本番まで一万字
後ろ手で扉をしめると、とん、と三ツ谷が抱き着いてきた。まだ、鍵は閉めていない。珍しい、こんな不用心な真似、するタイプじゃあないのに。……いや、こいつは不意打ちでよく頭を殴られる奴だ。こっちが勝手に思い込んでいるだけで、それなりに隙はあるのかもしれない。
扉を閉めた手でロックを掛けながら、もう一方の手を自分よりも低いところにある頭に添えた。一時よりも、随分と伸びた髪。指を通しながらこめかみへ滑らせる。と、ちらりと三ツ谷がこちらを見上げた。長い前髪の向こうで、これまた長い睫毛が上を向く。とはいえ、それもほんの一秒足らず。すぐにぱたんと瞼を閉じられた。
紛うことなき、キス待ち顔。男を誘ったことなどないと言っていたけれど、疑いたくなってくる。本当かよ。それとも、これまで付き合った女相手にこういうことをしてたって? あざといにも程がある。
「んっ」
あれこれと不満を並べつつも、かすかに尖った唇を啄まずにはいられなかった。
必要になる物は手に提げているレジ袋に入っている。近所のドラッグストアに寄ったのだ。真っ直ぐに避妊具のコーナーに向かったせいで、複雑そうな顔をされたが。
『するんだよな』
『まあ、そう』
『必要だろ』
『わかってるよ』
『……メーカーのコダワリある?』
『……いちばんうすいのがいい』
その顔で、それ言うのかよ。顔色は素面、しかし、耳は真っ赤に染めて、言う台詞が、ソレ。茶化さなかったことを褒めてほしい。予想外な顔を目の当たりにしたせいで、あのあと、どうやって〇・〇一ミリと潤滑剤をレジまで持っていったか、既に記憶が怪しい。
二度、三度、と角度を変えてキスを落としながら、腰を引き寄せる。抵抗はない。なんなら背中に腕を回してくれた。触れている部分がどこもかしこも熱いったら。衣服越しでこの熱さ、直接触ったら熱すぎて溶けるのでは。
徐々に口付けは深くなる。密着度も増していく。擦れる下肢は、自分も、こいつも、反応しだしていた。早く、ベッドに行かないと。それとも、玄関でヤッちまうか? ……だめ、だろ。こいつの声を、通りがかりの誰それに聞かせたくはない。思いはするが、なかなか掻き抱く手を緩められなかった。
「ッま、って、待って」
「抱き着いてきたの、オマエだろ」
「う、それは、ごめん。ドラケンに抱いてもらえると思ったら、こう……、感慨深くなっちゃって」
「……そーかよ」
「……ベッド、行こ。連れてってよ」
ん、と頷いてから、靴を脱ぎ捨てた。お互い、揃える余裕はない。三ツ谷の手首を引っ掴んで、どすどすと部屋に入っていく。よくあるワンルーム、さほど広くはないが、物が少ないおかげで狭くもない。台所のスペースを抜けてしまえば、もうベッドはすぐそこ。
そっと後ろを窺うと、明らかに三ツ谷の目元は色づいていた。体から期待が立ち上っているようにも見える。「抱いてもらえる」ね。その言い方をするなら、こっちだって「抱かせてもらえる」になってしまう。こいつの一歩引いた態度、どうしたら改めてもらえるのやら。
ひとまず、ベッドに三ツ谷を座らせた。すぐに、つい、と顔を上げる。こちらを見上げてくる。オレが、立ったままだからだろう。
「どらけん、」
「ん」
「いまさら、やっぱ抱けない、ってのはヤメてくれよ」
「ねーよ、安心しろ」
「なら」
はやく。
じ、と熱の籠った視線を向けられる。蛍光灯の灯りを浴びた首筋が、先ほどまで貪っていたせいで腫れぼったくなった唇が、酷く美味そうに見えてきた。落ち着け、落ち着け。細く息を吐き出して、カッと出そうになる手を押しとどめる。
静かに、膝をベッドに乗せた。ふ、と、三ツ谷の口から短く息が漏れる。依然として、その目には、熱っぽい期待が浮かんだまま。
肩に、手をかけた。
「ぁ、」
軽く押しただけで、三ツ谷の体はベッドに沈む。それだけ見ると、素直。だが、顔には緊張も漂い始めている。男とやったことなんてない。やっと、その言葉を信じられそうだ。
「……やばい」
「あんだよ、やめろってのはナシだぞ」
「そうじゃなく、ここ、ドラケンの匂いする」
「そりゃオレの布団だからな」
「ハイになりそう」
「なんでだよ」
「好きな奴の匂い嗅ぎ続けたらそうもなるって」
「……煽んなよ」
「オレなんかに煽られてくれんの?」
だから、そうやって一歩引いた物言いをするんじゃねえ。さも当然のことのように自分を卑下する心境がわからない。
こっちだって、したいと思ってるのに、響かないなんて。短期集中で口説き伏せるべきか、長期戦覚悟で馴染ませるべきか。両方すればいいのか、三ツ谷が認識を改めるまで、手を緩めない。攻め続ける。
覚悟しろ。
腹の中で言い放ってから、シャツの裾を捲った。腹、みぞおち、胸、と辿るように肌を撫でる。灯りに晒される肌は、首筋に負けず劣らず白い。日に当たっていない部分なのだから、当然だ。けれど、特別に見えてしまう。まるで、汚れを知らないみたいだ。成人して、もう良い歳をしているのだから、そんなわけ、ないのに。
片手じゃ物足りなくなってきて、両手で掴むように胴に触れた。滑らかな、肌。と、浮いた肋骨。仰向けだから、余計に浮いて見えるのはあるだろう。……それでも、自分の体躯と比べると、細い。
「ちゃんと飯食ってんの」
「うーわ、ソレ言うと思った」
「自覚あるんだな、痩せてるって」
「人並みには食ってるよ。ただ、肉になりにくいだけ」
筋肉も、脂肪も、ろくにつきやしない。そう言った三ツ谷の口調は、やけに軽やかだった。
改めて、指先で浮いた肋骨をなぞる。凹んだみぞおちを撫でる。くすぐったい、と、三ツ谷はくすくすと笑いながら身を捩った。極端に不健康というわけではない。これくらいの痩せ型の男、世の中を見渡せばいくらでもいる。だが、どうしても不安が過る。
「折りそう」
「やめろよ」
「気を付ける」
「ドラケンが言うと洒落になんねえからな、ソレ。マジで折られそう」
「折らねえよ、……折らねえように、する」
細心の注意を払わなくたって、おそらく、折れない。とはいえ、無我夢中になってしまったときの保証まではできない。いっそ折ってしまって、責任を取ると迫ってしまおうか。……無いな、それは無い。怪我、させたくはない。痛い思いだって、そう。
平たい胸に手のひらを置いた。すぐ下から、とくとくと心臓の急く音が伝わってくる。
「触診されてる気分になってきた」
「奇遇だな、オレもだ」
「……こんな体じゃ、欲情できない?」
相変わらず、三ツ谷は軽やかに言う。胸に触れたまま目を合わせると、その口元にはニと三日月が浮かんでいた。
できないなら、できないで構わない。イマサラ云々言いはしたが、駄目なら駄目と早く言ってくれ。そうしたら、すぐに諦めるから。欲を浮かべながらも、顔には健気なコトが書いてある。
こうやって、言葉遊びをしている場合じゃない。態度で、体でもって、思い知ってもらわなければ。
「いや、勃つ」
「ムリしなくったって……、わ、ワッ!?」
一言で断言してから、上体に這わせていた手を下へと滑らせた。ベルトを寛げ、ウエストに指を引っかける。一枚一枚剥がしていくか、それとも一遍に剥ぎ取ってしまうか。焦らしたい気もするが、逆にこっちの理性がすり減ってしまいそう。一思いに脱がしてしまえ。
腰を浮かすようにして、臀部に手を差し込んだ。小ぶりながらに、ささやかな柔らかさが手に伝う。揉み、しだきたい。襲ってくる衝動を一旦殴り飛ばして、ずるり、下着ごと引き下げた。
露わになった下腹、それと太腿。どちらも白いし、平ら。肉欲を煽る曲線はない。にもかかわらず、ゾクリと背筋に高揚が走る。
「白ぇなあ」
「普通だよ、つーかドラケンだって足の付け根は似たようなもんじゃねえの?」
「自分の体まじまじと見ることねえし」
「白いと思うよ。普通。一般的。オレが特別なんじゃない」
中途半端に引っかけたままにはせず、足首から服を抜き取った。剥き出しの下肢、シャツは胸が見えるところまで捲りあげている。下を脱がすときに引っかかったのか、靴下は片方だけ脱げていた。暴かれる寸前の裸体が、目に焼き付く。
これで、普通の、白さ。
三ツ谷が特別なんじゃない。
「ふつう」
「そ」
「ふつうね……」
自分に言い聞かせているうちに、手は足を撫でていた。きゅ、と締まった足首と、比較的柔いふくらはぎ。手の平は、薄皮一枚を撫でるように上っていく。ようやく肉らしい感触のする太腿へ。それでも、本当に柔らかいなと思うのは内側だけ。感触を確かめるように、五指をそこに沈ませる。
「なん、か、触り方、えろい、」
「えろくもなるだろ、そういうことすんだから」
「そうだけど、ぅ、あ、ア」
やんわりと揉みながら、もう一方の脚を肩に担ぐ。必然的に、三ツ谷の股が大胆に開いた。芯を持った陰茎もよく見える。白い肌の中央に、熟れた赤色。無遠慮に指の腹で撫でれば、喉を引き攣らせた声が漏れる。同じ野郎のちんこを触る日が来ようとは。明後日なことも浮かばないことはないが、三ツ谷のと思うとなんの嫌悪感も抵抗感もない。むしろ、もっと触りたいくらい。
かりかりと切っ先を引っ掻くと、涎を垂らしながら張り詰めていく。半勃ち程度だったのに、すっかり硬く反り返った。呼吸に合わせて、ひくん、ひくんと震えている。袋もいくらかせり上がっているだろうか。……涼し気な顔をした男が、自分の下でこんなにも簡単に乱れてくれるなんて。沸々と、こっちの腹の底で熱が蜷局を巻き始める。
「っは、ぁ、あ~」
「オマエさあ、いつもこんな濡れんの?」
「な、に? ぬれる……?」
「そ。先走りすげえぞ」
「ぁ、ンっ、ぅん……、わかん、なぃ、だれか、とっ、比べたことないし」
「あー、そうか」
ひっきりなしにカウパー液を零す切っ先を包むように撫でる。たちまち、びくんと三ツ谷の腰が浮いた。滑りのいいソコをずるずると撫でまわしていると、漏れる声も喘ぎらしくなってきた。片手を口元に置いているが、本当に置いているだけ。塞いではいない。おかげで、一つ一つの声がよく聞こえる。
えろい、な。えろい。ぼんやりと思いながら、濡れそぼった尿道口に爪を立てる。かといって、そのまま抉るなんてことはしてやらない。ピンッと弾いてから、震える竿を握り込んだ。輪を作った指で、ぐりゅ、雁首を擦る。今度は、担いでいた脚が震えた。
とはいえ、だ。いつまでも前を触っているわけにもいかない。野郎同士でヤるとなったら、後ろをどうにかしなくては。指先は、滑る陰部を過ぎ、奥まったところに伸びていく。
「ッなあ!」
「あ?」
固く閉じているだろう、ソコに、辿り着く瞬間、三ツ谷が声を上げた。ひく、と自身の指先が空気を引っ掻いた。
「かお」
「かお?」
「こわ、いんだけど……」
そこまで言った三ツ谷は、のろのろとこちらに腕を伸ばしてくる。届くようにとわずかに身を寄せると、トン、眉間を突かれた。続けて、皺を伸ばすように指の腹を押し付けられる。
「人殺しそうな顔で、こういうことすんの、よくないと思います」
「……なんで敬語?」
「そりゃドラケンの顔がくっそ怖ぇから」
「その程度でビビるタマかよ」
「普段ならな。……なんつーか、あー、」
「煮え切らねえな」
「……ちゃんとしなくていいよ。前戯もテキトーでいいし、穴はあっても、棒もついてるじゃん、この、体って」
「だから?」
「嫌なことはしなくていい、ただ、まあ、ここまで来たからには突っ込んで欲しい、から、その……、とにかく程々で良いよ」
程々、とは。言われた意味が、いまいち頭に入ってこない。棒がついている? 前戯はテキトーでいい? ちゃんと、しなくて、いい? それらが、オレにとって、嫌なことだと?
「……はあ?」
「う、だから、その顔怖いって」
もう一度、眉間を押される。チリチリとした不快感が額に漂った。一つため息を吐いてから、きちんと体を起こす。あわせて、三ツ谷の手首も掴んだ。引っ張り上げれば、たいして重たくもない上体は起き上がる。ベッドの上、胡坐を掻いて向かい合わせ。きょと、と呆けた顔をする三ツ谷を、どうしてくれよう。
どうするもなにも、誤解を解くのが先だ。
「嫌なわけねーだろ」
「その顔で?」
「うるせーな、これは、……緊張してんの」
「は、誰が」
「オレ以外に誰がいんだよ」
緊張とは、無縁の人間では。その男が、よもや自分相手に緊張するわけがない。
そう、三ツ谷は思い込んでいることだろう。まったく、そんな万能人だったらどれほど良かったか。
体を起こしたせいで、捲りあげたシャツは下がる。しかし、下肢は晒したまま。裾からぴんと勃った性器が見えていた。いじり倒したい。前後不覚になって、いっそ勃起できなくなるまで虐めてしまいたい。そんな欲の塊を押しつぶし、三ツ谷の手首をそっと掴み直した。
「ほら」
引き寄せた手の平を、オレの胸につかせる。薄いシャツ越しに、三ツ谷の手の熱が伝って来た。押さえられたせいだろうか、たかたか、だかだか、早鐘を打つ自身の鼓動がよくわかる。
「心臓、うるさくてやべーだろ」
「……喧嘩したあとみたいだ」
「同じくらいエネルギーは使うんじゃね」
「かもな」
改めて目を合わせると、三ツ谷はふにゃりと笑った。屈託なく歯を見せて笑ういつもとは違って、色気がある。それを引き出したのが自分だと思うと、気分は悪くない。
どちらともなく、唇を寄せあった。ひたりと触れてから、表面の熱を分かち合う。互いの体温が混ざってきたところで、そっと舌を差し込んだ。歯列をなぞれば、おずおずと向こうの舌が寄ってくる。これ幸いと絡めとった。水音が、鼻を抜ける声が、もどかしく揺れる腰が、三ツ谷の高揚を伝えてくれる。堪らねえな、ほんと。
「あッ」
息継ぎのタイミングで、反りかえった陰茎に手を伸ばした。やんわりと握り込んで、上下に擦る。先端は強めに、根元は優しく。気まぐれに緩急をつけて扱く。すると、三ツ谷の両腕がオレの首に回った。お、と思うと同時に、今度は唇を奪われる。キスは、やめんな。欲望の真ん中を弄ったとしても、口付けてほしい。そんな主張が見え隠れする。
「んん、ふ」
「気持ち良い?」
「ん、うん」
「そりゃよかった」
「あと、もっと、キスもして」
「……おう」
態度、だけでなく、言葉でも強請られてしまった。それで断るなんて、できるわけがない。男が廃る。ちゅ、と一度軽く口付けてから、深く貪った。
手の中に収まった熱も、間もなく弾けることだろう。オレの手に擦りつけるように腰が動いている。下手に寸止めするより、一回達してもらったほうが良さそうだ。昂ったままというは辛い。同じ男だからこそ、よくわかる。
ぐぢり、切っ先に抉るような刺激を与えた。
「い、ヒッ」
「一回イッとくか」
「え、やだ、やだっ」
上ずった声を上げながら、三ツ谷の腕が離れていく。だが、距離をとるわけではない。そろそろと、オレより一回り小さい手が、下へと伸びていく。
仕方なく責め立てる手を止めると、うらり、物足りないと言わんばかりに腰が揺れた。揺れに合わせて、ぐちゅ、水音が立つ。俯いている三ツ谷の視界には、その淫らな自身の有様も見えていることだろう。息を呑む気配がしたから、間違いない。
「辛いだろ、こんなとろとろじゃあ」
「それ、は、それ」
緩慢な動きで、三ツ谷はオレのベルトに手をかける。熱で浮かされながらも、必死に前を寛げさせてくれる。それから、どうにかこうにか暴いて、黒のボクサーの膨らんでいるところに、指先を乗せてきた。
「オマエだって、こんなんなってんじゃん……」
「……仕方ねえだろ」
「仕方なくない。つーか、ドラケンも脱げ」
一つ息を吐いて自分を落ち着かせ、軽く腰を浮かした。下着ごとずらし、脚から引き抜く。ついでに羽織っていたカーディガンとシャツも脱ぎ捨てた。ベッドに落としてしまえば準備は終わり。
畳めと言われるかと思ったが、予想した苦言は飛んでこない。それどころか、ほう、と蕩けた目を向けられた。
「……えっろい目ぇ、してんぞ、今」
「だって、さあ、筋肉すげーんだもん」
オレ、こんなよ。そう言いながら、三ツ谷もシャツをぽいと脱ぎ捨てる。寝そべっていた時よりは、骨は浮いていない。それでも、細いほうだと思うが。肉がつきにくいというのは、難儀なもんだ。
そんなほっそりとした肢体を引き寄せた。途端、三ツ谷のほうから擦り寄ってくれる。腹につくくらいに反り返った陰茎が、ひたり、擦れた。こういうの、兜合わせって言うんだっけ。大きさの異なる二つを見下ろしていると、三ツ谷の綺麗な指が、それらに絡みつく。
「でっか」
「三ツ谷のおかげな」
「わー、うーれしー」
「なら棒読みすんな」
「や、ほんとに。ウワー……、オレでこんなんなったんだろ」
「まあ」
「嬉しいよ」
「ッ、」
うっとりと囁いてから、三ツ谷はソレらを弄りだす。まとめて扱いたり、性器同士を擦り合わせるように揉んできたり。絶頂間近だったのもあって、三ツ谷の息はすぐに上がる。し、先走りも酷く多い。ぐずぐずと、こっちまで濡れていく。
前は、三ツ谷に任せよう。こっちとしては少し物足りないが、三ツ谷にとってはちょうどいい刺激なのだろうし。
くちくち弄られる感触を与えられながら、落ちているレジ袋を引き寄せた。目的は、買って来たばかりの潤滑剤。乱雑に開封して、手の中にぶちまけた。いきなりだと冷たい。せっかく緩んだ体を、萎縮させてなるものか。滑るソレを、手の中で体温に馴染ませた。依然として、三ツ谷は自慰に夢中になっている。
いける、か。いくしかねえよな。
そっと、三ツ谷の秘部に指を伸ばした。
「ッわ」
つん、と、下の口を突く。ローションを塗り込んで、ヒクつくそこの皺を伸ばすように指を動かす。思ったよりは、頑なじゃない。指一本くらいなら、すぐにでも飲みこんでくれそう。性急とは思いつつも、ヌヅリ、薬指を差し込んだ。円を描くように、奥へ入れ込んでいく。飲みこれまた部分は、きゅううと切なく締め付けられた。
「痛ぇ?」
「び、っくりした、だけ。っわ、わ、ワ、すご、入って、くる」
「苦しいとか、辛いとか、言えよ」
「うん、ンっ」
根元まで入ったところで一時停止。はふはふと息を上げるそいつは、強い痛みは感じていないらしい。とはいえ、違和感はありそうだ。なんなら、多少痛いと思っていても、言わないだけというのもある。馴染むまで待つか、一度抜いて、小指に替えるか。
「ど?」
三ツ谷の手も止まってしまっている。別の快感に逃げる余裕もないということだろうか。一応声はかけてみるが、指はゆっくり、これでもかというくらいゆっくり引き抜いていく。
俯いた顔に、空いているほうの手を添えた。こめかみの辺りから、頬へと滑らせる。く、と手の角度を変えると、素直にその顔はこちらを見上げてくれた。
「ぁ、あ……?」
「……三ツ谷?」
真っ先に目に入ったのは、潤んだ両目。それほどに痛かった? ぞ、と背筋に嫌な予感が走る。
だが、その予感はすぐに消し飛んだ。こてん、と、三ツ谷の顔が手に擦り寄ってきたせいで。
「みつや?」
「ん、も、っと、いいよ。だいじょうぶ」
「ほんとかよ」
「ほんとに。じぶん、で、いじったことあるし」
「ハァ!?」
「ぁ、おおきい、声出すなって……、響いて、ンっ、きもちぃ」
怠そうにしながらも、三ツ谷は自らの手の動きを再開させる。ぬづ、づちゅ、と緩い刺激が局部に戻ってきた。力加減は、あまりにもか弱い。これで気は紛れるのか? それとも、後ろに、感じ入りたいとでも言うのか。
自分で、弄っていたというのなら、それも、あるのか。
わずかに思いを巡らせてから、三ツ谷の頬から手を離した。すぐにそいつはオレの肩に額を預けてくる。顔色は見えないが、代わりに熱っぽい吐息を皮膚で感じた。息遣いで察するしかない。
入れ込んでいた薬指を、一思いに引き抜いた。それから、両手で尻たぶを割り開く。わずかに開いた後孔から、とろりとローションが零れた。指を捻じ込むのは、継ぎ足してからにしよう。もっと・いいよと言われたからといって、好き勝手暴いて良い理由にはならない。
半ば痙攣するように感じ入っている三ツ谷を窺いつつ、柔らかなナカに潤滑剤を足していく。滑った指を差し入れては抜いて、また濡れた指を捻じ込んだ。並行して、一度に突き立てる指の本数も増やしていく。薬指一本だったのが、中指との二本に。縁を解すときは、両手の人差し指をそれぞれ引っかける。
いくらなんでも性急すぎやしないか。思いはするが、三ツ谷の口からは濡れた吐息が漏れている。指には、粘膜が纏わりついてきた。まるで、媚びられている、みたいだ。
あっという間に、ソコは指三本を、飲み込んでくれる。
「……どらけんってさあ」
「あー?」
「すげーやさしいね」
「……どこがだよ」
「やさしいよ、こんな、ゆっくり、んっ、してもらえると、おもんなかった」
何度も指を入れ込んでいるうちに、腹側にイイところがあるのがわかってきた。おそらく前立腺だろう。そういうのはサービス外だというのに、店で嬢に強請って出禁になったおっさんいたな。てっきり、歳がいっているからこそイイもんだと思っていたが、そうでもないらしい。少なくとも三ツ谷は良さそうにしている。ぎゅう、と押すと擦れている陰茎が幼気に震えた。
中も、外も、蕩けている。誰でもなく、オレの手で、三ツ谷はこうなった。そのことに凶暴な幸福感に浸れると知られたら、どうなることやら。正直、もっと、享楽に飲まれてしまえばいいと思う。自分じゃどうやったって満足できないようになってしまえとも思う。こんなオレの、どこが優しいって?
ずるりと指を引き抜いた。けれど完全には抜ききらず、指先だけを縁に引っかける。捲れそうなソコが、必死に指先に吸い付いてきた。その度、濡れた淫靡な音が鳴る。
捻じ込んで、しまいたい。
「―― いれていいよ」
「っ、」
耳の、すぐそば。ほとんど吐息で出来た声で囁かれた。
咄嗟に顔を向けると、白から一転、真っ赤に火照った三ツ谷が目に入る。半開きの唇は、とろんと唾液が乗っていた。
「……まだ、きついだろ」
「だいじょーぶ、いれてよ」
「や、だから」
「へーきだから」
「んなわけねーだろ」
「ほんとに」
角の取れた声を出す三ツ谷は、緩慢な動きでオレの両肩に手を置く。腰を浮くのに合わせて、指先は後孔から抜け落ちてしまった。膝立ちになると、さすがに三ツ谷のほうが視線が高くなる。こいつに見下ろされるというのは、あまりない。違和感も覚える。
それでも、欲に塗れた顔を見せつけられると、何も言えなかった。
「ほら、」
「あ?」
浮いていた三ツ谷の腰が、わずかに下がる。
「オレのここ」
「ッは、」
ぷ、ちゅ、と。自身の切っ先が、媚肉に触れた。
「ほしがってる、だろ?」
それどころか、ずるり、ぬずり、熱に包まれていく。
まず、い。
「待て、三ツ谷ッ」
「やだ」
「ゴムしてねえだろ!?」
「いいよ」
「よくねえ!」
「ナマでしたくねえ?」
「し、……ってえけど、ダメだ」
「ッあ、ぬけ、」
強引に尻を持ち上げた。雁首で引っかかっていたのもあり、照準がずれた怒張はずるんと抜けて、割れ目に沿うように滑る。おかげで、竿の真ん中あたりに吸い付かれる感触がした。
「もうちょっとだったのに……」
「バカ言ってんじゃねえ、すぐ付けっから待ってろ」
「この数秒すら惜しい」
「数秒を惜しんで腹下すよりマシだろ」
「そうだけどさあ」
再びレジ袋に手を伸ばし、未開封の箱を引っ掴んだ。ローションで手がべたついているが、それを拭う間はそれこそ惜しい。
滑る手でどうにか一包取り出した。……この手で、開封するのは、難しいな。あまりやりたくはないが、歯で噛み切っちまうか。
「ん、」
「うわ」
「ィ?」
ビッと包装を開けると、眼前の三ツ谷がはくんと息を呑んだ。引かれたかもしれない。だが、すぐに開けるにはこれが手っ取り早かったんだ。目線だけでそう伝えると、うらうらと視線を泳がせられる。
「んだよ」
「……口で開ける奴、初めて見たから」
「悪かったな、雑で」
「そうじゃなく、しかも、かっこつけでやってんじゃねえ、ってのが、さあ」
「歯使って破れたらカッコつけようがねえだろ。手ぇ汚れてなきゃ、ふつーに手で開ける」
軽口を叩きながらも手元ではくるくるとゴムを被せていく。三ツ谷のご要望通りの極薄タイプ。あまりの薄さに、最中に裂けやしないか不安になる。そのときは、そのときか。故意ではないのだから、大目に見てもらうしかない。
息を整え、三ツ谷の小ぶりな尻をぎゅっと掴んだ。割り開くとその体がぴくぴくと震える。覗き込んだ顔は、見事に期待で染まっていた。
物欲しげに引くつく後孔に、切っ先を当てた。ぐ、ちゅん、今度こそ、先端が入り込む。期待一色だった瞳に、色が差した。熱の籠ったソレは、ぐずぐずと溶けていく。蕩けた表情がまあ美味そうで、見ているだけでは堪え切れなくなってきて、がぶり、口に噛みついてしまった。口内を蹂躙しながら、ず、ず、と自身は奥へと入り込んでいく。三ツ谷の体重も利用して、深く、深く、貫く。
「ッぁ、ん、ンン」
喘ぎになりきらない声が鼻から抜けていく。三ツ谷の腕が、オレに絡みついた。指先は忙しなく皮膚に食い込み、なんなら、がり、と背中を引っ掻かれる。
悦に、飲まれている。それを音からも、体温からも、触れているところからも感じる。頭に、血が上ってきた。理性が、着実にすり減っていく。
「す、ご、―― きもちい」
ああ、もう、駄目だ。しなやかな肢体を、ベッドに押し倒した。
「悪い」
「ぁえ」
「ひどく、する」
その宣言は、三ツ谷の耳に届いただろうか。かといって、本当にわかったのか、確認するだけの余裕もない。
「なに、ぁ、~~ッ!」
ただ、ひたすら、身体を取り巻く快楽を、追いかけた。