなや、あたしかて好きで見たわけやない」
「……それはもーいーっす」
性欲処理ができなかったのはもういい。どうでもいい。あんたの何事もなかったかのような言動を見ていたら、気にしている自分がアホみたいに思えてきたし。
でも、ため息を吐きたくなるもんは、なるんです。
そう続けようとしたところで、喉が詰まった。筒の前に彼女が立っている。彼女の言うところを押さえるには、彼女の後ろに立つ必要があり、おそらく、密着、せざるを得ない。……おや、これはこれで役得? かといって、貧相な体触っても、なあ。
など考えつつ、静かに腕を伸ばす。ふ、と制服の布同士が触れた。彼女の袖の裾が引っかかっている筒を片手で押さえ、もう一方の腕で金具から外す。それから、彼女の手に当たりそうな筒を一つ、二つ、三つばかり押さえた。
布の感触、どころか、体温が、伝ってくる。ぴったり、と、俺の前面と彼女の背面が、くっついている。程よい熱感。貧相、とはいったものの、ほっそりとした体つきは嫌いではない。それに、この白い首。香水はつけていないようで、襟足からは、ふわりと女子特有の甘めの匂いがした。
(あかん、なあ)
俺が一人悶々としているうちに、彼女はゆっくりと腕を引いていった。そっと俺が腕を離しても、筒が倒れる様子はない。バランスを、きちんと保てている。
「……」
「……」
依然として、俺は彼女にくっついたまま。それに何か突っ込まれることはなく、彼女は右腕の動きを確かめていた。ぐ、ぱ、と手を握って開いて、肘を軽く動かして。怪我はしていなさそう。
あ、手に、肉刺。何部なんやろ。でも、運動部なのは間違いない。
運動部で、この、細腰。着痩せするタイプではなく、本当に細いのだろう。いや、案外肩幅はしっかりとしている。そのせいもあって、より腰が細いように感じられるのか? なんにせよ、程よい柔らかさは携えている。
くつくつと、冷めかけた劣情に、熱が戻りだした。
「……ありがとう、もうええよ」
「……」
「おい」
「……ん~」
「っんわ、なんやねんいきなり」
筒から離れた腕は彼女の腰をぎゅうと捉える。それから、頭は彼女の肩口にもすりと埋めた。俺の前髪で首筋を擦る感触が擽ったかったらしく、もぞりと体が揺れる。俺の、カラダと、擦れる。
ぶっちゃけ言おう。この先輩と、ヤりたい。
「せーんぱーい」
「うん?」
「いーことしません?」
「……抽象的すぎて、するもしないも答えようないわ」
「セックス、せぇへん?」
「断る」
「そこをなんとか」
「こ・と・わ・る。いい加減離れぇや」
「離したら逃げてまうやろ?」
ぽそぽそと耳元で囁いてみるが、彼女に響いている様子はない。顔以上にこの声は自慢なのだが。囁かれるとそれだけでイキそうになる、としばしば言われるのは、お世辞ではないと思ったのに、効く相手は限られるらしい。
なあなあ、あかん? きもちよくしますよ。
薄暗い教材室の中、吐息をたっぷりと込めながら彼女の耳に囁き続ける。それでも、彼女は頷いてくれない。どころか、ちらりと盗み見た横顔はこれでもかと冷え切っていた。
「しつこい」
「なんで? あ、もしかしてハジメテ? せやったらめっちゃ優しくしますよ」
「そういう問題ちゃうわ、断る言うとるんやから、諦めえ」
「やです」
「経歴に傷付くで。強豪・男子バレー部員、強姦事件て新聞に載りたいん?」
「……先輩、俺んコト知ってはるん?」
「ウチんガッコでお前を知らん奴のが少ないんちゃう? 宮侑やろ。セッターの」
「お、ポジションも知っとるいうことは、バレー詳しい? ええなあ、シよ!」
「何、目ぇキラキラさせてんねん。ええもクソもあるか、はよ離せ」
おや、案外口が悪い。女の子が「くそ」て言うのはどうかと思いますよ。なんて言葉は飲み込んだ。もしかしたら、女子バレー部なのかもしれない。代々、何故か稲高女バレは口の悪い選手が多い。それで弱小やったら雌犬がキャンキャンうっさいわー、で済ますけど、案外これが強いときた。男子のように毎年全国に出場しているわけではないが、県大決勝までは必ず進んでいる。今年はそこで負けとるから、詰めが甘いわ雌ブタ共、ては思うけど。
女バレに手を出したら、気まずいだろうか。一瞬浮かんだ思考は即座に霧散する。気まずくなろうが、こっちのプレー環境への影響はほとんどないだろう。しいて言えば、アラン君がちょ~っと女バレの新主将サンからキッツイ目ぇ向けられるだけ。なんでって、アラン君は次期主将候補で、女バレはインハイでもう三年が引退しており、新主将は二年がやっているはずだから。
「なあ、悪いようにはせぇへんから、なっ!」
「何度言わすん、断」
「あ!」
「は、ムッ!?」
ぱ、っくん。
と、その小さくもよく回る口を塞いだ。言うまでもなく、俺の、唇で。小さい上に薄いソコは、喋りかけと言うのもあって、簡単に舌を入れ込むことができた。外見同様、口の中も小さい。歯並びはすごくキレイ。犬歯が突出して尖っているふうでもない。この小さい口にちんこ捻じ込んだら、さぞ可愛い泣き顔拝めるんやろなあ。
奥に縮こまった小さい、というか短い舌を捕まえて、ぢゅと吸い上げる。ハジメテを思うと過激すぎたろうか。あれ、つかキスは経験済? そもそも彼氏おるとかいう? 寝取ることになったら、う~ん、手ぇ出すんがちょっと遅かったな、美味しいとこ、頂かせてもらいましたわ! てとぼけることにしよ。
「ん、ンぅ」
「あ」
考え事をしているうちに、くんっと制服の上着を引かれた。握られた、ともいう。
咄嗟に口を離せば、濡れそぼった唇からねっとりと唾液が糸を引いた。たっぷり絡めたのもあって、とろんと先輩の下唇に溜まる。頬や目元はすっかり紅潮して、は、は、と肩で息をしていた。……抱いている腰が、震えているのは、気のせい? いや、これは気のせいではあるまい。
「フッフ、腰抜けてもた?」
「んに、すんねん、いきなり」
「キスしました。どぉ、気持ちよかった? する気ぃ、なりました?」
「せぇへんてさっきから、」
「な~ら、したくなるまでちゅーしますわ」
「へ、ぇ、ア」
身長差があるとはいえ、後ろから覗き込むような角度でキスをするのはこっちも向こうも辛い。ぐるんと腕の中で彼女の体を反転させ、後頭部に右手を添えた。ちなみに、左腕はがっちりと腰を固定したまま。
キスすべく顔を寄せれば、涼しげだったはずの両目がぎゅうっと身構えるように閉じた。キス待ち顔にしか見えないのだが、自覚はあるのだろうか。いや、ないに決まっている。まったく、顔を背けるとか、どうにか手を挟み込むとか、抵抗の手段はあるだろうに。相当テンパっているらしい。こりゃ、キスも未経験。まっさらなところ、ハジメテが俺なんて、あんたも運が悪い。……ある意味では、良い、と言うのかもしれないか。
「ん~」
「んっ、ンっ、」
唇を塞いでいる間、彼女は一切の呼吸ができていない。息継ぎくらい教えてやるべきだろうか。それよりも、酸欠になるまで貪ってしまったほうが「ウン」と言わせられる気がする。よし、そうしよう。
ぐずぐず、じゅるじゅるとわざと煽るような水音を立てながら、薄い唇を貪っていく。刺激を与えるたびに震える肩の、なんと幼気なこと。慣れている女ばかり相手にしていたから新鮮だ。彼女らは、「もっと」と俺の首に腕を回してきたから。対して、今目の前にいるのは俺の制服を握りしめることしかしない。できない、というほうが正しいかも。
あーあー、これじゃあ指先、真っ白になっていそう。抱くとき、手でも繋いでやろうか。でも、そんなことをして彼女面されるのも面倒だ。適度に、手が無事なのを確かめる程度で留めるよう、気を付けなくては。
「ん、ぁっ」
「おっ、とぉ……」
控えめな嬌声が俺の鼓膜に届く。かと思えば、がくんと彼女の膝が折れた。どうにか俺にしがみついているおかげで立てているような状態。どん、と突き放せば、こてんと座り込んでしまうことだろう。
それをわかった上で、俺の制服を握る手を取る。予想通り、その指先は力みすぎて真っ白くなっていた。痛々しい。でも、血の巡りは悪くない。冷え性ではないらしい。爪は長くもなく短くもなく、切り揃えられている。ついでにその爪の断面は滑らか。これなら、背中にしがみつかれても、引っ掻き傷はつけられずに済むかも。なーんて。まだ良しを出されていないのに、もうする気になってしまっている。
でも、なあ。ここまでなったら、もうするしかないやん?
「ど? もぉっと気持ちいコトできるんすよ」
「し、ない、て」
「つか、キスだけで腰抜かしといて、もう先輩もその気なってるんちゃう?」
「なってへんっ」
「セックスしたい~って、おなか、むずむずしません?」
よろよろと座り込んでしまう先輩に合わせて、俺も彼女の前にしゃがみこむ。そして、静かに手のひらを彼女の下腹に伸ばした。上下の制服の、境目。スカートで覆われている部分。彼女のスカート丈であれば、ベルトの感触はしないだろう。案の定。プリーツごしに平たくも柔らかな腹部の感触がした。
「ぁ……」
か細く声を漏らすと同時に、内腿を擦り合わせたのは見逃さない。ほら、感じてる。感じてはる。オトコみたいに、勃起するわけではないからわかりにくいけれど、もう下着の中、ぐしょぐしょに濡れてるんちゃいますか。
「……も、ほーむるーむ、はじまる、し」
「サボったらええやん」
「でも」
「今日、センセーらの会議? だかで部活どこも休みやんか、時間はたあっぷりありますよ」
断る理由が彼女自身の嫌だ・嫌じゃないから離れてきた。他に理由を押し付けるのはよくありませんよ、自分の意思で決めなくては。それこそ、処女喪失なんて、大事なことは。
「こ、ういうことは、」
「好きな奴とするもん、って? 俺先輩んコト好きですよ」
「は」
「セックスしてくれたら、もっと好きんなるかも」
ね。やんわりと下腹を撫でながら、その上体を床に押し倒した。頭をぶつけないように、ちゃんと手でカバーはしてやる。俺ほんま優しいわあ。処女相手とか、ぶっちゃけ面倒としか思えへんけど、この先輩の外見と感度やったら許せてしまう。キスだけで腰抜かすんやで、まんこ弄り回したら良すぎて狂ってもうたりして。
「ね、せんぱい」
追い詰めるように囁くと、こくんと彼女は唾を飲んだ。教材室の、しかも床というのもあってどうも薄暗いが、紅潮しているのは明らか。潤んだ瞳もなかなかそそられる。早く、ウンと頷いてくれないものだろうか。もう一押し、キスでもしておくか。
距離を埋めるように、顔を近づけていく。濡れた唇が、ふる、と微かに震えた。
「……きた」
「え?」
「きた、しん」
「えーっと、名前?」
「名前も知らん相手のこと、好きとか言うもんやない」
「知った今なら、好きぃて言うてもええの?」
「言うても言わんでもええわ、もう、煮るなり焼くなり好きにせえ」
「そんなん言われてもたら、ほんまに好き勝手しますよお」
「ええ言うてんねん」
「お」
どうやら彼女の中で覚悟が決まったらしい。というか、諦めがついたというのが正しいか。俺に迫られて、どうせ満更でもないんだろうし。いや、女バレであったら、宮侑の好きにさせたほうが、面倒じゃない・文句は後で別の部員に言ってしまえ、と考えているのかも。彼女に冷ややかな目を向けられるアラン君が脳裏に浮かぶ。それから、お通夜染みた雰囲気を醸し出してしまう大耳さんや、唇を噛み締めてからがっくりと項垂れる赤木さんも。問題児ですんません。でも、バレーに支障は出しませんから許して。
「くれたるわ、処女」
「……フッフ」
なんて潔いんだろう。感心する一方で、「その言葉を待ってました」と昂る自分もいる。
にんまりと笑ってから、未だぬらぬらと艶を持っている唇にかぶり付いた。角度を変えながら味わいつつも、右手では、彼女のタイを緩めにかかる。続けて、ぷつぷつとボタンも外していった。性急だって? こっちは、一人目を逃しているのだ、サクッとヤってしまいたい。
処女、となれば、サクッなんて簡単に突っ込めはしないだろうけど。まあ、フツーに考えたら痛いんやろなあ。どれくらい解したらええんやろ。びっしょびしょなってもナカはキッツキツかもしれんし。
一通りボタンを外したところで顔を離せば、蕩け顔が視界に広がる。つい、頬が緩んでしまった。ハジメテ、てほんま? 実は経験あるとか言わん? キスだけでこんなトロトロなってくれたん、それこそハジメテなんやけど。手練れの先輩らとばかりヤっていたから、俺も上達したんかなあ。それやったら嬉しいわ。
もはや一切の抵抗をしなくなった彼女のブラウスを開けば、真っ白いキャミソールが見えた。その下に隠れているブラジャーもおそらく白。だって肩ひもが両方とも白いから。優等生で下着も清楚なんて、これは絶滅危惧種だ。ビッチ先輩を組み敷いていた時よりも、興奮してしまう。
するり、とキャミソールを捲りあげれば、流石に彼女もヒクンと体を震わした。肌を晒すことへの恥じらいはある、と。自ら見せつけてくる肉食系とは打って変わって、この初々しさが堪らない。一思いに鎖骨の上まで巡りあげれば、刺繍やレースが施された下着が顔を出した。
この、顔で、この、下着。完璧やん。ずぐずぐと半身に血が滾りだす。
「あ、んま、見んな」
「見ますよ。いやあ、かんわええモン、つけてはるんですね」
「わ゛」
「……うっわ色気な」
「喧しい」
ブラジャー越しに片一方を触れれば、彼女の口からは濁った声が飛び出した。そこは、キャッて言うトコだろうが。そう主張しようとしたところで、そもそも彼女自身は仕方なしに合意したんだったと思い出す。いつもみたく、わざとらしく喘いでもらえはしない。
かえって、燃えてきた。これでもかとヨがらせて、あんあんひんひん言わせてやる。
片手ですっぽりと収まる乳房は、これまでで抱いた女の中で一番小さい。これをAカップと言うのだろうか。でも、制服を着た状態でも凹凸はあった。女子によっては、その凹凸が一切見られない奴もいる。じゃあ、Bくらい? 胸もSMLで表せられたらいいのに。さすがに暴論だろうか。組み敷いている彼女に悟られたら、絶対零度の視線を向けられてしまいそうだ。
ふに、ふに、と布地越しに堪能したところで彼女の背側へ手を差し込む。と、脇を擦れた感触が良かったのか、ンッなんて鼻にかかった声がした。そういう可愛い声、もっと聞かせてくださいよ。
慣れた手つきでぷつんとホックを外してしまえば、自然とブラは持ち上がる。それまで支えられていた脂肪はもったりと横に流れつつ、彼女の胸元はかろうじてお椀型を保った。
「っ、ぅ」
「恥ずかしい?」
「当たり前やろ」
「かわええっすよ、顔も、身体も真っ赤にして」
「……御託はええねん、さっさとすることしてまえ」
「ワー、優しくしたろ思っとったのに、そーいうこと言う」
乱暴にされたないやろ。そんな脅しを込めて、ぐいっとブラジャーを上にたくし上げた。おかげで、完全に彼女の双丘が露わになる。まあ、丘、いう程の大きさはないのだけれど。
ど?
「え」
「あ゛?」
「う、ぉ、ほんま、これ?」
「っなんやねん、じろじろ見て」
「や、うわ、うわ~!」
「ちょ、近い、息かけんな!」
「あ、すんません、テンション、ブチ上がってつい」
「~~っから、息かけんな、そこで喋るんやめえ!」
「えへへ」
笑って誤魔化しつつも、視線をかろうじて膨らんだ部位の先っぽに向けた。ツンと尖っているのは、これまで見てきた女と変わらない。
だが、劇的に異なるのが、――その、色。
「AVでしか見たことないわ、こんなん」
「ひッ!」
きゅ、と抓んだそこは、まあ綺麗なベビーピンクをしていた。茶色でも、黒ずんでもいない。いっそ、そういう色の絵の具を塗り込んだのではないかと思う程。肌全体が赤らんでいるのもあって、色味の差は控えめだが、素面の時に見たら裸婦画もびっくりの美しさなのでは。
珍しさもあって、いつもなら揉みしだくところだが、乳首ばかりくにくにと弄ってしまう。そのたびに、息を呑む気配がするのだから堪らない。切っ先の窪みを軽く引っ掻けば、甘い喘ぎが漏れた。
刺激するほどにソコは赤く、ぷっくりと天井に向かってそそり立っていく。まるで、咥えてくれと言っているかのよう。むしろ、ここでしゃぶらないでどうする。
緩む頬そのままに、膨れた突起にむしゃぶりついた。
「ギャッ!」
「……ん、ぢゅっ」
「しゃぶってもなんも出ぇへんて……」
「わかっへまひゅよお」
「っヴわ、しゃべ、ん、」
「ふっふ」
「ゥ」
口内にいれた豆粒大の乳首はコリコリと硬くなっている。抓っている間はここまで硬くなってはいなかったから、感じてきているのだろう。わざと、たっぷりと唾液を使って吸い上げれば、床に横たわった体がビクンと震える。そっと彼女の顔を盗み見れば、水分過多になった瞳と目があった。自分が乳吸われているトコ、よおガン見できますね。と、からかう台詞も浮かぶが、生憎、口は彼女の乳首で埋まっている。
ねえ、先輩。今、弄ってないほうあるやないですか。そっちも、触ってええ?
そんな念をアイコンタクトしてみるものの、彼女に正しく伝わることはない。だって、そろそろともう一方の乳首を指先で掠めれば、信じられないと言わんばかりに目を見開いたから。ついには、ぽったりと涙が目尻を伝い落ちていく。泣くほど気持ちいい? わけ、ない。泣くほど恥ずかしいに決まっている。
泣かれるとなあ、無理強いしているみたいで居心地が悪い。実質無理強いやろって? それは言わんといて。
ぢゅぱっとしゃぶっていた乳首から口を離し、一度べろりと唇を舐めた。
「吸われんの、そんなイヤ?」
「い、みわからん」
「意味?」
「せ、っくす、するんやったら、乳弄る必要ないやろ」
「ありますよ、気持ちええやろ?」
「……」
「まさか気持ち悪いとか言います?」
「正直、い、痛い」
「え゛」
「いたい」
「うそォ!?」
こんなにぷっくり勃起させといて、痛いだと。指先で弄っていたほうも手を止めてしまう。
愕然としながら、二つの突起を見下ろした。淡いピンク色をしていたそこは、しゃぶったりしたせいで赤みを帯びている。腫れている、と、言えなくもない? 痛いと言われてもわかるような、わからないような。
「う、そぉ」
「つか、胸揉む力も、その、……強いんやけど」
「うぇえ!?」
「乳がん検診てこんなんやろか、て、ちょっと思っ」
「待って待って待って、なんで、おっぱいて性感帯やろ!?」
「……幻想やと思うで、それ。所詮は脂肪の塊や、腹の肉触られるのとなんも変わらん」
「うそお……」
じゃあ、これまで相手をしてきた巨乳連中の喘ぎは何だったんだ。乳首弄り回すほどアンアン言うし、なんなら、自ら胸を揉みしだいたり乳首を弄ったりして見せたのに。サイズの問題? 巨乳はええけど、貧乳は違うって? どっちか言うたら、貧乳のほうが脂肪少ない分、感度高いイメージなんやけど。
あかん、「優しくする」の方法がわからん。
「そんな落ち込まんでええやん」
「落ち込みますよぉ、ええ……、嘘やろぉ……」
馬乗りになったまま、がっくりと項垂れてしまう。必然的に彼女の胸が視界に入り、じんわりと下腹が熱くなってくるが、これまでの触り方だと彼女は「痛い」という。そうなると、下をどう触ったとて「痛い」と言われてしまいそう。
経験値はあるほうだと思っていたのに、まさか思い込みに過ぎなかったとは。絶望や。凹む。いっそ萎えてくれたらいいのに、ほっそりとしたくびれは俺好み。バレー部なら太ももも適度にむっちりとしているはず。ギンギンになるのも時間の問題だ。
「きもちよさそな声もあげてたやあん……」
「くすぐったいんはあったけど、ほぼ痛かった言うとるやろ」
「……くすぐったい?」
「ん」
痛いはまだしも、くすぐったいは気持ち良いと隣り合わせ。ということは、まったく感じていないというわけではないのか。
じ、と彼女の体を見ろしながら、甘い声をあげた瞬間を思い起こす。キスは気持ちよさそうに受け止めていたけど、それは別として。確か、ブラを外そうと脇を掠めたときと、軽く、ほんのかるーく乳首の先っぽを引っ掻いた、とき。……あとは、悲鳴をあげていたが、あの悲鳴は嬌声ではなく、力が強い故の正しい「悲鳴」。
と、言うこと、は?
「ちょっと試して良いすか」
「は、まだ続ける気なん」
「当たり前やないですか、ここまでして退いたら男が廃る」
「……レディファーストて言葉もあるやろ。あたしを思って、引き下がるとかないん」
「ないっす」
「クソ野郎」
「ワー、女子に面と向かって言われたん初めてやあ」
俺の主張に間髪おかずに飛んできた罵倒にカチンとこないこともないが、痛いと言われたまま引き下がるわけにもいかない。ここで止めたら、下手くそと言われたような状態で終わるも同然だ。それは何としても避けたい。絶対に、この先輩、キタさんに「気持ちいい」と言わせてやる。
軽く息を吸ってから、静かに彼女の胸に両手を乗せた。痛みが来ると思ったのか、彼女はひく、と身構える。いつも通りじゃ、強い。もっと優しく、ガラス細工を触るように。いや、俺にとっては、ボールをセットするときの感触をイメージしたほうが良いかもしれない。
彼女の胸はすっぽりと俺の手のひらに収まる。ボールを掴めるだけの大きさに対して、かろうじてお椀型を保つ程度のサイズだ。当たり前と言えば、当たり前。じんわりと、手のひらで、彼女の熱を感じ取る。空気に触れていた時間が長かったせいか、俺の手よりはひんやりとしていた。どうせなら、同じくらいの温度にしたい。
そぉっと、薄皮一枚をするように手を滑らせた。
「っ、」
胸部の柔らかな凸の形を丁寧に確かめていく。くっきりと浮いた鎖骨があって、そこから控えめに膨らみ始める。乳首は、俺が弄り回したせいでぷっくりと腫れてしまった。やらかしたな、と思いながら腫れている突起の周り、乳輪をほんのりとなぞれば、素肌から少しばかり膨らんでいるようだった。乳首同様、先ほどまでの調子で触られたら痛かろう。でも、触りたい。だから、さっきよりもずっと弱い力を意識した。決して弄るなんて真似はしない。つるつる、くるくると、傷口に軟膏を乗せるときくらい、細心の注意を払って触れる。
「っ、ぅ、」
しばらく胸の先を撫でたところで、今度は、胸の下部へと指を滑らせていく。ふっくらとした丘の付け根、とん、とん、と指で歩くように輪郭を辿っていけば、ふく、と膨れたものが指先を掠めた。なんだろう。改めて下乳の形をなぞるように指先を滑らせれば、ぽつ、と丸が引っかかる。
静かに指を離すと、そこには、黒い丸が鎮座していた。
「あ、」
「っなに、」
「ホクロ」
「え」
「ホクロある、おっぱいの下」
「う、そ」
「あれ、知りませんでした?」
「知らん、かっ、た」
ここ、ここですよ。そう示すように、何度かホクロを撫でると、彼女の手が恐る恐る伸びてきた。俺の指と、重なる。そうして、ぽつ、と膨れた丸が彼女の指先に当たった。
……なんか、自分で下乳撫でるて、えろい、な。つか、こんなとこにホクロあるとか、他の誰も知らんのとちゃう? 俺が見つけて、彼女も初めて気付いた様子。確かめるようにくにくにと動く細指が、やけに艶めかしい。
「ほんまや……」
「なあ」
「え?」
左手は腹部に移動しつつ、彼女のホクロを撫でる指先を絡めとった。その人差し指は、俺の小指ほどの太さしかない。いや、それよりも細いかもしれない。指と指、一本一本を絡ませるように繋ぐと、彼女の体温が伝ってきた。さっきより、熱い。そういえば、腹部を撫でている左手が感じる熱も、高くなってきた。
彼女を昂らせるには、これくらいの力加減でなければならないらしい。少し面倒。でも、塩梅さえわかれば、コントロールするのは容易い。
ふ、と一つ息を吐いてから、彼女の上体を引き起こした。ついでに、俺は床に尻をつけ、あぐらをかいた俺の上に、彼女を座らせる。このまま突っ込んだら、対面座位。でも、それは難しいやろなあ。ハジメテ、やし、突っ込むときは、正常位にしよ。
「キタさん」
「なんやねん」
「次、背中触ります」
「は、なんなんその宣げ、ンッ」
彼女の言葉を聞き終えるのを待たず、腰に腕を回した。そのまま、ぐっと引き寄せる。それこそ、下腹同士が触れるくらいまで。
距離感が決まったところで、次は彼女の背中へと手を伸ばしていく。ブラウスもキャミソールもかいくぐって、皮膚の一枚分の厚みだけを意識する。ここはまだ腰。そこから中央、斜め上へと指先を向かわせれば、背骨に辿り着いた。体全体が薄いせいか、骨の一つ一つの形がよくわかる。人間の背骨は全部で何個あるんだったか。生物の授業で触れられたような気がするが、さっぱり覚えていない。ノートを開いたって、メモは残していないだろう。
だったら、今、数えればいい。
「ぁ、やめ」
「一つ、二つ、」
「っなに数えて」
「ん? 背骨の、数です」
三つ、四つ、五つ。ぽこぽこと浮かんでいる骨を丁寧に数えていく。本当は、これよりも下にだって脊椎骨はある。だから、こんな中途半端なところから数えていったって、然程意味はない。……そう、気付いても、指の動きを止める気にはなれなかった。
「ぅ、わ、わ」
彼女の口から漏れるのは、相変わらずの色気のなさ。でも、痛みを感じているわけではなさそうだから良いことにしよう。
かり、こり、爪先が彼女の表皮を掠める。ふと、手の甲に金具の感触がした。中途半端に外したブラジャーのホックだろう。こんな窮屈なもんつけてるから、おっぱいが小さいのでは? かといって、サイズの合わないものをつけると形が崩れるんだっけ。この人の胸、形は良かった。まあるくて、俺の手のひらにすっぽりと収まるサイズ。巨乳派から美乳派に転向してしまいそう。この形のまま大きくなってくれたら、最高なのに。
気付くと、指先はまた這っていた。
肋骨の上を経て、丸く膨れた部位に。下に、誰にも知られていなかったホクロのある、トコロに。
爪先が、突起を掠めた。
「――アっ、」
「へ」
「……」
「……いま」
「……黙って」
「いま、今の声、めっちゃ」
「黙れ言うとるやろ」
「えろかった」
「~~ッ悪いか」
全然。むしろ、嬉しい、です。
途切れ途切れに返事をすれば、彼女はもすっと俺の左肩に額を埋めてきた。おかげで、下腹だけでなく、身体の前面が、ぴったりとくっつく。もちろん、細やかで可愛いおっぱいも。
「痛ない?」
「……ん」
「せやったら、……気持ちいい?」
「…………」
「答えてくださいよお」
「あんな声出てもうたんやから、わかるやろ」
「……わざと喘いだ可能性も」
「あると思うん?」
「ない、っすよ、ね」
密着しているせいで、彼女の声はどれもこれもくぐもって聞こえる。聞き取りにくいわ、顔上げてちゃんと喋れや、なんて悪態は出てこない。それどころか、胸の中にじわじわと充足感が広がってきた。できた、痛くないように、できた。この調子で彼女に愛撫を施せば良い。
ふ、と吐息だけで一つ笑んでから、再び彼女の背中に手を乗せた。
「ぅン」
「あ、その声もかわええ」
「ッ耳元で、」
「うん?」
「……みみ、もとで、しゃべるん、やめて」
さりさりと背中をさすりながら、小声で話しかけると、彼女の重心がどんどん俺のほうに傾いてくる。耳元で喋るな、と言われても、あんたが俺の口元に耳近づけているせいなんやけど。
「んん~」
「やからっ」
「フッフ、やぁっと顔上げた」
「へ、ぁ、ムッ」
畳み掛けるように彼女の耳元で一つ呻けば、パッと勢いよく頭が持ち上げられた。左肩が寂しいが、火照った顔を見られたから良しとする。
にへら、と頬を緩めながら、息も絶え絶えな彼女に口付けた。その間も、やわやわと皮膚を擦る手は止めない。背中から、腰へ。さらに、その下へ向かうため、スカートのホックを外させてもらう。おそらく、彼女はキスに夢中で気付いていない。ぎゅ、と抱きしめている状態だからというのもあるのかも。どちらにせよ、都合が良い。ファスナーも下ろし切って、左手を、腰の下、柔らかな臀部へと伸ばした。
「ッや、ぁ、ま」
「ありゃ?」
「そ、こ、やめ……」
「おしり?」
「ヒッ、ぁ、かりかり、すんの、やめてぇ」
しれっと下着の中に手を滑り込ませたところで、彼女からパッと口が離れた。けれど、その間も俺の手は好き勝手に動いている。お尻の、割れ目の上の部分。ソコをほんの軽い力でカリ、カリと引っ掻いた。というか、引っ掻き続けている。
そんな微かな刺激が良いのか、彼女は俺の上で身じろぎをした。必然的に、制服越しに局部が擦れる。俺と、彼女の、ソコ、が。
「ぅ」
「……ソファ、移動しましょか。ナカ、解すんで」
「え」
「え?」
「ほんまに、するん」
「最初からそのつもりですって。それに先輩も好きにせえて言うとったやろ?」
「そら言うた、けど……」
言った、確かに自分は、そう言った。反芻しながら彼女は独り言ちて、目を伏せる。その睫毛が震えているのは錯覚ではない。なんとなく、抱き留めている皮膚も冷えてきた。汗のせい。も、あるだろうが、緊張しているせいもあるのだろう。
初めて、なあ。野郎のハジメテとはわけが違う。しかも、本命じゃない相手となれば。
「怖い?」
気付くと、口を開いていた。あまり大した声量ではなかったが、彼女の耳にはきちんと届いたらしい。パッと持ち上げられた顔は、不安で染まっていた。
「えっと、痛くはならんよう、気ぃつけます」
「い、痛いんはしゃーないやろ。初めてなんやし」
「それでも善処しますって」
「……そらどうも。んなことより、その、」
「うん?」
「この、まま、するん?」
「このまま?」
「床に座って、向き合った、まま」
「まさか」
「え」
すぐそばに立派なソファがあるのだから、その上でしますよ。三人掛けと思しきそれは、俺の体躯もそれなりに受け止めてくれる。俺の腕の中にすっぽりな彼女なら、ゆったりと寝転がれることだろ。
ちら、とそのソファのほうを見やれば、彼女も俺の視線を追いかけて肩越しに振り返った。先ほど、ビッチ先輩を押し倒していた、ソファ。……そこと同じところに寝転がるのは嫌、と言われたらどうしよう。タオルでも敷けば良いのだろうが、生憎、鞄は教室だ。敷けるものと言えば、ああ、そういえばヤる前にカーディガンを放り捨てたんだった。日当たりの悪い教材室は、夏場でも涼しい。と、なれば秋口の今は寒いくらい。いざセックスし始めてしまえば、気にならなくはなるが、あるに越したことはないと持ってきていたのだ。たぶん、ソファの隣に落ちているはず。
体を傾けるようにして覗き込めば、確かに自分の紺色のカーディガンが落ちている。あれを敷けば、良いだろう。
「じゃ、移動しましょか」
「へ、ぇ、~~キャッ!?」
「ワ」
そうと決まればコトを進めよう。彼女の体を横向きにしながら抱きかかえれば、悲鳴が降ってきた。お姫様抱っこをしている都合、彼女の頭のほうが若干高いところにある。おかげで高い声がよく聞こえた。可愛い可愛い悲鳴が、そりゃあもうしっかりと。
つい、視線を彼女に向けてしまう。
「……見んな」
「見ますよお、めっちゃ可愛い声出してくれたんですもん」
「可愛ないやろ……」
かち合った視線はすぐに逸らされてしまった。だが、照れているのだとわかる。なんせ、真っ赤に染まった耳が見えるのだから。あれ、その前から耳は赤くなっていた? どちらでも良いか。彼女にとって恥ずかしくて仕方ない、でも気持ちが良い可能性もある行為をこれから進めていくのだから。
数歩移動して、ひとまずソファに彼女を座らせたところで、床に落ちていたカーディガンを拾い上げた。軽くはたいて埃を落とす。ばさりと広げれば、彼女の腰から下を十分に覆える大きさ。自分の予想は間違っちゃいなかった。
早速カーディガンを敷いて、彼女の脚を引き上げた。その途中、すとんとスカートが落ちる。慌てた様子で彼女はスカートに手を伸ばすが、俺のほうが少々早かった。ぐっと彼女の体を仰向けに寝かせつつ、片足を肩に担ぎ上げたのだ。
「ッ、ちょっと、なあ」
「ほら、おてて退けてください」
「待っ」
「お断りしまーす」
必然的に彼女の下着は露わになる。スカートに伸びていたはずの手は、すぐさま自身の秘部を隠すように動いた。パンツ隠したところで、おっぱいは見えたままですよ。そう指摘すれば、彼女はどう身を隠すのだろう。嗜虐心がむくりと首を擡げかけるが、「優しくするんやろ」と言い聞かせ直して、そっと彼女の両手を捕まえた。細い、手首。俺の片手で、十分に掴めてしまう、細さ。若干の抵抗を見せられるが、男女の力の差は大きい。ほとんど苦労せずに、その手を退かすことができてしまった。
改めて露わになる、彼女の下着。ブラジャーと似たデザインで、刺繍があしらわれていた。脚のところには控えめにレースがついている。えろい。可愛い。清楚。堪らん。今までヤったことのないタイプというのもあって、興奮がすさまじい。
それとも、自覚がないだけで、こういう清楚なタイプが好みだったのだろうか。まあ、無垢な女を俺好みに染めるのは楽しそうやなあと思うけど。
羞恥で全身を真っ赤に火照らせる彼女をしっかりと見つめながら、下着のゴムに手をかけた。と、掴んでいた彼女の手からすとん力が抜ける。盗み見た顔は、唇を噛み締めていた。もうどんな抵抗をしたって脱がされると諦めがついたのだろう。
しめしめ。両手が自由になったのはありがたい。彼女の、可愛らしいパンティを、ゆっくり、ゆっくりと引き下げていった。
ちらりと覗く陰毛は薄い。下の肌が透けて見える。これは、まんこもすっかり綺麗にみえそうだ。頬を緩めながら、さらに下ろしていく。
さあ、あと、もう少し。
――とろりと、艶めかしい糸が伝った。
「……おっわ」
「ヴ」
「糸引いたの見えました?」
「っ皆まで言うなや」
太ももの辺りまで下げてしまえば、すっかり濡れそぼった性器が見えた。ヒダも、クリも、黒ずんでいない。赤い粘膜を覗かせている。その上に愛液を纏っているのだから、蕩けているようにしか見えない。彼女が零した愛液は、秘部についているだけでなく、下着にもとっぷりと溜まっていた。
「すご、とろとろや、いつの間にこんな濡れてはったん?」
「知らんわそんなん、気付いたら……」
「気付いたら!」
「……しゃーないやろ、あれこれされて、ぜんっぜん頭回らん、もうアカン」
「エッ、いや馬鹿にするつもりちゃうくて」
天然でえっちな体してはるんやなあって嬉しくなっただけなのだ。しかし、彼女にとっては、羞恥を煽る台詞にしか聞こえなかったらしい。気付いたらとろとろ、ええと思うけどなあ。それに、こういうことってどうしようもないトコあるやん。俺の息子なんて、そこそこ顔が良くて、柔らかい体しとったらすぐにギンギンなりますよ。
くるくるとフォローに値する言葉を探してみるが、どれをとっても彼女を辱めることになりそうで、アーやらウーやら、意味を持たない言葉しか出すことができない。
そのうちに、彼女は片腕で目元を隠した。たちまち、表情が読み取りにくなる。あの凛とした大きな瞳が雄弁に語りかけてくれたからこそ、反応を楽しめたというのに。しかし、この状況下で無理やり腕を引っぺがしてヒステリーを起こされたら堪ったもんじゃない。
様子見、ということにして、彼女の様子を伺った。
ごくりと唾を飲み下す俺を知ってか知らずか、彼女の唇は微かに動き出す。
「最悪や、なんやねん今日、厄日や」
「そこまで言わんでもええやんか」
「よお知らん男に、はしたないとこ見られたんやで、厄日でしかないわ」
「はしたない、つか、えーと……、生理現象やと思いますけど」
男はそういうとき勃起する。じゃあ女は? 濡れるんやろ。自分の体を守るために。いくら社会的だなんだと言われたって、所詮人間も動物だ。欲情すれば、ちんこは勃起するし、まんこは濡れる。そういう、もの。
もそもそと返してみるが、彼女の反応はない。どうしようか。このまま陰部を触りだしても文句は言われない気がする。だが、なんとか彼女の羞恥心を和らげたい。……あんなに恥ずかしがってるトコかわええ~言うてたのに、俺は何を考えてるんやろ。もう自分がわからん。
わからんから、これからすることも、その、気の迷いで済ませてもらえたら良いと、思う。
そっと、彼女の、顔を覆っていないほうの手を、掴んだ。
「うー、アー、ちょ、っと、手ぇ借りますね」
「は」
「ほら、これと、」
掴んだ手は、そろそろと俺のほうへと引き寄せていく。うろうろと寄り道をすることはない。真っ直ぐに、一直線に、引き寄せる。座り込んだ、俺の、中央に。テントを張っている、ソコに。
つまるところ、俺の勃起した性器に、だ。
「一緒」
「へ」
「あ、直接見たほうが、ええんかな、ええんか? まあ、ええか」
彼女の指先が布越しに触れて間もなく、自身のベルトを緩めた。そのまま腰を浮かし、下着ごと一思いにずり下げる。
その一瞬を経て、彼女の指先は、はち切れんばかりに反り返った、しかも剥き出しの亀頭にとんと乗った。
「ヒッ!」
「あっわっ、怯えるんやめてくださいよ、グロいかもしれへんけど、しれへんけど!?」
「ぐろ、つか、は? なんやねんその大きさ、ハ?」
「……へへ、大きい? えへへ嬉しいわあ」
「褒めてへんわ。つか、そんな、無理やろ、解したとか、そんなんで入るわけない」
「入りますってぇ」
「あたしをなんやと思てんねん、こちとら処女やぞ」
「ゴモットモー」
真っ当な返しに言い返す言葉もない。
体格相応の大きさをしている俺のナニは、日本人男性の標準サイズとやらよりは少々大きいらしい。コンドームのサイズもLを使っているし。全体的な大きさもだが、何より阿婆擦れ共が喜ぶのは、このカリ高なところらしい。ぐぽんと呑み込んだあと、何度も出入りされると堪らなく良いとかなんとか。
……ビッチの言う「イイ」は、処女にとっての「痛い」と思って間違いないだろう。少なくとも、激しく腰を打ち付けることはできない。なんなら、陰茎すべてを入れることも難しいかもしれない。彼女の体格だったらギリギリいけるか? いや、無茶は、やめたほうが良い。彼女の反応を見ながら、少しずつ進めるのが、きっとベター。
彼女の指先は、依然として俺の鈴口に乗っていた。おかげで、じんわりと滲み出すカウパー液が彼女の指を汚していく。おののきながらも、手を離さないのは、興味がある証拠? だったら、嬉しいのだが、混乱でフリーズしているだけだったらと思うと。……頭が痛い。
「……で、でもほら、この先っぽだけやったら」
「その先がえげつないんやろ」
「ヴ、まあ、えへへ」
「もっかい言うで、褒めてへんからな」
「はぁい……」
冷ややかな視線と共に釘を刺されてしまうと、弱々しい返事しかできない。でも、すると決めたし、一応あんたも腹をくくった。第一、ここまで勃起して、しかも向こうも濡れているとなったら、ヤってしまったほうがすっきりするに決まっている。
かりぽりと軽く頭を掻いてから、ぱっくりと俺の視界に入るように孔をあけた中心を見やった。襞なのか、ナカの粘膜なのか、ひく、ひくんと動いているのが見える。その度に、透明な液体がじわじわとと滲み出ているのだ。これで、シないなんて、逆にない。据え膳食わぬは何とやら。
へらっと、一見サンには評判の良い笑みを浮かべた。あわせて、腰を彼女の陰部へ近づき始める。担がれた脚の角度が、徐々に変わっていること、彼女は気付いているだろうか。このテンパり具合を思うと、まったく気付いていないような気がする。普段の彼女であったなら、気付けたろうに。あー、かわいそ。
「まあまあたぶんいけますて」
「あかん無理や、なあ、やめよ、やめて」
「我儘言わんでください、よっ」
「ヒッ」
ぷちゅ、と、濡れた音がした。切っ先を、彼女の淫孔に押し付けたのだ。それと同時に、じんわりと亀頭に悦が響く。彼女も同じだったらしく、びくんと体が大きく揺れた。そのくせ、触れている部分は、ぴったりと俺の先っぽに吸い付いて離さない。
このまま、ナカに沈めてしまいない。ぐずぐずと、熱を持った胎内に入っていきたい。頭と腹が、情欲にとりつかれていく。
「アホ、直接、ちょっ、」
「ツンッてしただけですって」
「今もくっついとるやろがッ、第一それで孕むこともあるてわかってるんやろなあ」
「へ」
彼女の早口に呆気に取られていると、ず、と彼女は腰をずらした。もちろん、俺のほうにではない。俺から、逃げるように、だ。触れていた部分が離れ、切っ先は彼女の愛液でいっそう滑っていた。
「……孕む?」
「……精子が精液にしか含まれてないと思ったら大間違いや」
「え、それほんま? つか先輩めっちゃ詳しいやん、実はむっつりスケ」
「保体の教科書に書いてある。実技実技より理論も頭に入れたほうええんちゃう? いつか病気貰ってまうで」
「ヴッ」
病気は何卒ご勘弁。折角立派なものを持っているのだから、ダメにしたくはない。
優等生は、性教育にも長けていた。やっぱりスケベやん、と思う自分もいるが、彼女に言わせれば「生きていくために必要な知識」として片づけられそう。そうっすネ、大事ですもんネ、生殖活動とか、出産とか。
もし今ので孕んでたら、どないしよ。先輩二年やろ。俺一年。子供はだいたい、十か月で生まれてくるんだったか。国体の頃には一児のパパかあ。アカン、ゾッとする。
どうか、どうか何卒孕んでいませんように。必死に念じてからじりじりと彼女との距離を詰め直した。
「っまた、」
「しません、ナマではしません、から指入れさせて」
「ゆ、び?」
そう、指。人差し指を入れたいところだが、一応彼女は初めてなわけだし、細い指からやっていったほうが良いだろうか。三秒ばかり考え込んでから、入れるよりさきに入口を撫でるところからかとハッとする。
薄い陰毛で覆われているふっくりとした大陰唇を撫でてから、茂みの奥へと指を伸ばす。処理をしているようではないけれど、この薄さのおかげで、どこに何があるかはよく見えた。包皮も、その奥に隠れているクリトリスも、膣口も。ヤリ慣れてる連中と違って、ビラビラはそれほどグロテスクな形をしていない。こんな体をしているのか、無垢な女というものは。
小さく息を吸ってから、指先で小陰唇を開いた。
「わ、うわ」
「おぉ、中もとろとろやん、痛ないすか」
「は、ぁ、え?」
「……痛いときは、言うてくださいね」
合わせて、口を開けた膣は濡れそぼって淫靡な艶を纏っていた。早く触れろと煽っているようにすら見える。こんな有様で、よくもまあ「いやいや」言えたものだ。それとも、欲情している感覚自体が曖昧なのだろうか。……女子って、オナニーするんかな。しとる奴もおるよな。この人の場合はどうなんだろう。どうしてもムラムラして、股座触りたくなった時、どう済ましてたんやろ。
そこで、包皮から顔を出している突起が目に留まった。真っ赤で、ぷっくりと腫れている。乳首よりは幾らか小さいか。ココは、間違いなく、性感帯のはず。胸のように、感じないなんてことはない、はず。
上にかぶさっている皮をずらしながら、豆粒大のソコを人差し指の腹で触れた。
「ンっ」
たちまち甘ったるい声が響く。触れた瞬間、腰が浮くように揺れたのも錯覚ではない。視線だけで彼女の顔を見やれば、俺よりも一回りも二回りも小さい両手で自身の口を押えていた。両目はぱっちりと開ききっていて、潤んでいる。ええと、この、反応、は?
「痛い?」
「っ、ぅ」
「痛くない?」
「ぅん」
「……きもちぃ?」
「……っ」
問いかけながらも、もう一度陰核に触れれば、膣口がひくんと震えた。涙でいっぱいになっている瞳は、皆まで言う必要がないだろうと語りかけてくる。
これなら、いつもより少し丁寧に触るようにすればいける。謎の確信を携えながら、つつつ、とクリから下へと指を這わせていく。控えめな襞の内側に爪先を当てれば、とろんとした愛液が瞬く間に指先に絡んでいった。
微かに開いたり、閉じたりして見せる、その蜜壺。誰にも触れさせたことがない場所。そこに、俺がいちばんに触れられる。この人の純情を、俺が汚せる。
ぞくぞくした興奮を抱えながら、濡れそぼった膣口に指先を入れ込んだ。
「ふぁ、ァ、」
まだほんの先っぽ、爪の白いところが埋まった程度だ。表面を擦っているのと、ほとんど変わらない。これなら、痛くはないだろうと思ったが、そのとおり彼女は甘ったるい喘ぎを漏らした。両手で口を押えている分、その音はくぐもっている。だからか、余計にいやらしく聞こえた。
くにくにと、できるだけ時間をかけて口を解していく。たまに指を抜いて表面を撫でたり、爪先だけでなく、指の腹くらいまで入れてクンッと拡げてみたり。……拡げられると違和感があるらしい。担いでいる太ももが強張るように震える。
俺のナニ、飲み込んでくれるまで、どれほどの愛撫を施せば良いだろう。
悶々としながら、指一本を根元まで入れても悲鳴をあげなくなったところで、そうっと中指もクチに当てた。
「ア、や゛ぁっ」
「痛い?」
「ひろげんの、やや、」
「んん~でも拡げんと痛いの先輩ですよ」
手始めに、入口すぐのところをくにくにと拡げてみる。指を開くようにして粘膜を割り開けば、充血した粘膜が見えた。乾いてなどいない。むしろ、とろっとろに濡れている。蜜が詰まっている。ここに埋めたら、さぞ気持ちが良いことだろう。
くちゅくちゅと水音を響かせながら、たっぷりと、いつもの倍、三倍の時間をかけて彼女のナカを解していく。とめどなく愛液があふれ出て来てくれるおかげで、指の挿入出は容易い。くんっとナカで指先を折っても、ナカは抵抗することなく開いてくれた。
「あ、あぁあぅ、う゛」
「痛ない、ど?」
「いた、くは、ないっ」
「……けど?」
「へん、変やもう」
「変て、どんな」
「な、んか、ァ」
三本目の指を捻じ込んだところで、一際大きく彼女の腰が浮いた。特別に気持ちの良いところでも掠ったのだろうか。一回達してもらうのも悪くない。体が程よく弛緩して、入れやすくなるし。
ほんの数秒前の記憶を手繰り寄せながら、彼女が善がったスポットを探す。おおよその位置はわかるが、とびっきりイイところには当たっていない。どこだ、どの辺りだ。鼻息を荒くしながら、自慢の指をぐちゅぐちゅとうねるナカに擦りつける。
もう、ほとんど、普段施す愛撫と、変わらないくらいの勢いになっているのには、気付けなかった。
「ぁ、あ゛ッ、」
「イキそ?」
囁くと同時に、彼女は微かに、きちゃう、と言ったらしかった。本当に言ったのかは、わからない。でも、「逝く」を「来る」と言われるのは、まさに俺の手で追い詰めた達成感があって、良いな、と、思った。
「ぅん、――ッァア」
「ぉワッ」
担いでいた脚の、つま先がぎゅっと丸まった。もう一方の脚は、縮こまるように折りたたまれる。彼女の腕は、自分の肩を抱きしめながら強張った。
そして、ブシュッと、噴き出た、ものは。
俺の顔にまでかかった汁を、指先で拭った。愛液よりは、さらりとしている。かといって、尿のような色味や匂いはない。無色透明、ほんの一瞬の噴射。
知っている、これは、――潮だ。
「えっろ……」
「は、ぁ、ぁう」
「びしょびしょなってもたな」
まだ快感が全身から抜けないようで、彼女は強張った姿勢のままだ。担いでいる脚なんかは、力んでいるのがよく分かった。
その脚から自身に目を向けると、Yシャツに彼女の噴いた潮かかかってしまっている。下にTシャツを着ているから、いかにも濡れたという感触はしないが、脱いでしまうか。
びくびくと震え続けている彼女の脚を下ろしてから、ぷつぷつと濡れたシャツのボタンを外していく。袖が裏返るのも構わずに脱ぎ捨てて、下に来ていた赤いTシャツも同様に脱いだ。邪魔なそれらはぽいぽいとソファの下に落とす。皺になろうが知ったことか。どうせ今日洗濯するのだから、関係あるまい。
やっと呼吸が落ち着いてきた彼女を見つめながら、スラックスのポケットから三包ばかり連なったパウチを取り出した。ひとまず、一個、切り取り線に沿って取り、ビッと封を開ける。
ドギツイピンク色は、彼女のシュミとは重ならないだろうなと思った。でも、スキンをつけなくてはならないのは確か。空気を抜きながら、くるくるとその薄い膜を自身に下ろしていった。
準備は完了。弛緩している彼女の膣口も、ぽっかりと孔をあけている。
「失礼シマース」
「ぁ?」
彼女が言語を取り出す前に、ぷちゅっと切っ先を縁に押し当てた。その段階では、まだ彼女は何が起きたのかわかっていない。ただ、ほんのりと表情が蕩けたように見えた。そのまま気持ち良いままでいてくれたらいいのに。処女である以上、そう上手くはいかないのだけれど、極上の悦楽を味わってほしいなと、漠然と、思った。
「ひ、ァ」
「ぉっわ、キッツ」
「あ、あッ、いだぃぃっ」
「すんません、これだけは我慢してください」
「ひ、んグ、ぅ~」
さて、ここからが本番。腰を押し進めれば、必然的に、張っているカリが引っかかった。いちばん太い部分。指で拡げたのよりも、開いているかもしれない。彼女の痛みに伴って、ナカがぎゅうと狭まった。おかげで、飲み込ませた部分にヒダが密着してくる。
くそ、めっちゃ気持ちええ。
「っふー……」
「ぁ、ぁっ、あぅ」
「……すんません」
どうにかカリ首まで呑ませたところで、動きを止めた。未知の感覚に、彼女の口ははくはくと酸素を求めている。
あ、キス、しよ。浮かんだ瞬間、上体は彼女のほうへと倒れていった。
「は、ぁ?」
ペタ、と彼女の頭の両脇に手をつけば、その表情がよく見えた。目元は涙でぐっしょりと濡れているし、ちょっと鼻水も垂れてきている。正直、あまりきれいな顔とは言えない。だが、妙な艶があった。さらには、薄い唇を「ア」と開いてくれたのだ。キスしたい、と近付いたのを察してくれたのか、彼女自身もキスしたいと思ってくれていたのか。どっちだっていい、彼女が愛おしく見えてきたのは、紛れもない現実なのだから。
「ん、ふ、」
「む」
「ぅぢゅ、ム」
当たり前のように舌は絡む。互いの唾液を交わし合う。激しく貪っているうちに、彼女の下腹に埋めたペニスはずぐずぐと埋まっていった。それでも、キスを交わしている間は、彼女の口から痛みを訴える声はない。そういえば、処女膜はどうなったんだろう。なんとなく、カリ首を呑み込ませた時点で破ってしまった気がする。けれど、血の滑る感触はしない。しないと思っているだけで、実際は流血している? まあ、いいか、カーディガン敷いてるし、もし血が出ていたら謝ろう。優しくできませんでした、と。
「は、ぁ、あ……?」
「よお、なってきた?」
「ぁ」
どれくらいの時間口付けていただろう。どちらともなく唇を離すと、混ざり合った唾液がぽったりと彼女の口元に落ちた。
陰茎は、もうほとんど埋まってしまっている。竿も亀頭も、熱っぽい粘膜に包まれていた。本音を言えば、もう少し捻じ込みたい。でも、痛いとは言われたくないし、これだけ呑み込んでくれれば、俺だって十分に気持ちが良い。
あえて、腰を振りたくることはせず、俺と、彼女とが馴染むのを待った。入れるだけでイイなんて、初めてかもしれない。それこそ、童貞を卒業したときだってガンガン腰を打ち付けたし、そのへんの女を捕まえてするときも、じっと馴染むのを待つなんて真似しなかった。だって、腰を振ったほうが気持ちよかったから。
それが一体どういうことだ。ただ、入れているだけなのに、かつてのセックスと同等か、それ以上の心地よさがある。これを世間は相性というのだろうか。この俺が、まさか、清楚ど真ん中の優等生と相性抜群だなんて。ああ、でも、ちょこちょこ口悪いとこあるしな、良い関係かもしれない。
て、なんで付き合うみたいなコト考えてるんやろ。
もそもそと身じろぎをしながら、彼女の強張っている両手を解いた。それから、俺のそれぞれの指、一本一本を絡めるように繋ぎ合わせる。彼女面されたら困る、なんて思っていたちょっと前の自分を殴り飛ばしたい。
この人を、彼女にしたい。口説きたい。口説き落としたい。
それぞれの手の温度を確かめた。覆いかぶさっているおかげで、胸のあたりの温度もなんとなく伝ってくる。繋がっている部分は、言うまでもない。
「きたさん、」
「う、ン?」
「ほんまに、好きになってもうた」
「は?」
「好き」
「なにいうて、」
こつん、と額を重ねた。鼻先も自然とぶつかる。けれど、唇は重なっていない。ゼロ距離だけど、ゼロ距離ではない。吐息を如実に感じ取れるその距離を保って、自分史上、いちばんの情を舌に込めた。
「――好きです、きたさん」
その瞬間、カッと額に熱が乗る。
「な、に、ァッ、や」
「ン゛ッ!?」
かと思えば、埋めているペニスがこれでもかと締め付けられた。何かを搾り取るかのように、ナカはうねる。ヒダが蠢く。腰を振っていないのに、彼女もろくに動いていないのに、ただただ、粘膜だけが激しく俺を求め始めた。
「ちょ、待って待って待って何すか、ちょ、めっちゃうねる!?」
「や、ぁっおなか、きゅんきゅん、する……」
「~~っぁああクソッ」
突然の事態に混乱を極めているのは俺だけじゃない。むしろ、自分の体に何が起きたのかよくわかっていない分、彼女のほうが激しく混乱しているのではなかろうか。そのくせ、「おなかがきゅんきゅんする」なんて言葉を使うのは……、よしてほしい。才女にそんな幼気な言葉を使われたら興奮するだろうが。いや、断じて、幼女趣味はない。ない。この先輩童顔やなとは思うけど、そんな性癖はないし目覚めてもいない。
あえて言おう、彼女だからこんな風になってしまったのだ。
さておき、このまま埋めていたらまずい。文字通り搾り取られてしまう。三擦り半すらしていないのに。何ならずるんと埋めただけで射精してしまうなんて、早漏認定されるに決まっている。あれ、キタさんは処女やから、早いとか遅いとかわからん? いや、わかるわからないの問題ではない、俺のプライドの問題だ。
痛みを味合わせるかもしれない。それを承知でナニを無事に抜くべく、腹と太ももに力を込めた。ついでに、握りしめている手も力む。
「ヤッ!」
「へえ゛ッ!?」
しかし、腰はほんの数ミリ引くことしかできなかった。
「ややあ、抜かんといて、」
「なんっ、え゛、脚ッ!?」
「擦れて、いた、ぃ」
「あっ、ハイ……」
がっしりと、その人の両脚が腰に絡みついてきたせい、で。
さすが推定バレー部、脚力がしっかりしている。腰に触れる太もももむっちりしていて俺好み。……ちゃうねん、そういう感触にデレデレしとる場合ちゃうねん。ちゃうねんッ!と思おうにも、彼女の必死な顔と、脚とはいえ、俺にしがみついてくれているのが嬉しくて堪らない。
ナカは依然としてうねっており、コンドーム越しに俺を絞り上げてきている。限界は、正直、近い。
「いやいやいや!」
「あぁ~ぅ、う゛」
「……って、自分で腰揺らすんはええんかーい!」
脚を引き剥がそうにも、ぎゅっと握った手を離すわけにもいかない。そりゃあ、いつもの俺だったなら、構うことなく振り払えたろう。けれど、彼女相手にそんなことをできようか。いや、できない。これ最近習った。反語、いうやつ。
慌てふためく俺を余所に、彼女はさらにイイトコロに擦れるように腰を揺らしだす。艶めかしい左右の揺れに、眩暈がしてきた。ずるい。先輩ばっかずるい。俺だって、ぱこぱこしたい。せめて、ナカに埋めたまま腰動かしたい。
ぷつんっ、と切れたのは、おそらく俺の理性、ではなく、プライドのほうだろう。
「ね、先輩」
「あ~、ぅ、う」
「……きた、さん」
「う?」
こつんと、額を重ね合わせながら、虚ろな目をした彼女に囁く。どこまで言葉を理解してくれているか怪しいが、言うは言ったという証拠は残しておきたい。
そして出てきた自分の声は、未だ嘗てないほどに、甘ったるかった。
「俺も、腰振りたぃ」
はたして、俺の言葉は正しく彼女に届いたろうか。蕩けた顔つきを見る限りじゃ、理解してもらえているとは到底思えない。もう許可なんて取らずに無体を働いてしまおうか。しかし、愛おしいと思ってしまった手前、できるだけ優しくしたいなんて幻想が腹の中をついて回る。
きたさん。ほとんど声になっていない音量で、彼女を呼んだ。
「――優しく、してな」
こて、と首を傾げてみせながら発してもらえた言葉に、理性のほうも、はち切れた。
◇◆◇◆
達するまで夢中で行為に耽って一回。相性の良さから、物足りなさがお互い纏わりついていたらしく、言葉を交わすまでもなく二回戦。最後に、とにかくゆっくりたっぷり、それこそほとんど動かないスローなセックスに浸った頃には、生徒用玄関の施錠時間寸前になっていた。
慌てて身支度を整えて――もちろん、彼女のカラダもキレイにして――、腰の抜けた彼女を背負って互いの教室へ。それぞれの鞄を回収し終えたら、生徒玄関まで全力で駆け抜けた。人一人おんぶしていたわりに、好タイムを叩き出せたのではないだろうか。ぜいぜいと肩で息をしながらも、彼女を送るべく、ぺったかぱったか足を進めた。
秋とは言え、夕暮れは肌寒い。彼女に俺のカーディガンを着せて良かったと思う。随分と負担を掛けたし、あったかくして、今日は早く寝てほしい。だから寄り道もせず、わざとゆっくり歩くこともしなかった。背中に当たる柔らかさを堪能する時間が短くなってしまうのは惜しいが、彼女の体調を思えば仕方あるまい。
そうして辿り着いた彼女の家の前で、そうっと、これでもかと慎重に、彼女の体を地面に下ろした。
「そこまで気ぃ遣わんでも」
「好きになってもうたんやから、遣わしてください。だいじょぶすか、立てます?」
「……うん、もう、立てるし、歩けると思う」
「良かったあ……、あ、明日も無理したらあきませんよ! なんなら迎えにも来ますし!」
「いらんわ、つか、付き合うてるわけでもないんやし」
「え」
「え?」
「俺、好きって言うたやん」
「……言われた、な」
「せやから、えーと……、付き合ってください」
「……順番めちゃくちゃやん」
「そこは、え~……、大目に見てくださいよお」
立派な日本家屋、と言った装いの家の門の前で、この緩すぎる告白。まるで恰好がつかない。けど、えっちは気持ちよかったし、俺、あんたになら尽くそうと思えるんです。思えてしまったんです。だからどうか、俺の彼女になってくれませんか。
静かに彼女の手を取りつつ、じっと瞳を見つめた。何度も致したせいで、目元はすっかり赤くなっている。唇もほんのりと腫れていた。制服に隠れた部分には、点々と鬱血痕も残している。順番がめちゃくちゃなのは百も承知。
「……」
不意に、彼女の目線が俺から離れた。会話の途中で目を離されるのは、初めてだ。今日出会ってハジメテ、というのもなんだかおかしいか。でも、彼女は話をしている最中はきちんと相手の目を見るタイプだと思う。根拠はない。勘。そんな彼女のイレギュラーに、ごくんと唾を飲みこんだ。
フラれたくない。ええよという言葉以外、受け止めたくない。もしこの場で断られたとしても、しつこく口説き続ける自分が過った。しつこい男は嫌われる。わかっていても、良しが出るまで、俺は告白をするんだろうなあ。
「……考えさして」
「へっ」
「今返事は、……難しい。ちゃんと考えるから、少し、一週間とか、時間が欲しい」
「っ構いません! 考えてくれるんやったら、それで、うわ、ワーアー、うれし」
「……OKて言うたわけやないんやけど」
「それでも、OKて言うてくれる可能性もあるてことでしょ? 期待しますよ」
でれっとだらしのない笑みを見せると、彼女は再びぷいっと視線を逸らした。そのまま、覚束ない足取りで玄関のほうへと向かっていく。転んでしまわないだろうか。倒れないだろうか。不安で、つい、その背中を見送ってしまう。
けれど、不安はどれも杞憂で終わった。彼女の手が、玄関扉に辿り着く。
そこで、ちらり。肩越しに彼女は振り返った。
「気ぃ付けてな」
「ぅ、えぁ、はぃ」
「……おやすみ」
「お、やすみ、なさい」
ガチャン、ギィイ、バタン。よくある扉の開いて閉まる音を聞き届ければ、彼女は視界から消えていた。ぽつん、と、道端に自分だけ取り残されている。そのくせ、胸に広がるぬくもりはなんだろう。
一週間。あと一週間したら、彼女から返事をもらえる。ええよと言うてくれたら良いな、彼女になってほしいな。あ、そういやカーディガン、着せたままやったわ。まあ、ええか。あとで返してもろたら。……キタさんの匂い、ついてるんやろなあ。あかん、考えただけでムラムラしてくる。今日、三回もやったのに。これで今晩オナってもうたら、俺サル同然やん。
「へっぶ」
秋の夜風にふかれて、盛大なくしゃみをしたのは彼女を送った帰り道。
「しェいっ」
「うわ、きったな」
帰宅して玄関に入った瞬間も、似たようなくしゃみが飛び出した。喧しいわ、サムと叫び散らそうとすれば、箱ティッシュが顔面に向かって飛んできた。はよかめ、鼻水ズルズルブタ。副音声はきっちりと捉えつつ、ぶびーっと垂れた鼻水をちり紙に閉じ込めた。
「シャァイッ」
そして、三日後、朝練直後のダウンの最中、これまだ大きなくしゃみをしてしまった。
「ヴゥ~……」
「何や侑、風邪か。休まんで平気なん?」
「大した事無い! バレーせんと悪化する!!」
隣でダウンをしていた銀島が気遣うような言葉をかけてくれるが、風邪で寝ているよりバレーをしているほうがずっと気分が良い。適度に汗をかいたほうが早く治ると言うし、これで良いのだ。
モップを掛けている治から「アホなこと言いな、日に日に悪化しとるやん」という目線が突き刺さるが無視だ無視。
バレー愛やなあ、と感心する銀島にそうやろそうやろ、と、ドヤ顔を向けた。向けようとした。
向けることは、できなかった。
「帰れや」
ぽつ、と飛んできたのは聞きなれた男バレ部員よりもいくばくか高い声。ああ、そういえば今日の朝練は女子が隣のコートを使っていた。ボールを片付ける体育用具室はどうせ一緒。その片付けで体育館を横切る際に、話しかけてきたのだろう。
ほう、よくもまあ、俺にそんな口を利けるな。
……なんて、台詞も、吐き出すことはできなかった。
「体調管理できてへん事を褒めんな」
帰れと、言ってきたのが、惚れた女であったから。
ほんまに女バレやったんや。と思う反面、もっと可愛げのある慰めにしてくれてもええんちゃう? という憤りも込み上げてくる。しかし、好きは好き。三日ぶりに見た彼女は、すっかり真っ直ぐ歩けるようになっていた。腰を押さえている様子もない。腫れていた目元も、涼し気なソレに戻っていた。
良かったあ、元気そうで。
日和見な思考が過った途端、再び大げさすぎるくしゃみが飛び出す。唾が飛んだのか、そばにいた銀島がギャッと飛び退いていた。
わやわやと騒ぐ俺たちを一瞥した彼女は、慣れた手つきでボールのカゴを用具室へと押していく。レールも難なく乗り越え、その体躯は用具室に隠れた。
「うわ、冷たッ! 今の誰?」
「女バレの新主将ちゃう? 絶対零度の正論女王て聞いとったけど、あれは冷たいわ、それこそ風邪引いてまう」
「……なあ、俺完全にとばっちりやんな」
姿が見えなくなったのをいいことに、同輩たちがひそひそとうわさ話を始める。冷たい。女バレの新主将。正論女王。たしかに、優等生を発揮している姿だけを見れば、そういう印象にもなろう。
俺が惚れてしまったのは、とんでもない女だったのでは。風邪を抜きにして、ゾッと背中が冷える。勢いで告白してしまったが、撤回するべきだろうか。いや、どうせ、一週間という期限がある。女バレの、それも主将ともなれば、双子乱闘をはじめとするトンデモ事件は知っているはず。NOと言われたって、おかしくない。むしろ、三日経った今なら、NOと言ってほしいような。
やっぱり、YESと言ってほしいような。
ひとまず、体育館の隅に転がしてある箱ティッシュで、鼻の中に詰まった水という水を噛んだ。ねっとりとした緑色。白血球大活躍。それなら、もう少ししたら治るかな。治らんかな。治ってくれ。返事をもらえる四日後までには、どうにか。
よろりと立ち上がった。叱られたせいか、頭がぐらぐらと揺れているような気がする。こんなん気のせいや。この数秒で体調が一気に悪化するわけない。
「だ、大丈夫なん、ほんまに?」
「……銀、」
「おう」
「俺、今日帰るわ」
「お、う……、って、え゛ッほんまに!?」
「帰る、担任に言うといて」
「そ、うか、気ぃつけてな」
よたよたと部室に向かって歩き始めれば、背中にざくざくと視線が刺さる。まさか、あの正論女王の言うことを大人しく聞くとは。実は弱みでも握られているのではないか。侑の弱みって何。ありすぎて見当つかん。等々。好き勝手言うとる角名とサムは後でシメたろ。全快したら覚えとけ。
ズッ。垂れかけた鼻水を啜った。
「おい侑」
「あぇ?」
部室まであと数歩。そんなところで、おもむろに呼び止められた。正直、立っているだけで辛い。こんなところで呼び止めないでほしいのだが。
かったるさを隠すことなく振り返れば、一つ年上の、部内でいちばん背の高い先輩がビニール袋と紙袋の二つを提げて立っていた。
「お゛お゛み゛み゛ざん゛?」
「ふはっ、喉もガラッガラやんか、帰るんやろ、お大事にな」
「はあ……」
そんな挨拶のために呼び止めたのか? 疑問のままに首を傾げると、姿勢よく大耳さんはこちらに近づいてきた。長い腕が、俺に届くくらいの距離。頭でも撫でられるのだろうか。セットした髪を崩されたくはない。撫でんで欲しいなあ。
と、思うや否や、ほれ、と、二つの袋を差し出してきた。
「え?」
「届けモン。さっきは冷たいコト言うとったけど、心配しとったで、あいつ」
あいつ、とは。
なんて考えるまでもない。先ほど俺に「帰れや」と吐き付けてきた彼女だ。呆けながらも袋を受け取れば、紙袋のほうには先日貸したカーディガンがきちんと畳まれて入っていた。それから、ビニール袋のほうには、ホットレモンのボトルとのど飴、――そして、梅干し。そのパッケージには、ぴら、と付箋が張られていた。
じわ、と、涙が滲みだす。渡したからな、と告げて、大耳さんは背中を向けてくれた。
『侑へ 飯をちゃんと食って寝ろ 北』
「――惚れてまうやろぉ……」