三度目の○×
女体化
夜の喧騒は嫌いじゃない。
そうなったのは、十中八九繁華街のど真ん中で育ったせい。夜は本来静かなものだけれど、自分としては多少騒がしい方が落ち着く。一般的な、いわゆる閑静な住宅街という土地に居を構えるようになってからも、その性分はなかなか変わらなかった。
だからだろうか。学生だとか、酔っ払いだとか、そういう連中が家の近くを通るとちょっとホッとする。
日課の筋トレをしていると、わあわあと何人かの男女が騒ぐ声が聞こえた。あの華やかな喋り方、大学生だろうか。徒歩圏内に大学もあるし、そこの学生かもしれない。そういえば、このアパートの一階にも、学生が住んでいるっけ。だんだん声が近付いてきているのを思うと、その一階の住人なのだろう。
ノルマの回数を終えたところで、ほうと息を吐いた。真夏のように、だらだらと汗をかくことはない。が、じんわりと汗ばんでいる。帰ってきて一番に仕事の汚れは落としたが、もう一回シャワー浴びて、そんで、寝よう。座ったまま一つ背伸びをして、よっと立ち上がった。
「……ん?」
そのタイミングで、カンッカンッと階段を上る音が聞こえてくる。件の話し声の連中だ。ということは、学生じゃない? キャラキャラという女の笑い声が、いっそう大きく響いた。
オレの部屋は角部屋だ。連中の行先はどこだろう。隣の山田さん家? もう一つ向こうの佐藤さん家? くるりと頭を働かせてみるが、声と足音は近付いてくる一方。
「エ、うち?」
ば、と玄関の方を見やると、ほとんど同時にチャイムが鳴った。
こんな時間に、一体誰だ。扉を挟んだ向こうからは、上機嫌な女の歪な歌い声がする。酷く酔っぱらっているらしい。一緒にいるのは、たぶん男が二人。音痴、だの、苦情言われるだろ、だの、それを諫める声がした。女だけだったら、店の連中かとも思ったが、この様子じゃあミカでもユウでもアンナでもない。第一、アイツらだったら何かしら連絡があるはず。それも、正道さんから。ちらりと目を向けたスマートホンに通知ランプはついていない。用心深くアプリも立ち上げるが、それらしいものは見当たらなかった。
「……誰だよ」
低く呻くと、二度目の呼び鈴を鳴らされる。さらには「ドラケーン」と間延びした声で呼び出された。
オレを「ドラケン」と呼ぶ女。ぱちぱちと瞬きをしているうちに、一人の昔馴染みが浮かんできた。この歳になっても、そう呼んでくれるのは、一人しか知らない。といっても、会うのは久しぶりだ。一年ぶりだろうか。いや、二年、ぶり?
どうしたんだろう。ごくりと唾を飲み込んで、玄関扉に手を掛けた。
「あっ、ドラケン!」
「っへ」
がちゃんと外に開くと、浮かべたばかりの女の、満面の笑みが飛び込んできた。ぽっと頬が色づいていて、ただでさえ垂れている目尻がとろんと下がる。
ウワ、可愛い。
―― 思うと同時に、その女は視界から消えた。
「どうしたンぅぐッ……!?」
畳み掛けるように、ドッと胴体に衝撃が走る。筋トレで負荷をかけたばかりの腹筋には、酷なタックルだった。たたらを踏んで、後ろに転ぶのは堪えたが、変に詰まった空気が咳のように吐き出てくる。
手の甲で口を押さえつつ、視線をそろりと下げた。ちょうど胸の高さに、旋毛が見える。淡い色の髪、伸ばした襟足から、ほっそりとした項が覗いていた。ほとんど飾りと化している袖からは細い腕が伸び、こちらの胴体に絡みついている。細いが、イコールか弱いというわけではない。ガッチリと、オレの体を捕まえている。おかげで、惜しげなくふっくらとした胸が押し付けられていた。
ドアを開けたら、三ツ谷に抱き着かれた。
なんで?
理解がついていかないまま、顔を上げた。
「なに、コレ」
「……すまん、三ツ谷が」
「ドラケンに会うって聞かなくてよお」
「んふふ、どらけんだあ、ふふ」
その先には、ゲンナリとした顔をしたぺー、それからパー。そのどちらも、酒を飲んだのか赤くなっていた。そういえば、オレにくっついている体も思った以上に熱い。三人で飲んでいたのだろう。
改めてオレにくっついている三ツ谷を見下ろした。上機嫌に頬ずりをしている。随分と気持ち良く飲ませてもらったんだな、一体どんな我儘を聞いて貰ったのやら。前髪の合間から見える額を、ぴんっと指で弾いた。
「ンぁ」
「つーか、オマエ彼氏いなかったっけ? いいの、オレなんかに抱き着いて」
「いないからいいのっ」
「いや、いただろ、なあ?」
「今朝フラれたんだとよ」
「今日はそのヤケ酒」
「ほんとお前ら仲良いな」
「付き合ってやらねえと面倒くせえんだよ、三ツ谷は!」
想像以上に酔いが回っている三ツ谷とじゃ話にならない。早々に見切りをつけて、ぐったりとした二人に視線を戻した。と、すぐにスンッと表情を削ぎ落して補足を放られる。フラれたヤケ酒ね。本当にフリーなわけだ。なら、誰に抱き着いても三ツ谷の不貞にはならない。
ぽすん、擦り寄ってくる頭に手を乗せた。
「なんでオレん家きたワケ? 飲み直せるほど酒ねえぞ」
「ええ、どらけん家びーるないの」
「酔っ払いにくれてやるビールはない」
「じゃあワンカップは? 鬼殺しは?」
「どっちもねえよ、この飲んだくれ」
どうにか頭を突っぱねようと手首を力ませるが、抗うように三ツ谷は腕に力を込める。細い分、嫌な具合に食い込んだ。確かに、面倒だな。ペーの言うことも尤もだ。なにより、びいびい喚く声が大きくなってきた。これ以上は近所迷惑。癪だが、一旦好きにさせるか。
一つ舌打ちしてから手の力を抜くと、くるくる忙しなく回っていた唇はきゅうと三日月を描いた。……だから、可愛いな、クソ。むにゅりと押し付けられる塊に意識を引かれつつ、このアパートの管理人を兼ねる二人を見やった。
「で?」
「あ?」
「マジでなんでオレん家来たんだよ。コイツの我儘くらい、テキトーにいなすだろ、いつも」
「……アー」
酒焼けでさらに嗄れたペーの声が気まずそうに漏れる。何か言おうと口を動かしはするが、どれも曖昧な音にしかならなかった。
なんなんだよ。ペーが駄目なら、パーはどうだ。ツと視線を走らせると、あからさまに顔を歪める。あのパーが言い淀むって、余程だろ。逆に気になるだろうが。
「ドラケン」
「お、おう」
そわ、としたところで、ついにパーが口を割った。隣にいるペーはハッとした顔をして、自らの雇用主を見やる。
「三ツ谷のこと、―― 抱いてやってくれねえか?」
「……ハ?」
こいつ、なに言ってんだ。なんなら、もう抱き着かれているけど。
理解が追い付かないまま、頭の中が疑問符でいっぱいになる。その間に、ぺーはわなわなと震えながらよろめいた。
「ぱ、パーちん、マジで言いやがった……!」
「あン? 言うしかねえだろ、こうなったら!」
「そうかもしれねえけど、オブラートに包むとかよおッ」
「オブラート……、ぷるぷるする言葉遣いって、なんだ?」
「そういう意味じゃねえんだよ、ドストレートに言うなってコト……、つーかほらほらほらァッ、ドラケン引いてンじゃねえかッ」
「いや、引くっつーか、え?」
オブラートでぷるぷるするって何?
更なる疑問が浮かんだものの、二人の話題はとっくにオブラートから遠ざかってしまう。ぎゃんぎゃんと言い合っているのは、たぶん三人で飲んでいるときの話なのだろう。しかし、初手で浴びせられたパーの台詞が脳みその中を駆け回り、二人の掛け合いがさっぱり入ってこない。
相変わらず理解が追い付かないまま、手持無沙汰に擦り寄ってくる頭を撫でた。と、抱き着く腕に、力が籠る。突っぱねたわけでもないのに、ギチギチと胴に食い込んできた。おい、コラ。好きにさせてもこうなんのかよ。あ、ぅわッ、ばか、痛い。苦しい、って、の。
「~~ッ三ツ谷、一旦、離れろ、痛ぇ」
「ぁ、ドラケンのにおいすごい、ン」
「だから離れろって、オイ嗅ぐなッ」
「たまんな、ァ……、スゥー……、んふふふ」
こんなことなら、撫でるんじゃなかった。後悔したところで、三ツ谷はオレの胸板にぎゅうと顔を押し付けてくる。さらに、そのままの位置で鼻息を荒げだした。
咄嗟に引っぺがそうと肩と腰を掴むも、そうはさせるかと言わんばかりに三ツ谷は両脚まで絡めてくる。生足まで使うのかよッ。柔い二本がスエット越しに纏わりついてきた。太腿を挟む格好で、もぞもぞと身じろぎをしだす。
……役得と、思ってしまうのは、男の性だ。あっけなく理性は屈し、引き剥がそうとする手から力が抜けた。両手共に、三ツ谷に添えているだけ。腰を揺らす肢体を、それとなく支えるのに徹することにした。
「ぁ、ンッ……、ぅ」
か細い喘ぎが聞こえる。腰の動きに合わせて、感じ入っているらしい。
何がしたいんだこいつは。ああ、えーと、オレに抱いてほしいんだっけ? 真っ赤な顔して腰ヘコヘコしやがって。本当にブチ犯してやろうか。
「じゃ、オレらはこれで……」
三ツ谷の痴女染みた挙動に気を取られていると、やけに離れたところからペーの声がした。ハッと顔を上げると、いつの間にか階段に近いところに移動している。あのパーも、足音を殺すようにして歩いていた。
「あ? おい、コイツも連れて帰れよ!」
「無茶言うなって、今ソイツ引っぺがしたら、ガン泣きするぞッ」
「大声で抱いてくれないって叫ぶぞソイツッ」
「そういう状態の女を易々と連れてくんなや! オイッ!!」
がなったところで二人が戻ってくることはない。
しいて、返って来たものと言えば、「ヨロシクッ」の無責任な一言だけ。泥酔した三ツ谷を置いて、スタコラサッサと連中は去っていった。去るなよ。コラ。大事な妹分―― いや、姉貴分、か?―― を置いていくんじゃねえ。古典的な立ち去り方をするのなら、紅一点も連れていけ。
「~~ッどうしろってんだよ」
「んん?」
苛立ちを露わに吐き捨てると、胸元から甘い声がする。
合わせて、意識に柔らかさが舞い戻ってきた。ば、と下を向けば、真っ赤に火照った顔と対面する。しこたま飲んだのか、はふはふ零れる息からは酒の匂いが香った。何もしなくても垂れている目は、いっそうとろんと緩み、いつもより潤んで見える。
こ、んな、の。手、出さねえほうが、ムリだろ。
「ね、―― えっちしよ」
吐息たっぷりに囁いた三ツ谷は、オレの脚を跨いだまま思わせぶりに腰を揺すった。布越しに、柔い肉が何度も押し付けられる。コイツ、こんなに肉付き良かったっけ。ざっと記憶を遡ってみるが、三ツ谷の薄着を見たのは中坊の頃が最後。水着姿も見たし、なんならハプニングで全裸も見た。あの頃は、乳もこんなになかった。いつの間にたわわに実ったんだろう。……本当に、大きい。Eとか、アンダーによってはFとかになるのでは。
「く、っそが……」
全部ひん剥いて、何もかも暴いてしまいたい。
盛大に舌を打ってから、柔らかくも熱を孕んだ身体を部屋に引きずり込んだ。
「ンッ!」
「む、」
「っ、ッンぅ、んんっ……」
扉が閉まるのも待てずに、がぶり、赤く色づいた唇を奪い取る。すぐに絡んできた舌からは、甘ったるい酒の味がした。珍しい、何よりもビールを好む女だというのに、お可愛らしいカクテルでも飲んだのだろうか? どうだろう、ヤケ酒と言っていたし、手当り次第に目につく酒を飲んだだけに思えてきた。メニューの端から端まで飲み切って、まんまとこうなったと言われたって、そうだろうなと納得してしまう。
口付けている間も、三ツ谷からはあらゆる酒の匂いが香ってきた。
「っは、ァ」
「……なあ、オマエどんだけ飲んだの?」
「んん? ふふ、ちょっとね」
「ちょっとじゃねえだろ。ヤる前に水飲め、水」
「水より酒がいい」
「だめに決まってんだろ」
「ええ? じゃあフェラさせてよ、ごっくんするから」
「もっとだめだろ……」
「なんで、みんな上手いって言ってくれるのに!」
「……みんなって?」
「んん? んんっと、ユーキ君とお、しょおとお、鈴木君、石上君、あっあとまさや!」
「歴代彼氏の紹介ドーモ」
聞くんじゃなかった。そう思うくらいに、三ツ谷の口から次々と男の名前がまろびでる。あまりの軽さに頭が痛くなってきた。
オマエ確か高校くらいまでは処女だったよな。経験してないのを理由にフラれただの、さっさと捨てたいだのぐずっていたはず。その愚痴に付き合っていては、いつかひょいとつまみ食いしそうで二人きりで会うのを避けるようになって……、へえ、その後の三、四年で少なくとも五人は男を知ったのか。ふうん、ああ、そお。
絶対にその五人よりオレの方がイイって思わせてやる。
苛立ちながらも腹に決めて、もう一度がぶりと小さな唇に噛み付いた。オレの胴に回っていた腕はいつの間にか背中へと上ってきている。細い指先で、さりっ、かりッ、震えながら引っ掻かれた。お互い素っ裸だったら、爪痕くらい残ったろうか。残されてえなあ、引っかき傷。確かな欲を覚えながら、こちらの腕も三ツ谷の背に回した。
「ん、ンッ……?」
着ているのは、Tシャツ一枚。おかけで、布越しでも簡単にホックを外せた。
チュッと音を立てながら口を放すと、蕩け顔に銀糸が垂れる。卑猥さを浮かべる口元を見下ろせば、必然的にブラのズレた胸元も視界に入った。たゆんとした塊は、大きいまま。そろりと手を這わせて、ブラだけを退けていく。すぐにシャツ越しにツンと乳首の尖りが浮かんだ。
「えろ」
「あっ、」
指先で、浮き出た片方を下から掬う。クニクニと指先に乗る感触を確かめてから、キュッと勃った粒を抓み上げた。女の乳首って、こんな簡単に勃起するモンだっけ。寒いくらいでもぷくっと尖るとこはあるから、まあこんなもんか?
指の腹を擦り合わせるようにして捏ねると、三ツ谷の口からは小刻みに喘ぎが漏れる。
「ふ、ふふ、ドラケンも好きなんだ」
「ンだよ」
「乳首。みんなキュッてする」
「……嫌いな男なんていねえだろ」
「いるかもしれないじゃンッ、ぁ、それ、かりかり……、すき」
膨れた突起の先を爪で擦る。それが気に入ったらしい。何度も甘く引っ掻いていると、濡れたため息を吐かれた。触れていない方もくっきりとその粒を勃たせている。
乳首は、さほどヨくない。オネエサマぶって絡んできた嬢たちに、しょっちゅう聞かされてきた。自身の経験を振り返っても、雰囲気で喘いでいる女がほとんど。……なのにどうも、三ツ谷は本当に感じ入っているように見えた。捏ねるたび健気に肩は震えるし、弄り回される自らの突起を見下ろしながら恍惚としている。
生来、感度が良いのか、これまでの男にそうなるよう開発されたのか。
後者だったら、癪だ。
「……オマエさあ、感度良いってよく言われるだろ」
「んっ、んン? どぉ、だろっ……、マグロって言われたことはあるよ」
「嘘吐けよ」
「ほんとに。付き合ってた人にはよくンッぁ、あっ、ア」
他の男の話をするなよ。自分から話を振っておいて、カッと苛立ちが込み上げてくる。衝動に任せて粒を引っ張ると、三ツ谷は打ち震えながら天井を仰ぎ見た。首を振る度に、ぱたぱたと伸びた襟足が揺れる。半開きの唇からは、舌の濡れた赤色が覗いた。
もう一回、キス、したい。甘ったるい声ごと食らい、感じ入る身体を玄関扉に押し付けた。
「ンッ、んん、ぅ……、ンン……」
舌を絡めとると、やはり酒の味がする。不快な甘さが口内に流れ込み、煩さが増してきた。
雑に扉に手を這わせ、鍵のツマミを捻る。ついでにほとんど叩くような手つきでチェーンも引っかけた。これで、うっかりドアノブに擦れても、扉が開くことはない。存分に、この体を貪れる。
ぢゅ、音を立てながら離れると、すっかり熟れた唇が見えた。
「どらけん」
「……ぁンだよ」
濡れた赤が、微かに動く。ぽてっとしたソコは、満足げに三日月を描いた。あわせて、垂れた瞳も細められる。酔っているからか、長いこと口付けたせいか、頬は赤く染まっていた。間違いなく、情欲を携えた顔をしている。……なのに、はにかんだように見えて仕方がない。
「もっと」
ほら、すっかり欲情している。指先は思わせぶりにシャツの裾を抓んだ。そろそろと持ち上げられるにつれて、薄い腹、窪んだ臍、下乳のなだらかな丸みと露わになる。もう一方の手は、きゅっとショートパンツのボタンを外していた。切り揃えられた爪先が、覗いた淡い色の下着ごとずり下げる。かろうじて腹と言える辺りを過ぎ、恥骨部が見え、ア、薄いけど、ちゃんと生えてる。
「きもち、よく、して」
裾は胸の上に乗る。下も下で、太腿の辺りまで引き下げられてしまった。
誰だよ、コイツのこと、マグロって言った奴。マグロになっちまうような、雑なセックス、してただけだろ、絶対。
ぶちぶちと理性の糸が切れる音を聞きながら、手を這わせた。片一方はこれまで触れてやらなかった方の柔肉へ、もう一方はわずかな茂みの奥にあるスジへ。どちらの指先も、汗ばんだ肌にじゅわりと沈んだ。
「ッア」
「すげーな、もうぬるぬる」
「ゆび、ぁ、入っちゃぅ」
上辺だけをツゥと撫でただけなのに、指先には滑った愛液が纏わりついた。膣孔の辺りなんて、物欲しげに吸い付いてくる。粘膜に媚びられて、悪い気はしない。首筋に甘噛みしつつ、中指をほんの少しだけ入れ込んだ。ゴツ、仰け反った三ツ谷の頭が、スチールの扉にぶつかる。鍵のかかった扉は、身じろぎする度に錆び付いた音を響かせた。情事の音も、外に聞こえていることだろう。隣にも聞かれてそうだ。とはいえ、移動する気にもなれない。苦情を言われたらその時だ。
曝け出された喉に吸い付きながら、クチクチと浅いところを責め立てた。
「ンッ、ぅ、アッそこ、そこきもち、ン」
「ここ?」
「ッ、ッッうんっ、そこ、ぁ、あっ……、アッ」
陰核の付け根に親指を添え、ソトとナカ、挟むように愛撫する。三ツ谷も大層気に入ったらしい。かく、かくんっと細い腰が揺れる。引っ切り無しに零れる淫液は、オレの手から溢れて、内腿をぐずぐずに濡らしていた。半端に下げただけの下着にもヤらしいシミができていることだろう。
「い、くッ、イク、んン……、アッ」
「もお?」
「ごめ、どらけ、のッ、指ッ……、きもちよく、て、ア、ヒ」
「ふぅん」
ちゅっと水音を立てながら顔を上げる。玄関のうすぼんやりとした灯りの下でも、鬱血痕がついたのがわかった。白い肌に乗るグロテスクな赤。それが自分の手でつけたと思うと、気分が良い。むちゅ、今度は耳のすぐ下に口付けた。鼻が髪にかかり、この女が好んでつける香水と、それから汗の匂いとが香った。体の内側の、ちょっとざらついたところを小刻みに撫でると、さらに悦が匂い立つ。
背中に回っている腕が、一際大きく引き攣った。右手を挟んでいる内腿も力んで、これでもかと強張る。
忙しなく水音を立てる媚肉を、ぐぢゅ、り、抉った。
「~~っぁあアッ」
びちゃりと手の平に水がかかる。仰け反ったせいで、再び後頭部が扉にぶつかっていた。歪な音が、外に響く。唇を当てているせいで、ぶつけた衝撃も伝わってきた。すげえ、音。なのに、三ツ谷が痛がる様子はない。キュッと指を締め付けたまま、絶頂に浸っていた。
「……っは、あ、ぁ」
どれほど張り詰めていただろう。ようやく呼吸を取り戻した体が、じわじわと重くなっていく。腰が抜けたらしい。ぬちゅっと指を引き抜いて、扉伝いに崩れる体を支え直した。股の間に足を潜り込ませると、スエット地に愛液が沁みていく。このぬかるみを暴いたら、さぞ気持ちがいいことだろう。ぞくりと背筋に興奮が走る。ほくそえんでから、中途半端な裸体を抱き寄せた。
「みつや、」
「ぁん、ふ、む……」
顔を寄せると、向こうからかぷりと唇を食まれる。甘噛みを享受していると、抗議するように唇の結び目を舐られた。折角のおねだりだ、応えてやらないと。口元を緩めながら、三ツ谷の舌を迎えに行った。熱い口内は、いくらか酒の味も薄れた気がする。互いの唾液を混ぜるみたいに、たっぷりと舌を絡め合わせてから、ぷちゅっと口付けを解いた。
「ン……、ぅ」
「ん?」
「……すぅ、」
淫靡な艶を放つ唇から、場違いな程穏やかな息が漏れた。上を向いていたはずの睫毛は、いつの間にか下瞼の上に影を作る。情欲に塗れた顔つきは、すっと凪いで、あどけなさを乗せていた。
体は、特に下肢はどろどろだ。胸の双丘のてっぺんだって、ぷっくりと腫れたまま。それでも、半開きの口からは―― 暢気な寝息が聞こえてくる。
「ね、やがっ、た……?」
ぺちぺちと抱いている肩や腰を叩いても、潜り込ませた脚を使って揺さぶっても、瞼が微かに震える程度。意識をすっかり手放して、くったりとオレにもたれかかってきた。
ここで、寝る奴、フツー、いる?
「~~ッふざけンなよ!?」
声を荒げたところで、三ツ谷の意識は戻ってはこなかった。
素っ裸に引ん剥いたそいつを抱き枕に就寝。翌朝やっと、酔いから醒めて慌てふためく女を言いくるめ、不埒な体を食らい尽くせた。