だって
挿入無し
たまたまその日は、細身のシャツを着ていた。体の線が、まあまあわかるやつ。とはいえ、トレーニング用のぴったりと体にくっつく素材ではない。どこにでもある、ただの綿のシャツである。ただ、オーバーサイズを好んで選びがちな自分にしては、物珍しいシルエットに見えたのかもしれない。
「よ、っと」
頭を抜いて、生地を伸ばすようにしながら脱ぎ捨てる。剥き出しの皮膚に、夜半のひんやりとした空気が触れた。真冬だったら、たちまち鳥肌が立っていたことだろう。逆に夏の盛りだったなら、汗でべたついて、脱ぐのすら一苦労だったに違いない。その点、春のほのかな暖かさは心地がいい。さすがに、このまま布団をかぶらずに眠りこけたら風邪を引くが、そこそこ体が温まることをするのだから問題はない。
腕に残っていた布の塊を、ぽいと床に落とした。
「三ツ谷」
「ッス、」
「……なぁに緊張してんの?」
視線を、シャツからベッドの上へと移動させる。中央から、少し枕に寄った位置。ぎくりと肩を怒らせたそいつは、几帳面に正座をしていた。灯りをつけたままだから、よくわかる。膝の上に置かれてある拳は、二つとも硬く握り込まれていた。手首には丸く骨の形が浮き出ていて、肘までの辺りには綺麗な筋肉がついている。二の腕は、喧嘩に明け暮れていた頃よりはほっそりとしたろうか。骨ばった肩があって、くっきり浮き出た鎖骨があって、平らな胸、薄く筋肉の凹凸を残した腹部と続く。その、どの部位も、汗ばんでいるように見えるのは、錯覚ではない。
こいつ自身は、ポーカーフェイスで隠しているつもりなのだろう。事実、顔だけ見たのなら、焦っている風には見えない。しかし、首から下は、あの通り。
可愛い奴だな、お前は。
「……だ、って」
「うん?」
ほうと息を吐きながらベッドに膝をついた。俺の体重を乗せた分だけ、ぎしり、軋む音が室内に響く。
たちまち、三ツ谷の体が健気に揺れた。あわせて、下唇をきゅっと噛む。甘さのある垂れた目は、こちらを食い入るように見つめてきた。喉仏に至っては、ゴクンと仰々しく上下する。
そんなに、俺の体見るの、楽しい? 面白いものなんて、ついていないと思うのだけれど。しいて言えば、かつて刺された傷跡くらい。……これを言ったら、三ツ谷はぐしゃりと顔を歪めそうだ。口走るのは、やめておこう。
もう一つ息を吐きながら、そいつのすぐ前に腰を下ろした。ふわりと鼻孔を掠めたのは、香水の匂いだろうか。汗ばんでいる分、その匂いはよくわかる。腕を引いて、肌を重ね合わせたら、もっと強く香るのだろう。キツイ香水の匂いは好きじゃないが、この匂いだったら大歓迎。
さ、いつ仕掛けようかな。とりあえず頬杖を突きながら、緊張を纏った三ツ谷を眺めた。
「ドラケン、やたら、えろい、から」
「……そお? まだ上脱いだだけだぜ」
「そうなんだけど、なんか、ウ」
えろい。ぽつりと付け足した三ツ谷の体が、ゆったりと横に傾いた。正座が崩れもすんとベッドに倒れ込む。顔は両手を使って覆われた。しかし、指の隙間からちゃっかり俺のことは見つめている。
俺がエロいんなら、三ツ谷はスケベだな。むっつりスケベ。そんなに見たいのなら、恥じらわずに見ればいいのに。どこに見せても恥ずかしくないカラダをしている自信、俺にはある。
「で、さあ」
「ぅえ?」
「そろそろ触っていい?」
「エッ」
「いいよな」
「あ、待ッ」
「もしかして、焦らされたい?」
「いッ、な、違うッ!」
「そお?」
「そ、ぉ、ウ」
ひたり、手首の片方を掴むと、あからさまに三ツ谷の体は強張った。指先からは、脈が伝ってくる。緊張と興奮で煽られたソレは、平生よりずっと早い。それに肌は熱を持っている。放ち始めた、と言った方が、正しいだろうか。指の隙間から見える顔も、なんだか赤みを帯びてきた。
三ツ谷が、誰でもない、俺の手で昂っている。そう考えると、勝手に口がにやけてしまった。
「~~ッやらしい顔してる!」
「するだろそりゃ。やらしいことするんだから」
「う」
「……やっぱり、したくない? 今日はやめとく?」
こてんと首を傾げて見せると、また三ツ谷はぴくんと体を震わした。滲み出る汗の量も、大分増えている。おかげで、鼻を啜らなくても三ツ谷の匂いが漂ってきた。
どうしても嫌だというのなら、今日するのはやめる。急いでするようなことではないし。何より、三ツ谷のことは大事にしたい。
それは、それとして、これほどまでに火照った身体を自分で慰めるのは、さぞ空しかろう。最後までするかはさておき、ちょっとした触り合いくらいはさせてほしい。その方が、三ツ谷は楽だし、俺も愉しい。
きゅ、ぎゅう、手首を握ったり緩めたりしながら、じっと紅潮した体を見下ろした。
「ァ」
「うん」
「その」
「どうする?」
「……す、るます、」
「ふ、なにその言い方」
「だって、だっ、て……、ウ、いや、ハイ。ドウゾ……」
「お」
覚束ない喋り方をしながら、三ツ谷はおっかなびっくり顔の上半分を覗かせる。それから、たっぷり時間を使って、顎までの残り半分も露わにした。折りたたまれた腕は、肩の高さで緩く握り込まれる。女の、あざとい仕草みたい。けれど、三ツ谷自身は、そんなポーズを取っている自覚、ないのだろう。なんせ、緊張しすぎて真顔だ。真顔なのに、肌の色は赤。真っ赤。
これから、この表情すらも崩れるのだと思うと、いっそう愉しくて仕方がない。
「じゃあ、遠慮なく」
一旦手首を離し、とんと、両肩を押さえた。半端に捩れていた体を、仰向けにさせる。その細やかな身じろぎですら、色気が匂い立った。なんだ、酔っ払ってしまいそう。酩酊して、欲に溺れてしまわぬよう、気を付けないと。
細い息を吐き出してから、そろり、胸元に手を伸ばした。
「ぁ」
平坦な胸の中央、心臓の上の辺りをくるりと撫でる。薄皮一枚、なんなら、産毛だけを撫でるような手つきをすると、三ツ谷の口がはくんと空気を食んだ。体全体も、ぴく、ぴくんと揺れる。くすぐったいのかもしれない。眉間に皺こそ作っているが、嫌悪はなさそうだ。あ、目、閉じた。見てられなくなった? 見ていたら、恥ずかしくなっちゃった?
見られていないのを良いこと、にんまりと笑みを深めた。
指先は、そろりとなだらかな平面に浮かぶ突起へ伸びていく。わずかに膨れた乳輪との縁を掠めつつ、小ぶりな粒を、挟んだ。
「ひゥッ!?」
途端、三ツ谷は目をカッ開く。ついでに胸もグッと逸らせた。キュッと抓まれた衝撃故のことだろう。しかし、張り出す格好になったのもあって、あたかも「もっと」と強請られている気になってしまう。
「なに、ぅわ、うわうわうわ!」
「三ツ谷って、ココもちっちぇのな」
「野郎の乳首なんてみんなちっちゃいに、ぃ、ッ、ウ」
小指の先程もない突起は、ぼんやりしていると押し潰してしまいそう。窪んだ先っぽにだって、ぐぢりと爪を立てたくなってくる。さすがにハジメテでソレは酷だ。苛烈に弄り回すのは、三ツ谷が慣れてからにしよう。不意ではなく、望んで胸を差し出してくるようになるまでは、丁寧にあやしてやらないと。
「っは、ァ、……ぅえ?」
「あれ、案外気持ち良い?」
「そんなこと、なイッ、」
ク、キュ、緩急をつけながら乳首を転がしていると、小さいながらに芯を持ち始める。触れていない方と比べたら、一回りくらいは膨れたろうか。ツンと腫れたソコは、指で擦り続けたせいもあって赤らんでいる。熟れた色味だ。舐めたら、甘そう。ああいや、汗ばんでいるから、しょっぱいのかな。
押し寄せてくる好奇心に抗うことなく、ア、口を開けた。
「へ、おいドラケンッ」
「あ、ム」
「ッ吸うなよ!?」
ぱくんと咥えると同時に、三ツ谷の手が額に迫って来た。ぐ、押し退けようと力を込められる。
「らんれ?」
「あ、喋ん、な、そこ、でェッ」
だが、素直に退いてやる気はない。負けじと、三ツ谷の胸部を横から挟むようにして掴んだ。力比べになれば、俺の方に分がある。がっちりと掴んで抵抗しつつ、わざと見せつけるようにベロを突起に押し当てた。
「ヒ」
あれ、気持ち、悪かったかな。
三ツ谷の口からは、引き攣った声が飛び出した。かといって、掴んでいる肌に鳥肌が立っている様子はない。むしろ、汗ばんでしっとりと手に吸い付いてきている。いきなり濡れた感覚がして、びっくりしたのだろうか。ゆったりと舐ってから、今度はちょんと舌先で突いた。
「っふぅ、」
頭上からは、何かを堪えるかのような吐息が漏れる。この三ツ谷は、悍ましさと気持ち良さ、どちらを我慢しているのだろう。両方とも感じていると思った方が良いか。
大丈夫、コレは気持ちが良いコトだよ。ちゃんと覚えてもらえるように、努めて優しく突起を食んだ。薄い力で吸い付きつつ、舌先でくりゅ、くにゅり、硬くなった粒をあやしていく。
「ん、ぁ、ア……、ン」
左側だけ弄るのも、可哀想かな。咥え込んだ方はそのまま、もう一方にも指を添えた。ついでにそちらを流し見ると、……ろくに触れていないのに粒がツンと存在を主張している。やっぱり、触ってほしい、みたい。先っぽに指の腹を添えると、三ツ谷の胸が膨らんだ。擦れる面が、ほんの少しずつ広がっていく。
ぢゅ、う。きつく、食んだ方に吸い付きつつ、もう一つを、ギチ、リ、押し潰した。
「~~ッあ♡」
「ん?」
その時、だ。
組み敷いている体が、一際大きく震えた。
「……三ツ谷?」
「ぁ」
リップ音を立てながら口を離すと、淫靡な艶のある乳首が顔を出す。本当は、これくらい膨れるものらしい。それを踏まえると、押し潰したのが気の毒になってくる。慰めるように、潰した方の乳輪をくるくると撫でると、そちらもぷっくりと粒の大きさを取り戻し始めた。濡れている・乾いているの違いはあれど、どちらも真っ赤に充血している。ちょっと、痛そう。でも、これくらいツンと立っている方が、自分としては、好み。
「ぅ、ンっ、ふ……、ぅ、っはぁ」
「ん?」
ふと、三ツ谷の手が、ぎゅうと握り込まれているのに気付いた。力んでいるからか、不規則に畳んでいる腕が震えている。いや、腕だけではない。胴の、もう少し下の辺りが、引っ切り無しに震えていた。三ツ谷の目の焦点は、定まっていない。明後日を向いている。薄く開いた口からは、荒い息が繰り返され、無表情にしては頬が緩みすぎていた。
これは、もしかして。
そっと、極力静かに身体を起こす。膝立ちになりながら、ず、ずず、ベッドの上を後ろ向きに進む。すぐに両膝は、三ツ谷の太腿の横に辿り着いた。顔を下げれば、ちょうど組み敷いた体の中央が視界に入る。シミはできていない。テントだって張っていない。それでも、妙な確信が、あった。
引き寄せられるように、腕が伸びる。
指先が、スエットの生地を掠める。
ぐ、じゅり。沈め込んだ手の平に、濡れた感触が届いた。
「なあ、三ツ谷あ」
「ぅ……?」
「いま、―― イッた?」
「ァ」
裏返った声がする。三ツ谷の顔の方を見やると、視線がパチンとぶつかった。ちょうど理性を取り戻したところらしい。蕩けていた表情筋が引き攣る。眉はこれでもかと寄せられ、中央には深い皺が刻まれた。それで目も吊り上がったなら、威圧感もあったろう。しかし、目尻はうっとりと垂れたまま。瞬きを忘れて見開いているのもあって、表面には分厚い涙の膜ができていた。加えて、頬も目元も、額も口元も、耳も首も胴体までも、真っ赤に色付いているときた。
イッた自覚、あるんだ。
しかも、乳首だけで達してしまったこと、恥ずかしくて仕方ないんだ。
つい、意地の悪い自分が顔を出す。
「へえ、乳首、そんなに気持ち良かったんだあ」
「~~ッだって!」
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべると、全身を火照らせた三ツ谷が叫んだ。勢いが良すぎて、唾が宙を飛んでいる。
おーおー、言い訳があるなら聞いてやるよ。なんであれ、三ツ谷が乳首だけで達してしまったのは事実にかわりはない。たっぷり時間をかけて開発する手間が省けた。まあ、開発する楽しさを奪われたということでもあるのだが。もっと気持ちよくなるようにしちゃうのはアリか。
「だって?」
「だ、って」
続きを煽るように、首を傾げて見せた。
「どらけん、が、」
「俺が、なぁに?」
「ッ」
最初の勢いはなんだったのか。そう思うくらいに、三ツ谷の声は小さくなっていく。だんまりされると、手の平を乗せているトコロをからかいたくなってしまう。乳首だけでイッたのだ、こっちを扱いたらさぞ乱れ狂うことだろう。その上で、後孔まで暴くとなったら。
暴いて、しまった、ら?
「えっちなこと、するから、」
今日、本当に最後までしていいんだろうか。今日、最後までしてまったら、快楽の過剰摂取で、こいつは腹上死するのでは。いや、俺に組み敷かれるんだから、腹下死?
下らないことを考えながら、深く息を吐きだす。
「とりあえず、」
「う」
「―― えっちなことのつづき、シよっか」
なんにせよ、三ツ谷とセックスしたいことに違いはない。遅かれ早かれ、いずれするのだ。なら、今日しようが、明日しようが、その先ですることになろうが、大差あるまい。
ぽいと三ツ谷の下肢から布地を引ん剥いて、最も多感なソコに手を伸ばした。