麝香の坩堝
時折北さんは、俺の布団に潜り込んでくる。それは、この人がどうしようもなく酔っ払って帰ってきて、人肌が恋しくなっているとき。あるいは、冬のとにかく寒くて、人で暖を取りたくて仕方がないとき。大抵は、その二つだった。――二つ、だったのだ。ほんの少しばかり、前までは。
ちら、と視線を下に落とした。布団の中で横になっているのを思うと、下と表現するのはおかしいだろうか。かといって、他に適切な表現方法も思いつかないから、とりあえずこれで許してほしい。
視線の先にある光景。信じられない、とすら思う。けれど、これは紛れもない現実だ。酔っ払ってもないし、寒くもないというのに、この人は俺の布団の中にいる。ちなみに事後でもない。これからシたいな、と手を出すことも、たぶん許されない。
けれど、北さんは、俺の布団の中にいる。しかも、俺の素肌に、ぴったりとくっつく体勢で、だ。北さんも肌を晒しているから、生々しい感触が伝ってくる。風呂上がりの火照っていて、けれどさっぱりと清潔で、そしてやたらと滑らかな感触のする、肌。
これは一体、何の生殺しなのだろう。そう思ってしまうほどに、この光景は毒だった。
「あの、北さん」
「ん?」
ぽつ、と声をかければ、その人は俺を見上げてくる。横になっているのに見上げる、とは。……この違和感はさっきも抱いたばかりだ、繰り返すのはやめておこう。
じ、と俺を見つめてくる瞳はいたって平坦。自分のように変な熱が籠もっている、なんてことはない。ただひたすらに、肌触りを堪能している。それによって俺が生殺しになっているなんて、考えもしないのだろう。もし、俺の内心をわかった上でこんなことをしているのだとしたら、とんだ大罪人だ。許されない。つか、そのときは「これは据え膳」とぱっくり食らっているところ。なんで北さん、無意識にこういうことするんやろ。意図的なものだったら、くるくるからから思考を絡め取ってスケベなことするのに。
そ、と、自分にくっついてくる体の、その腰を抱いた。ちょうど下着のゴムのところ。全裸ではない。が、下着一枚しか装備していないんじゃ、全裸とそう変わらない。……下着一枚、そんな軽装備で、布団の中にいる。抱き合っている。
いや、もうこんなん据え膳やん。これを据え膳と言わんかったら、何が据え膳になるん。
声を大にして言いたいが、既にこの状況下は据え膳でないと学習済みだ。しばらく前、シルシル肌を貪ろうとして、「なにしとん」と叱られたし。
一番最初は許してくれたのに。しこたますけべなこと、させてくれたのに。
どうして、あの一回きりだけなんですか。ボディスクラブを使いだして一か月くらいまでは、ぴーぴーとそんな主張をしていた。だが、その都度、懇切丁寧に却下を告げられ、二か月目に入る頃には俺のほうが折れてしまった。これでも、それなりに長い付き合いなのだ。このまま続けて北さんが折れるかどうかの見当はつく。今回のケースは、北さんが折れることはない。だから、俺が諦めるしかない。悔しいが、そう、強引に自分を納得させたのだ。
はあ、あ。こんな近くにいるのになあ、ぎゅっとすることしかできないなんて。
さわさわと触れた腰を撫でると、その人はくすぐったそうに身じろぎをした。ウ、失敗した、これだけぴたりとくっついている状況で身じろぎなんかされたら、あらぬところが擦れるじゃないか。胸とか腹とか脚とか、あと、お互い布で覆われているソコ、とか。
びく、俺の体が大きく揺れた。合わせて、北さんから距離を取るように退く。腰を撫でていた手だって、いつの間にかその人と自分の間に壁を作るような構えを取っていた。
「あ」
すう、と互いの間に空間ができると、北さんの顔に一抹の寂しさが宿る。ウゥッ、そんな顔をしないでほしい。離れた俺が悪いみたいじゃないか。あれ、俺が悪いん? いやいや、俺の気も知らないでペタペタ引っ付いてくる北さんがそもそもあかんのであって、あかんけど悪いというわけでもなくて、悪いといえば俺の理性を保つのに害をなしているというくらいであって。あぁあクソッ自分程度の脳みそじゃこの状況を、光景を処理できない。
ぞわ、と熱が集まりだすソコから必死に意識を背けながら、どうにか息を吸い込んだ。
「……北さん、お願い、なんですけど」
「ん?」
か細く伺いを立てた直後、その人は何の躊躇いもなく体を寄せてきた。わっちょっ、あかんて、それはあかん。だめです。壁になっている自分の手の平に、北さんの皮膚が触れる。滑らかな肌が、触れてくる。愛おしい人の体温が、すぐそばに。
だめだ、逸らそうと思えば思うほど、急所に意識が向いてしまう。勃つ、あかん、萎えてくれ、頼むから。でも勃ちそう、つかもうちょっと勃ってへん? まだ、勃っているの域には達していない? ううう、勃つ以前に体中が熱くなってきた。布団剥ぎたい、ばっさー足で蹴飛ばしたい。そんなんしたら、北さん、風邪引いてまうかも。……北さんのことだ、「風邪引くで」と言って、布団をかぶりなおし、ぺとっと肌を寄せてくるに違いない。
考えただけで、頭がくらくらする。寝転がっているのに、頭が揺れる。枕にずぶずぶと沈んでいくかのような気分だ。
自分の中を駆け巡る熱が激しくて仕方がない。今、常夜灯の淡いオレンジ色しかついていなくて良かった、普通に電気がついていたら、この真っ赤に染まった顔を見られていただろう。
「ま、待ってください」
「待つて、何を」
「くっつくのを、です」
「くっつく?」
「ゥ、ア、はい……、あの、くっつかれるとその、俺、」
我慢できなくなりそうで。
なんたって、今の今まで我慢しているのが奇跡に思えるほどなのだ。これ以上は堪忍袋の緒が切れてしまう。あれ、使い方が違う? なんにせよ、堪え切れなくなって、あんたになんと言われようと構うことなく襲いかかってしまいそう。どうせするなら、合意の上が良い。北さんに無理強いなんてしたくない。しましょ・ええよ。そういう言葉を交わしてからにしたい。
だからですね、あのですね。こんな格好で、しかも俺の布団の中でくっつくの、抱き合うの、やめましょ。ああぁあ、聞いてる? 聞いてたでしょ? なのにどうして迫ってくるんですか。ほらほらほら、この人という人は! 俺が必死に理性を繋ぎ止めて「待って」と言っているのに、依然としてさりさりとシーツの表面を擦りながらこちらへと迫ってくる。両手の壁は決壊寸前。腕は完全に折り曲がって胸についている。
もう諦めてしまいたい。
……諦めて、しまおうか。
不埒な思考に傾き始める。いやいや、何考えてんねん。北さんにその気はないのに、ンなことするわけには、なあ。あかんやろ、そんなん。かろうじて残った理性がああだこうだとぐらつく自分を諌める。しかし、一度「シたい」に傾いた頭は、中々フラットには戻ってくれない。そういうコト、することばかり、考えてしまう。
だって、したい。この人としたい。北さんと、えっち、したい。
「っ、」
力んだ手から力が抜けた。その瞬間、手が再び北さんの腰に伸びる。下着と肌の境目。手の平と指とでじっとりと撫でる。きょとんとした目に見上げられながら、手指に熱を乗せていく。
ッこうなりゃ自棄だ。この人になんと言われようと、強請ってやる。負け戦とわかっていても、挑まねばならない戦いが男にはあるのだ。たぶん。先週見た金ロで、おっちゃんも言うてたし!
「きっ、北さん」
「ん?」
「したいです」
「……なにを」
「わかるやろお……?」
「明日、早いんやろ」
「ちゃんと起きますから」
「睡眠時間削ったって、なんも良いことない」
「ありますよ」
「例えば」
「北さんのこと、めちゃくちゃにできる」
「……それ、良いことか?」
「良いことです」
あんたにとっては困ったコトかもしれへんけど。俺にとっては最高にイイことです。
さりさりと布地の上を撫でていた指先が、下着のゴムを潜った。柔らかな肌が、ぴたり、吸い付いてくる。こうやって、定期的に肌を磨くようになってから、酷く触り心地がよくなった。そりゃあ、愛しい人の肌という時点で、何にも代えられない最高の触り心地ではあるのだが、輪をかけて良くなってしまったのだ。……反復・継続・丁寧をこよなく愛するこの人の手によって、週一回、必ず行うようになったボディケア。どこもかしこも、つるつるシルシル。最初こそ過激に思えた匂いも、ほとんど気にならないようになってしまった。
今身に着けているのはたった一枚。それを引き剥がしてしまえば、すっぽんぽん。俺に貫かれることを覚えてしまった秘部も露わになる。うっすらと縦に割れたソコをたっぷり愛撫して、前後左右、上下すらもわからなくなるまで蕩けさせてしまいたい。できることなら、全身を余すことなく舐りたいところだが、塗りたくられたクリームのせいで舌がびりびりしてしまう。いっそはちみつみたいに甘ったるかったらなあ。この人の体も頭もふやけるまでしゃぶれたのに。口に入れても不味くないクリームがあったら。そんな話で片割れと盛り上がったのは、ついこの間のこと。
ず、ず、とその人の下着を強引にずり下げつつ、ぴったりと自分の体を寄せた。胸が、腹が、その人に触れる。膨れて硬くなりだしたソコも、ぎゅ、押し付けた。
「ほら、俺の、こんなんやし」
「……前から思てたんやけど、なんでお前、こんなホイホイ勃起できるん?」
「北さんがそばにいるからですよ」
「人のせいにしなや」
「あ、俺が多感やと思てますね? ほんまに北さんやから、ちんここないなってまうんすよ」
「ァ」
しっかりと腰を捕まえたまま押し付ければ、腕の中にある体がひくんと震えた。強引に腰を揺らすと、控えめな呻きが聞こえてくる。これは呻きというより、喘ぎか。ぐずぐずと欲を押し当てられて、その人の体に熱が移っていく。柔らかに擦れていたソコが、じんわりと芯を持ち始めた。
……いざ、する、と決めて、心の準備もできているような日は、もっと素直に声出してくれるんやけどな。今日は「しない」「するつもりはない」の意識があるせいで、鼻に抜けるような音ばかりだ。ほら、その頑ななスイッチ、早く「やっぱりする」に切り替えてください。そしたら天国見られますよ。ヨすぎて頭おかしくなるところへ二人でブッ飛びましょうよ。ね。ねっ。
「ぅ!?」
「ふ、お尻ひくひくしてはる」
「いじ、んな、あほっ」
「北さんのおちんちんも熱くなってきたでしょ、えっちしたなってきたでしょ」
「やめ、ァ、う」
「しましょうよお」
「ンッ」
腰を揺する動きは止めずに、手指を邪に蠢かせた。ぐぬり、むづり、滑らかな肌に指を食い込ませる。女と比べればそりゃあ平坦ではあるけれど、何度も俺に抱かれているのもあって不思議と肉付きが変化しつつある臀部。そこをたっぷり揉みながら割れ目へと指を向かわせた。
窄まっているクチに指先を引っかける。柔らかなソコをくにくにと押せば、熟れた縁が物欲しげに吸い付いてきた。もう少し圧をかければ、簡単にソコは指を飲み込むことだろう。潤滑剤がなくとも、指一本程度なら簡単にこの人は飲み込んでくれる。
ちなみに、この人自ら準備をしてくれているときは、平気な顔してナカにたっぷりとローションを含ませていることもある。だから、いきなり三本咥え込んだり、なんなら即ハメもできたりする。スケベやろ、めっちゃ興奮するやろ、目の当たりするとちんこ痛い通り越して苛々してくるで。あれに比べたら、今日はずっとマシ。……それでも、北さんのナカに入りたい、てうずうずしとるけど。
ああ、入れたい。ハメたい。ゆっくりゆっくり、焦らすみたいに時間をかけながら突っ込んで、さらにもっと長い時間、この人と繋がっていたい。
だが、この人はなかなかOKをくれない。もう大分気持ちよくなってきて、「えっちしたい」て頭になっているはずなのに。少なくとも、体は欲を滾らせて疼いている。布越しに押し当てている性器は、ふっくらと硬くなってきているし、後ろは後ろで咥え込んだ俺の指にうねうねと絡みついてくる。
この強情。ヌプ、とさらに指を埋めながら、前立腺に圧をかけた。
「あ、ぁああッ」
きゅうきゅうとナカを押すたびに、その人の下肢は戦慄いた。下着を隔てているせいではっきりとはわからないが、先走りで濡れそぼっているのだろう。このまま前立腺の辺りを扱いたら、あっという間にイッてしまうに違いない。
でも、簡単に達してもらっては困る。特に、射精感が強いイキ方はだめだ。変に頭が冴えて、情事のお誘いを懇切丁寧に断られたくはない。イくなら、オンナノコみたいに達してもらわないと。決定的な刺激はあえて与えずに、やわやわとその人を追い詰めていく。
「北さん、しよ、ね」
「い、いやや」
「なんでえ」
眼前にある頭が、毛先を散らすように振られる。こんなにも目の奥に欲が渦巻いているというのに、まだ抵抗するのか。がっちりと体を抱きしめたまま、指先は粘膜を歩く。ナカに入った指はトトッと弱いところを叩くし、入れ込んでいない別の指は捲れそうな縁をくるんと擽る。
できれば、この人のいちばん深いところにも向かいたいが、指じゃどうやったって届かない。北さん、そろそろ満たされたくなってきません? 奥まで欲しくないですか?
蕩けた顔を見せてほしくて、額にちゅっと口付けた。
「きーたさん」
「いや、なもんは、いや」
「もお、なんでそんなこと言うん」
「……そんなん」
すっかり濡れた声と共に、その人の焦点が俺に定まった。じ、と見つめられると、それだけで欲が煽られていく。まして、こんな艶やかな視線を向けられたとなったら。言いかけた言葉を遮ってでも、ぐずぐずと蹂躙したくなってくる。
けど、一応聞いといたほう、良いかなあ。「なんで」て言うたの、俺のほうやし。質問しといて答え聞かんてどういうことや。事後、完全に理性を取り戻したこの人に説教されてしまいそう。とりあえず、聞いて、丸め込も。丸め込めるかな。これくらいトロトロなった北さんなら、どうにかなるんちゃうかな。
ああ、この人ん中、早く掻き回したい。指もう一本二本捻じ込んで、ぐっぽりと暴いてしまいたい。そんな欲望を一旦黙らせ、指の動きを止めた。これなら、北さん、喋れるでしょ。きゅうきゅう指を求めてナカを締め付けたり、気持ちいところに当たるよう腰を揺らしたりしない限り、喘がずに済むでしょう。あ、でも張り詰めたナニがごりごり当たってしまうのは大目に見てほしい。ぎゅ、てしたまま、離れたくないんで。
「今したら、」
「おん」
「……この匂い嗅ぐたび、したなるやろ」
ぽと、と雫が垂れるように、その人の声は落とされた。
誰の、話? 俺の、コト? 俺が、パブロフの犬みたいに、この匂いを嗅ぐたびに盛るようになるって? まさか、あんた、そんなこと心配していたっていうんですか。
なんて、イマサラ。
「俺もうこの匂い嗅ぐたび、理性との大乱闘起こしてますけど」
「お前の話ちゃうわ、俺のハナシ」
「え」
「この、お前のカラダの匂い嗅ぐたびセックスしたなりそうで、……いやや」
あれ、そっち?
動揺と同時に、鈍器で頭を殴られたかのような衝撃が襲ってくる。この頭の揺れ、これまでの比じゃない。だって、北さんがセックスしたくなるなんて。あの北さんが、匂いに釣られて欲情するようになるなんて。そりゃあ、こう見えてすけべなコト大好きなの、知ってますよ。でなきゃ、あんな淫らな準備、しないでしょうし。でも、なんというか、「匂い」てのが、クる。普段、理性でがちがちに武装しているこの人が、本能に屈するというか、動物ぽいトリガーで欲情してしまうようになるなんて、堪らないじゃないか。
「サイコーやん」
「は」
「北さんのそういうとこ見たい、しよ、匂いに抗えなくてトロトロなるとこ見たい」
「はぁあ?」
「見たい!」
「あ、ほか、」
「あほでええもん!」
「つか、これ使ったあとは……、」
「え?」
なんか、問題ありますっけ。極上の肌触りと、強めの香りを纏うだけだろう? それの何が問題だというのだ。北さんが困ること、ある? まああるか、しこたますけべなことされて、腰痛に苦しむとか。翌朝早いときは、ちゃんと加減が必要だとか。でも、それって、いつものことやんな。
ほけ、と北さんを見つめていれば、ひゅっと息を呑む気配がした。薄暗いからよくわからないが、しまった、なんて顔に書いてありそう。
「……」
「言いかけといて、やっぱなんもないはナシですよ」
黙り込んでしまったその人に、努めて優しく声をかけた。責めたところで、この人が口を割るわけはない。むしろ、徹底して甘やかしたほうが、この人には効く。厳しさには強いが、甘ったるさには弱いのだ。半ギレ気味に駄々を捏ねるより、めそめそ強請ったほうが、命中率が高いのと似てる。似てへん?
北さん。囁きながら、もう一度額にキスを落とした。
「これ使うと、」
「ん?」
「いつも、みたく」
「うん」
おや、ぽそ、ぽそ、とこの人には珍しい喋り方をする。それこそ、絶対断られる予感しかしないけれど、やってほしくて仕方ないコトを強請るときの俺みたいな、喋り方。もうちょっと、甘えたな響きがあれば完璧に俺。……俺、こんなふうに頼み込んでたんか。好きで好きでしゃーない人にこんなんされ続けたら、ええよて言うてまうわ。あざと。
あざとい、けど、やばいな、めっちゃ甘やかしたい。北さんのいうこと、なんでも聞いてしまいそう。いや、あかんて、そしたらえっちできへん。えっちはしたい。そんで、北さんが、この匂い嗅ぐたびにえっちしたくなる体に作り替えてしまいたい。あつむ、て俺のコト呼ぶたび、ハートついてるんちゃうか? てくらいのメロメロっぷりにできたら、文句なし。
どうしよ、ぞくぞくしてきた。そろそろ指、動かしてもええかな。
さっと、意識が、その人の唇から離れた。
その、瞬間。
「――あつむに、からだじゅうなめて、もらえへんようなる、し」
まろい声が、脳髄に染み渡った。
「……」
「ぅ、な、んや、その顔」
「……ふ、ふふ、フッフッフ」
「おい、笑うな」
「ん~、いやいや、ふふ、……では代替案です」
なにが「では」やねん。ぼそりと、恨めし気な声が聞こえた。申し訳ないけれど、先に俺の話聞いてもらっても良いですか。良いですよね。だって、北さん、なんで俺が笑ってもうたか、わかってはるでしょ。
セックスのとき、俺に体中舐め回されんの、好きて白状されたとなったら、なあ?
ふ、と吐息と合わせて笑みを吐き出し切ってから、そぉれと横向きの体を押し倒した。あわせて、下着の中から手を抜けば、布地は中途半端にずり下がった。シーツに触れている尻はほとんど出てしまっているけれど、前は膨れたナニに引っかかっている。わあ、苦しそう。わあ、すけべえ。
そんなやらしいところにのしかかりつ、自慢の両手を、その人の眼前へと突き出した。
「今日は、俺のこの十本の指で全身くまなく舐りますんで」
「は」
「いつもの舌と、今日の指と、どっちがええか、味わってからこれからのコト、決めましょ」
まあ、わざわざ味わってもらうまでもなく、この人は、俺の指のほうがイイのだろうけれど。
全身を火照らせながらも、さっと顔を青ざめさせただろうその人の返事はあえて待たず、手始めに半分脱げた下着を剥ぎ取った。紛れもない「すっぽんぽん」になったその人は、さっと局部を両手で隠そうとする。ああ、あかんあかん、そんなんしたら駄目ですよ。パッと悪戯な両手を絡めとり、その人の頭のほうへ連れていく。
「っおい!?」
「あれ、思ったより起っきしてませんね」
「見んなやっ……」
「見ますよ、カワエエやんか、半勃ちちんこ」
ちんこに可愛いもくそもあるか。微かにそんな声がするが、可愛いもんは可愛いのだからスルーさせてもらうことにする。
北さんの記憶に残ってるかは知らんけど、あんた、めちゃくちゃ酔っぱらって帰ってきたとき、俺のちんこ舐めしゃぶって「かわええなあ」てうっとりしてましたからね。あまりの破壊力に、もう俺あの日が命日なんかと思ったくらい。そうそう、もうわけわからんようなってもて、何が可愛いんですか、て半泣きになりながら聞いたんですよ、あの時。そしたらあんた、こう答えたんです。
『良い子良い子て褒めたら、嬉しいっておっきなるんやで? かわええやんか』
あの恍惚に淫蕩を乗じた顔、写真に撮ったろかと思った。でも、酔っ払いに本気になるのもあかんしな。なにより、北さんが記憶飛ばすことなんて、滅多にない。起きたら、真っ赤になって「忘れてくれ」て言うもんだと思って、スマホを起動するのはやめておいた。
……だが、しかし。
あんた、けろっとした顔で、俺ちゃんと帰れたんやなて自分に感心してるんですよ。確かに自力で帰っては来ましたけど、その後の惨事を一切合切覚えてないと言う。あれほど、「撮っておおけば良かった」と後悔したことはない。酔っ払い相手だ、なんて考えないで、あの顔、写真に撮ったら良かった。今も心底そう思う。
……話が逸れた。北さんの酒の過ちは、今日のところはどうでもいい。あの壮絶なエロ顔を引き出すのは、また今度。
「お、」
「っ」
北さんの陰茎を見下ろしていると、ぷくり、切っ先から雫がにじみ出た。透明なそれは、瞬く間に亀頭に滲み、ぬらりと先っぽに艶を纏わせる。見てるだけ、なんやけどな。そのまま視線を向けていれば、さらにトロトロと鈴口から蜜が溢れてきた。心なしか、膨張具合も増してきたように思う。錯覚ではあるまい。じんわり、ゆっくりではあるが、皮に覆われている面積も少なくなっていく。
「ふ、俺なあんもしてへんのに」
「しとるやろ、こんなまじまじ見つめて……」
「えぇ? 北さん、見つめられるだけで勃起してまうん? すけべやなあ」
「……お前、人のコト言えへんからな。パンツ、ぱんっぱんやん」
「フッフ、すけべ同士でお揃いですね」
「こんなお揃い嫌や……」
「嫌? 相性がええんやって喜びましょ、ネッ」
小首を傾げながら、見事天井を向くまでに膨れた北さんのナニに、俺の勃起した逸物を擦りつけた。下着の裏地で、俺のが擦れる。表面のほうには、北さんが零した体液が染みてきた。
ド派手な原色の布地は、見事に染みの地図を浮き上がらせる。俺の先走りと、北さんのお潮と、どっちでしょうね。自分のでぐっしょりと濡れているだけなら、無性に恥ずかしくなるのだろうが、この人のでも濡れていると思うと、なんだか興奮してくる。
「ぅ、ぁっ……、ぉいッ」
「んん~、触ってほしい?」
「……指でいっぱい舐ってくれるんやろ?」
「ふ、そっすね」
それでは、お言葉に甘えて。
ぐぢっと一際強く局部を押し当てながら、掴んでいた両手首を離した。再び北さんからくぐもった喘ぎが聞こえる。我慢しているその声、本当にイイ。どうにか耐えているところから、あられもない喘ぎを漏らすまでに追い詰めるの、めっちゃ好きやねん。
だが、じりじり局部だけを弄ってもいられない。舌で弄れない分、指でたっぷりと愛撫しなくては。
それぞれの指先を、改めてその人の手首に添える。つぅ、薄皮一枚を撫でるようにその指先を滑らせ、まずは両手を重ねた。指を組むように握り、むぎゅむぎゅと感覚を確かめる。手の平の滑らかさはよくわからない、が、甲だとか、あと指のほうはつるんとしている。皮膚の、古い角質の言うのだろうか、それがそぎ落とされた均質な肌。いつまでのぎゅむぎゅむと握っていたい。
ふふふ、つい、口元が緩んだ。
「……な、なにしてん」
と、組み敷いたその人から、動揺した声が発せられる。なにって、おてて、つないでいるんです。いきなりちんこ扱いてもらえると思いました? まさか、そんな性急なコトしませんよ。ちゃあんと全身隈なく、どこもかしこも撫でてから、最後に触りますんで。あ、いや、最後はやっぱ尻穴か。なら、最後から二番目。どちらにせよ、道のりは長い。
に、と微笑みだけを返して、繋いでいた指を離した。手の平は触れたまま、じんわりと手首、腕へと移動する。
「ぅ、おわ、わ」
「は、ほんっますべすべ、さらっさら」
「ぁ、え……、なんで、」
吸い付くような瑞々しさというよりかは、とにかく滑らか。シルクを思わせる感触と言うのだろうか。案外、乾燥している肘も、綺麗に磨かれつるんとしている。
たぱぱぱっと指を波打たせながら二の腕に上ると、筋肉と脂肪とでふわりと柔らかい感触が指に伝ってきた。あぁあ、この感触もええな、女みたいに、ただただぷにぷにしてるわけでもなく、ちゃんと骨と肉の硬さがある。歯型とか、良い感じにつきそう。……付けへんけど。口ん中、びりびりしてまうし。
くるんと肩口を撫でてから、今度は腋に指を沈めた。
「ヴ」
「あ、感じます?」
「くっ、……すぐったい、だけ」
「ふぅん?」
「ぁっ、ふぅッ……」
こしょこしょ、擽るように指をうごめかせれば、混乱で満ちていた顔がふにゃりと緩んだ。くすぐったい、て、言うけど、本当にくすぐったいだけ? 疚しい指先をさっと脇腹へと滑らせれば、横たわっていた体がわかりやすく跳ねた。
「ひゃぁッ!?」
「北さんて、なあんか最近くすぐったがりになりましたよね」
「ふ、ふふ、ンッぁ、やめ、フフッ」
「特にほら、この、肋骨の上とか」
「ひアぅ、ん、んっく……、ンっふ、ぅ」
仰向けというのもあって、北さんの肋骨は見事にくっきりと浮いている。ちょっと痩せすぎちゃう? と思ってしまうほど。実際、痩せ型の部類には入るのだろう。学生の頃、均一につけた筋肉はだいぶ削げてしまった。胴体なんて、本当にそれが顕著。
そのくせ、太ももだとか、腰・尻回りはむっちりとしているのだから堪らない。……この下半身は、間違いなく俺のせい。俺が、何度も何度も抱いたがために、そういう肉付きに作り替えられてしまったのだ。ほぼ紐みたいな下着、いつかまた履いてくれへんかなあ。きっと食い込みやばくて、めっちゃエロいて。
不埒なことを考えていたら、腰やケツも触りたくなってきた。太ももでもいい。静かに鼻息を荒くしながら、俺の指は下肢へと移っていく。
「ぁ……?」
くすぐったさの波を超えたのか、はぁっと一息吐きながら、北さんは疑問符を舌に乗せた。それから、目線が俺の指先を追いかける。
ひゅ、と、その人の息が詰まった。
「あッ!?」
「ンン~、ここもつるっつる」
「ぁ、やっそこ、ンッ」
あえてそそり立つ陰茎には触れず、内腿の付け根に指を沈めた。北さんがとにかく触ってほしいところを避けて、みぢみぢと揉みしだく。はあ、やわらか。顔埋めたい。つか、北さんの太ももに、顔挟まれたい。顔面騎乗位、頼んだら、やってくれないだろうか。あ、でも、「顎の骨折りそうで嫌や」って断られそう。そしたらやっぱ、こっちから埋めに行くしかないか。
ぽて、ぽてんと揺れる陰嚢を掠めつつ、指先の何本かを会陰にあてがった。
「ア」
「きもちい? まだ、開発してへんし、そうでもない?」
「ぅ、やめ、ひ」
「前立腺、好きやろ?」
「ぁっ、んん、そこ、やなく、てぇ」
陰茎なり、アナルなりに、触れてほしいのだろう。胴体を撫でていたときとは、明らかに異なる反応を見せつけられる。艶めかしく腰をくねらせては、たまにかくかくと上下に浮く。その度、赤く熟れたペニスがふるふると揺れた。ていうか、ちんこが揺れる感触だけで、ちょっと気持ちよくなってません? なあんか亀頭、びしょびしょなってきとるし。
「ぬるぬる」
「ンぅぁッ!」
気まぐれにばちんっと切っ先を弾けば、一際大きく腰が跳ねた。ついでに、ピュッと体液も噴く。濁ってはいないから、潮と思うべきか。たまたまカウパーが勢いよく漏れただけか。……なんせよ、この人のちんぽがゆるゆるなことにかわりはない。ちゃんと扱けば、真っ当に射精もするから、完全に雄の機能は失ってはいないが、正直あと何年保つことやら。少なくとも、俺が手放さない限り、この人の精液が、男性器が、本来の使われ方をすることはない。イコール絶対にないようなモン。
贅沢やなあ、こおんな立派なオトコの体、好き抱かせてもらえるんやから。
「はァん、ぅ……、ぁつ、む」
目が合うと、腰を揺らしながら物欲しげな喘ぎを与えられる。今の、もう一回やって、か、それとも、ちゃんとゴシゴシ扱いて、か。
「焦らんでも、あとでちゃんと触りますから」
「ッいまがええ」
「あーとーで」
「いじわるしな……」
「全身舐られたいのは北さんやろ?」
「っもうええからぁ!」
「……でも、舌と指、どっちがええか、」
まだわからないでしょう?
そこ、大事なとこですよ。北さん、俺に全身ちゅっちゅぺろぺろされんの、大好きなんでしょ。それに代わるかどうか、ちゃんと確かめんと。
さわさわと太ももから膝、ふくらはぎへと一方の手を滑らせると、ぴんっとそっちの脚が伸びた。中途半端に曲がっているもう一方だって、そのままの角度でぎくりと強張る。くすぐったかった、わけではないですよね。気持ちよかったんですよね、俺の指で撫でられて。
さわさわと膝裏をくすぐった。次はどこにしよう。足指まで撫でたら、上半身に戻ろうか。その前に、尻だけは揉んでも良いかもしれない。尻たぶ引っ張って、アナルくぱくぱさせて。さっきまで指を入れ込んでいたのを思うと、我慢ならないと喘いでくれそう。
細く息を吐いてから、湿りだした空気を吸えば、いっそう強く甘い匂いを感じた。お互い、汗ばんでいるせいだろう。比較的乾いている間はそうでもないが、ほんのりと水分を得ると香りが際立つ。それこそ、この時期なら、この人あちこちにこの匂いを振りまいて歩いているのでは? 他のオトコに、ばっくり食われんよう気ぃつけてくださいね。
むに、ぐに、カラダの形を指に教え込ませるように、その人の肌を撫で上げる。じわじわと、その人の熱を昂らせていく。
「ぁ、あっ」
そろそろ、体の前面は触りきったろうか。じゃあ、背面も。うつ伏せにひっくり返すか、抱きかかえて膝に乗せるか。……たっぷりと熱を纏った肌をくっつけられるし、膝に乗せよかな。
息も絶え絶えの体を、これまたゆっくりと抱き起した。
「んっ」
「はぁっ、酔いそ……」
素直に浮いた体をもたれ掛からせると、緩慢な動きでその人の腕が俺の胴に回った。ぽやっと熱に浮かされながら、肩に頭を預けられる。
ほとんどゼロ距離、立ち込めていた匂いが、いっそう俺に襲い掛かってくる。頭、くらくらしてきた。甘めのこの匂いだけだったら、ここまで理性も追い詰められなかったろう。誰でもない、北さんが、この匂いを纏っているからいけないのだ。
いい加減、ちんこ痛いわ。パンツ、脱ぐだけ脱いだろかな。
とん、とん、と背中を指で歩きながら、左手をウエストのゴムに伸ばした。
「……ぃ、」
「ん?」
微かな声を逃さず拾うと、すっかり蕩けた瞳と目があった。口の端からは、とろとろと涎が垂れている。だらしのない顔。北さんがしているとなると、普段との落差で眩暈がする。めっちゃ好き。もっと乱れてほしい。
どうしたんですか。いい加減、おんなのこになれるとこ、めちゃめちゃに抉ってほしい? 下心は顔に浮かべるだけにとどめて、首を傾げて見せた。
「ゆびが、いい」
「舐めるより?」
「うん」
「好き?」
「いちばん、すき」
と、ん。俺の右手、人差し指が、その人の尾骨を叩いた。
そこからほんの数センチ伸ばせば――。
「ひギュッ、ぅぁ、っああア!?」
何の予告もなしに三本捻じ込めば、抱いている体が激しく震えた。ほぼ同時に、腹に体液が飛び散る。
「は、ぁ……、ぁう?」
「すご、ところてん? べとべとや」
主には捻じ込んだ指先がそのまま前立腺を抉ったせいなのだろう。俺の上に乗った北さんは、欲に屈したトロ顔を浮かべながら放心している。突然襲ってきた念願の刺激と、苛烈に反応した自身とを、まだ受け止めきれないのだろう。
追い打ちをするように、ふっくりしたしこりを扱けば、ぴゅ、ぴゅると残滓が零れ落ちる。最後まで絞り出す感覚もまた気持ちが良いのだろう。すぐそばにある顔は、苦悶を浮かべた。
「あつ、む、」
「ゆび、きもち? めっちゃナカ、きゅうきゅうや」
「も、ゆびや」
「ええ~、いちばん好きて言うたの北さんでしょ」
「ん、すき」
「なら」
「でも、もっとおくまで、みたされたい……」
ぽとりとその人の声が溶けると、さらに指がきゅうぅと締め付けられた。特に締め付けがキツイのは入口すぐのところ。指先のほうは、もっと奥まで欲しいと強請るかのように蠢いている。腰を揺らしているわけではないから、完全に、ナカだけのうねり。
ずるんと指を引き抜けば、色づいた嘆息が漏れた。俺の鎖骨にぶつかって、ぞわり、下腹が疼く。
「……すけべ」
「もぉ、すけべでええわ……、はよぉナカ、抉って」
ぴったりと肌を寄せながら、北さんは腰を浮かせた。蕩け切った体ではうまく力が入らないのだろう。触れている太ももが、がくがくと震えている。手早く左手で自身を取り出せば、安堵に近い吐息とともに、切っ先が縁に当たった。
「ぁう……」
先走りと、この人がひっきりになしに零す体液とで、既に局部は濡れている。入れようと思えば、このままずっぶりと食めることもできるだろう。俺の形を覚えたナカなら、それなりに善がることもできよう。
「まって」
「まだ焦らすん……?」
「ローション、使いましょ、そのほうがもっと気持いですって」
「ぅう~」
そんなんいらんと北さんの目は訴えてくるが、一つ頭を撫でて諫めて、腕をヘッドボードに伸ばした。そして、おざなりに置いている潤滑剤のボトルを引っ掴む。腕、長くて良かった、この人を抱えたままでも、ちゃんと手が届く。
ガポッと片手で蓋を外し、手の中にぶちまける。盗み見るように見上げると、どうにか北さんは、中腰を保っていた。もう少し、その体勢でいてくださいね。念を送りながら、後孔にぬめった指をあてた。
「っぅ、ア」
あ、冷たかったかな。これまでとは異なる震え方をする。だが、縁を伸ばすように伸ばしていけば、徐々にぬめりに熱が移りだす。一瞬、強張ったかの顔も、ゆるゆると溶けていった。その証拠に、ホラ。
「あ、アッ、あひゃぅ」
あわせて緩んだ唇から、悲鳴に近い喘ぎが零れだす。指の動きに応じるように腰も揺れてきた。先ほどはきつく絞めつけた三本指も、ずるんと滑らかに捻じ込める。乱暴にも思える前戯に申し訳なさも過るが、それを吹き飛ばすくらいに、その人のナカは柔らかさを増していく。
「あ、あッぁ」
俺の指が、溶けるのが先が、この人の体が蕩けて再起不能になるのが先か。どっちもごめんだ、俺の指はまだこの人の体を舐り切っていないし、勝手に「今日はもう無理」と寝入られるのも困る。
ねっとりと滑る指を引き抜き、これでもかと膨張した自身を掴んだ。手に残ったローションをまぶすように数回扱き、陰茎の熱を確かめる。準備は万端。べち、とその人の割れ目に切っ先をめり込ませると、すぐに向こうの腰がそこじゃないと揺れる。瞬く間に先っぽは、捲れそうな縁にたどり着いた。
「ンっ、ぁ、あヒッ、ヴ」
「っく、」
ここまで整えてしまえば、俺がすることはとりあえずない。根元まで収まったら、揺さぶるなり抉るなりやるけれど、呑み込ませるのは北さんのペースを尊重する。……不精じゃない、あの北さんが、自ら腰をくねらせながら俺のを呑み込みたいといったんだ。
濁った音を聞いているうちに、ぐぽんっとカリ首がナカに埋まる。剥き出しになっている亀頭が、ねっとりとした腸壁に包まれた。柔らかくて、艶めかしくて、なにより熱い。俺の逸物の中で、いっとう張り出ているソコは、ナカをみちみちと押し拡げながら深く沈んでいく。すべて埋まり切るまで、あと、もうちょっと。
もう、ちょっ、と。
「……あぁああかん、我慢できん!」
「あっ、ぁ、あ――ッ!?」
平らな腰を、両手で掴んだ。それとほぼ同時に、熱杭の残りを強引に押し込む。バツンッと響いたのは、きっと肌を叩く音なのだろう。
「ふ、匂いやば」
「ぁ、あ」
「きもち……」
「ぁ、あっあぅう」
いつの間にか、その人の肌には玉のような汗が浮いていた。鼻を擦りつけながら埋めると、北さん自身の匂いに、クリームの甘い香りとが脳髄に染み込んでくる。畳み掛けるなんてもんじゃない、相乗を思わせる圧で、こっちの正気が削られていく。
ろーしょんは、つけた、けど、ごむ、つけてへん。
ぽや、と頭に浮かぶものの、執拗に最奥を抉る律動は止まらない。このまま揺さぶっていたら、間違いなく腸の中にぶちまけてしまう。中出ししたら、今日の北さん、怒るかな。言葉の上では「やめえ」とよく言うけど、ちゃんと掻き出してやれば、そこまで咎められることはない。なんなら、掻き出されるの込みでハマっているのではないかとすら思えている今日この頃。
きつく抱きしめながら、その人の顔を窺えば、苦悶の表情を浮かべながら善がっていた。理性を完全に手放したわけではない。が、その理性に従うには、愛欲が肥大しすぎている。
「ぁっア、ァぁあッ」
嬌声の間隔が短い。それに、高い。俺に、しがみつく腕にも力が入る。加減をしてくれるだけの余裕は、もう北さんにはない。もちろんそれは、俺だって同じ。
互いの体を、痛いくらいに、締め付けた。
「~~あぁアアぁァッッ」
「っぅグ……、」
熱の中に、温い粘液を吐き散らす。どく、どくっと何度かに分けて脈打って、たっぷりと溜め込んだ精液を注ぎきった。
それでも、腕を緩めることはできない。息を乱しながら、ぎゅぎゅうに抱きしめ合っている。必然的、嗅覚は淫らな匂いに犯された。癖、なりそ。最初にやったときも、散々我慢させられているときも、この匂いで理性を揺さぶられていたが、今日はその比じゃない。というか、この匂いが北さんとセックスするときの匂い、と思考パズルが組み合わさってしまった。
来週も、この匂いを纏ったこの人と、セックスするのだろうな。
ようやく取り戻した冷静さが、腹の中でほくそ笑んだ。
そのとき、だ。
「ぁっ」
「ゥえ」
「やンっふ、こヒッ、とまりゃ、ンンッ」
かく、ん、と、俺の上にある体が揺れた。咄嗟に顔を上げると、そこには見るも無残なまでに、理性を手放した愛おしい人の顔が。
こし、とまら、ない?
発せられた言葉を理解するより早く、萎んだ自身が無遠慮に締め付けられた。
「ヴあッ!?」
「ぁ、あ~ぅあ、あぁんんン」
「ま、エッ、俺イッたばっ」
止んだはずの水音が、ぱちゅぱちゅと再び響きだす。精液が加わったのもあって、いっそうナカは卑猥さを増している。さらに俺を搾り取らんと、媚肉がうねった。腰は激しく上下に揺れ、ずちゅり、ぬぢゅりと達したばかりの俺を責めた立てる。
あかん、やばい、こわれる、あたまおかしなる。
敏感になっている自身はとりあえずと勃起するものの、北さんの満足にはまだたどり着かない。おかげで、その人の揺さぶりは苛烈なものになっていく。待って、待ってくださいよ。制止しようにも、まだ体は吐精後の脱力感を纏っている。大の男の本気を、こんな状態で止められるか? いや、止められるわけがない。
文字どおりされるがまま
北さんの好き放題、絞り、とら、れ――。
「ッヴヴぅぁああッ!?」
「~~~~ッ♡」
地獄の亡者を思わせる悲鳴と、言葉にならない嬌声が室内に広がった。なんか、出た、気がする。フルセットの試合をした直後を思わせる心拍数。それに大量の汗。噎せ返るような情事の匂いも重なって、人間をやめてしまいたくなる。
「ん、っん、ふぅ……、ンッ」
立て続けに腹の中を抉られ、北さんも一応は満たされたらしい。かすかな痙攣は続いているものの、激しさを伴った動きは鳴りを潜める。
「ふ、ぅ……」
そして、こてん。肩に、頭が乗った。息を乱しながらも、瞼はぽたっと閉じている。小刻みな震えも、徐々にではあるが落ち着いていた。寝落ちた。もとい、トんだ。
そこまで見届けたところで、はあぁ、深いため息が零れ落ちた。
「しぬかと、おもった、」
後処理、やらな。疲労感の中に、ぽつりと使命が浮かぶ。だが、体が重たくて仕方がない。なんせ、その人のナカから自身を引き抜くのすら億劫なほど。このまま横になって、俺も寝てしまいたい。十分、いや五分だけでええから。
くら、と体が傾くままに、ベッドへなだれ込んだ。あ、抜けたわ。萎えたソレが、空気に触れてひやっとする。
ぼうっと北さんの顔を見つめる。こうしている間にも、拡がった後孔からは体液を漏れだしていることだろう。掻き出して、拭って、あと体、清めな。
もう一つ大きなため息を吐いたところで、気怠い体に叱咤を打った。
「しばらく、使うの控えます?」
目が覚めたところでそれとなく尋ねてみると、北さんは、ふ、と口元を綻ばせた。
「また来週、な」
「ッ!」
苦悶を味わったばかりだというのに、我が身は期待で火を吹きかけた。