ここはびしょぬれユートピア
「あかん」
か細い声で、その人は鳴いた。まるで小鳥のような声。これで涙を流していたのなら、「泣く」と表現しても間違いではなかったろう。しかし、その瞳から雫が零れ落ちる様子はない。これでもかと目を見開いているせいで、涙の粒よりも眼球そのものが転がり落ちてしまいそうではあるが。
かわええなあ。えげつない物体を片手に、ぼんやり思った。
「あかんて、なあ、落ち着き」
念を押すように「あかん」と告げてから、そのひとはじりじりと後ずさる。ベッドの上に座っているせいもあって、清らかなシーツが後ずさるのに合わせてぴんと皺を作った。その上に伸びる、むき出しの足。シャツの裾を伸ばしているせいで急所は見えないが、その見えそうで見えない加減もムラッとくる。かわええわ。
ちなみに、傍らには柔らかなタオルケットと軽やかな羽毛布団がある。これに包まって寝たら、さぞ気持ちが良いことだろう。最高にかわいいもんと最高に気持ちいもんが重なったらもう極上やん。桃源郷も極楽浄土も、ユートピアもここにある。
ぎし、ベッドが、音を立てた。
「っ、」
あわせて、その人が息を呑む。そんな、ベッドに乗り上げただけやないですか。それも片膝だけ。なのにそんな怯えるなんて。俺が悪いコトしてるみたいやんか。
ずるずると、その人はさらに後ずさる。目玉をカッと見開いて俺を威嚇しつつ、なんとしても逃げなければと退いていく。冷静なようで、動揺もしているのだろう。なんせ、ヘッドボードの方向に逃げ道はない。あるのは壁だけ。出入り口は俺の背後。そっちに行っても追い詰められるだけですよ。気付いてるんかな、いや、北さんのことや、どうにかして和解したいんやろう。でもなあ、すんません、今日ばっかりは大人しく言うこと聞けそうにないんですよ。
「ダイジョブですよ、北さんが心配するコト、なぁんもないですし」
「嘘吐け、心配どころか危機感しかないわ」
「心外や」
「どの面下げて言うてんねん、お前、今の顔マトモちゃうぞ」
「えへへ、ベンキョーがんばりましたもん!」
「レポートに追われとっただけやろが、疲れてんならはよ休め」
「おん、せやから北さんと寝たいなて」
「添い寝だけやったらいくらでもしたる、代わりにその物騒なモン寄越し」
「えっ、使てくれるんですか!」
「誰が使うかこの色ボケブタ」
わ、北さんでもそういうこと言うんやな。ぽーんと発せられた悪態に拍子抜けする。礼儀正しく、歯に衣着せぬ物言いはするが、あからさまな暴言を吐くことはない人が、自分やその片割れが吐き出すような台詞を言うなんて。それだけ落ち着いてはいられない、この状況を切り抜けたくて必死ということだろうか。
あれや、余裕がない。余裕がない北さん。あっ、ええなこの響き。
つい、頬が緩んだ。擬音をつけるなら、きっと「にっこり」。溜めすぎたレポートと、サボりすぎた試験勉強をこなした後のわりに、爽やかな顔してるんちゃう? 少女漫画やったら涼風がひゅーん吹き抜けてるて。そんで、目の前にいる北さんの髪がさらりと揺れて、好き! て。まあここはどこにでもある学生アパートの一室で、扉も窓も閉まっている。風が吹き込むことはない。せいぜいエアコンがまったりと温風を送ってくるくらい。
そう、ここは俺の家。大学に入ってからねぐらとしている俺の城。チームメイト曰く、思った以上に物がない、この部屋。あるのはベッドと炬燵にもなるテーブルと、それから棚が一つ。棚にあるのはほとんどバレー関連の物で、他の娯楽はおいていない。一応、台所には一通り家電も揃っているが、使うのはもっぱら流しだけ。ガスコンロ? つけたことないわ。
そんなこざっぱりした部屋の玄関は施錠済み。さっきも言ったように、ヘッドボードが面しているのは壁。斜めに進めばベランダに続く窓もあるが、二階という立地を思うと逃げ道にはなるまい。いや、コレが逆の立場やったら、俺ベランダから飛び降りて逃げてるわ。三階やったら考えるけど、二階やったら飛び降りてもどうにかなる気がするし。けど、今逃げようとしているのは北さんで、常識溢れるこの人が逃走手段として「ベランダから飛び降りる」を選ぶとは思えない。
逃げるには、俺を乗り越えて、玄関のほうへ向かわねばならない。
俺を言いくるめるのは無理と悟ったのか、ちらり、北さんの視線が扉に向いた。
「きーたさん」
逃がしませんよ。そんな意図を込めたからか、先ほどの緩いトーンよりも低い声が出た。間延びしている癖に、脅しの色がついている。
ず、さらに北さんの体が後ろに下がった。だからそっちに行ったって逃げられませんよ。ほら。三秒経たずに、北さんの背中が壁にぶつかる。
「こっち、見てください」
「見てるわ」
「いやいや、玄関のほう見てるでしょ。俺んこと、ちゃあんと見てください」
低い調子のまま続ける。
すると、北さんの目線がうらり、泳いだ。かといってすぐに俺を見てくれるわけではない。細やかな抵抗というやつだろうか。玄関のある方から室内に戻ってきて、棚のあるほうの壁に進んでから天井を走る。まだ昼間ということもあって、電気はつけていない。ぼんやりとした灰色の傘でしばらく目を留めて、一つ息を吸い込んだ。そしてやっと、俺に目線が向けられる。
かちんと目線が合った。それだけで多幸感。とろけそうになる。けれど、ここでどろどろになってはいけない。折角のチャンスを逃してなるものか。
「やっと見た」
意を決したわりに、零れた声は胸焼けしそうなくらいに甘ったるかった。ケーキやキャラメルやチョコレート。おぞましいほどに砂糖をぶち込んだ菓子を思わせる響き。スタバの呪文みたいなデザートドリンクといい勝負。
カッと、対面している北さんの顔が赤くなった。今の声、好きなんかな。そういえば心当たりもある。情事に耽っている時にこの手の声を出すと、堪らないと体を震わすのだ。イヤイヤ言いながら、きゅうきゅうに締め付けてきて、普段の凛とした表情の代わりに恍惚を浮かべる。
「ご褒美、くれるて、言うてましたよね」
「言うた、けど」
「ならください」
ふつふつと頬の紅を濃くしていく北さんににじり寄る。と、その人の目線が俺の手元に落ちた。そこにあるのは、とある器具色合いはポップ。質感は滑らかながらしっとり。そのくせ形状はグロテスク。
――世間はコレを、電動バイブと呼ぶ。
「ご褒美に、コレでひとりえっちするとこ、見せてください」
頑張ったら、ご褒美をくれる。そう言ったのは、北さんだ。
試験勉強したくない。レポートする気も起きない。けれど、学生と言う身分である以上、逃げ続けることも、できない。あまりにも勉学を疎かにすれば、バレーにも支障が出てしまう。それでも、勉強するんは、嫌。そんな最中、北さんは言ったのだ。俺の愛しい愛しい恋人は、ご褒美をくれると言ったのだ。
『ご褒美てなんですか』
『何がええ?』
『んん、……なんでもええの?』
『ええよ。ああ、けどあんま高いんはやめえや』
ということで、お金のかからないものにしましたよ。正しくはコレ買うのに金使ったけれど、俺が買ったのだから問題はない。
一瞬スイッチを入れて見せると、ヴンッという響きと共に北さんの顔が引き攣った。
「いやや」
「なんでですか、ご褒美くれる言うたやん」
「言うたけど、それはあかん」
「……嘘吐いたんです?」
「嘘のつもりはない、けど、……いややそんなん」
「俺めっちゃ頑張ったんですよ、レポートも全部〆切までに出したし、試験も白紙で出さんかったし」
「それを世間は「当たり前」言うんやで?」
「世間はそうでも、「俺」としては頑張ったんです。それよりゴホービ! くれないんですかぁ」
「うっ、わ、ワッ」
一気に距離を詰めた。すると、またもや北さんの珍しい声が聞こえてくる。突拍子もないこと、たまにはしてみるもんやなあ。北さんの色んな顔見れんの楽しいわ。
わざと身を低くして、縋るように北さんを見上げる。約束、破るんですか。ご褒美くれる言うてたんは、嘘やったんですか。単に甘えるだけじゃ「知るかそんなん」と一蹴されてしまう。だからこそ、あのとき約束したでしょと畳みかける。
あの北さんが、金のかからん範囲でなんでもしてくれると言ったのだ。そこにつけ込まずにいられるわけがない。普段できないこと、してもらいたいやんか。
選んだソレは、勃起した時の自分のとおおよそ同じ大きさ。いや、一回りは小さいだろうか。とりあえず、大きさはそんなもん。そこにパールがごろごろと入っている。もっと過激に動くやつもあったけど、初めてのオモチャやし、シンプルなほうがええかなと思っての、コレ。パール入ってる時点でシンプルちゃうか。振動も激しいみたいで、スイッチ強にしたらえげつない音立ててたし。北さんの尻、ガバガバなったらどないしよ。ま、そんとき考えよ。
「だめですか?」
「なんで、そんなん使いたいん」
「色んな北さんを見たいんです」
「見なくてええわ……」
「見・た・い・ん・で・す。……おねがいします」
今度は吐息たっぷりに囁いた。すぐそばにある耳が真っ赤に染まる。さっきは甘さに絆されて、今度は色気に流されて。どこもかしこも、色づいてきた。
……普通にヤりたくなってきた。待て待て、今日は北さんの自慰が見たいのだ。勉強もがんばったんですよて、がっつり甘えてよしよしセックスしてもらうんも捨てがたいけど、羞恥に襲われながらあられもない姿を晒すのも見たい。そら、自分で後ろ弄るとこも見たことある。けど、事務的やった。俺のちんこ入れるために拡げた感じ。それも悪くないけど、自分で弄って、あんあんヨがるとこが見たい。めっちゃ見たい。
揺らぐ自分に叱咤を打ってから、じぃっと北さんを見つめた。
「……侑は、そんな機械に屈する俺を見たいん?」
「めっちゃ見たいです」
「自分の手でぐっちょぐちょにしたいとか思わんの」
「えっ、しますよ」
「は」
「します」
「……自慰するトコ見たいて、」
「はい。北さんのオナニー見て、そのあとぐっちょぐちょのえっちしたいんです」
そういえばそこまでは言っていなかった。ご褒美としてほしいのは、北さんが電動バイブでオナるところ。それとは別に、セックスはしたい。北さんもしたいでしょ、久々やし。
玩具で喘いで、ぐずっぐずになったとこに俺も突っ込んでさらに鳴いてもらう。足腰が立たなくなっても、明日は日曜だから授業はない。ついでに北さんのバイトもこの土日は休み。俺の部活も今日は休み。明日も午後から。最高やん。夢やったんですよ、丸一日家に引きこもってずーっとベッドでセックスするん。ロマンやろ。
「いちにちじゅう……?」
「はい!」
「侑、お前やっぱ疲れてるんや、はよ寝ろ」
「北さんとえっちしたら寝ます」
「寝て起きてからじゃあかんの?」
「明日午後から部活ですもん、ぎっちりセックスして、がっつり寝て、そんでバレーしたい」
何を言われても曲げる気はない。それから逃がすつもりもない。いい加減、腹括ってください。やってみて気持ち悪かったり、具合悪くなったりするようだったら、ちゃんと止めますんで。その分別もつかないほどのクズじゃない。第一、北さんも本気で嫌なわけじゃないんでしょう。ゆっくりではあるけれど、まあるい瞳に欲が滲み始めている。
さらに距離を詰めて、ちゅ、と唇を吸った。ふ、とかかる吐息は熱を孕んでいる。もう少し。あと一押し。むき出しになっているその人の太ももに、そっと手のひらを滑らせた。
「っふ、」
「きっと気持ちいですよ」
「やらしい触り方やめぇ」
「だってえっちしたいんですもん、やらしくなりますよ。ね、北さん、使ってみましょ。なんなら入れるのは手伝いますんで」
「遠慮しとくわ」
「えぇ、いけずう」
「ッちょ、おい!?」
軽口を叩きながら、北さんの片足を肩に掛けた。咄嗟に自らの股間を隠すように、その人はシャツを伸ばす。残念でした、緩く勃ってるんはお見通し。それにこんだけ足開いてたら、隙もいっぱいあるんですよ。大事なトコ隠した程度で防御力上げたつもりにならんでください。
隙間を縫うようにして、電動バイブの切っ先を隠された奥に差し入れた。つん、と当たった感触から察するに、会陰部だろう。探るように動かせば、ふにりと睾丸にも当たる。悪くない位置取り。その証拠に白い太腿が震えた。しまったと言わんばかりに、北さんの喉はヒュッと鳴る。
俺、今、めちゃくちゃ悪い顔してるわ。それも笑顔。
――カチリとスイッチを入れると同時に、その器具を強く押しつけた。
「~~ッ!」
その一瞬で、北さんの体が大きく震えた。思った以上の反応。俺に負けず劣らず、北さんも溜まってたと見える。しめしめとすぐにスイッチを切り、その人の眼前で玩具を揺らして見せた。
「きもちいでしょ、ね、ナカ入れたらもっとすごいですよ」
囁きながら、深爪気味の両手でしっかりとバイブを握らせる。あの北さんがアダルトグッズを持っているというだけで、くらくらしそう。写真に撮りたいくらい。でもそれはまた今度。まずはこの目でしかと見届けたい。
「ぅ、これ、いれるん……?」
「あ、そのままはきついですよね。ローションが、えーと……、」
「ちゃうねん、なあ侑、こんなんやめてフツーにせえへん」
「だからしますて。北さんのひとりえっち見たら」
「……お前とのセックス先にすんのは」
「えぇえ「見られてる恥ずかしい~」てしてる北さんが見たいんですよ俺」
「いつだってこんなん見られたら恥ずかしいわ」
「いやいや、セックスしたらそれで北さんとろっとろなって、羞恥とか忘れてずぼずぼオナニーするかもしれんし」
あった、ローション。ヘッドボードについた引き出しから白いボトルを取り出した。ラベルはパステルカラーに茶と白のインクで作られている。ぱっと見た程度では、トラベル用のシャンプーと思ってしまいそう。けれどこう見えて優秀なラブローションである。無香料・無着色・無添加とこれぞオーガニック。北さんの敏感な部分にも安心。事後もぴりぴりしない。本人に聞いたのだから確かだ。
ぱこん、とボトルの蓋を開け、ボトルを傾ける。その下には、もう片方の手。は、構えていない。白いボトルの先から、とろりと粘性のある液体が垂れていく。下品な光沢はなく、乳液にすら思える。本当に、擬態のうまいローションだ。真っ直ぐにそれは落ちていき、ひたり、白い皮膚に辿り着く。
北さんの太ももに、ぬらり、垂れる。
「ヴあッ!?」
その口から、色気とは縁遠い声が漏れた。さっきえっちしたいスイッチ入ったかなて思たんやけど、まだ切り替わりきってなかったらしい。まあこれからこれから。
ボトルのキャップを閉め、ぽいと枕元に放り投げた。必要になったらまた足せばいい。それから、指先でなぞるようにしてローションを伸ばしていく。股関節を抜けて、会陰を掠めて、つぷり、秘部へ。久々とはいえ、行為をするのは初めてではない。何度何度も、俺の形を覚えるんじゃないかと言うくらいにはやっている。まさに俺専用。逆を言えば、俺のちんこも北さん専用なわけだけれども。
そこに俺じゃないものを突っ込むの、少しもったいない気もする。だが、それ以上に玩具に喘ぐ北さんも見たい。見たい。めっちゃ見たい。とにかく見たい。
くにくにと擦り込むようにクチを撫でていると、ヒクリ、物欲しげにソコが収縮した。
「ん?」
「っ、」
きゅん、と爪先が飲み込まれる。こういうことをするのは久々。具体的に言えば一か月ぶり。久々じゃない? 俺ら今いくつだと思てんねん、一か月も抜かんかったらちんこ爆発するわ。それはさておき、思った以上にそこは解れている。指の一本くらいなら、もう飲み込めてしまうくらいに。
「……北さん」
「うっさい」
「まだなんも言うてない」
「言わんでもわかるわ」
「ココ、」
「皆まで言わんといて」
「……ココ、弄ってたでしょ」
「言うなや」
くぷくぷと、人差し指がナカに埋まっていく。埋まった先も、予想以上に柔らかい。円を描くように動かせば、縁諸共拡がってしまうほど。これまでもすぐに解れてとろとろになることはあったが、最初からここまで柔らかかったことがあったろうか。指一本では足りないと、ぐにゅぐにゅとソコは蠢く。
「聞いてもええ?」
「ん、なに、をッ」
「ここ、なにでいじってたん?」
「なにて、」
「ディルド? バイブ? あ、エネマグラ?」
「そんなん使たことないわ!?」
「……なら、指?」
ふわりとした一か所を押しながら問うと、返事の代わりに嬌声が返ってきた。そもそも、今日バイブを見せただけでドン引きしたこの人のことだ、アダルトグッズを買うわけがない。なお、他の男に犯されたという可能性もなしとする。レイプされたら絶対この人、俺に言うもん。いつだったか、痴漢されたときも俺に言うたし。平然とした顔で「さっき痴漢に遭うた」て言うんやで。電車乗ってるときに言うてや。そしたら犯人引っ掴んで突き出してやったのに。
ちらりと北さんの顔を見やれば、ぎゅっと目を瞑って、これまたぎゅっとバイブを握りしめている。ちゃんと持っててくれるんやなあ、びたーんて床に叩き付けるくらいされるかと思ったんやけど。
ずるりと指をギリギリまで引き抜いて、今度は三本まとめて捻じ込んだ。随分と圧迫感も増し太郎に、ぐにゅり、にゅぐり、欲を覚えた後孔は善がりながらうねる。
「ぅあッ」
「きもちよっさそーにしよってもー……、前だけじゃもう物足りんのとちゃう?」
「ア、ひっ、……せやか、らッ、こっちもいじってたにっ」
「……へ」
「ッくぅん……、あっ、ぁあ、ヒ」
三本の指で腸壁を抉ると、内腿がびくびくと震えた。前立腺をわざと外して焦らせば、もどかしさで担いだ足先が空を蹴る。指をしゃぶる縁だって赤く熟れている。痛みなんて、最初から感じていなかったのではないか。だったら、俺が手を貸さなくてもも良かったんじゃ。
一切触れていなかった北さんのちんこの、その先から、だらりと涎が垂れた。緩く反応をみせている程度だったはずのそれは、いつの間にか反り返っている。ぐちぐちと後孔から与えられる刺激に呼応して、くぷり、こぽり、溢れたカウパーが竿を濡らしていく。わー、えっろ。
いや、いやまて。待て待て。
「え?」
「ぁ、なん、え?」
ぐぽっと音を立てながら指を引き抜いた。ビクンと北さんの体が震える。蹂躙されていたアナルは、ぽっかりと穴を作った。とはいえ、セックスした後に比べれば可愛いものだ。今はその口を閉じようと、縁が縮んでいくが、行為のあとはヒクヒクと痙攣しながら、もうしばらく開いている。事後のこの人は本当にえろい。えろいというか淫ら。何度もう一回やろうとして「もう無理や」と泣かれたことか。
さておき、後孔が閉じ切ったところで、人差し指の腹を当てた。ほんの薄皮一枚分だけ触れるようにして、ソコを撫でる。ぷちゅ、きゅちゅとナカに誘ってくるが、あくまで触れるだけ。
北さんの吐息が、物足りないと揺らいだ。物足りない。こっちをいじらないと、イケない。そんな体になってしまったと、この人は言った。言ったよな。俺の聞き間違いやないよな。なあ。
「ちんこだけでイケんようなってしまったんですか」
「……ッ」
ぽつりと言えば、ボッと北さんの顔に火がついた。しまった。そうありありと書いてある。北さんでも、こんなにわかりやすい顔するんやなあ。よりにもよって、俺に振り回されてこんな顔するなんて。高校時代の自分に言ったって、きっと信じないだろう。むしろ、北さんと付き合っているということ自体、信じないかもしれない。……卒業間近の頃やったら、ちょっと喜ぶかもな。北さんこと好きなんやなあって気付いたの、あの頃やし。
口を半開きにしたまま、真っ赤になった北さんを見つめていると、同じく半開きにしていた北さんの唇が戦慄いた。
「だれ、の……、せいやと」
「俺のせい、です」
「~~っせきにんとれよ」
取りますよ、そりゃもちろん。つか、ここまできて別の男がええて言うても手放しませんからね。
深く息を吐き出してから、秘部に爪先だけ埋める。中指も添えて、くっと開くと、素直に縁が拡がる。どれくらいの頻度でいじっていたのだろうか。さすがに毎日なわけはないが、この柔らかさを思うとありえないこともない気がしてくる。あるいは、昨日いじったばかりだとか。俺と今日会う予定だったのに、耐えきれずに、くちゅくちゅといじった、と。それも見てみたいな、今度頼むか。そうしよ。
「ん、もっ侑、なあほしぃ」
「あっ、はい」
ハッとしてベルトに手を掛けた。そのまま前を寛がせる。ゴム、ゴム。ローション入ってた引き出しと同じとこにいれていたはず。どうだろう、別んとこに入れたかな。探すべく、肩に担いでいた足をそっと下ろした。
と、目に入る、ビビットピンク。
「いや! その手に持ってるモンの出番ですよ!?」
「チッ」
「舌打ちしてもだめですー、それできもちよくなってください、そんでメスイキしてください」
「おい、今ハードルあげたな?」
「えへへ、正直いうと、おもちゃでイキ狂うとこ見たくてソレ買いました」
「こんなんより、そっち入れてほしいんやけど」
「ワッ」
もすり、股間に圧がかかる。煽るように、北さんの足が乗った。下着越しに、膨らんだソコを足指が撫でる。どこでこんなこと覚えて来たん。そのうち足コキもしてもらお。北さんとしたいこと、いっぱいあるなあ。いくら時間あっても足りないんとちゃう?
すりすりと控えめに触れてくる左足を掴んだ。片手でつま先を押さえつつ、もう一方の手を、足首、ふくらはぎ、ひざ裏と滑らせていく。そのまま脚を畳むようにして胸につければ、勃ったままのモノと、蜜壺と化した孔がよく見えた。
じ、と見下ろす。
それだけで、とぷりと涎を垂らし、物欲しげに窄んだ。
「――えっち」
「ふ、ァ」
「今ここキュッてしましたよ、俺のほしくて感じたん?」
つん、指先で蜜壺の口を突いた。熟れた縁が、きゅうと指に吸い付く。
ムッと匂い立つ色気に、頭が揺れる。煽られるままに理性を蕩けさせて、がつがつと犯したい。でもその前に、機械で気持ちよくなってもらおう。バイブ突っ込みながら、前も擦らせて、どっちも堪らん、もう飛んでしまう、てところで玩具をとりあげる。そこでやっと捻じ込むんだ。その前に、指で慰めてもいいかもしれない。指じゃ足りんて喘いでくれるんやない? あー、ええなあそれ。そうしよ、決めた。
「……あつむ」
「なんですかぁ」
「ほんまにこれ使うん?」
「使て欲しいから、用意したんですけど」
「こんなんより、お前のソレ、ハメてほしい」
決めたそばから、決意揺らがせるようなこと、言わんでください。
鈍器で頭を殴られた気分だ。そして、今の台詞、もう一度言って欲しい。録音するんで。会えないときのおかずにします。ハメてほしいて。北さんもそんな言葉使うんですね。足コキといい、ほんまにどこで覚えてきたん。俺、そんなん教えた覚えないですよ。……一緒に見たAVではあったかもしれない。結局女の喘ぎ声も入り込む男の声もうるさい言うて、パソコンをばたんと閉じたあの日。あの日もあの日でえろかったなあ。でも今日のがえろい。ずっとえろい。
そんなえろい人が恋人だなんて、俺は本当に幸せ者だ。
苦笑しながら、北さんの手に自分の手を重ねた。それからするりとグロテスクな物体を奪う。ないほうが、しっくりくるな。似合わないものを持っているギャップも悪くないが、なんもしてない素の姿もグッとくる。要は、北さんならなんでもええんやろ、お前は。呆れた顔をした片割れに言われたのは、さて、いつのことだったか。
手が空いたせいか、北さんの顔に安堵が浮かんだ。眉間の皺も、すっと消える。
ええ顔。
――その顔が快楽に歪むと思うと、それはそれで堪らない。
「とりあえずバイブ責めはしますね」
「嘘やろ」
スンッとした真顔を眺めつつ、性器を模したビビットピンクを秘部に捻じ込んだ。大きく揺れる体。真に欲しかったものとは異なるものの、似た体積の物体。突然のことではくりと呼吸を止めるその人に、追い打ちをかけるようにスイッチを押した。
「~~ッ♡」
あ、しまった、設定強のままやった。
時すでに遅し。反り返ったナニから潮を噴くと同時に、北さんの理性は瓦解した。