鏡の向こうの女
女体化
顔を上げると、見た事もない女がいた。
「へ、」
口から間抜けな声が飛び出す。すると、向こうにいるその女も、ぽかんと呆けた顔をしていた。だが、そうしてられるのも一瞬。飛び退きながら、女は自らの胸部と股間を隠した。……あろうことか、こちらか局部を隠したのと、まったく同じタイミングで。
ざあざあとシャワーは流れていく。水音と合わせて、湯気が立ち、女が映った鏡が曇っていった。
そう、鏡、だ。
「……は?」
目の前にあるのは、鏡。風呂場によくある鏡だ。前に住んでいたアパートや、実家の借家の鏡はもっと小さかったけれど、今住んでいるところは姿見と言うにふさわしいだけの大きさをしている。おかげで、曇ってさえいなければ、全身が映り込む。だから、いつだってそこには、自分の貧相になってきた体が映っていた。
少なくとも、昨日、までは。
「……」
白く濁ってしまった鏡には、ぼんやりと何かが映っている。けれど、それが先ほどの女という確証はない。……と、いうか、これはただの鏡だ。何の変哲もない鏡なのだ。自分以外のナニかが映るなんて、あるわけがない。あったとしたら、とんだホラー。
ごくり、シャワーの立ち込める浴室で、唾を飲んだ。念のため、放っていたタオルを引き寄せて、腰に巻き付ける。バスタオルではないから心許ないが、まあ、ないよりは、マシ。
そっと、シャワーヘッドを掴んだ。曇った先の影も、似たように動く。そりゃそうだ、これは、鏡、なんだから。
あんなの錯覚に決まってる。そう言い聞かせて、目に焼き付いた裸の女体を頭から追い払った。しかし、すぐに瞼の裏に戻ってきてしまう。長い睫毛に、垂れた目尻、目元には浅黒い隈が出来ていて、毛先は首筋に貼り付いていた。……ん? 過った姿を、もう一度浮かべ直す。体付きは、女、と思った。けれど、顔つきは、割と今の自分に似ていたのでは? 平均よりは長いと言われる睫毛に、眠そうとよく言われる垂れた目、慌ただしさにかまけて睡眠時間を削っていたし、髪も伸びたまま放っておいている。え、オレ、か、アレ?
なるほど、疲れすぎて、自分の姿が女に見えたのか。慣れないパソコンを触り続けたのもあって、未だかつてない眼精疲労に苛まれているのも事実。そういうことか。なんだ。あー、良かった。
ほお、と安堵のため息を吐きながら、ザッと鏡にお湯を掛けた。
「……~~うそだろッ」
ところが、クリアになった鏡には、貧相な体をバスタオルで包んだ女が、確かに映っている。
わなわなと口を動かしているのは、こっちも向こうも同じ。なんなら、その手には、オレと同じようにシャワーヘッドが掴まれていた。どうやら、向こうも鏡に湯を掛けたところらしい。
どういうことだ。これはどこにでもある普通の鏡だろう。昨日まで、なんなら朝方風呂を洗った時までは、普通の姿見だったろうが。なのに、どうして、ホラー染みたものになっている?
「ええ……」
声を漏らすと、女もまた、すっかり同じ形に口を動かす。恐る恐る鏡に手を伸ばすと、鏡像と思しきそいつも手を伸ばした。……あれ、鏡だな。映っているのが女、というだけで、他は鏡らしい景色を映している。首を傾げれば、同じ角度で女も首を傾け、ピアスホールを抓むとやはりそいつも耳たぶを抓んで見せた。
女の体を、じろじろ見るものではない。そういう理解はあるが、今回ばかりは従えなかった。足の先から頭のてっぺんまで、確かめるように見つめてしまう。
女だ。それは、間違いない。バスタオルで隠されてはいるものの、細やかに胸部は膨れているし、腰の辺りは一応くびれている。タオルから伸びる脚は白い。おそらく、細い部類に入るのだと思うが、近頃自分が会う女性はモデル体型ばかりなのもあって、細いと断言するのは憚られた。でも、少なくとも、好きな男は多いんじゃないかな。こういう、緩やかな曲線を感じさせる体型。
「……」
そして、意を決して、顔を見る。鏡像の女と、目が合った。ふ、と吐いた息に合わせて、唇が震える。毛先から、ぴちょんと雫が落ちた。瞬きするタイミングも、この様子じゃあ、一緒なんだろう。
ありえない。こんなこと、おきるはずがない。
そう思えども、鏡には色気のない女―― もとい、推定・自分が女になった姿が、鮮明に映り込んでいた。
「おーい、三ツ谷ぁ?」
「ッ!?」
唖然とするのも束の間、ほど近いところから同居人の声がした。びくんと激しく肩を上下させてから振り返れば、曇りガラスの向こうに人影が映っている。慌ただしく鏡を見やると、そっちでも話しかけられたところらしい。女の表情は、混乱に染まっていた。
この鏡を見られたら、どうしよう。
……いや、別に見られたところで焦る必要はない。オレ、悪いコトしてないし。いつの間にか、違う性別になった自分が映っていただけ。だけ、と言ってしまうにしては強烈だな。それでも、自分がやらかしたわけではないのだ。ちょっとホラーな状況になっている〝だけ〟で。
しかし、胸はざわざわと騒ぐまま。心臓がこれでもかと脈打って、異様に顔が熱くなってきた。
だって、もし、もしだ。あいつがこの女を見て「かわいいじゃん」とか言ったらどうする。「エロいな、なにこれ」でも困る。男の体より女の体の方が良いって言われたら、凹むぞ、オレは! たとえ一時の気の迷いだとしても、引きずる。そうなる自信すら沸いてきた。
あ、あ、と正面と背後を交互に見ているうちに、曇りガラスの向こうにいるそいつは痺れを切らしたらしい。うらりと、腕と思しき部分が動いた。イッ、ウッ、扉が開いてしまう。
「なあ、起きてる? 立ちながら寝てねえだろうな」
「ッエ、おき、起きてる! 大丈夫だから!?」
「ほんとかよ、ずっとシャワー流してン……、なにしてんの」
「い、や、べつに」
がらりと、曇りガラスが開くと同時に、自分の背中を鏡に押し当てた。勢いがついたせいでビチャッと派手な音がする。ついでに、思い切り肌を叩きつけたからかじんわりと痛みが広がった。こそ、と視線を後ろに送ると、ゼロかと思いたくなるような距離に女の顔がある。ああ、そっちも同じ行動を取ったのか。性別さえ抜きにすれば、ただの鏡なのになあ。
「別にって態度じゃねえだろ。あとなんでタオル巻いてんの」
「なん、……なんで、だろうね」
「オレが聞いてんだけど」
「ウン」
ろくに状況を説明しないオレに、ドラケンは胡乱な顔をする。そりゃあそうだ。立場が逆だったなら、オレだってそういう表情を浮かべたことだろう。
変に緊張しているせいか、口の中に唾が溜まる。苦しさを覚えて飲み下すと、喉仏があからさまに上下する感触がした。おかげで、いっそうドラケンは訝しさを深くする。何を隠している。両目には、そう書いてあった。
隠す、必要はない。かといって、コレを見た感想も聞きたくない。頼むから、この場での説明は勘弁してもらえないだろうか。少し経てば、きっと冷静になって、「ありえない話なんだけどさ」と切り出せるはずだから。
何かを口にするでもなく、じ、とドラケンを睨んだ。すると、睨んだ先の目がきゅうと細められる。それからすぐに、値踏みするような視線が降ってきた。頭のてっぺんから、足の先まで。そんな丸腰でオレに喧嘩を売るたあ、良い度胸してるじゃねえか。副音声で、物騒な台詞も聞こえてくる。しかし、引くわけにも、いかない。きゅ、と軽く下唇を噛んで、視線を受け止めた。
ざあざあと、シャワーの音は続く。中途半端な高さになっているせいで、さらさらとお湯が腹から下に流れていった。どうにか巻きつけたタオルは、ぴったりと体に貼り付いてしまう。股関節の溝だとか、太ももの間だとか、萎えているナニだとか。……ドラケンの目にも、留まったのだろう。上下に移動していた目が、一点から動かなくなる。すごい、見る、じゃん。ガン見すんなよ、おい。視姦するの、やめろ。
「っ」
じわり、顔にばかり集まっていた熱が、下半身にも移る。同時にもどかしさも込み上げてきて、つい、太ももを擦り合わせてしまった。
「ああ、」
ぽつり、ドラケンが呟いた。その瞬間、向けられていた苛烈さが失せる。伏せ気味だった瞼が持ち上がると、あれほど色濃く現れていた胡乱もいなくなっていた。
代わりに、違う色が灯っている。口元には、にんまりと三日月が浮かんだ。
「抜いてた?」
「へ」
今度はこっちの口から間抜けな声が漏れる。エの形に開いた唇から、シャワーの湯で濡れた空気が入り込む。ずっと吸っているはずなのに、やけに、口当たりが悪い。
ぬいてた。抜いてた。抜いて、た? 言われた音を繰り返し脳内で響かせた。度重なる混乱のせいか、理解するのに時間がかかってしまう。
ひくん。脳みそが処理を終えると同時に、頬が引き攣った。
「ちが、違うッ、ちがうってば!」
「全力で否定すんじゃん、図星か?」
「ほんとにちがうの!」
「ふ~ん」
「おい、なんで入ってくんだよ、濡れるって!」
こちらの喚きなど物ともせず、ドラケンは浴室に入ってくる。足、濡れる。真っ先に過ったものの、濡れたタイルを歩く足は、裸足だった。あ、良かった。いや、良くない。何も良くはない。咄嗟に肩が怒り、ぱしゃっとシャワーがそいつの膝下を濡らした。
ほら、濡れるって、言った。
「あ」
言ったじゃん。
そう言葉にする前に、わずかに屈んだドラケンはシャワーの栓を閉めた。おかげで換気扇の音だけが、耳につく。溜まった湯気を押し出そうと、ごうごうとファンは回っていた。
目の間に立つ男は意地の悪い笑みを浮かべている。はくん、息を呑むと同時に、掴んでいたシャワーヘッドは奪われた。流れるようにその手はフックに向かう。オレの頭ほどの高さにあるソレに収まると、ぴっちょんと水滴を垂らしたのを最後に、水音はいなくなってしまった。
「ほら、これで濡れない」
「……いや、それでもさ、ァっ、んンッ」
「お、一回はイッた? やわいね」
「ぃう、や、」
困惑した体は、伸びてくる手から逃げそびれる。ぐっしょりと濡れたタオルごと、大きな手の平はナニを掴んだ。きゅぅう、と圧をかけられると、そこから水が滴り落ちる。太腿を伝うソレは、早くも冷め始めていた。想定していなかった感触に、背筋が震える。冷たい、でも、握られているところは、熱い。どうしよう、あつい。ぐしゅぐしゅと緩急をつけて揉まれると、堪え性の無い自身はすぐに反応し始めた。狭い浴室に、か細い喘ぎが鳴り響く。
ちがう、オナニーなんかしてない。だから、そんな「一人で楽しんでんじゃねえ」と言わんばかりの手付きを止めてくれ。こちとら、後ろの準備も終わってるんだよ。その状態で、自慰に耽るわけないだろ。このあと散々暴いてもらえるってのに、無駄打ちできるか。そんなことをしようものなら、泣きを見るのが明らかだってのに。……こんなこと皆まで言ったら、明日の我が身の保証はできない。燥がれて、何も出なくなるまで絞られる。や、突っ込まれるのはオレだから、絞るのはこっちなんだけど。
ぐるぐると脳内で言い訳を連ねているうちに、局部の熱は増していく。竿の形に合わせてタオルごと擦られると、じれったい悦が身体に走った。太腿は戦慄き、下腹は善がるように跳ねてしまう。
文字通り眼前にある顔が、笑みを深くする。
と、同時に、パッと手が離れていった。膨れた自身が、タオルの下に取り残される。濡れた布地が、先っぽに食い込んだ。呼吸するだけでじゅわりと擦れ、理性が追い詰められていく。
「ぁ、え……?」
「はは、かぁわいい……、後ろ向ける?」
「うそ、ぁ、え、なに」
「鏡に手ついて、……そう」
「ッ」
大きな手の平が、改めてこちらの体を這った。体は、つい、その手の動きに従ってしまう。ぐるんと向きを変えれば、べちゃりと腰に引っかかっていたタオルが落ちた。
求められるままに手をつくと、―― すっかり欲情した女の顔が、飛び込んできた。
「ヒ、」
喉を引き攣らせると、そいつもすっかり同じ顔をする。けれど、瞳は熱に浮かされている。露わになった胸の先には、まぁるく膨れた突起がついていた。そのうちに、鏡に見慣れた指先が映り込む。切り揃えられた爪に、無骨な印象のある関節。この距離だとわかりにくいが、指の腹の皮膚はちょっと荒れているんだ。それをこいつはよくわかっていて、わざと擦るように抓むのだ。
思い出した途端、鏡に映り込んだ指が、キュ、乳首を摘まみ上げた。
「ぁッ」
まったく同じタイミングで、痺れが走る。こり、コリ、と男にしては大きくなってしまった突起を扱かれた。浴びせられた快感に背を反らすと、女も仰け反っている。……おかげで、緩く開いた、股が見えた。女の陰部は、自分同様すっかり処理されていて、ふくりとした割れ目の先から、真っ赤な突起が飛び出している。ああ、そこにも、手が伸びている。ざらりとした感触の指先が、近付いてきている。
「~~ンッ」
向こうの陰核が扱かれると、自身の切っ先からはびゅっと精が漏れた。にもかかわらず、ドラケンの指先はオレを責め立ててくる。くちくちと、剥き出しになった亀頭を、弄られる。その度に、ぴゅ、ぴゅっ、と堪え性のないペニスは涎を垂らした。
甘く達してしまったのは、鏡を挟んだ向こう側も一緒。開けっぱなしになった口から舌をはみ出させながら、びくびくと体を痙攣させていた。
こんな痴態、見たくない。なのに、目が離せない。達する度に、乳首やクリが勃っていき、指先は愉しそうにそれらを苛めていた。……と、いうことは、こちらの弱いところも弄られている。あ、あ、だめ、また出ちゃう。イッちゃう。小刻みに身体を震えていた体は、快楽に身を預けるようにして仰け反った。
「ぁ、ぁー……、ぅ……?」
そのうちに、今度は尻に違和感がやってくる。胸をまさぐっていた手も、腰へと移動していた。涙でぼやけた焦点を鏡に戻すと、骨ばった指が、女の割れ目をなぞっている。擽っている、とも言うのかもしれない。もどかしそうに、そいつの腰が揺れた。いつの間にか、脚は大きく開き、はみ出た陰唇が強請るように指に吸い付いていた。
入る。入っちゃう。きゅん、と、後孔が疼いた。
「ん? もしかして、こっちの準備してた?」
「ひ、ぁゆび、ゆびはいって、りゅ」
「え、聞こえてねえの、もう?」
応えるように、ナカに指が埋まる。一本、二本、と後ろは飲み込み、あっという間に三本目も咥えてしまった。
もし、鏡を見ていなかったら、何本ナカに入っているかなんてわからなかったろう。ここまで甘イキさせられてしまうと、いつも自分は「気持ち良い」以外がわからなくなる。けれど今は―― 女体とはいえ―― 鏡に映った自分を見ていた。人差し指、中指、薬指と、次々に男の指を飲み込む女性器を、見てしまった。
「んっ、ぁ、ヴ」
最初こそ緩やかに動いていたものの、あっという間に手の動きは激しさを伴う。じゅぷじゅぷと白く濁った愛液を纏いながら、ナカが掻き回されていた。そのうちに、手は一点を狙うような動きに変わる。
「ッンぁあっ……!」
「なぁんか上の空じゃね? そんなに鏡の自分見るの楽し?」
「ぁ、ちがう、の、ずぽずぽされ、るの、すごぃ、って、おもっれらら、ぁっ、ぁああ」
「はは、舌回ってないじゃん」
かわいい。そう囁かれながら、背後の男は前立腺をこねくり回す。鏡に映る自分らしき女がGスポットを責められれば、自身には前立腺による快感が襲ってくる。当然、クリトリスへの刺激はペニスへのそれ。じゃあ、女の方のアナル弄られたら、どうなるんだろう。二輪挿し状態? まさか。頭の中の、変に冷静な部分が淫らな景色を考察する。したところで、得られるものもないのに。
「ぁ、ああぁ、アッやだ、きちゃう、クるぅ、」
弱いところへの刺激は、無慈悲に続く。少しでも指の動きを遅くしたくて、後孔の縁で食むように指を絞めつけた。けれど、その程度で止まってくれるはずもない。絞めつけた分だけ、指の形をまざまざと味わってしまい、脳みそが焼き切れそうになってくる。
まずい。やばい。指だけで、イカされてしまう。今日は、久々に嵌めてもらえるはずだったのに。ちゃんとベッドで、セックスできると思ってたのに。どうして風呂場であんあん喘ぐ羽目になっているんだ。
それも、これも、目の前の女のせい。あるいは、こんなものを映しやがった鏡の、せい。目が裏返りそうになるのを必死に堪えて、正面を睨みつけた。
睨みつけようと、した。
「っは、」
なのに、睨むのも忘れて、魅入ってしまう。
自分の向こう側、鏡に映った、愛おしい男の、欲情した顔に。
「~~ッ♡」
がくんと体が揺れる。あわせて、腰も震えた。ぴんと勃った先っぽから、勢いよく潮が噴き出る。ブシャッと出てきたそれで鏡が濡れた。自分が噴いたということは、向こうも、そう。まったく同じ一点で、透明な液体はぶつかった。それが収まれば、蕩け切った顔が映る。太腿は、明らかに湯水とは異なる液体で濡れていた。こっちで言うところの、カウパーと精液? なんだっていいや、もうつかれた。
体の強張りが解けると、真っ先に膝が崩れる。ど、っと後ろに寄り掛かると、臀部に硬いものが当たった。
「ぁ、」
「ふー……」
咄嗟に鏡を見上げれば、女の向こうに、ちゃんとドラケンの顔が見えた。そういえば、オレは女なのに、ドラケンはドラケンのままなんだ。どういうことなんだろう。本当にオレの目だけがイカれてしまったのだろうか。
ぼーっとしながら男の顔を見つめる。耳からは、荒くなった呼吸が聞こえてきた。欲情、した顔。雄の、顔。オレのことを、ばっくりと食わんとする、凶暴な顔。
かっこ、いい、なあ。
つい、うっとりと、魅入ってしまう。
「―― みつや」
「ぁ」
しかし、その蠱惑的な顔は、背後から伸びた手によって隠されてしまった。咄嗟に振り返ると、つん、と唇が尖っている。あ、と思う否や、啄むようなキスをされた。
「鏡のオレばっか見んの、やめて」
「ぇ」
「や、後ろからやったオレが悪いんだけどさ、」
鏡と同じ色をしていた顔が、ム、と拗ねる。ずっと格好良かったけれど、この顔は、可愛い。結局、恍惚とした目線を送ってしまう。弄られた後ろが、ひくんと震えた。
「ベッド、」
「ぅ」
「行こ」
反射的に頷くと、弛緩した身体は抱き上げられた。