あざといんだよ、お前

ドラケンは淡白だと思っていたら、そんなことはなかったと痛感する三ツ谷の話


 ドラケンのセックスは、思いのほか、淡白だ。
 丁寧、と表現した方が正しいかもしれない。あの勇ましい見目からは想像できないくらい、一つ一つの所作が細やかで優しい。じゃあ、逆に執拗なのかというと、そんなこともない。何もかも程よい塩梅で、事後にもたらされるのは心地の良い倦怠感だけ。
 頭も体も心も、たった一回ぽっちのセックスで、すっかり満たされている。
 少なくとも、俺は、満たされている。
 ころんと寝返りを打った。目鼻の先には、穏やかな寝息を立てる男がいる。その寝顔は、寝顔だというのにどこか凛々しく見えた。恋人の贔屓目だろうか。いや、そんなことはない。これは、明らかに余力を残している顔つきだ。
「……ちゃんと満足できてんのかなあ」
 大して怠くもない腕を持ち上げて、ちょん、そいつの鼻を突いた。
 体力には自信がある。体もまあまあ柔らかい方。丈夫な体つきをしているのは間違いない。それでも、ドラケンは俺の体を労わってくれる。大事にされている証拠だ。それはそれで嬉しい。けれど一方で、この男に好き勝手に暴かれたい気持ちもある。今度、強請ってみようかなあ。ドラケンの気が済むまでしようって。それでも、いつもと同じセックスだったなら、仕方がない。その時は、ドラケンはこの穏やかなセックスで満たされる、ということにする。
 もう一度、今度はやや弾くように男の鼻の頭を突いたところで、もそりと布団に潜り込んだ。

 しかし、俺がドラケンに強請る日はやってこなかった。
「~~ッ!」
 俺がドラケンに強請る日が来る前に、淡白ではないセックスが、もたらされて、しまった。
「は、あー」
「ッ……っぁ、ッ……!」
 はて、今日は、これで、何回目? 記憶を遡ろうとしたものの、脳みそはすっかり快感で蕩けてしまっていた。数なんて、数えていない。そもそも、数えるほどの余裕は途中で消し飛んだ。
 粘着いた水音を立てながら、蜜壺から熱杭が抜けていく。幾度となく擦られた粘膜は、未だ嘗て味わったことのない熱を纏っていた。これは、俺のはらわたが火照っているのだろうか。それとも、ずるずると這い出ていく男根が熱を持っているのか。両方とも、過剰な熱を持っている、という可能性だってある。
「ふー……」
 背後から、湿ったため息が聞こえてきた。こっちは尻だけを高くしたうつ伏せ寝。どうやったって、ドラケンの表情は窺えない。けれど、俺の体はひしひしと感じていた。獰猛な目つきで、じぃっと俺を見下ろしているのが、いやでもわかってしまった。
 腰に添えられている手の片方が、汗ばんだ皮膚の上を移動する。大きな手のひらが、むぢりと俺の臀部に沈み込んだ。一つ、二つ、それから三つ。手指全体を余すことなく使って、片側の尻たぶを揉みしだかれる。割れ目はいやでも引っ張られ、ついさっきまで肉棒を咥えていたアナルがくぱぁと開いた。割り開かれたせいか、たっぷり注がれたローションがナカから流れてくる。とろみのあるソレは、間もなく、縁からツゥと溢れた。
「っと」
「あッ」
 しかし、潤滑剤が滴り落ちることはない。ドラケンの指先で掬い取られた。それも、会陰部を抉るような動作で、だ。直腸側からさんざん虐められた前立腺は、会陰部からの刺激にも敏感になっている。ぎくりと内腿が強張り、やがてガクンと力が抜けた。
「っあ、ふぅッ……」
 重力に従って浮いていた腰が落ちる。着地したのはぐっしょりと濡れたバスタオル。俺の汗と、精液と、潮とを受け止めただけあって、とてもじゃないが気持ちの良い触り心地ではなくなっていた。……平静を保っていたならば、「うわッ、気持ち悪っ」と言えたろう。けれど、重ねて言うが、今の俺に平静などない。水気を含んだ繊維が下腹に擦れるのにすら感じ入ってしまう。その上、己のペニスが体重で圧し潰されたのだ、堪らなくなって身体はビクンと甘く達した。
 このままじゃ、まずいイキ癖がついてしまう。下手したら、そよ風が吹いただけでイッてしまうようになるのでは?
 ありえない未来を思い描いて、あまりの淫蕩っぷりに、またピクッと体は悦に嵌った。
「ぅ、うぅ」
 ああもう、イキたくないのに。イッている場合じゃないのに。枕にぐりぐりと額を押し付ける。しっかりしろ、俺。いい加減にしろと、ドラケンに言うんだ。急にこんなセックスをされたって困る、明日だって仕事なんだぞと、言わなくては。
 呻きながらさらにぐぐぐと枕に顔を押し付けていると、鼻孔に愛しい男の匂いが満ちていく。しまった、この枕、ドラケンが使っている方だ。この匂いはいけない。なぜって、好きな匂いだから。野郎の枕なんて良い匂いするわけないのに、なぜかドラケンの使った寝具は悪くない匂いがする。考えるまでもなく、好きな、匂い。困ったものだ。
 だから、困るとか、感じ入るとか、そういうことをしている場合じゃあないんだよ。
「~~ッ、どら、け……!」
 ありったけの理性をかき集めて、なんとか背後を振り返った。
「ん?」
「エ」
 そして、映ったのは、汗だくになった男の姿。束ねてはいるものの、その髪はすっかり乱れている。体に汗の粒が浮いているのも見えた。呼吸に合わせて、肩や胸板が上下している。
 あーつかれた。そう、言いそうな風貌だった。
 だのに。
「……う、うそ、だろぉ」
「ぁにが?」
「あぁっ……!」
 男の唇は、コンドームのパウチを咥えていた。あれよあれよという間に、その封は切られる。実に滑らかな、流暢な動作で、ドラケンは新たな一枚を己に纏わせていった。反り返っているナニが、疲れている様子はない。あれほどシたにも関わらず、腹に付きそうなまでに反り返っていた。
 デカい。デカすぎる。ピンク色の膜を纏った程度じゃ、その逸物の猛々しさは誤魔化せない。
 無理だ。泣き言を声にする寸前で、俺の体はひっくり返された。幾度となく達した体だ、己の力で自由に動かすことはできない。ドラケンにされるがまま、柔軟な脚は大きく割り開かれ、局部は天井を向かされた。
「よ、っと」
「ひ、ア、まっ……待って」
「待たない」
「な、んでっ、そんないじわる言ぅン、」
 俺の制止は、当然のように却下される。
 ぽっかりと開いたままの縁に、先っぽがめり込んだ。
「ッア、」
 エラを越えるのも一瞬、竿を咥え込ませられるのも瞬く間。アッと一つ喘ぐうちに、俺は最奥まで穿たれてしまった。
「あ、ァッ、んゥ」
 再び襲ってくる絶頂感は、歯を食いしばって我慢する。けれど、俺のナニの切っ先からは、ぴゅるっと体液が漏れていた。なんて堪え性がないんだ。それ以上漏らすのはごめんだと下腹にも力を入れてみるが、今度は埋まった男根の形を意識させられてしまう。根元の太さも、幹の長さも、張り出たカリも、腹のどこにあるか手に取るように分かってしまった。亀頭に至っては、腹のナカにあるもうひとつのクチにぴったりと重なっている。
 もう一突きされようものなら、俺は、おれ、はッ。
「ふ、」
「~~ッッア゛」
 無情にも、男の熱は最奥を抉じ開けた。
「あ、」
 ぐぽっと強引に開かれて。
「ッオ」
 しかしずるんと引き抜かれ。
「~~っォァ、ア」
 バツンッと肌を打ち付けながら、また結腸を穿たれる。
 ほとんど真上からの暴力的なピストン。痛みを伴ったっておかしくない。なのに、この体は悦しか拾えなかった。痛みすらも、快感に置き換えてしまったのかもしれない。
 歯を食いしばることは、もうできなかった。割り開かれたクチと同じくらい、ぽっかりと上の口も緩んでしまっている。ベロまではみ出させながら、この体は善がらせられていた。その証拠と言わんばかりに、自身からはひっきりなしに透明な愛液が溢れていく。ぴゅるっと放っては、とろとろだらしなく漏らし、ぴゅぴゅっと甘く噴いたかと思えば、最奥を貫かれるのに合わせて派手に潮を噴射する。
「あ、あっ、ア、ッぁあア」
 気付くと頬は緩んで、みっともない笑みを浮かべていた。矜持など微塵もない、姦淫に溺れただらしのない笑顔。
 そんな俺を見下ろす男も、まあ艶やかな笑みをしていた。色気があるなんてもんじゃない。あまりに刺激が強すぎる。そんな獰猛な笑顔で見下ろされたら、あ、あぁっ、だめ、いく、イッちゃう、すごいイキ方、しちゃ――
「~~ッッ♡」
 世界が、真っ白く、弾けた。

 次に目が覚めた時、愛しい男は酷く悪い笑顔で言った。
「焦らした甲斐があった」
 そう、言った。