今日のお下着お召し物

三ツ谷女体化 にょみつの下着をめぐるなんやかんや


 非行少女と呼ばれた割に、そういう経験は早い方ではなかった。特別早くもなく、遅いということもなく、おおよそ平均で括れる頃合いであったと思う。
 そういう機会がなかったわけではない。初めてカレシという存在ができた中学一年の時、その男の家で、ベッドに押し倒されたことがある。ただ、当時の自分には、なんというか、しっくりこなかった。ちょうど喧嘩に明け暮れていたのもあって、馬乗りイコール窮地とインプットされていたせいだろう。結果、反射的に身を捩り、膝を立て、起き上がると同時に頭突きを一発。マウントを取り返し、胸倉を掴んだところで、ハッと冷静を取り戻した。己の唇からは、しおらしく「ごめん」と零れ落ちる。しかし、それも焼け石に水。すっかり怯えた顔をした最初のカレシは、その日のうちにメールで別れを懇願してきた。
 次に付き合った人とも、似たような流れで破局。一人目よりも勢いがついたせいもあり、鼻骨にヒビまで入れてしまった。おかげで、「東卍の三ツ谷が、カレシに暴力を働いた」と噂される始末。暴力は暴力だ、認めよう。反省だってしている。なのに、噂を聞きつけた仲間たちは、どいつもこいつもこの失態を笑いやがるときた。めためたに笑いやがって、お前らの鼻にもヒビを入れてやろうか。そう吐き捨てたくなるくらい、連中にはゲラゲラと笑われた。まったく、あの場で労わるなり慰めるなりしてくれたら、こっちの鬱屈もいくらかマシになったろうに。なにが「これだから三ツ谷は面白い」だ。こっちだってなあ、面白くなりたくて頭突きをブチ噛ましたんじゃない。
 唯一の救いは、四人いるうち一人だけは、ムと心配で顔を顰めてくれたことだろうか。まあ、その男も最終的には「三ツ谷らしいけどな」と笑ったから、他三人と大差ないのだが。
 クソ野郎め。
「ま、って」
「うん?」
 とはいえ、あの時、下手に処女を散らさないで良かったと思う節もある。
 クソ野郎、もとい、自身の初恋たる龍宮寺堅という男に、処女を捧げられたのだから。十八の誕生日の翌日、この処女を貰ってくれたのだ。この世には、「処女は面倒」というクソ野郎も存在している。だが、このクソ野郎はそんなこと言わなかった。それどころか、まだハジメテ、というのを、たいそう喜んでくれた。
 最初の男になれて嬉しい。艶のある声でそう説かれたこと、きっと自分は忘れないのだろう。
「あの、きょう」
「……ごめん、生理だった?」
「や、ちがう、それは先週終わったから、ダイジョーブ」
 まあ、それを抜きにしても、あの夜は忘れられない思い出である。
 なんせ今日と同じで、―― ブラとショーツがてんでばらばらだったから。
「じゃあ、気分じゃない?」
「エ」
 ぴったりと背後からくっついてくる男が、首を傾げる気配がする。そぉっと肩越しに振り返れば、形の良い眉がほのかに下がっているのが見えた。
 嫌だというのなら、仕方がない。俺はしたかったけど。すっごいしたかったけど。そこはかとなく萎れた顔には、そう書いてある。おそらく、わざとそういう顔を取り繕っているのだろう。この顔で甘えればどうにかなると、わかっているのだ。ずるい男である。今日という今日は突っぱねてしまおうか。……それこそ、無理な話だ。背後からそういう意図で抱き着かれた瞬間から、こっちの下腹は疼いている。秘部だって湿り気を帯び始めていた。
「そ、ういうわけでも、ないんだけど」
「んん、なら、なんで?」
 そろりと目線を逸らしつつ、内腿を擦り合わせる。
 何と言って、時間を稼ごう。シャワーを浴びたい? 悪くはないが、この男のことだ、一緒に浴びると言いかねない。そうしたら、こいつは容赦なくこの服を引ん剥くことだろう。
 ショートパンツを引き下げ、シャツを引ん剥き、晒されたちぐはぐの下着ににんまりとするところまで目に見える。
『いつも洒落てるお前の気が抜けたとこ、俺だけが知ってると思うと気分良い』
 あの日、この恋人はうっそりと笑いながらそう言った。羞恥で真っ赤になった全身は、いっそう男の欲を煽ったらしい。おかげで、初めてだというのに、骨の髄まで貪られる羽目になった。正直、あの初夜のせいで、我が身は妄りがましくなったと言っても過言ではない。
「なあ、三ツ谷」
「ッぅあ」
 悶々と巡らせていた思考が、ぎくりと固まる。かろうじて思い付いた策も、耳に掛かる吐息のせいで吹き飛んでしまった。どうしよう、このままでは流暢にベッドまで連れていかれてしまう。
 腹部に回っている腕を、諫める気持ちを込めながらツツツと撫でた。
「な、なに」
「俺はさ、どんな下着でも可愛いと思うよ」
 ふと、手が止まる。指先にだけ力が入り、爪先が男の皮膚に引っ掛かった。肩口のいくらか上にある頭が、こて、と傾げられるのが見える。
 クソ野郎。なにが「なんで」だ。
「~~ッわかってんじゃん! もう離せよ、着替えてくる!」
「いいって、そのままで」
「良くないッ。すぐ着替え終わるから!」
「すぐでも俺は待ちたくない、つーか待てませーん」
「ひぎゃッ」
 声を荒げたが、背後の男はどこ吹く風。ムキになって暴れてみても、びくともしなかった。どころか、腕の片方をひょいとシャツの中に潜り込ませてくる。機械いじりで硬くなった手指が、平坦な腹に擦れた。色気のない悲鳴をものともせず、男の手は上へ上へと上ってくる。
「あ」
 そして、ブラの輪郭に辿り着いた。
 ワイヤーの入っている下のラインに、中指が引っかかる。わずかに浮いたソレは、間もなく乳房の片側に、中途半端に食い込んだ。はみ出た下乳は、たぽたぽと突かれる。
 ああ、もう、ずらすなら上までずらせよ。落ち着かなさに身じろぎをすれば、ブラはじわじわとずり上がっていく。けれど、思うように持ち上がってはくれない。突起手前のところで、止まってしまった。
「どらけんっ」
「……あれ、なあんか、ちょっとおっぱいおっきくなった?」
「え、うそ、ほんと」
「たぶん。あ、いや、ブラが歪んでるだけかも」
「ずらしたのドラケンじゃん!」
「そうだけど。そうじゃなく。意外とブラの寿命って短いんだろ?」
「そうだよ、知ってんならこういう風にずらすのやめろよな」
「えー」
 悪びれもせず、ドラケンは人の下乳をたぷたぷと弄ぶ。時折、ふっくりとしたところの縁を擦られると、頭の奥が不埒で沸きそうになった。こんな曖昧な撫で方じゃなく、一思いに揉みしだいて欲しい。ツンと尖り始めたソコを、指先で転がされたい。舐めしゃぶっても、噛んでもいいから。次々と浮かぶエッチなお願いは、口にさえすれば叶えてもらえるのだろう。わかっているが、まだ羞恥の方が勝っている。結局、再び内腿を擦り合わせながら、ムと唇を尖らせた。
「……ドラケンのヘキも大概歪んでるよね」
「はは、生意気言ってくれるなあ」
「あっ、ア!」
 可愛げのないことを言えば、逆の手がウエストのゴムを潜って来た。ブラとは全く手触りの違う布地を、男の手は思わせぶりに撫でつける。恥骨の上を押されたのもあって、口からは裏返った声がまろび出てしまった。
 もうちょっと下が良い。ちがう、おっぱいは上の方が良い。なんで股関節の方行っちゃうの、真ん中だってばあ。あっばか、首に痕付けただろ、見えないところにしろって言ってるじゃんいつも。見えないところだったら、いくつ付けたって良い、っても。徐々に、欲が脳内を塗り替えていく。浅ましく揺れた腰は、押し当てられている硬い熱を過敏に感じ取った。
「だ、からぁっ、着替えてくる、ってばァ……」
「どうせ汚しちゃうんだし、あとでもいいって」
「今日のは、ほンと、ぁ、だめなの!」
 それでもなお、理性は必死に抗い続ける。
 だって、今つけている下着の組み合わせは、あまりにも酷いのだ。デザインがちょっと違うなんてモンじゃない。メーカーも、風合いも、色も布も違う。だってだって、今日は暑かったから蒸れないショーツが良かったの。でも、肩ひもは見えても良いデザインのブラが良かったの。だってだって、だって、ドラケンとエッチするにしたって、シャワー浴びてからだと思ったの。取り替えるはずだったブラショーツのセットは、脱衣所の籠の中にいるのだ。
 着替えたい、一刻も早く取り替えたい。けれど、ドラケンは愛撫をやめてもくれない。どんなに蒸れない素材でも、粘着いた体液には敵わないらしい。中心は、むっと湿っているのは明らか。
「そんなに見られたくない日なの?」
「……ン」
「じゃあ、なおさら見たいなあ」
「ばか。今度にしてよ。ドラケンが好きなの選んでいいから」
「……ブラを?」
「ショーツも! タンス入ってる中から、好きなように組み合わせてくれたっていい」
 嘘だ。本当は良くない。今日と同じ組み合わせを示されたら、恥ずかしさで閉じこもりたくなる。それでも、この男が選んだという大義名分があれば、多少のちぐはぐさは我慢できる気がした。
 今日のところは、勘弁してもらえないだろうか。一考の余地はあったのだと思う。ドラケンの、あちこちを撫でる手が止まってくれたから。わかったと言って、一旦解放してくれたら文句ないのだけれど。
 呼吸を整えながら、改めて肩越しに振り返った。
「……ねえ、すっごいすけべな顔してるよ」
「するだろそりゃ。えーどうしよ、なに着てもらおっかな」
 途端、眼前に下心を隠しもしない面構えが現われる。口はにんまりと緩み、目元はいやらしく歪んでいた。いつも涼しげな顔をしているこの男の、だらしのないところ、自分だけが知っていると思うと少し気分が良い。……こんなことを思う時点で、自分とこの男は似た者同士なのだろう。
 こっそり息を吐いて、もう一押しと口を開いた。
「なんなら、今日選んでもいいよ」
「ん?」
「ほら、紐のやつとかさ、好きでしょ」
「あー」
「総レースのちょっと透けるのでもいいし」
「んん」
「……ブラもショーツもなしで、スリップ一枚でも、まあ、」
「三ツ谷」
「う」
 提案を連ねていると、きゅっと胴を抱きしめられる。下乳と恥骨部に手は添えたまま、腕に力を込めたらしい。
 咄嗟に焦点を定め直すと、普段の涼やかな顔が見えた。先ほど浮かべていた不埒な表情は影も形もない。どれを着せたいか、決めたのだろうか。
 こくん、無意識のうちに、唾を飲み込んでいた。
「選ぶのは、また今度ね」
 しかし、男の口からは、期待したようなセリフは出てこない。
 それどころか、ショートパンツのゴムを、ぐいっと押し下げて来た。
「エ、アッ!」
「さ、今日の三ツ谷さんはどんなパンツを穿いておいででーすか、……お、黒」
「ばか!」
 罵倒するタイミングで、シャツまで捲り上げられる。不揃いな下着姿を確かめたところで、ドラケンはベッドへ行かんとこの体を抱き上げた。

 その一悶着から、一週間。
 今日こそはと、隙なく上下を揃えて待ち構えていると、そいつはやけに綺麗なショッパーを持ってやってきた。
「はい」
「え」
 何かの記念日だったろうか。ドラケンは、そういう思い出を事細かに覚えている。差し出された持ち手を掴みつつ、ぐるりと頭を働かせた。八月、夏休み、はて今日は何の日だったろう。……いくら考えても出てこない。
 なんでもない日にプレゼントを贈ってくるのは、ご機嫌取りなんだっけ。こちらの意味があるのなら、ドラケンには後ろめたいことがあるということになる。浮気? それはない。間違いなく、ない。じゃあ、なんだ。
 悶々としながら、袋を閉じている帯状のシールを見下ろした。
「……えっ?」
「なにその顔」
「そりゃあ、だって、エッ、ねえこのショッパーって」
 そのシールには、見覚えがあった。慌てて紙袋をくるんと返せば、自分も何度か使ったことのあるショップロゴが入っている。夏仕様のデザインらしい。留めているシールを剥がさずに、そっと中を覗けば、淡い色の包み紙も見えた。包み紙、だ。
 ショッパーの中に、下着が入っているのは明らかだった。
「か、か、かッ、買ったの!?」
「あれ、先週言ってたじゃん。俺が選んだのつけてくれるって」
「それは言葉の綾、いや、てわけでも、ないけど、まさか」
 はくはくと口だけを動かしていると、靴を揃えたそいつはまっすぐに洗面台の方へ向かった。間もなく、水の流れ出る音と、手を洗う音。うがいのガラガラ音も聞こえてくる。
 ドラケンが、下着を買ってきた。それも、ちゃんとしたブランドの下着を、選んで買ってきた。突如、現実として立ち憚って来た事実に、くらり、頭が揺れる。
 半ば狼狽えながら居室へ戻ると、背後から「すずしー」と気の抜けた声がした。
「あ、あの、ドラケン、コレ」
「うん?」
「きょう、かって、きたの」
「うん」
「ア、だから、今日、つなぎじゃないんだ……」
「さすがに、作業着で入っていい店じゃねえだろ」
「まあ、そう……かな、そうかも」
 もそもそと口ごもっていると、冷蔵庫を開けて良いか確認をされる。良いよ、どうぞ。やっぱりもごもごと答えると、麦茶のピッチャーを取り出すのが見えた。洗いカゴにひっくり返してあるガラスコップに、とくとくと注がれていく。ちらりとローテーブルを見て、もう一杯用意してくれた。あ、そうね。口、カラカラだから、水分欲しいや。ショッパーを抱えたままテーブルにつくと、こつり、早くも汗をかき始めているコップが置かれた。
 ガラスコップを掴んだ手は、なぜかしおらしく、そしていじらしくもあった。一思いに煽りたいのに、ちろり、湿らすくらいしか口に含めない。これが麦茶でなく麦酒だったなら、がばりと煽れたろうか。それはそれで、イッキ・ダメとこの男に取り上げられた気がする。
 ちろ、り。もう一口ばかり舐めてから、膝の上にあるショッパーをテーブルに乗せた。
「あ、開けても、いい……?」
「開けてよ。できたら着てほしい。それ着た三ツ谷とシたい、今日」
「すけべ」
「すけべだもん」
 悪態はあっさり受け止められてしまう。開き直っているようにすら思えた。これで、本当にすけべなデザインのランジェリーが出てきたらどうしよう。例えば、オープンクロッチだとか、胸部の周りにしか布がないデザインだとか。バラエティショップで買ってきたものではないのだ、そんなあからさまなセクシーランジェリーは出てこないか。
 ゴ、ゴッと麦茶を飲み下している男に意識を引かれつつ、そぉっと留め具を剥がした。包まれている中身は、思ったよりも体積がある。まさか、一組ではないのか。二組だったら、どうしよう。慄きを覚えつつ、包装紙のセロテープを丁寧に外していった。
「わ」
 ぱさりと紙を退けた先にいたのは、淡いパープルを帯びた色味のブラ。施されている刺繍は、キキョウだろうか。自分じゃ滅多に選ばない淡色に、つい面食らってしまった。
「……こういう、可愛い色の方が、好き?」
「好き、っていうか、三ツ谷いつもバキッとした色の着てるから」
「そう、ネ」
「たまにはいいかなって」
「でもさあ、似合わなくない?」
「店員サンにも、写真見せて確かめたから大丈夫だと思うよ」
「……写真って、なに、いつの!」
「いつって、海開きしたからって行った時の。……あ、ハメ撮りしたときのだと思っ」
「ワーッ!?」
 かの日の記憶が呼び起こされ、カッと頭に血が上る。合わせて、ぴゃっとブラを叩くと、下から似たデザインが覗いた。刺繍位置はブラよりも明確なV字を描いている。まさか、同じシリーズの別デザインのブラを買ってきたのか。ブラ二枚より、ショーツ二枚の方がありがたいのに。
 などと思った烏滸がましさは、布地を持ち上げると同時に消え失せた。
「……すりっぷ」
「それも可愛いなと思って」
「ショーツも、……え、まって、いっぱいある」
「うん。パンツのが薄くなるの早いだろ」
 品の良い光沢感を放つ裾の下には、綺麗に畳まれたショーツが合わせて三着。二着がいいと思ったそばから三着出てくると誰が予想した。手触りの良いスリップを努めて丁寧に畳んでから、右端の一つを手に取った。これは、ノーマルな形のもの。隣にあるのは、ウエスト丈が深い。触ってみると、サニタリーになっていた。じゃあ、最後の一つは。そっと手に取ると、一番布面積が小さかった。
「Tバックまで」
「見たかったから」
「……すけべ」
「すけべだもん。それはいつかでいいからさ、穿いてよ」
「お尻、貧相だから穿いてもあんまりエッチになんないよ」
「そう? 小ぶりで綺麗だし、映えると思ったんだけど」
 ドラケンはにんまりとしたり顔をする。これで鼻の穴でも膨らんでいたら、「すけべ」ともう一度言ってやろうと思ったのに、涼やかな顔つきのままだった。切れ長の目が、やけに愛おしいものを見るふうに細められる。
「うう……」
 このまま目を合わせていたら、ぼんっと顔から火が出てしまう。ほとんど俯くようにして、広げた下地に視線を戻した。揃いのデザインで、合わせて五点。自分だったら、あまり選ばない色合いだし、五点とも揃えるという真似も滅多にしない。せいぜい、ブラ・ショーツ・キャミソールまで。
 言うまでもなく、この五点は己の勝負下着になることだろう。ああいや、サニタリーはそういう使い方にはならないか。でも、ドラケンに買ってもらったと思ったら、憂鬱な生理の時期もいくらか上向きになれそう。
 胸の内側から滲んでくる嬉しさと恥ずかしさを誤魔化すように、かりかりとこめかみを引っ掻いた。
「どお」
「え」
「着て、くれる?」
 顔を上げると、頬杖をついたドラケンが、やっぱりにんまりと笑っていた。語尾は持ち上がり、疑問詞がついている。けれど、内心では着てくれると確信しているのだろう。
 この余裕をたっぷりと携えた顔を、なんとか慌てふためかせられないだろうか。ムと膨らみそうな頬に力を入れつつ、なにくそと布地二つを手に取った。肌触りの良いスリップと、それから、一際布面積が小さいTバック。
 ドラケンも、気付いたらしい。切れ長の目が、ぱちりと瞬いた。
「エ」
「シャワー、浴びてくる」
 だから、待ってて。間違っても、一緒に入るって言うんじゃないぞ。立ち上がりながらキッと睨めば、ドラケンの澄まし気味の顔の上で、唇がむにゃりと波打った。肉厚な両の唇の合間からは、ほぅっと濡れたような吐息が零れる。
「うん、たのしみにしてる」
 満足げに頷いたのを見届けて、ぴゃっと脱衣所へ飛び込んだ。手元にあるのは、スリップとTバックの二点のみ。何か羽織りたい気もしたけれど、折角だ、この二枚だけあの男の前に行こう。
 腹を括って身を清め、気になるところにベビーパウダーまで叩いたところで、寛いでいるそいつに跨ると、一言「絶景」と返された。
 その夜、たいそう盛り上がったのは、言うまでもない。

 味を占めたそいつが、隔週でランジェリーを贈ってくるようになるのは、また別の話である。